11.緊張感、ルール、オッズ。
あけましておめでとうございます。
本年もお楽しみいただけたら幸いでござりますm(_ _)m
皆様にとっての素敵な暇つぶしになれるように今年も励みたいと思っておりますよ!
では、作者の久しぶりの雑談はこの辺にして、本編をどぞー。
伏見ダンジョン入口付近。つまり、千本鳥居の手前にある建物では、今日の【新人戦】に出場する冒険者達が事前説明のために集められていた。
パーティー数は8チームだが、参加者数は実に44人にのぼる。
送迎の際に味わった優雅な気持ちはどこへやら。それほど広くないこの部屋で椅子もなく押し込められているものだから少々暑苦しく、決して居心地の良いものではない。
そして何より。
『……………………』
ほとんど誰も会話を交わすことがなくて、これだけの人数が居るというのに異常な静けさが部屋を支配している。
例えばこれを写真で見たならばただ単に静かで大人しく見えるのかもしれないけれど、肌で感じるのはそんな穏やかなものではなかった。
押し込められた緊張と意気込みが今にも噴き出しそうで、この部屋全体が火にかけられた圧力鍋の中のようですらある。
……うーん。これじゃ伝わりにくいか。
要約すると、……なんだろうな。
と思っていると、似たようなことを感じていたのかアオイがボソリと呟いた。
「……針で突けば弾けてしまいそうな緊張感ですね」
「……おぉ。それそれ。それが良い」
確かに皆殺気立っていて、何かきっかけさえあれば乱闘でも始まりそうなほどにピリピリとしている。
「ん?何がです?」
「ああ、似たようなこと考えててさ――」
俺が頭で考えてたことなんてわかるはずもないアオイは首を傾げたのでその説明をしていると……。
「……ちっ」
前にいた男が舌打ちをしてコチラへ振り向くと。
「てめぇらちったぁ静かに……って。イナホとアオイちゃんじゃねぇか!」
チンピラみたいな話し方から一転。知った顔を見つけ明るい声で喜んだ。
「おお。タマジロウ」「タマさん」
そこに居たのはタダスケ事件の時にカイ達と救援に駆けつけてくれたあのタマジロウだった。
その声を聞いてタマジロウの隣のスキンヘッドも振り返ってオレたちに気がつき、「ははっ。また会えたな」とウインクしたのはモチロン。
「マイヒーロー!」
「やめろ大袈裟な」
あのオッサンだった。
オッサンは新人じゃ無いので個人戦へのエントリーは無いはずだけど、パーティーとしての参加は問題なかったと思う。実際にいるのだから多分大丈夫なんだろう。
俺たちは二人と握手をしてから少し話していると、オッサンの隣の長身の男がチラリと目線だけを寄越してまた何事もなかったように前を向いた。きっとカイなんだろう。
……コイツは相変わらずだな。と思いつつ、今度は後ろからまた舌打ちが聞こえた。
まったく冒険者という奴らは舌打ちが好きである。
また知り合いかな?と思って振り返ってみるもそこに居たのは知らない人。「空気読めよ」と忌々しそうに顔をしかめていた。こちらを見ていたのは複数人で、ついでに言うとその内の何人かは俺の顔を見てギクリと目を逸らしていた。
多分、緊迫した中で呑気に喋る俺達が目障りだったのだろうと思い、素直に「すんません」と頭を下げた。
特にそのことで腹はたたない。
俺達が間違っているとも思わないけど、文句をつけてきたヤツの【新人戦】にかける気持ちみたいなものはわかるし、相手だって事を荒立てるつもりで言ってないことくらいわかる。
つまりは真剣なのだろう。受験前にペラペラしゃべる奴を見かけたらイラッとするかもしれないし。似たようなものだろう。
そんな感じだったのでタマジロウ達とはお互いの健闘を祈り合って「また後でな」と話を切り上げた。
そして、それからすぐに運営側らしきスーツを着た人物が入ってきて壇上に立ち、マイクのスイッチを入れるがキーンとハウリングを起こしてみんな耳を塞ぐ羽目になり、スタッフが何とか調整をしたあと改めてマイクを握った。
「えー。皆さん。お集まり頂き恐縮です。……えー、まずは今回の京都新人戦、えー、籍の都合で一組は大阪から来ていただいてますけどもー。参加者数44名、今季は誠に粒ぞろいと申しますか、スキル持ちの方も多数参加いただきまして、まさに、黄金世代となり得る――」
非常に間延びした挨拶から始まり、次第に改まってルール説明に入る。
とても長たらしかったので要約すると以下の通り。
・開催地は三層にある【呪われ師団の駐屯地】
・パーティーの最大人員は10名
・勝敗は【ベッツ】の討伐戦規程に準拠したドローン裁定によるポイント制。
・パーティーポイントの計算は数的有利が起こらないよう全員の個人ポイント平均値で争われる。
・探索時間はニ時間。
・昨年より試験導入されている試作ユニットにて参加者からもポイントの途中経過を確認出来る。しかし終了三十分前になると表示は消える
・討伐が本来の目的なので、道具やスキルの使用は無制限とする。
・他チームへの妨害行為は減点。ひどい場合は失格退場のうえ、ダンジョン法に則り法的処罰もある。
・パーティー参加なのでルーキー以外が参加することも可能だが個人戦からは除外とする。また、運営側から参加依頼を受け取った後の増員は認められず。なお、この件については確認がとれており問題はない。
・素材は運営側が回収。これはスピーディーな試合のためであり、討伐ポイントによって十分な対価を用意している。また、宝箱やレア素材などが出た場合は間違いなく受け取れるように手配するのでご安心を。
・最後に。死傷については運営側は一切の責任を負わないものとする。
と、いった感じだった。
これらは全て事前に知っていたので、アクビを殺しながら聞いていたんだけど、同じように終盤で飽きたらしいタマジロウが「見てみろよ。対抗はアオイちゃんらしいぜ」とスマホを寄越してきたのでそれを見る。
それは【ベッツ】の公式サイトらしく、今現在の単勝オッズ。つまり、個人の人気順が表示されていた。
・個人単勝オッズ
タナカ 2.1
アオイ 5.8
ニシ妹 9.4
オイドン 15.3
ニシ姉 29.3
イナホ 52.8
カイ 76.1
ピグマリ 105.0
タマジロウ 179.2
※以下17名省略。また、18名は非新人のため個人投票対象外。
「へぇ、思ったより評価されてるな」
「俺が百超えてるとかへこむわー」
「でもスキル無し勢の中では一番ってことだろ?」
「ま、まぁな。へへ。スクロールしたらパーティーオッズも載ってるぜ?」
「……お、ホントだ。って、俺はアオイパーティーだったんだな。知らんかった」
「一番知名度あるやつの名前書いてるだけだって」
「なるほろ」
・パーティー単勝オッズ
ピグマリ 10名 1.7
タナカ 6名 3.6
アオイ 2名 6.2
ニシ姉妹 2名 10.0
カイ 3名 15.3
モブ太 9名 80.1
モブ山 7名 122.3
モブ子 5名 196.6
一見、メンバーが多いほうが有利に見えるけど、多分そんなことはない。
なぜならルール説明にもあった通り今回のパーティー部門の勝敗は個人ポイントの平均値で争われるからだ。
個人ポイントの採点方法は明記されていないけれど事前に調べた所、一匹のモンスターを一人だけで倒した場合に例えば10ポイント入るとして、二人で連携した場合に単純に頭割りになるかと言えばそうではないらしい。
トドメを刺した者に7p、サポートした人間に5p付くこともあれば、3pと6pの場合もあった。
つまり、10を割った数字が必ず与えられるとは限らないし、トドメを刺せば高いポイントをゲット出来るわけでもないようだった。
その辺りの計算式は掴めず仕舞いだったが恐らく、サポート役を正当に評価するために複雑な計算式みたいなものがあるのだろう。
そんなわけで、多分メンバー数の差で不利になるってことも無さそう。
だけど俺たちは、クルリも言っていたように個人かパーティーどちらかに絞った方が上位を狙える確率は上がるだろう。
ある程度の作戦も考えて来てるけど、封鎖地域ってこともあって中の現状に合わせて臨機応変にやらなければならないとも思っている。
さて、世間の評価はこうなってるけど、俺たちはどこまでやれるんだろうか。
ってなことを考えていると、アオイが「おっと」と声を出した。
「イナホさん、タマさん。そろそろ動くみたいですよー」
「おお、すまん」
「あ、アイツら!俺、置いてかれてるじゃん。んじゃまたな!」
タマジロウにスマホを返して「あいよ。頑張ってなー」と手を上げた。
そして俺達も建物を出て列の最後尾あたりに続く。
これから三層まで移動が始まる。
いつもお読みくださる皆さまありがとうございます。ブクマや評価などとても励みになっております。とってもです。
また、更新ペースが不安定でご迷惑かけてましたらスイマセンm(_ _)m
正月休みが終わる頃には連載の曜日をしっかりと決めたいと思います。多分週三くらいが無理なく進められるペースかな?と感じてます。それまではこんな感じで今年もよろしくお願いいたしますー(/ω・\)チラッ




