ステータス
‐4畳程の牢獄、時刻は・・・多分夜中手前くらいだろうか。廊下の遠い所にランプらしきものがあるな。あそこからの灯りでうっすらと周りが見えるけど、部屋の殆どが影になって正直全く見えない。
トマスはゆっくりと視線を廊下の先のランプから向かい側の牢獄に移した。
‐向かいには同じ奴隷がいない。あーくそっ!今世の記憶が朧げになってる。昔の記憶が入ってきたからか?思い出せ!もう矢野じゃないんだぞ俺は。
頭を掻きながら、状況を整理するトマス。しかし、肉体強化の際に取得した「記憶の残滓」のおかげで、今までとは全く異なる記憶、価値、思想、様々なものが突然入り込み今世の記憶を引き出すのに時間が掛かっているようだった。
‐そうだ。思い出してきたぞ。作業の時のおっさんが言ってたな。確か、お母さんと俺は何故か集団部屋ではなく個人が入る牢獄にそのまま入れられたんだっけか。通常は、集団部屋タイプの牢獄に5~6人入れられて毎日決まった時間に部屋毎に鉱山の穴に入って作業してるって。だけど俺達だけおっさんのとこに途中合流するんだったな。何故?
トマスは自分の身体的な体調を確認するかのように立ち上がり、壁を触りながら疑問について考える。
‐元騎士爵だから少しだけ好待遇だったのか?もしかして看守が父と知り合いで助けてくれた?ん~分からん。だがもう、母さんも亡くなってしまった。もしかしたら今の状況より下がる可能性があることだけは覚悟しておかないと。そうだ。色々なことが起こりすぎて忘れていた。俺、レベルアップしたんだったか。
肉体強化。矢野がいた世界とは全く異なる仕組み。この世界において肉体強化とは他の生物を殺し存在を奪うことで自身の肉体が強化され、より強固な存在へと変質していく世界。トマスとして当然肉体強化の知識を持っている。しかし前世の記憶がレベルアップの事を忘れさせていた。
「・・・ステータス」
トマスの目の前に薄青い透明のパネルが浮き上がる。
ー---------------------------
名前:トマス・フローディア
年齢:13歳
LV :7
職業:
力 :13
体力:11
魔力:8
知性:51
運 :21
スキル:チャンバラLv9 剣術Lv1 体術Lv2 多感Lv1
称号 :「親殺し」「記憶の残滓」
ー---------------------------
‐低いのかどうか分からないな。だけど、大人よりは確実に弱いと、、思う。全体的な平均は知性と運が底上げしている感じか。これも、他のステータスを知らなければ指標にならないか。あとはスキルか。親父の手ほどきで剣術スキルが出来たんだろうな。チャンバラから剣術に変わったのか?チャンバラには何か別要素もあるのか?この辺りも不明だな。それにスキルレベルの上限は9なのかどうかも不明だ。あとは多感か。どういう意味合いを持つのだろうか。文字の意味から察するに色々感じる事ができるスキルだろうけど、流石に思春期で悩む多感とは違うだろうと思いたい。要検証な部分だな。
そしてトマスはふと称号に目を落とした。
‐「親殺し」か・・・最悪だな。今は前世との記憶が混在して精神的にも何とも言えない間隔があるから割と落ち着いていられているけど、今も前世でも経験がないほどの辛さを感じただろうな。最後は「記憶の残滓」か。これって残滓って読むんだっけか。こいつのおかげ、前世の記憶と心が今あるんだよな。ただ残滓って事は残りカスみたいなものだろ?いづれ失う事も考えられるか。
ザっ、ガサッ、
真っ暗で静かな牢獄のなか、ふと少し離れた場所から音が聞こえる。それに気づいたトマスは、ステータスに対しての考えごとを先延ばしにし、何の音なのか注意深く耳を傾けた。
どのくらい、集中していただろうか。トマスはただ瞳を動かさず、ただひたすら音を聞き分ける為に一点を見つめていた。
5分だろうか。30分だろうか。暗闇の中で時間の感覚はとっくになくなっていた。
ザっ、ゴロ。
‐?? これは。。人の寝返りか?俺とお母さんの他にこの牢獄に入れられたヤツっていたっけか?少し離れているみたいだが、それで気づかなかったのかもしれないな。
トマスはどんな奴隷がそこに居るのか考えている最中に眠りに落ちた。