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24.今からでも分けてくれませんか?

二章最終話でござります。

 アオイの病室へ向かおうと廊下に出ると、意外な人物に会った。


 パーカーのフードを被り、ポケットに突っ込んだ手をヒョイと上げて口を開く。


「やあイナホ。探した」


「おお、クルリ!……あれからずっと会いたいと思ってたんだぜ?……って、探してたとか言ったか?俺を?」


「うん。まあ、ヤボ用でね」


「……おお、まあ、じゃあとりあえず聞いてみる」


「じゃじゃ、とりあえず話してみる」


 そう言ってまずクルリが見せてきたのは一枚の書類だった。

 アイテムや装備の名前がズラリと並んでいて、下には5,946,429円とも書いてあった。


「何これ?まさか請求書的な?」


「違う違う。君達の物になるってこと。【水面塔】の宝物庫から回収してきただけだから。ビックリしたよ。ほっぽらかしてたでしょう?」


「え?……宝物庫なんてあったの?……てか、わざわざ回収してきてくれたってこと?」


「屋根裏に発生したみたいだね。あと、回収してとりあえずギルドに預けたのは事実なんだけど、別に親切でやったことじゃないから気にしないで。ついでなんだ。僕の用事の」


「そうなのか。……そんなのあるのすっかり忘れてたな。でも、そういうことなら助かる。助けてくれた奴らにどうやってお礼すればいいか考えてたところだし。ありがとな。……で、本題はこっからって事だろ?」


「うん。三つあるんだけど、まず一つ。その目録の中にはスキルストーンが混ざってるんだけどね。鑑定結果次第では買い取らせてくれないかな?もちろんちゃんとしたお金は払うから」


 スキルストーン!?


 そんなものまであったのか。


 でも……。


 俺たちがスルーしたものをわざわざ取ってきてくれたわけだし、個人的に借りもあるし、気持ちとしては欲しいなら金なんて要らないとか言いたいところだけど、流石にそれはオレ一人のものではない。


「ふむ。……気持ちとしては快諾したいとこなんだけど、オレ一人で決められることじゃないんだよな。助けに来てくれたカイたちとも決めなきゃだし」


「生配信の録画で大体みたけと、所有権ならきっとイナホだよ。心配ならギルドのドローン裁定でも申請したらいいんだし。むしろ、今回みたいな複数パーティーの場合はやってたほうが嫌な気持ちになることは少ないんだし、試しにやっておけば?僕は一人で参加することが多いからよくやるよ?」


「ドローン裁定ね。そんなの聞かされた気がするけど、自分が使うとは思わなくて忘れてたな」


 合同パーティーや野良パーティーでは基本的にそれぞれの約束のもとに戦利品分配を決めるわけだけど、それでも特に希少なアイテムが出た場合なんかは揉める場合があるわけで。


 そんなややこしい状況を防ぐために、ドローンが帯同している場合に限られるのだけど、いわゆるビッグデータやらで戦闘内容を分析して分配の目安を割り出してくれるシステムらしい。


「もちろんただのお願いだから気にしないでもいいよ。ただ、鑑定結果だけはどうしても知りたいかな。僕にしては重大だったりするので」


「……わかった。お前には借りを返せてないし。そうさせてもらう」


「やった。じゃあ電話」


 そう言って携帯電話を取り出して番号を交換する。

 そして俺は電話で思い出したカミヤからの伝言を伝える。


「あ、そういやカミヤが連絡よこせって言ってたぞ」


「いやだよ。どうせ勧誘でしょ?あそこ堅苦しいもん。僕はやらなきゃならないことあるし、世界の修復どうこうなんて全く興味ないし」


「……なんかカミヤがちょっと可哀想だな。……ま、伝えられたからそれでいいけどな。で、まだなんかあんだろ?」


「ああ、一応録画を確認してもらって見当たらなかったから、これは念の為に聞くんだけど、【花屋】には会ったかい?もしくは手掛かりみたいなものでも見なかった?」


「……いや、悪いけどなんのことだか。そのテンションだと【花屋】って薔薇とか売ってるアレじゃないよな?」


「ふふ。ならいいや。ごめりんこ。じゃあ、そんなところかな」


「おいちょい待ち、用事は三つだって言っただろ?」


「…………ああ、もう一つね。うん。それはこれから言うので大丈夫」


「おお。まぁそれならいいけど。じゃあまた鑑定結果わかったら連絡するわ。色々ありがとな。感謝してます」


「いいえ、こちらこそ。色々大変だったね。お疲れさま。ゆっくり休んでよ。じゃあね」


 そう言ってクルリは背中を向けてあるき出した。


「お、おう。ん?……結局三つ目なんなんだよ」


「言ったじゃん。お疲れ様って。じゃじゃじゃ〜」


 ふむ。相変わらずよくわからんね。


 しかし、この戦利品目録、すげぇ額だな。

 




※※※


 アオイの病室を訪れた俺は椅子に腰を掛ける。


 アオイの頭には包帯とネットが巻かれて痛々しかったけど、なんだかそれが可愛く見えたのだからおかしなものだ。


「おはよ。どないでっかー?」


 しかし、俺がそう聞くとアオイはこちらをじっと見て何故だが黙っている。

 そして、しばらくしてからゆっくりと首を傾げて言ったのだ。


「……どなた、……ですか?」


「…………え゛?」


 まさか。


 ……頭を強く打ったからなのか?


 俺は頭が回らなくなって完璧にフリーズした。


 眼の前には、俺の知るアオイがいるというのに。

 アオイの眼には、脳みその中には俺が居ないとか……。


 そして少しの間見つめ合い、アオイがゆっくりと口を開いた。


「……なんつって」


 アオイはあざとくも舌を出した。


「あ゛ーーー!よかった!あ゛ーーーーーーよかった!バカてめぇこら!あーーーーー良かった!」


 心臓が止まるかと思ったじゃねぇか。むしろ何秒かは止まってたかもしれないっての。


 そんな俺の反応にアオイはクスクス笑って満足そうだ。


「おまえ、このタイミングにそれは、それはズルいんでないの!?」


「あー、いつかやってみたいと思ってたんで、ようやくそのタイミングとやらが来たわけです。へへへ」


「へへへ。じゃねぇよ。……まったく。人の気も知らねぇで」


「今ので十分わかりましたよ。へへ」


「……ざけんな。今ちょうどイチカに怒られたとこだったから余計にビビったわ」


「……あ〜。……心配させちゃいましたもんね。さっきも目が覚めたとき、……あ、いいです。やっぱり本気で無しのやつにしときます」


「何だよそれ。すげぇ気になるけど。……まぁ、本気のやつなら聞かねぇよ。それより、事のあらましは知ってんのか?」


「はい。それこそイチカちゃんに聞きました。……足手まといになってすいませんでした」


 そう言ってアオイは頭を下げた。


「……ったく。それはお互い様だろ。そんなこと言い出したら俺だって謝りたいんだぜ?一人にさせて悪かったとか、そもそも連れてって悪かったとか」


「それは別に、私の注意不足だし、付いて行ったのだって私の判断です。謝られることじゃないですもん」


「まぁ、そう言うんだろうと思って言わなかったんだよ。そりゃ俺だって、お前がいてくれて良かったとは思っても、居なけりゃ良かったなんて思ったことはないし。謝る必要なんてどこにもねぇよ」


 まったく。何を今更。


 と、思ったのだが。


「……はわぁ、……えーと、……ふふふ。……はい。……いえ、すいません。……ふふふ。……はははは」


 アオイは窓の外を見て変な感じになっていた。


「あれ?……俺、なんか嫌なこと言ったか?」


「いえ、全然。自覚がないのがイナホさんらしいですし。……ええ。……はい」


「まぁ、ちゃんと意味が伝わってんなら良いけどさ」


「そりゃもう、一ミリも余すところなく受け止めましたので。……ふひひひ」


 なんだかアオイが変な子になってる。いや、たまにあるけどさ、こういうキモい感じ。でも、まあ、そんなときは子供みたいで面白いんだけど。


「で、話は戻るっていうか、話を始めるわけだけど。……イチカにどこまで聞いた?」


「ええと。……タダスケさんのことも一応は」


「……そうか。……まぁ、そういうことだから。……付き合わせたのにこんなことになっちまって悪かったな」


「……イナホさんだって謝った」


「あー。……でもさ、アオイの意思で付いてきたとはいえ、それはやっぱり付いてきてくれたわけだろ?俺の意思があって初めて付いてきたというかさ。だから、……まぁ、やっぱり悪いとは思うんだよ。痛い思いもさせたし、事のあらまし聞いて多分嫌な思いもさせただろ?だってさ、俺が、その、タダスケを、殺すことになったわけだし」


 改めて口に出すと、見ないでおこうとしていた事実が改めて心にのしかかった。


 でも、それはやはり事実で、目をつぶっていてもしょうがない。


 あの時、それが正しいと思ったのだし、今でも間違っていなかったとは思う。


 それでも……。やっぱり。

 

「……あの、……手、貸してください」


「……ん?……何だよ」


 おれは何だかわからないまま手をベッドの上に差し出すと、アオイがその上に手を重ねた。


「――!?」


「……えーっと。……これはあれです。……気持ちを伝えやすくする、お母さんとかがしてくれるやつですから、そういうのじゃないですから気にしないでください。……多分」


「お、おう。……そんなんされた記憶は無いけど。……まぁ。わかった」


「……で、イナホさん。まず、私がなんでついて行ったかというと、正直な所、一番の理由はタダスケさんではありません。……いえ、もちろんタダスケさんを助けたいってのはありましたけど、状況から考えて、生きている可能性は極端に低いと思ってましたから、タダスケさんが亡くなったことに関しては覚悟も出来ていました」


「うん。……そう思うのが普通だよな。俺も正直そう思ってたし」


 でも、だからと言って捨て置くわけには居られなかった。

 ただ、見て見ぬ振りをする自分が気持ち悪いというだけで。


 一筋の希望に縋って、イチカに叱られた通り、自分たちの命を蔑ろにしてしまったのだ。


 やっぱり今考えても馬鹿な決断だったと思う。

 結果として俺達は死なずに済んだけど、それはあくまで結果に過ぎない。


「……イナホさんに『行くのか?』って聞かれた時、後悔したくなかったって言ったでしょう?」


「うん」


「……すごく自分勝手で、なんて醜いんだろうと本気で思うんですけど、……私はイナホさんに後悔してほしくなかったので。……それが一番だったんで。……きっとあの時行かなかったなら、結果はどうあれイナホさんは悔やんだでしょう?あの時俺は動かなかった、動けなかったって一生頭をよぎるでしょう?……そんなイナホさんを、見たくなかったってのが私の本音です」


「……お前、……そんなことで命をかけるなよ」


「そんなことじゃないです。……イナホさんにとって、タダスケさんのことがそんなことって切り捨てられなかったのと同じように、私にとっては、……その、……それはそんなことじゃ済まないんです」


「…………おう」


「私は……そういう意味に置いては後悔の少ない道を選べたと思っています。……でも、やっぱり結局は後悔してしまいます」


 アオイは触れた手を少しだけギュッとして続ける。


「……イナホさん一人に嫌なことを押し付けてしまいました。多分きっと今も平気なふりをして罪悪感とか後悔とかを抱えたままなのに、私はそれを伝聞でしか知らなくて、知れなくて。あなたの気持ちに寄り添うことすらできないのが、酷く自分勝手な私の後悔です」


「………………」


「だから、今からでも私に分けてくれませんか?」


 そう言ったアオイは、少し赤くなった目で真っ直ぐにこちらを見つめている。


 色んな考えが頭を巡って、やっぱりなんて答えていいかわからなかった。


 ただ、泣かされてたまるかって、それだけは必死に堪えて。


 結果的に長い間無言になった。


 そして、それを我慢できなくなったのか、アオイが気まずそうに口を開いた。

 

「…………なんつって。……という感じで、今の無かったことに出来ませんかね?」


 アオイはまた舌を出したが、耳を真っ赤にして酷くぎこちなかった。


「……阿呆か。一ミリも余すところなく受け止めたわ」


 その変貌に少し笑ってしまった。


「……すいません。こんな時にそんなこと思うなんて、やっぱり人間として冷たいというか、すごく酷いですよね。……あー、ほんと、言わなきゃ良かったな」

 

 アオイは頭を抱えてため息を吐き、落ち込んでいる。


「いやいや、なに自己完結して落ち込んでんだよ。軽蔑なんてしてねーから」


 あんまりにも真っ直ぐな気持ちにたじろいで、どう対応していいかわかんなくなっただけだから。


「ホントですか?……ほんとに大丈夫ですか?……えっと、その、だいじょうブイ、ですか?」


 耳を真っ赤にしたままのアオイは、叱られた子供が親の様子を伺い見るように、タダスケがいつか言っていたくだらないワードを持ち出す。


 何だよその無茶振り。


 そう思いながらも、それで安心してくれるなら別にいいかと、両腕をブイの字に持ち上げて言った。


「だいじょうブイ」


「ぶふぉ!」


 そんなに笑うか?というほど笑っているアオイ。このタイミングでタダスケのネタを持ち出すセンスは見上げたものだし、なかなかできることではないだろう。


 ただのブラックユーモア好きなのか、悲しかったことを笑い飛ばそうとしているのかはわからないけど、どちらにせよ、こいつが笑ってくれてるとそれだけで心が楽になる。


 寄り添えなくて後悔してるとか言ってたけど、正直イマイチピンときてなかったりするのは、こうやってそばに居てくれるだけで、それでも充分だからなんだろう。


 やっぱりお前がいてくれるだけで助かってることだらけだ。


 その後も俺たちは相変わらずのくだらない話をして、時々タダスケのことも話題にのぼって、悲しみながら、笑いながら時間を過ごした。


 やっぱりサノの時と同じように、お通夜の夜みたいにダラダラと、非建設的なやり取りを楽しんで、至らなかった自分たちとタダスケを悼むように、抱えるように。


 結局何の力にもなれなかったタダスケには悪いし、後悔や、喪失感や、あのときの感触だって未だにベットリと残っているけど、それはそれでやっぱり、ゆっくりと反芻していかなければならないもので。

 

 とりあえず、そっちに行ったときにはまた飯でも食えたら良いなと思うし、やっぱりそれでも毎日はウゼェなと考えたりしてる間に、アオイから寝息が聞こえてきた。


 気持ちよさそうに眠るアオイの顔は、はしゃぎ疲れた小学生みたいに子供っぽく、満足そうな寝顔だった。


 そして、ずっと触れたままだった手。


 なんとなく忘れてたのか、タイミングが無かったのか。

 結局どちらからも離さないままになっていただけなんだけど、折角グッスリと眠ったアオイを起こしちゃ悪いな。


 ……ってことにしておいて、もう少しこのままここで考え事でもしてようと思う。



〜二章 終わり〜




まずはここまでお付き合いいただいたことに最大限の感謝をお伝えします。本当にありがとうございます……!


彼らの冒険が、読んでいただいた皆さまの何かしらの足しになれたなら最高に嬉しいのですが、いかがでしたでしょうか……。


例えば気軽な一言でも、適当でも、暴言でも文句でも構いません。何かレスポンスを頂けると嬉しいです。


また、お手間じゃなければ評価などもいただけますと心底ありがたいです。


例え1ポイントでも、『読んでくれたんだ』と思って嬉しくなります。単純かと思われるかもしれませんが、本当にそんなものだったりします(/ω・\)チラッ


お読みいただいて本当にありがとうございます!

ホントに感謝で一杯です(^^)v

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