記憶の残滓
初投稿になります。
「トマス、あなたは何としても生きて・・・」
----------レベルアップしました----------
知識にはあった。
父や母から話にも聞いていた肉体強化。
その無機質な声が頭に響くも、俺の手には先の尖った石があり握った手の上から母の手が優しくも力が込められ、
母の胸元に石が食い込んでいた。
---レベルが5に達しました。---
---スキル「多感」を取得しました。---
---称号「記憶の残滓」「親殺し」を取得しました。---
---レベルが6に達しました。---
---レベルが7に達しました。---
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「矢野さーん、もういい加減に帰らないっすか?」
「この仕事量どう考えても終電間に合わないよなぁ・・帰るかなぁ」
時間は夜22時過ぎ、オフィスには二人しかおらず、二人の席以外の照明は既に消されている。二人の目の前にはPCとA3の用紙、あとは細かな筆記用具があるだけだが、PCの中には片付けなければならない案件が3件程あり、毎日徹夜しても2週間は掛かるだろうというのは二人とも共通の認識としてあるものだった。
「長谷川、お前のとこの奥さん毎日遅いお前に対して何か不満とか言ってないか大丈夫か?」
「あ~、言ってますね(笑)。何とか我慢してもらってますよ。でもそれは矢野さんのとこも一緒じゃないっすか」
と身体が疲れているのが分かる程の表情から自嘲的な笑いをする。それでも、キーボードを叩く音は止まない。二人しかいない空間ではその音がむしろ心地良いのか会話するまで無心で案件の片付けに取り組んでいたのだが。
「帰るか長谷川!土日にある程度やってしまえば、期日末あたりには残業せず最終確認までは行きそうだし。」
「そっちの方向で行きます?」
「おう、だから帰ろうぜ!俺のとこは奥さんが子供産むの近くなってきてイラついてんだよ(笑)」
「帰りましょう帰りましょう、もち上司の命令には従いますよ!矢野さんの奥さんは子供生まれそうになったら実家に帰ったりするんすかね?」
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-この夢は、、あぁ俺の記憶だ。懐かしい。確かこのあと急な土砂降りで駅から外に出られなくなるんだっけか。しかし不思議だ。普通夢見ている時ってなかなか意識って保てないはずなんだけど。色々考えたりすることができていたな。-
過去の記憶に感傷しながらも、トマスはゆっくりと目を開いた。気絶していたようだ。側には今世の母の遺体が横たわっている。母の胸から流れ出る血は壁際へと移動し血だまりをつくっていた。
-自分のお母さんが死んだというのに、思っていた以上に苦しくはないか・・恐らく先ほどの夢、、いや記憶のせいだな。-
トマスは自身の母の遺体から流れ出て溜まっていた血だまりを見て、「この場所は平坦ではなく傾斜しているな」と考える自分に対し、自分の精神状態を”混乱はしていない”と評価づける。
-俺は多分、過去に、いや前世では矢野誠二で生きていた。年齢は32歳、都内で生まれ職業は企業・土地の買収、合併の仲介。妊娠中の妻。両親健在、弟一人。うん、間違いない。これは生まれ変わりだ。こんな事って本当にあるのか、そもそもいつ死んだんだっけ?・・ダメだ全く思い出せない。家族は俺が死んだ後どうなったのだろうか?大丈夫だろうか。そこそこ貯金もあったし遺族年金とかもあるから生活は当面問題ないだろうけど、妻の精神状態は・・-
過去の記憶を振り返りながらトマスは、ほどなくして周りを見渡し「フム」と考える。
-今は、トマス・フローディア 13歳だったかな。親父はブロディアス・フローディア。セントレア王国第三騎士特攻部隊隊長、あ、なんかの隠匿の罪で騎士爵除名で・・その後はどうなったんだ?殺されてしまったのかな?母はエリス・フローディア。一緒に鉱山送りで亡くなってしまったか。。前世の記憶のせいだと思うけど、両親が亡くなってやるせない気持ちはあるのに他人事のようにも感じてるなぁ。-
今世の記憶と現状に間違いが無いよう、出来るだけ確認をするトマス。
「俺は奴隷で4畳程の牢獄みたいなとこに居ると。鉄格子あり、窓なし、雑魚寝、俺って身体細いなぁ。まぁ13歳ってこんな感じだよな。一応幼いころから親父に鍛えさせられてたから貧弱ではないみたいだが。」
-なかなかのハードモードからのスタートだな-