34.さぁ、悪夢の始まりだ
遅くなりましたm(__)m
次話との兼ね合いで比較的短めです~。
「待たせた! 割って入るぞ!」
駆け出した俺は戦闘を繰り広げるアオイとクルリへと声をかけながら――
――ガキンッ!
心読丸の手元に『カタマリ』を生み出して動きを阻害。
続けて二人の前に割って入り、ナタを振るって怒涛の連撃を振るった。
そんな無理やりの攻撃が当たるとは思っていないが、それでも、心読丸が避けるしか無いような詰め方をすれば、あっけないほど潔く後退していき、俺たちから一旦距離を取った。
そして、しばらく様子見の時間が生まれる。
戦闘中に見つけた心読丸の行動パターンの一つだ。
心読丸は突然戦況が変わったり何手か先に追い詰められる可能性が出てくると、一旦距離を取りリセットを図るのだ。
つまり心読丸はこれまでだって余裕綽々で戦っていたわけじゃなくて、俺たちは何度も何度も追い詰めていたのに、そんな素振りを一切見せなかっただけ。
やはり、事前に見込んでいた通り勝機は十分にあったのだと確信する。
「お帰りなさいイナホさん!」
アオイはヘロヘロなのに嬉しそうな声を弾ませて隣にやってくる。その声が懐かしくて嬉しくて、思わずその頭を撫でた。
「悪かったな。しんどかったろ?」
「ううん。全然。それよりもイナホさんは大丈夫でしたか?」
アオイはそう言いながら俺の頬に触れて優しく微笑んだ。
「問題無い。寝てただけだよ。それで、怪我は無いか?」
わざわざ心配させることもないので小さな嘘を吐いておき、もう一度アオイの頭を撫でていると。
「ねぇねぇ。流石にイチャつくのは後にすれば良いと思う」
「なっ!馬鹿言うなクルリ!至極真っ当な業務連絡だろっ!」
「で、ですよっ!報告・連絡・相談は仕事の基本ですっ!」
「……あー、別に何でもいいんだけどね。それでイナホは何か分かった?」
焦った俺たちに手をヒラヒラさせつつ、肩で息をするクルリは水筒の水を一気に飲み干す。
「……お、おう。なんかすまん。で、呪いに関してはもう解決済みで良いか?」
「カイから大筋は聞いたからね。残すは心を読む能力についてだけど、それもお互いの答え合わせって感じかな?」
「だな。アイツは心なんて読めない。真実は超常的な反射神経でこちらの動きを予測してるだけだ」
「カイさんの【リバース】と私の【破裂の散弾】が当たりましたからね」
「だね。つまり、心読丸の想像と反射神経を凌駕しないとだめなんだけど、僕ら二人じゃ手が足りなくってさ。正直ちょっと疲れちゃった。僕もアオイもそれほど長く持たないよ。……さて」
そう言ったクルリは水筒を投げ捨て、二本の刀を構え直した。
心読丸が首を左右に傾けたのだ。つまり、戦闘再開の合図。
「そりゃ、こっちの話なんて待ってくれないですよね。……イナホさん、どうします?」
アオイも牙塊を一振りして臨戦態勢に入る。
「要はお狐様の想像をぶち抜いてやりゃいいんだろ? 糞カイにライフル預けたから、あいつが外したら、そこに全力で合わせるぞ!」
俺は二人の返事を聞く前に、すでに迫っていた心読丸の迎撃に飛び出した。
「外したらですね。まずは射撃のタイミングを作らないと」
「だね。チェスみたい追い詰めて身動き取れなくしちゃえばいい。……うん。僕も頑張る」
二人が散開したと同時に――。
――ガチンッ!
心読丸の刀と『カタマリ』がぶつかり甲高い音が響く。
流石の心読丸。すぐに切り返して鋭い刃が俺の頭部に迫るが、まさに間一髪。スウェイで斬撃を避けると数本の前髪が宙に舞った。
そこに飛び込んできたのはアオイ。
「そりゃ!」
牙塊を軽々と振り回すと、それを見越した心読丸は回転しながらそれをヒラリと躱し、その勢いのままアオイに刀を叩きつけようとする。
だけど。
――キンッ!
「……残念。俺でした」
俺は心読丸に詰め寄り、交差させたナタで刀を受け止めた。
そして、翻ったアオイを見て心読丸の目が見開かれる。
「じゃあこんなのはどうですか!?」
赤く光らせた牙塊をゴルフのスイングみたいに地面に叩きつけた。
――バァン! スパパパパッ!
爆散。
心読丸はその時すでに後方へと跳躍していたのだが、読まれることを読んでいたアオイは散弾に指向性をもたせており、ほとんど塊となった木片が心読丸を襲う。
――ピシッ
だがしかし、心読丸はそれすらも空中で身を捩って躱し、必殺の木片散弾は狩衣を掠めるに留まった。
だけど、その時すでに着地地点に先回りしていたクルリが飛び上がった。
「いらっしゃい」
空中で刀が交わる。
――カカッ!キン!キキン!
目も眩むような連撃が火花を散らす。
体勢不十分の心読丸は受けに徹するしかない。
まさに釘付け。
殺すためではない。心読丸が取れる選択肢を削り、盤上の端へと追い詰めているのだ。
そして、アイツの憎たらしさは一級品だけど、流石にその瞬間を見逃すほどのバカではない。
――後方でライフルを構えるクソ野郎がニヤリと笑った。
「さぁ、悪夢の始まりだ」
――タァンッ!
空中で身動きの取れなくなった心読丸めがけて放たれた弾丸は、その身体の中心へと吸い込まれていく。
絶体絶命の心読丸は、それでも尚、これまでにないほど惨めで必死に身体を動かして――
――ヒュン!
紙一重で避けてみせたのだ。
その獣然とした裂けた口を耳まで引き伸ばし、あからさまな恍惚を表情に出して笑った。
だがその時同時に、こちら側にも似たような表情で笑った男がいた。
「【リバースショット】」
――ギュゥゥゥゥゥゥゥゥン!
遅くなったお詫びも込めて本日夕方にも一本投稿しようと思っていますぜ。




