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覇王の息子は無敵の剣を携えるが日常も楽しむ  作者: 酒と食
第一章 独立領からの依頼
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イトーカを換金しよう

 覇国の春を代表する高級魚イトーカ。

 ハンターズギルドもこの時期になると季節クエストとしてダンジョン産に限らずイトーカを高値で買い取る依頼を恒常的に出している。

 2か月前に職員になったリーネも対応方法について把握している。しかしギルド長からの指導で聞いた話ではイトーカは極めて数が少なくまた獲ることも困難な魚で一日3匹獲れれば素晴らしいといってよいということだった。

「イトーカを20匹って!本当ですか?」

「ああ。このアイテムボックスに入っている」

「どういうことです?ありえません。どこかの貴族のお屋敷から盗んできたとか?」

「ちがうちがう。ちゃんと黄昏の迷宮で獲ってきたんだ」

「そんな言い訳は通じません。黄昏の迷宮からの素材リストにイトーカは載っていませんから!」

 リーネは新人だが優秀である。有名なダンジョンの素材については頭に入っていた。イトーカは黄昏の迷宮のリストに入ってはいない。当然だ。あのオオカミを払いのけながらイトーカを釣ることは通常は不可能である。通常であればの話だが…

「え?だって去年も…そうか気を利かせてくれたのかな?別に気にしないのに…」

 妙に納得顔のケイン。

『発見または獲得したハンター本人にとって個人的あるいはパーティとして重要な発見または獲得物に関して、これが公共の極めて重要な利益に当たらない場合、ギルドはその情報を公開しない』

 ハンターズギルドルールに載っている文言の一つである。

 難しい文章であるが、要は『ハンターが発見したものであってもギルドが重要と思わなければ公開はされない(そして発見したハンター個人の利益になるのは構わない)』ということだった。

 去年同じ場所で数匹のイトーカを釣ったことをケインはシェリーに報告し季節クエストの報酬を得ている。

 黄昏の迷宮の第2層でイトーカが獲れたことは新発見であった。

 しかしシェリーは第2層の難易度、イトーカが嗜好品と考えられること、黄昏の迷宮の第3層以下の素材からの利益がイトーカよりも大きいことを総合して

 公共の重要性とはなり得ないと判断しイトーカを黄昏の迷宮の素材リストに挙げる申請を行わなかったのであった。


 しかしそんなことは全く知らないリーネは詰め寄る。

「何を訳の分からないことを言っているのですか。犯罪がらみの素材は引き取り出来ません。騎士団に通報しますのでハンター証を出してください。それと抵抗はしないように。罪が重くなりますよ」

「待って待ってどうしてそうなる?っていうか見ない顔だね。新人さん?」

「リーネです。新人というか2か月前に入ったばかりですけど今は関係ありません」

「おお。ということは優秀だね。でも話を整理しないと…シェリーはいるかな?対応をお願いしたいんだけど…」

「言うに事欠いてシェリー先輩を呼ぶなんて!先輩は関係ありません私が通報します!!」

 徐々にヒートアップするリーネ。ケインも通報すると言われて些か困惑する。それと同時に優秀だけど職務に頑ななタイプかなと思ったりもしている。

 割と余裕があるケインだった。ミケは黙ったままケインの隣でニヤニヤしている。

「いいから早くハンター証を…む、むー」

 詰め寄ろうとするリーネの口が塞がれた。


「はーい。リーネちゃんストップね!」

 シェリーが背後から近づきリーネの口を塞いでいる。

「むぐ。むぐ」

「シェリー助かったよ。もう少しで騎士団に連行されるところだった」

 特に問題はなかったような口調でケインが言う。

「さすがにそれはないです。それよりもケインさん、ミケさん、お久しぶりです」

「久しぶり。仕事が忙しくてね。なかなかギルドに顔を出せなかったよ」

「久しぶりだにゃ。そして相変わらず美しいにゃ。美人はララで十分にゃ。ライバルはこれ以上いらないのにゃ。ふー!」

「あら。なんのことか分かりませんが、私にはミケさんほどの種族的なかわいらしさはありませんからね。日々の美容に気を付けているだけですよ」

「にゃ!しゃー!」

 冗談なのか本気なのかそもそも何のことなのか…ミケのしっぽが膨らんでいるような気がする。シェリーは大人の余裕なのかにこやかに対応している。

 そんないつもの掛け合いを眺めていたケインは話を戻す。

「シェリー。イトーカを獲ってきたんだ。鑑定と換金をたのむ。それとリーネちゃんだっけ。こちらにも説明してあげてくれ」

「承りました。新人リーネの研修を兼ねる形で私が対応するということでよろしいでしょうか?」

「ああ。構わない」

 シェリーはリーネがおとなしくなったのを確認して口から手を放す。

「リーネちゃん。ケインさんはこの街のB級ハンターで丁寧な仕事をして頂ける優秀な方よ。

 そしてこちらがミケさん。極めて優秀な斥候でパーティメンバーよ。

 彼のパーティが犯罪に手を染めるような人たちではないってことに関しては私が保証します。

 何ならあとでギルドマスターに確認してもらっても構わないわ。ケインさんもマスターと知り合いだしね。ケインさん後でマスターにお会いします?」

「い、いやー今日は大丈夫だよ。リーネちゃんの誤解さえ解ければいいさ」

 何か歯切れの悪いケイン。ギルドマスターとはあまり会いたくないと思っているのは秘密にした。

「そ、そこまで信頼のある方なのですね…申し訳ございませんでした」

「気にしないでいいよ。大丈夫」

「にゃ。十分楽しませてもらったにゃ」


 どうやら無法者のようなハンターではないらしい。リーネはそう理解して落ち着きを取り戻すのだった。

 シェリーが受付の対応を始める。

「ケインさん今回の季節クエストはパーティ参加扱いですか?」

「ああ。ミケとの二人パーティの扱いで頼む。リーダーはおれだ。イトーカを20匹。黄昏の迷宮で獲ってきた」

「畏まりました。リーダーのハンター証と血を一滴お願いします。リーネちゃん、ハンター証の確認をお願いします。ではこちらへ、冷蔵用倉庫で素材を確認させて頂きます。イトーカの捕獲依頼の対応を見せたいのでリーネちゃんはハンター証確認後に冷蔵用倉庫に来てください」

 てきぱきと対応してシェリーは二人を素材確認のため冷蔵用倉庫へ案内する。

 リーネは受け取ったハンター証を確認するためカウンター内に設置された魔導機の前に立つ。受け取ったブレスレット型のハンター証と一滴の血を魔導機に入れるとハンターの本人確認ができるのだ。

 この世界では人の容姿に影響を与えてしまうような魔法、呪い、ダンジョントラップ等は複数確認されている。そのため見た目が変わってしまうハンターは一定数存在し、ハンター証はハンター本人であることを証明できる重要な存在であった。不思議な金属で、作成時にハンター本人の血を一滴加えることでそのハンター証が本人であることを証明するツールとなる。

 ほどなくして画面に文字が浮かび上がる。

『ケイン=ハーヴィ、B級ハンター、剣士、血液型一致…』

 様々な情報が浮かび上がる中、リーネは本人確認を行う。

「よし!確認完了。ってハーヴィ???ケイン=ハーヴィって???」

 固まってしまうリーネであった。

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