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18.風船が空に舞うのをただ眺めてたり

新人戦編ラストです。

 スタート地点のキャンプに着き救護班にリンを預け、アオイはそれに付き合ってお喋りしていくとのことで俺は天幕を後にした。


 出場者達が全員戻ってくるまで待機らしく、近くにいた運営にいくつかの質問をしてみた。


 まず、ポイント表でグレーアウトしていたヤツらがどうなったのか。

 その答えは三人が亡くなり、四人が負傷リタイアとのこと。


 そして新人戦の結果は俺たち出場者はもちろん、世間の人や投票者たちもまだ知らないらしく、ダンジョン外の特設ステージで公式発表されることになっているとのこと。


 運営がポイントの精査をしているらしく、今頃テレビではこの場の試合後の風景や名場面のリプレイ映像が流れているらしいぜ。

 ピースしてやろうかしら。


 まぁ、運が良ければアオイが個人で二位か三位くらいにはなっているかもしれない。


「よおイナホ。おつかれさんだな」

「どうだ?アオイちゃんの追い上げは届いたのか?」


 ドロドロに汚れたオッサンとタマジロウが手を上げてやって来た。


「いんや。あの顔見たらわかるだろ?」

 

 アゴで指し示した先ではドローンのカメラに向かって「アイ・アム・ナンバーワン!」と叫ぶ金ピカ鎧の姿があった。


「うわぁ。アイツなんかキメてんのか?」

「タマジロウ、滅多なことは言うもんじゃないぞ」


 オッサンにたしなめられたタマジロウは手をひらひらと受け流す。


「はいはいわかったって。……それよりさ、こっちはまぁまぁ楽しみにしてていいんだぜ?」

「ん?何かいいことあったのか?」

「ま、表彰式でのお楽しみだな」

「へぇ、自信あるんだな。それで何もなかったら恥ずかしいぜ?」

「いや、多分イケるだろうよ」

「おい二人とも、そろそろ動くみたいだぞ」


 そうして、ここまで来たときと同じように護衛の冒険者に守られながらダンジョンを後にした。




※※※

 野外フェスのような特設ステージでは、パーティー優勝が発表され、集まった大勢の観客たちの咆哮やら怒声やらで耳がやられてしまいそうになる。


 ステージ上ではパーティー優勝ド本命であったピグマリが盾を模したトロフィーを受け取り、空へと掲げているところ。

 その両脇には三位のカイ達と二位のニシ姉妹を代表してルンも顔を並べている。


 俺達はステージの真横にいるので、彼らの横顔を眺める形で、自分たちの声も聞き取りづらい中拍手を送っていた。


「キサマら!聞いているのか!?」


 大声で怒鳴り散らしているのは何かと絡んでくる面倒くさい男だ。


「なんだよ。今良いところなんだからちょっと黙ってろ」


「お前は何様のつもりだ?負け犬の分際でウンタラカンタラウンタラカンタラ……」


「イナホさん、ルンちゃんピースしてますよ!」


 リンは怪我をしているので、ルンが一人でステージにおり、呑気そうにルンタッタとはしゃいでいた。


「あの姉妹に関してはリンの気苦労みたいなのを感じるよな」


「むむ、さてはまだオッパイを引きずってます?」


「……おい、キサマら」


「アホか。まぁ、アレは大変ありがたいものだったけども」


「確かにキレイでしたもんね。でも、真剣な話、ちゃんと忘れてあげないと駄目ですよ?あの後もすごく恥ずかしがってたんですから」


「……一生忘れるものかよ」


「オッパイ好きめ」


 俺が遠い目をして、アオイのストレートな言葉が胸に刺さったとき、外では大きな拍手が聞こえた。パーティー部門の表彰が終わったらしく、ルンとカイ達やピグマリ達が控えのテントに入って来た。


 これから少しすると個人の三位から発表されていくのだろう。

 

「おい外道!失礼にも程があるぞ!」


 しかし、顔を真っ赤にしたタナカがにじり寄ってきていた。

 スルー作戦再び失敗でござる。


「……お前の自慢と嘲笑はいい加減聞き飽きたぜ?それとも女に逃げられて暇してんのか?」


「黙れっ!逃げられたのではなくお払い箱にしたまでだ。あんなビッチ共に初めから興味はないし、勝者である俺様にはこれまでもこれからもいくらでも女が寄ってくる。……いつも振るのが辛いくらいだ」


 タナカがそう言うと、遠巻きに見ていた()取り巻きの女達から「キッモ」「ハゲのくせに」「……キモハゲ」「……プププ」と聞こえた気がした。

 いや、外の声が煩くてあんまりわかんなかったんだけど多分合ってる。だって、タナカが一瞬フリーズしたから。


 ……こいつ、泣いてないよな?いたたまれないので聞かなかったことにしといてやろうと思う。


「とにかく俺が勝者だということを忘れるなよ?!負け犬は負け犬らしく地べたに這いつくばって泣いているのがお似合いだ!」


 タナカはそう言って、ステージへ続く階段の方へと歩いていった。どうせステージに呼ばれるから何時でも飛び出せるように待機するつもりなんだろう。


 あ、また中継用ドローンに向かって「アイ・アム・ナンバーワン!」をやっている。

 ついでに俺を指差して「ゴートゥーヘル!」と親指を下に向けている。

 まるでアメリカのプロレスラーみたいだけど、金ピカ鎧と相まって見ていてすごく恥ずかしいんだけど、まぁ、本人がかっこいいと思っているからいいんだろうか。


 しかし、どうしてアイツは俺に執拗に絡むのか。理解の範疇を超えているよな。と考えていると見覚えのある女性が話しかけてきた。


「お疲れ様、気にする必要は無いわ」


 そう言って右手を差し出してきたのは姿勢がピンと伸びて青い髪の毛を一つにくくった端正な顔立ち。……ピグマリだ。


「いや、全然気にしてない。パーティー優勝おめでとう。噂通りにすごいんだな」


 出された手を握り返し、アオイも「ども」と言って握手を交わす。


「ありがとう。でも凄くなんて無いわ。ウチにはあなた達みたいに突出した冒険者(クロウラー)は居ないもの。勧誘したいくらい。ところで、そっちにも希少種が出たんですって?」


「ああ、ゾンビの将校みたいなやつな。ってことはそっちも出たのか?」


「ええ、こっちは【悪いキツネ】の亜種かしら。幸い他のパーティーと共闘できたからなんとかなったけど、ちょっとした地獄絵図だったわ」


 なるほど、タマジロウが言ってたのはこのことなのかもしれない。カイパーティーはそのおかげもあってパーティー三位って線もある。


 しかし【悪いキツネ】の亜種とか。


「……想像したくねぇな」


 ピグマリは少し話をしてから「機会があれば一緒に冒険しましょう」と連絡先を交換して仲間のところへ帰っていった。


 印象としては、キレイで清潔なオネェさんだった。キライじゃない。むしろ、タイプで言えば好きな方である。……いや、女性としても魅力的だけど、俺が言ってるのは人間としてね。


 少し気になってアオイの方を見ると「ん?なんでっか?」と首を傾げていた。


 そして、会場にはファンファーレが鳴り響いた。


「あ、イナホさん。そろそろ三位の発表ですよ」


「ホントだ。もしかしたらアオイかもな」


「うー。急に緊張するなー」


 そして、司会が名前を呼ぶ。


『第三位は、チームピグマリのオイドン!」


 ド派手な音楽が流れ、観客が沸き立つ。


「よしっ!」「ほへ?……オラが三位だか?」


 ピグマリが小さくガッツポーズをして、その隣では大げさなリアクションでオイドンが驚き、壇上へと向かう。


『おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!』

 観客は驚きと拍手を持ってオイドンを迎え、ステージの背景ではオイドンの活躍が大写しになり、オイドンがオドオドとキョドキョドとした動きで観客の笑いを誘っている。


 そんな大盛りあがりの会場を他所に、俺とアオイはおや?と首を傾げた。


「これは私、外れちゃいましたかね?」


「ピグマリ達も希少種と当たったって言ってたから、それもあってオイドンが追い上げたって感じかな?ってことは、まぁ、外れたか、次辺りか……」


 俺たちが首を傾げていると、階段下ではタナカが俺達を指差して「ざまぁ!」と大笑いしており、それを見たピグマリが「それ以上やめておけ」とたしなめた。


「恥ずかしい奴らに恥ずかしいと教えてやってるだけなんだけど」

「いや、お前のために言ってるよ」

「はぁ?キサマは何を言ってるんだ?――」


 そんなやり取りも、次のファンファーレと大歓声にかき消された。


『第二位は、チームニシ姉妹のリン!代理で妹のルンさんに来ていただきましょう!』

『うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!』


 もう歓声が凄くてほとんど聞こえないけど、椅子に座ってお菓子を食べながら完全に気を抜いていたルンはビクン!と起き上がって、多分「うおー。むっちゃラッキー。プリンプール作れるんちゃうかな」とスキップしながら壇上へと上がっていった。


 彼女がステージに上がると観客のボルテージは一層上がり、圧倒的な歓声で周りとの会話ができる状況では無くなっていた。


 タナカが嬉しそうな顔でこちらに向かって何かを叫び、ピグマリが頭を押さえて諦めた様子で仲間のもとに戻るのが見つつ。


 俺とアオイはまたもや顔を見合わせた。


「……これって、どういうことだと思いますか?」


 アオイが俺の耳元に大きな声で聞いてきた。


 俺たちは、リンが二位という事実を聞いて、少し理解に苦しむところがあった。


 それはもちろん妬ましいとかは一切なくてだな。

 俺たちの想像では、ピグマリ側の誰かが、例えばパーティー三位に入っていたカイ辺りがポイントを大きく伸ばして来たか、或いはここにアオイが入っているものだと思っていたわけで。


 というのも、リンを助けに行く決断をしたあたりですでにアオイはリンのポイントを上回っていたと考えていたからだ。

 その後にいくつかポイントが入っていたとしても、そのポイントも多分アオイの方が大きいはず。


「……いや、わからん。でも、リンが二位ってことはだな……」

「うーん。私達が計算を間違えたのかもしれませんよ?普通に四位以下なのかも」


 俺たちがそうやって話していると、俺たちのすぐ前で会話が聞こえていたらしいカイが振り返って言った。


「希少種のポイントに決まってるだろうが」


 カイが話しかけてきたことに驚きつつ。


「いや、でも、そいつのトドメはうっかり俺が刺したんだぜ?」


「は?何言ってんだ?バカか?」


「……あ――」


 一瞬イラッとしかけたが、気がついてしまった俺は思わず「ホントだ。バカだわなぁ」と笑ってしまった。


「……どういうことです?」


 アオイが不思議そうに見ているけど、案外こいつもウッカリだなぁと笑ってしまう。

 ニシ姉妹も勘違いしていたが、多分ルールとかあまり知らない感じもするので無視だ。


「なんで笑ってるんですか?」


「いや、ウッカリしてたけど、そもそも一人で倒したりトドメ刺したりしなくてもポイント入るじゃん」


「……あ」


 ポイントを集めるために独力での討伐やアオイがトドメを指すことばかりに気を取られていて、協力して倒せばポイントが割り振られるという基本的なことが抜け落ちていたのだ。


 なおかつ、タナカとのポイント差は大きくて、一度勝負を諦めた時に俺たちは負けたものだと思いこんでいたからあまり深く考えなかった。


 しかし、そうなるとリンが二位ということに疑問が残る。

 希少種戦でリンはそれほど活躍はしてなくて、ポイントが入ったとしても微々たるものだと考えるべきだ。


「カイ。それでも計算が合わんのだけど」


 するとすでに前を向いていたカイはこちらを向かないままタナカの取り巻きだった女達を親指でクイッと指差して言った。


「後はタナカの減点だ。あの女共、『タナカに殺されかけた』だの『他のパーティーの邪魔させられただの』って運営に嬉々として密告(ちく)ってたからな。あのビッチどもに感謝しとけ」


 そしてカイは「なぜ俺が説明してやらにゃならんのだ」と言いながら出口へと立ち去っていった。


「……ああ、あの時のやつか。……カイ、サンキューな!」


 ひねくれ者に感謝を述べつつ、思い起こす。

 アオイの破裂を封じられた場面、取り巻きの女が怪我をし、リンが連れ去られるきっかけともなったやつだ。


 つまり、リンよりアオイが上という計算はやはり正しくて、つまりタナカは四位以下ということになり。


「まぁ、そういうことらしいな」

「……やだ。急にドキドキしてきました」


 アオイは俺の服の裾をつまんで「……どうしましょう」と言っている。


 そして、一位発表のファンファーレが鳴り響いた。


 ピグマリがやってきてアオイの肩をポンと叩く。


「おめでとう。まさかあのポイント差から追いつくとはな」


 タマジロウとオッサンも「やったぜアオイちゃん!」「良くやったな」とアオイの肩を叩く。


「……えーっと。その、まだわかりませんし、ぬか喜びとかになると恥ずかしい……あ、今のはタナカを揶揄したわけではなく……ど、どうしようイナホさん」


 珍しく動揺するアオイの背中に手を当てて、


「……アホか。ありがとうで良いんだよ」


 そう言ったとき、司会の声が響き渡る。


『第一位は!チームアオイのアオイだぁぁぁぁあ!」

『うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

 怒号のような歓声。

 耳が潰れそうになる。

 アオイは多分「はい!」と笑い。みんなの方を向いて「ありがとうございます!」と言ったのだろう。

 もう何も聞こえなくて、何なら平衡感覚を失いそうな熱狂の中、司会が「あれ?アオイさーん」と言ってるのに、それに気づかないでいつまでも動かないアオイの耳元で「はよ行け」と言い背中をそっと押し出すと、「行ってきます!」と言ったのだろうな。


 階段の脇では這いつくばって運営に何やら喚き散らしているタナカが居て少し憐れんでしまったけどすぐに目に入らなくなる。


 なおも膨れ上がるような歓声と拍手に迎えられスポットライトに照らされたアオイ。


 観客や司会にペコペコしつつ受け取った剣を模したトロフィーを、司会に言われたとおりに空高く掲げると、ドンッ!と花吹雪が打ち出され、大量の風船が風に乗って空を舞っていく。


 歓声は止まない。


 時々コチラを振り向いて少し不安そうにするのだけど、隣りにいるルンが何かフザケてアオイも笑った。


 アオイの一挙手一投足に観客は騒ぎ、それに慄いたりする様子は普段とそれほど変わらないんだけど。


 月並だけど、なんだか別の世界の人みたいに見えてしまった。


 ほんのさっきまで隣りにいたのに、テレビの向こうのすごい人みたいで。


 隣に来たピグマリに「あなたも大変ね」と言われ「なんの話だよ」と答えたが、本当は俺が一番よくわかっている。


 まぁ、そんなことを感じながら、小さくなっていく風船をボンヤリと眺めていたわけです。

 


※※※


賞金 1,000万円

副賞 似非怪力グローブ

副賞 対呪いの御札500枚

副賞 インスタント携帯食 一年分


討伐報酬(二人分)

844万円


回収素材

・将校のライフル

・将校の汚れた衣服

・鳶のゾンビの解体素材


ご覧いただきありがとうございます。

こんなところまでよくお越しくださいましたm(_ _)m


三章はまだもう少し続きますが、区切りのいいところまで辿り着きました。みなさまお楽しみいただけてますでしょうか?


もしお手数でなければブクマや評価や感想など何かしらレスポンスをいただけますと作者の勇気に変わりますのでご一考くださると幸いでございます(๑•̀ㅂ•́)و✧


引き続きお楽しみいただけるように頑張るマンですよ!

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