2.少しは借りを返せたか?
アオイを家に押し込めてきた俺は品質鑑定が終わったらしいアイテム類を受け取りに行った。
その中で半分ほどに問題が認められたので、手数料を渡して処分してもらい、残りの半分ほどを持ち帰ることになった。
さらにそこから半分以上の売却を予定しているけど、体力、魔力、回復力などのポーション類をはじめ、治療道具、野営道具や魔道具など確実に使うものは手元に残そうと考えてる。
特にポーション類はこれまで安価なものを試したことはあったけど、本格的なものは値段的に手が出なかったので使ってみるのが楽しみだった。
楽しみといえばダンジョン内のみで使用可能だという魔道具類も忘れてはいけない。
【人魂ランタン】は片手が塞がらない光源として大いに期待しているし、仲間との位置確認などに重宝する【指向性ホイッスル】や火起こしの手間がかからない【コンロのスクロール】など、お店で買うとなると金額的に躊躇してしまう高級品が手に入ったのはとてもありがたかった。
きっと今後の探索を有利にしてくれるだろう。
そして、手違いと言うほどのことではないけれど、スキルストーンの鑑定はまだ終わってないらしく後日改めて連絡をもらえるそうだ。
まとめて連絡よこしてくれりゃ良いのにと思ったけど、スキルストーンに関しては品質鑑定の部門とは異なるらしいし、まぁ、それほどの手間でもないかと気にするのもアホらしい。
アイテムに関してはそんな感じで、次に向かうのは赤毛の店である。
※※※
「……え?」
イチカの店の前まで来た俺は、目の前の光景に思わず来る場所を間違えたかと錯覚した。
視線を彷徨わせてみるけど店の作りも商品の並びも相変わらずのまま。
いや、初めてこの店へ来たときよりも前、多分もっと以前から陳列棚に居座っていたであろう武器がいくつか姿を消しているらしかった。
そして、何よりいつもと違うのは……。
「……客が居るぞ」
しかも、一人や二人じゃなく、六人も。
いや、六人ってのは普通の店だったらそれこそ普通なんだけど、この店のこれまでがこれまでだったので凄く賑わってるように見える。
その上、客層は若手が多く、ワイワイキャッキャと武器を選んでいるので活気に拍車がかかって見えてしまう。
普段ではあり得ない光景に二の足を踏みつつ恐る恐る店内に入り、カウンターの中で忙しそうにしていたイチカへと声をかけた。
「……おいおい。一体何が起きてんだ。暇が売りの店だったろうに」
「……そんなの売ってた覚えはない。ってか、誰のせいだと思ってんだ」
作業の合間にギロリとした一瞥をよこすイチカ。
「あん?俺のせいみたいに言うなよ。そもそも繁盛してるなら良いことだろうに」
「……まあそうだけど。お前らのせい、……ううん。おかげなのは本当だし」
「それがわからん。……どゆこと?」
首を傾げた俺にイチカが口をモゴモゴさせながら説明してくれた。
きっかけは俺たちの花屋の使徒戦とその道中がルーキーズ!!で特集されたことらしい。
そもそも知名度の高いアオイが持つ【牙塊】のエグい破壊力と禍々しいデザインはひと目見ると『なんじゃこりゃ』となり目を引く。
誰もが持ちたいって武器ではないだろうけどね。
重ねて、それまでは悪く言えば金魚のフンみたいに思われていた俺が区域主をほぼ独力で倒したわけで、それを成し遂げた大きな要因として考えられたのが武器の性能だったらしい。
イチカはもちろんそんな風に自慢気には言わなかったけど、多分お客さんに似たような事を言われたんだろうなーと想像するのは難くなかった。
まぁ、【花屋の使徒】相手に鉄パイプでどうにかなったとは到底思えないし、多分、俺自身が一番【鉈一】の性能に自信と信頼を持っているのだから、作り手であるイチカに注目が集まったのは自然なことだと思うし当然のことだと胸を張って言える。
周りを見渡しみても、これほどの業物を身に着けているルーキーはそう居ない。
少なくとも俺は見たことがない。
やっとこのへそ曲がりの凄さをわかってもらえたかと嬉しくなった。
「ちょっとは借りを返せたか?」
「……貸した覚えなんてないし」
イチカは『何の話?』って顔でギロリと睨みつけてきたので、相変わらずだなと思って笑ってしまった。
しかし、イチカはそんなことはお構い無しで妙なことを言い出した。
「それよりイナホ。お前がそこに居ると客が怖がって会計に来れないんだけど?」
「は?怖がるってお前――」
イチカに視線で促されて振り返ってみると、俺たちを遠巻きにして見守っていた数人がババっと目を背けた。
「……おうふっ。……まじですか」
これまでもルーキーズ!!で散々ヤンキーじみた取り上げられ方をされたから避けられることは少なくなかった。
もちろん同じように目を背けられることもあったのだけど、目の前にいる全員に同じような反応をされるなんてのは初めてだ。
「イナホ。多分ルーキーズ!!のアレのせいだろ?お前本当バカだよな。……ふふっ」
「あ、てめぇ笑いやがって」
そうやって、いつものようにイチカに文句を垂れたつもりだったのだけど、俺の背後でピンッと緊張が走るのが伝わってきた。
これはマジでビビられてるやつである。
どうしたものかと困って頭を掻くと、イチカは心底可笑しいといった感じでクスッと笑い、言った。
「大体想像はつくけど。……とりあえず裏で待ってれば?」
「……はいよ」
折角賑わっているこの店に迷惑をかけるのもアレだし、とりあえず客が引くまではノンビリと過ごすことにした。
その後しばらくして暇が出来たイチカにアイテム売却の相談を済ませてから、かねてから打診のあったオギさんとのスポンサー契約の話を進めた。
本契約は少し先になるが、俺とアオイの防具の無償提供と継続的な支援金の供出をしてもらえることになりそうだ。
防具に関してはメンテナンスなどの費用もオギさんがもってくれるらしい。
初めは防具に【小木防具】のワッペンを付けてくれと言われていた。
でもそれは流石に商売気が強い感じがして小っ恥ずかしくて、それならスポンサーではなく普通に買いますと一度断ったのだけど、オギさんがあっさり折れてくれたので今の形に収まった。
ちなみに、今の形というのはポスター撮影なども含まれている。
超絶恥ずかしいけど、世話になるのだからそれくらいは我慢することにした。
まあ、イチカも噛んでくれてるから悪いようにはならないだろう。
オギさんはイチカの売上につながるようにも考えてくれてるみたいだし、なんだかんだで皆の利益に繋がりそうだ。
そうこうしている内にまた客が増えてきたので、俺は鍛冶屋を後にした。




