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第三の蒸気弾(出国に関する発射命令)

ほぼ説明回になってしまいました。ご了承下さい。

 何故穴が開いているのかは謎だ。最近よく穴を見るが、気のせいだろうか。四家(しか) 頸一(けいいち)(いぶか)しみ、車に乗った。


 いい年して女性に負ぶってもらって出動、というのは当然気分のいい物では無い。何人かの党員から珍奇な目で見られるのは覚悟せねばならない。幸い残り20階ほどで沖田が車で迎えに来てくれた。問題は車両用スロープの使用許可が下りて無い筈なのだ。沖田は確実に許可証を持っていないので、頸一の取りなしを当てにしている。まぁ、それ位どうと言うことは無いが。


「ありがとう、同志沖田。すまないね、みっともないだろう?」

「スコーッ」

「構わん、とさ」


 沖田のガスマスクから発せられる音声を理解できるのは隊長だけである。まれに幸助も理解する。一言も分からないのは頸一だけだ。


 車両保管所に着くと案の定、護民隊員に止められた。こういう日に限っていつもの知り合いでは無い。それも信じがたいほど堅物で無知、無能な男だった。何度「偉大なビックシスターの直接命令には許可証不所持を追認する効果がある」と説明しても、やれ証拠を見せろだの早口で聞き取れないだの、あげくには「ツイニン」とはなんだと聞いてくる始末だ。命令書を見せると信じられない、ゆっくり話すと最初が分からん、追認とは・・・・・・意味が分からん。おまけに隊長の「上司に聞きゃすむ話だろう」。これにもいちいち突っかかった。上司の手を煩わせる気か、お前らがやれ、アンドロイドのくせに何様だ。もはや意地でこうなるとどうしようも無い。とうとう最終通告にも耳を貸さなくなった。どうしたものか。


「撃っちゃえば?」


 正確には手段が無いことも無い。始末書に書く言い訳がまた増えたが、少なくともすっきりした。


 まずは車の点検。軍用車両の点検は関係者全員で、というのが決まりだ。QーB1(キューベルワーゲン)型軍用集団輸送車。何故「Q-B1」と書いて「キューベルワーゲン」と読むのかは謎だ。幌付きのオープントップで後席には22型重機関銃が搭載してある。乗り心地は最悪である。起伏の激しい路面では訓練を受けないと確実に吐く。おかげで以前ビックシスターをパレードで乗せた連中は粛正された。


 荷台に質量減縮装置を詰め込む。この中途半端に大きな正方形の機械は入れた物をたちまち圧縮してしまう。基本は物資、特に貴金属を入れるが、まれに人間を入れることもある。戻し方は党中央しか知らない。少なくとも生命(いのち)は戻せない。


 次は幸福剤。除菌剤を毎日被ねばならぬ元凶たるこの白い錠剤は、服用するとたちまち想像を絶する多幸感に見舞われる。副作用は無い。少なくとも表立っては、生活に害はない。問題は多幸感の原因たる寄生虫だ。この「ニコニコ虫」という間抜けな名の寄生虫は宿主の胃で交尾、繁殖する。その際に出すフェロモンが人間に多幸感を与えると言う。虫の増殖スピードは遅く、20年経つまでは誰も気がつかない。実際1000年前までは連邦(文明地域の別名)でも多用されたそうだ。結局、虫が脳に侵入して宿主に自殺を強いること。死体から幸福剤、すなわち虫の卵が膿の如く浮かび上がることが発覚して禁止になった。とは言っても禁止されているのは、あくまで文明地域のみで対岸では今も使用されている。


 その他諸々の物品をしこたま詰め込み、またエンジンをかける。電気か原子力自動車が当たり前の時分に旧式木炭車で我慢しろとは中々酷である。この馬鹿でかいエンジンは始動に2分もかかり、加速も鈍重で急勾配では人力で支えてやらねばならない。挙げ句の果てには5分以上止めると勝手にエンジンが止まってしまう。党からは環境保全の為の「アイドリングストップ」だ、と説明された。「アイなんちゃら」が何なのかは今もって知らない。


 尋常で無い黒煙に包まれて寿命を減らしたところで、さぁ出発である。目指すは対岸・・・・・・の前に「民族海峡大橋」を渡らねばならない。

 

 寄進省を出て、首都を行く。以前は「洲本(すもと)」と呼ばれていた気がするが、今はただ「首都」である。趣味の悪い「人民」やら「革命」やらの言葉は珍しく自重したようだ。車は進む。街は大きく3つに分けられる。中心部は奇抜な建築の政府庁舎が集まり、「党指導地区」。大体勝利川(旧称 千種川)から市中心部を流れる大河(旧称 洲本川)まで。その外郭は党員の住居たる無機質極まる高層アパート群で、「党保護地区」。こちらはおおよそ人民健康増進センター(通称「スタジアム」)まで。最後に大河の北側にアンドロイド及び労働者の住む中規模のアパート群、「党忠誠地区」。とまぁこんな具合である。頸一は党保護地区在住だが、他の仲間がどこに住んでいるのかは皆目知らない。聞いても教えてくれないだろう。頸一も聞かれたとて教えない。他人の家を訪問するのは面倒ごとの種だからだ。


 少しすると大通りに出る。常勝通り(旧称 堀端筋)。左右は党の建築物で囲まれている。片側四車線のだだっ広い道には軍の装甲車数台しか走っていない。中央の線路には普段トロリーバスがひっきりなしなのだが、「全人民決起週間」の電力節約運動の一環か全くいない。大河を越える橋の手前には娯楽施設「人民安楽館」がある。いつもはデモ隊もかくやの盛況だが、やはりこちらも無人である。


 大河を越え、党忠誠地区を行く。小汚いアパート。薄汚いアパート。ほとんど崩れかけのアパート。どのアパートにも住民が無い知恵絞って考えたスローガンが垂れ幕に掲げられる。「二十万人民総団結で祖国解放を実現せよ!」「黒いくさびで倒せ敵軍!」「総力戦こそ我が闘争!」よくもまぁ何百年とやってきてネタが尽きないものである。彼等は毎年の最優秀スローガンに選ばれるべく一年かけてスローガンをひねる。一等賞には莫大な賞金。ただ実際には一等賞のアパートなど存在せず、五等以下の少額のみ現実に表彰される。


 人民軍専用車道に出る。「神戸淡路鳴門自動車道」と書かれた古い看板がお出迎え。近々この看板も兵器生産に再利用されるらしい。車道の真横には装甲車両が何両も待機している。頸一はこれまで、これだけの装甲車両を見たことがなかったので若干、妙に感じた。ひょっとすると全人民決起週間を利用して近々大攻勢に出るのではないか。戦勝報道が実に楽しみだ。


 人民軍司令部(旧洲本城)をバックに北へ30分。ようやく対岸と「本土」を結ぶ橋、民族海峡大橋に着いた。


 ここまで無言である。誰一人話さない。改めて連邦領内での私語は危険だ。頸一は無言を好み、嫌った。連邦領内では話すことへの欲求を抑えられないのでは無いか、とすら思う。一方で対岸に行くと途端に静寂が惜しくなる。わがままなものだ。頸一は眼前の巨大な橋を前に、ようやく気まずさから解放されると安堵した。安堵からか頸一は首の後ろをさすった。友愛省からは蒸気弾が発射された。

正直冒険に出るまでが長すぎる風も否めませんが、設定を書くと止まらぬたちでして・・・・・・。

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