表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/39

歓呼の声

箱庭内政ものはじめました

「なんでこうなった?」


 僕の眼下には人々が詰めかけていた。そこには老若男女、あらゆる種族の者が歓呼の声を上げていた。

「万歳! 我らがロードよ!」

「よくやった!」

「ありがとう!」


 その言葉はすべて俺に向けられている。市民は万歳と手を振り、兵たちは武器を天に向けて突きあげる。

 人々はみな笑顔だった。


『あんたがやったのよ。誇りなさい』

「ああ、けど実感はないんだよね……」

 声は僕の肩のあたりから聞こえてくる、僕以外には見えないクリスタルの球体。

 それはこの都市のすべての管理を司るコアの分離体で、自称「万能型全方位お助け天使」のチコというそうだ。

 たまに小さな妖精の姿になって姿を現すこともある。


「がははははははっ、殿!」

 酒瓶を片手に大柄な戦士が呵々大笑しながら歩いてきた。

「ああ、アルバート。今回は君のおかげで助かったよ」

「わははははははは、殿の采配に従って戦っただけですぞ? それに臣下の武勲は主君のものにござる」

「ああ、もう、その殿呼ばわりやめてほしいんだけどなあ……」

 ぼそっとつぶやくが、戦士長アルバートは大笑いしているだけだった。実は笑い上戸だったのか。

 普段は厳めしい顔をしているだけに、ゲラゲラ笑う姿には違和感すら感じる。


「アルバート殿。そこらへんにしておきなさい。殿がお困りでしょう」

「ん? ああ。アリエル殿か。今日くらいはよかろうに。めでたき戦勝の祝いゆえ」

 アリエルはエルフの女性だ。魔術師をまとめてくれている。エルフの賢者として、助言をしてくれる。今はこうだけど、実際彼女ともいろいろあったんだ。

「なにか?」

 ゆったりとした笑みを浮かべる姿は、出会ったころの面影すらない。

 何でもないと返そうとした瞬間、背後に人の気配を感じた。


「にゅふふふー! あー、旦那!」

 背中にふにゅんと何かが押し付けられた。それはリンゴほどのボリューム感をもって自己主張している。

 その行動と口調で俺の脳裏にはネコミミの少女が思いうかぶ。

「ああ、セリア。わかった、わかったから離れて」

 ネコミミではあるが、実は虎の獣人らしい。俺の護衛を務めてくれている。

 意見の相違を見せたときにアルバートを寸勁を使って一撃で沈めたこともあった。


 とある事件で知り合った時はこんなんじゃなかったんだけどなあ。

「うにゅー、にゅふふふー。だってうれしいんですニャ。旦那がついに本気になったからニャ」

 にぱっと笑顔を浮かべるセリア。背中にへばりつくのはやめてくれたが、僕の腕に絡みついている。肘には先ほど押し付けられた感触が再び襲ってきていた。

 何とか引きはがしつつ、ここにいない人のことを思い出した。


「あれ? レギンは?」

「彼の鍛冶師殿は真っ先に飲んだくれておりましたな」

 アルバートがジョッキを傾けながら答えてくれた。

 ああ、まあいつものことか。と思っていたら、ひげ面、樽のような体系のドワーフ族のレギンがやってきた。

「おう、殿のもたらしてくれたこの蒸留酒は素晴らしいですな!」

「飲み過ぎたらだめだよ?」

「わはははははは。酒はドワーフの最も近しい友じゃ」

 レギンは忘れてしまったのだろうか。最初にウオツカをあおってぶっ倒れたときのことを。


『クリエイト』

 呪言キーワードを唱えると、手にグラスと氷水が現れる。

「とりあえずこれを飲んで」

「うぬ? 氷水ですか……ほほう!」

 レギンの持っていたジョッキから濃いアルコールの香りがしていた。それをカパッと飲み干していたから、チェイサーを渡したんだけど、どうもその飲み方が気に入ったようだ。

 いつの間にかアルバートも手を差し出している。同じく氷水を顕現させて手渡した。


「っかー! 効きますな。そのあとにキンキンに冷えた水を飲むと……ップハー!」

 

 ガツンとアルバートとレギンがジョッキをぶつけている。

 その二人を見てアリエルはやれやれと肩をすくめていた。


 そんな個性豊かな彼らは、この都市ガルニアの領主である俺に付き従う臣下だ。


 耳元で電子音が鳴る。チコが具現化していた。

『いろいろあったわねえ』

「そうだね、この1年、本当に大変だったよ」

『ふふ、あたしを見てピーピー言ってたのに、育ったものだわ』

「そりゃね、死にたくなかったし」


「おう、チコ殿。飲みますか?」

『アルバート、あたしに実体はないから飲めないって前にも言わなかったっけ?」

「がははははは、そうだった。うわははははははは!」

『あーも、うるさい酔っ払いね。いい筋肉してなかったら消し飛ばしてるところだわ』


 なんかいつも通りのわちゃわちゃしたやり取りだ。ここしばらく忙しくてそれどころじゃなかったからなあ。


 こうして、僕はあの時のことを思い出していた。すべてが始まった日の事を。

見切り発車(いつものこと

よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ