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アーカイブより 混成パーティーの末路

 タブレットPCから投影された映像には、ダンジョンを探索している八名の男たちが映っていた。


 うち七名は見るからに不良。いわゆる暴走族。

 揃いの特攻服に各々のこだわりが見える刺繍を施し、それに不似合いな西洋風の剣やらスパイクやら大盾やらクロスボウを持って身構える。


 クルリによると、彼らは大阪を中心に活動する【夜叉】というパーティーだそうで、格好の割には二十代後半で冒険者歴が長く、ベテランに片足を突っ込んだそこそこ有名なチームだったそうだが、ここ最近は(くすぶ)っていたらしい。


 どういう経緯かわからないけど、そんなパーティーにアイツが加わったわけだ。


 残りの一人であるタナカは彼らの先頭に立ち、最前衛の位置で長剣を構え、幽鬼のように虚ろだった表情に歓喜の笑みが貼り付けられた。



 ――ザザッ。映像が乱れ始めた。



 【羽衣の心読丸】が現れたのだ。



 身長はおよそ二メートルほどとそれ程大きくはなく、そろりそろりと歩く姿は能や狂言を思わせる静けさを伴っている。


 クソ性能の防犯カメラみたいに不自然に乱れた画像のせいで、種別や顔などの判別がつかないのは心読丸の映像ではいつものことだ。


 八人と一体が対峙して、時間が止まったように誰も動かない。


 だが、それも一瞬のことだった。


 まず飛び出したのはタナカ。彼の十八番である【跳躍】と【スラッシュ】の合わせ技。


「喰らいやがれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」


 勝負を一瞬で決めるつもりの全力フルスロットル。

 いくら彼のメッキが剥げようが、彼の持つ金色の魔力や技のキレに衰えはない。

 むしろその力強さは新人戦の時よりも増しているほど。


 しかし心読丸はその突進を身を翻して事も無げに躱す。

 タナカのさらなる追撃や、二丁のクロスボウの援護射撃にも慌てることなく当然のようにヒラリと躱した。


 大盾のヤツが退路を断とうと近寄るが、そんな考えは見透かしたように盾に手をやってピョンとそいつを飛び越える。


 スパイクのヤツが、長剣のやつが、他の奴らが雪崩のように切りかかっても、心読丸はすでにそこには居ない。


 タナカだって何度も全力で切りかかっているが、飛び込んだ瞬間にすでに心読丸はそこに居ないのだ。


 『人の心を読んでいる』


 誰が言い出したのか、心読丸の名前はそこから来ているらしい。


 本当に心を読んでいるような動きでパーティーを翻弄しており、彼らの攻撃が当たるイメージは見えてこなかった。


 それは対峙している彼らとて同じらしく、彼らの動きにも焦りが見え始める。


 焦るのも解る。心読丸が余裕()()()()()()()()うちに、致命的なダメージを与えておきたいのだ。


 心読丸が武器を抜いていない今のうちに。


 俺が以前見た映像でも同じように、戦闘序盤ではひたすら躱すだけだった。


 いわばこれはボーナスタイム。


 その間になんとしてでも傷の一つもつけておきたいと考えるのが普通だろう。


 なぜならボーナスタイムが終われば、事は一瞬で終わるのだから。


 タナカが跳躍の速度をもう一段上げたのもそんな理由があってのことだろう。



 だけど、その時には時間が経ちすぎていたのかもしれない。



 タナカは狂ったような奇声を上げながら、地面を壁を天井を【跳躍】で蹴り飛ばし、不規則な螺旋を描いて駆けた。


「死ねェェェェェェェェェェェェェ!」


 タナカは全身をバネのようにしならせ、両手で持った長剣を心読丸へと振りかざす。


 心読丸も虚を突かれたのかもしれない。今までのように先読みの動きは見せなかった。


 それがタナカであることも忘れて思わず驚嘆するような見事な一手だった。


 ……だというのに。



 ――キィィン!



 心読丸は腰からスッと武器を取り出し、タナカの長剣にかるく合わせて軌道をずらした。


 武器を抜いたということは、ボーナスタイムの終了を意味する。


 それを知っている夜叉の連中は顔に恐怖を浮かべた。


 たたらを踏んだタナカが背後からの攻撃を警戒して慌てて振り返ると、手を八の字に広げた心読丸がそこに立っている。


 そして、突然シシオドシのような甲高い音が鳴ったかと思うと、タナカは振り返った姿勢のまま、表情だけが見る間に恐怖で歪んでいく。


「……あぁ」


 終わる。……そう思った。


 心読丸はフリーズしたままのタナカを放置し、背後に迫っていた特攻服の一人を事も無げに斬り伏せる。


 次の一歩でクロスボウの矢を叩き切り、次の一歩でスパイク持ちの手首を斬り落とし、そのスパイクが落ちる前に掴み取り、装填に手間どるクロスボウ持ちへと投擲。顔面が潰れた。


 心読丸は舞い踊るように武器を振り抜いていく。

 それに吸い寄せられるかのように冒険者たちは絶命していき、終わってみれば特攻服を全滅させるのにほんの十数秒しかかからなかった。


 特攻服が軟弱だとは思わない。心読丸がそれほど馬鹿げた強さだっただけだろう。


 そして最後に残されたのはタナカ一人。


 心読丸は(みやび)な歩行で中途半端な姿勢で固まったままのコールドターキーの眼の前に立った。


 タナカの表情は言葉にするのも抵抗があるくらい哀れな泣き顔を晒している。


 そしてタナカのコメカミに対して水平に武器を構えた。……そして。



 ――スパッ!



 心読丸が武器を振リ終わると、タナカの耳の上あたり、頭頂部が平らになっていた。


 兜ごと水平に切り取られたのだ。


 タナカはそんな状態なのに崩れ落ちるわけでもなく、表情を変えるでもない。


 次第に血が溢れ出し、タナカは自身の血液シャワーを全身に浴びて、剥げだらけだった金の鎧が今度は真っ赤に染まっていく。


 そして、心読丸はタナカの頭部に手を伸ばすと、脳みそを鷲掴みにして口へと運び始める。


 咀嚼、咀嚼、咀嚼、咀嚼、嚥下。


 【タナカ死亡】


 結局タナカは心読丸に一撃を入れることすらなく、無論、自らが宣言したように世間に再認識されることもなく、志半ばで、見せ場らしい見せ場もなく、覚悟の量に反比例して呆気無い有り様で、心読丸にとってはファストフードのような手軽さで当然のように殺されてしまったのだ。


 すでに食べ物と化しているタナカを見るのは忍びなくて、俺は頭を抱えるしかなかった。

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