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15.追い上げる先で脳はモヤつき、その雲を振り払って走り出す

遅くなりましたm(_ _)m

どうぞお楽しみいただけましたら幸いですぜ。

 一直線に続く道。


 アオイは二体の軍服ガイコツをそれぞれ一撃で叩き潰してひと呼吸も置かずに駆け出した。

 前方から詰めて来たトロットフォックスが飛び上がった瞬間に距離を詰めて横殴りにすると、トロットフォックスは鳴き声を上げる間もなく壁面ですり潰されるようにして肉片を飛び散らかす。


「前方から三体。フォックスニ体と一つ目カラス。少し削ろうか?」


「大丈夫、いけます!」


「……言うと思った」


 そう言って駆け出したアオイ。


 俺は腰にぶら下げた甘い匂いを放つランタンの影を揺らしてアオイを追走しつつ、邪魔にならない位置で念の為にクロスボウの照準を合わせておく。


 トロットフォックスは左右に跳ねながら惑わせるように機を伺い、ドーベルマン程もある一つ目カラスは天井付近で旋回してタイミングをはかる。

 動きを合わせて仕掛けてくるつもりらしい。


 そして接敵。


 一体が独特なステップから突如としてアオイの足に食らいつこうとすると、残りの二体もそれに合わせて襲いかかった。


 アオイはそれに対し避けることはせず、赤く光らせた牙塊をすくい上げるように振り切る。


「ぶっ飛べ!」


 ――ドブパッ!


 攻撃を受けたトロットフォックスが破裂し、指向性と殺傷力を持ったその肉片はショットガンのような勢いを得て残る二体へと襲いかかった。


『ngyan!』


 近くにいたフォックスはマトモに喰らって壁まで吹っ飛び、また、直撃を避けたカラスはキリモミしてからズサァと地面に転がった。


 アオイは当初と比べると【牙塊】の扱いや【破裂】の制御が上手くなっていて、無駄な魔力消費を抑えつつ今のような器用な使い方ができるようになっていた。

 いや、器用ってのは語弊があるか。どちらかと言うとゴリ押しだし。


「よいしょ!……ほいな!」


 ――ドチャ。……ドチャ。


 アオイは目の前のカラスをすかさず叩き潰してから壁まで飛んだフォックスに駆け寄り念の為の一撃を振り下ろした。


 ――ピコンピコン。


 ポイントは着実に積み上げられていくが、アオイの息は荒く、額に浮かんだ玉のような汗を腕で拭っている。


 しかし、その足が止まることはない。


「大丈夫か?」


 追走しながら声をかけるが。

 

「……大丈夫、まだまだいけます」


 そう言って、新たに発見したガイコツに突っ込んでサーベルごとベキボキと叩き潰す。


「せめて体力か魔力のポーション飲んどけば?ここから先は厳しくなりそうだし」


「あ、……ポーションの存在を忘れてました。じゃあ体力で」


「ん。ちょい待てよ。すぐ出すから」


 この間にも進路の先の暗闇からガイコツ五体分の青白い眼の灯火が揺れながら迫っている。


 俺はウエストバッグから【S】と緑で描かれた二本のアルミ缶を取り出しプルトップを起こしてからそれを渡すと「いただきまーす」とアオイは喉をグビグビと鳴らして飲み干した。


 今飲んだ体力ポーションは超強力な栄養ドリンクみたいなもので、心肺機能を高めたり、溜まった乳酸を急速に分解してくれるようだ。つまり、今までの疲れを取りつつ、疲れにくく、なおかつ身体能力を僅かに向上させることになる。


 他には魔力と治癒のポーションもあり、それらも同じく即効性はないものの非常に有用であることは間違いない。……まともな品質のものに限るけどね。


 ちなみに飲みすぎると【ポーション焼け】と呼ばれる副作用もあるので用法用量を守らなければ副作用を起こす。胸焼けや頭痛に始まり嘔吐や発熱にめまい、ひどい時には昏睡状態に陥って胃と腸を洗浄する羽目になるらしい。


 俺も同様に飲み干すが、少し焦っていたのか口の端から緑の液体がタラリと零れ落ちるたのを袖でガシガシと拭う。


「ぷはぁ〜。くそ不味いです」

「我慢せい。で、流石にあれはちょっと削るからな」


 飲み終わったアオイはすぐに武器を構えて「お願いします」と言って駆け出し、俺は迫るガイコツにクロスボウを向けた。


「当たってくださいなっと」


 ――ダシュン!と発射された矢が軍服ガイコツの右腰に命中したことを見ると、俺もすぐに駆け出した。


 アオイが一体を破壊してすぐに後方へ飛び退り、俺は奴らの進攻を妨げるために足元に【淀み】を生み出すと運良く二体がもつれる様にたたらを踏んだ。


 突出したガイコツをアオイがあっけなく破壊し、返す刀で二体まとめてぶん殴り、とどめを刺すために軽やかに飛び込んでいく。


 そんなアオイに横から迫るサーベルを鉈で叩き落とし、その胴体を蹴り飛ばして距離を離す。


 あとはアオイ無双に任せれば良し。


 ――バキバキッ!


 ほらね。


「さぁ行きましょう!」


「よっしゃ!」


 俺たちは駆け出して、その後も次々と現れるモンスターを相手取っていく。


 エリアの奥に来たからか、イライザに貰ったお守りに入っていた集魔香をランタンで炊いているからなのかはわからないが、前半戦はおろか、中盤とも比較にならない過激なエンカウント率の中を駆け抜けるようにして進んでいく。


 敵即撲殺。


 主にアオイが。いや、殆ど全部アオイが。

 

 話し合い以降の戦闘では俺は殆ど手を出さず、アオイ一人が戦い続けているのだ。


 もちろんさっきみたいに数が多かったりモンスターの組み合わせが悪かったり危ないと判断した場面では俺も手を出すことにしてるけど、アオイはバカみたいな数の魔物を弱音も吐かずに極力単独で撃破している。


 全ては逆転のため、ひいては自らの青臭い意地を通すために。


 それはシンプルな作戦だった。


 パーティー優勝を完全に捨てて個人優勝を目指す。そのための単独ゴリ押し。


 二人で協力すればモンスター一体あたりから獲得出来るポイントは多くなる傾向にあるのだけど、分散させてしまっては個人優勝には到底届かないわけで。


 すなわち俺は殆ど手を出さずに、殲滅力の高いアオイが単独撃破でポイントを総取りしていくことが俺たちに残された優勝への一縷の可能性と判断した。

 残された時間内に俺達の前に現れるモンスターの数は無限ではなく、その限られたパイでいかにして得点を伸ばすか?

 じゃあ全部やっちゃいましょうという簡単な話。


 まあ、上位とのポイント差がこれほど開くとは思っていなかったのだけど、この作戦自体は開始前から選択肢に入れていたし、その状況にも対応しやすいルート選択をしてたりする。


 俺たちが居るマップ右端の一本道は死角が少なくて強襲に遭いにくいし、そのおかげで普段慎重な俺たちでも進行速度を上げることができるからエンカウント率も高くなる。そんな理由もあって距離的には決して最短ではないこのルートだけど、全ルートの中で最も早く最奥へと到達できると見込んでいる。


 奥に行けば行くほどモンスターの数も多くなるし、ポイントの高い強敵が現れる可能性も高い。


 もちろんそれらは運任せの部分も多いけれど、確率は少しでも高いほうがいいし、今の所はそれらが成功していると感じられている。


 そしてついでに集魔香。比較検討ができないのでどれほどの効果が出ているのかはわからないけれど、多分何かしらの効果があると期待したい。……期待していいよね?


 まぁ、そういったわけでアオイの負担が凄いけど、個人優勝への少ない可能性を手繰り寄せるための綱渡り気味の作戦を敢行中なわけで、俺は完全にサポート役に徹している状態だ。


 そして肝心のポイント推移。


 ルールにあった通り残り時間が30分になった時点でポイント表は消えてしまったが、その時点での個人ポイントは上位から順に大体タナカ510p、リン450p、アオイ370p、オイドン300pとなっていた。


 上位陣の十分じゅっぷんあたりの獲得ポイントを割り出して残り三十分に加えて想定してみると、終了時点の仮想ポイントはタナカが約680p、リンが約600p、オイドンが約400pとなる。


 それに対し、アオイは作戦変更後のポイント増加率である十分あたり80pの増加で対抗したとしても610pとなり二位となってしまう。


 つまりそのペースではタナカには届かないのだ。


 計算上で首位に立つためには十分あたり104p以上を稼がねばならず、これはかなり厳しい数字であり、大きな運も必要になってくる。

 ついでに言えば、他の連中もポイント表を確認しているだろうし、追い込みもかけてくるだろうから、それほど簡単な計算では収まらないとみているけど。


 つまり、かなーり厳しい戦況です。


 だけど、俺がそれを伝えたときにアオイは笑ったのだ。


 俺はそれを不思議に思って『なんで笑ったの』と聞いてみると、『案外燃える性質(タチ)みたいです』だとさ。


 だから俺も笑ったわけで。


 そうして俺たちはいよいよ、最奥の部屋へと辿り着こうとしている。


 以前見た映像では、モンスターハウスかってくらいに魔物がひしめいていて、たどり着いた冒険者達はその圧力に押されて時間制限前に撤退を余儀なくされていた程だ。


 もし、同じような状況で俺たちが戦闘をやり遂げられたなら……本当に届くかもしれない。


 

 そしていよいよ、向こうに見える突き当たりを右に曲がればすぐに見えてくるはず……。って所になって、イレギュラーが見て取れた。


 その突き当たりに俺たちの人魂ランタンの青白い光とは違う暖色の灯りが揺れるのが見えたのだ。


 足音や話し声が聞こえるので魔物ではなく、おそらくは参加者の誰かがきたのだろう。


 これは想定外のことだった。

 あのルートを通ってこのスピードで最奥まで来るのは至難の道のりだっただろう。相当なリスクをなぎ倒して来なければたどり着けるはずはないのだから。


 そしてその人物が誰なのかによって俺たちの作戦の難易度は絶望的なものになるわけで、祈るような気持ちで足を進めた。


 しかし、曲がり角で鉢合わせたのは一番望まない人物だった。


 そいつは血で汚れた金ピカの鎧の胸を張り、見下すようにアゴを上げ、尊大に、横柄に笑う。


「よう外道。あのポイント増加。どんな汚い手を使った?」


「ちっ、タナカ。……やり方は別にお前と変わんねぇよ」


 眼の前の男に憎たらしさを感じながらも表に出さないように答えた。


 俺たちの作戦はタナカのパーティーの基本方針と何ら変わりない。

 彼らのパーティーのポイントほぼ全てはタナカが叩き出したものなわけだし。


 しかしタナカは頬をピクリと動かして、苛立ちを滲ませた。


「おい。俺が不正をしたとでも言いたいのか?」


「アホか。俺たちがズルした前提で話すなよ」


「アホ……だと?キサマ。誰に向かって言っているのかわかっているのか?」 


「……お前と話すの本当に邪魔くさいわ」


「クックック。敗北を目の前にして毒づくことしか出来ない負け犬の遠吠えだと思えば少しは可愛くも思える。いくら不正をしたところで俺には届かんよ。……なぁアオイ。こんな腑抜け捨て置いて今から一緒に行かないか?」


 アオイに話しかけるときだけは慈愛に満ちた顔をするんだよな。

 アオイもゾッとした顔で助けを求めてくるし。


 しかもその不正とやらはアオイのポイントの話だろうに。アオイが欲しいって言いながらアオイの成績をディスる神経も理解しがたい。


 まともな会話にならないことに首を傾げつつ、勝ち誇ったように笑うタナカに苛立ちを募らせる。


 だけど、何より悔しいのは今の状況では何を言ってもタナカの言うように負け犬の遠吠えに聞こえてしまいかねないということだ。


 タナカも最奥へ辿り着いてしまったということは、同じ条件下でタナカの倍以上のパフォーマンスを出さなければならない。

 頼みにしていた狩場の有利が無いのであれば、俺たちの優勝は極めて厳しいと言える。


 もっとはっきり言えば、今、俺達の敗北は濃厚である。


 タナカだって、それをわかって煽ってきてるんだろう。


 だからそれがなんだって?

 そんなことが俺たちの足を止める理由になるとでも?

 ……いや、なるわけがないだろう。


 アオイを見てみろよ。早く行きたくてウズウズしてるって表情かおだ。


 そうだよな。例え一縷の望みだろうと、そこに希望があるんだからやらないわけにはいかねぇよな。

 これは俺達の意地の問題で、こんなことで折れてやれるような広い心は持ち合わしてないんだから。


 だから俺は、敢えてタナカに乗ってやる。


「……誰が負けてやるって言った?」


 それを聞いたタナカはニンマリと笑う。


「まさか勝てるとでも思っているのか?算数も出来ないとは恐れ入ったね。流石に人殺しは知能が低い。アオイ。すぐに助けてあげるから」


 相変わらず気持ちの悪いヤツである。そして、こんなやつと話しているのはやはり馬鹿らしいし、時間の無駄もいいところだ。


「おっしゃ。ギタギタに吠え面かかせてやる。行くぞ、アオイ」


「よしきた!」


 俺たちは最奥の部屋へと駆け出し、「笑わせるな!」と叫ぶタナカと女たち四人もそれに続く。


 いよいよ残り時間は15分を切った。

更新が遅くなりスマンこってす( ;∀;)

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