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18.水面塔ふしぎ発見

 【空色の壁】を無事に突破して三層の平原を進む。


 現れるモンスターは二層に比べて速さも強さも嫌らしさも上だったけど、視界が広くて強襲されにくく、また基本的には単体で現れることが多いために対処はそれほど苦労を感じなかった。


 その理由として、実際に野良パーティーで三層のモンスターと戦ったことのあるヨーコのアドバイスが大きかったと思っている。


 テンプレというのは沢山の経験から導き出された最適解であり、全ては真似できないにしても、俺は改めて馬鹿にできたものではないと思い至った。


 帰ったらもう一度真剣に目を通して見ようと思う。


 もちろんそれは、無事に帰れた場合だけど。




「見えてきたわ。……あれが【水面塔】のあった湖よ」


 ヨーコが指差す先に見えたのは草原の中に忽然とある湖。

 川から水が流れ込むでもなく、反対に何処かに流れ出すでもない。


 その、ダンジョン特有の不自然さ。先程よりも深くなった霧や纏わりつくようなドロリとした空気と相まって、誰かの精神世界にでも彷徨いこんだかのような、そこはかとない気持ち悪さを感じる。


 いや、或いは、俺の不安がそう思わせているのかもしれない。


 ……進むべきか、戻るべきか。


 俺はここへ来てもまだ決めきれず、嫌な感じを拭い去ることは出来ていない。


「イナホさん。………やめておきますか?」


 アオイは不安げに聞いてきた。

 きっとまた見透かされたんだろうなと思いつつ、流石にここまで来てこのタイミングで引き返すのは違う気がするし。

 せめて遠巻きに見てからでもいいはずだろう……。


「……いや、もう少しだけ近づいてみよう。……ヨーコ、タダスケ達を引き込んだツタが届く範囲って予想は付く?」


「……多分。でも、自信はないかも」


「いや、それでもいい。……じゃあ、念の為ヨーコが思う位置より遠くから見てみるってことで。……撤退の判断はそこからでどう?」


 俺の提案に二人は頷き、湖へと歩き出した。


 思えば引き返すタイミングなんていくらでもあった気がする。


 ヨーコはこれまでの戦いを楽勝だとでも思っているフシがあるけど、どこで破綻しても全くおかしくない不用心さで突き進んできた俺たちは、無茶な冒険を()()()()()()()()()()()()()()、ここまで()()()()()()()()()()


 自分たちでは慎重にしていたつもりでも、やはり慢心していたのだと思う。




※※※

 

「……あれが【水面塔】。……ホントに水面にしか実物が無いんですね」


 アオイが独り言のように呟いた。


 湖の周りには塔どころか木一本生えていないというのに、水面には確かに地上にあるかのように塔が写り込んでいる。


 ダンジョンの中は地上の常識を外れた景色が多いにせよ、この【水面塔】はわかりやすく不思議だった。


「……ちょっと待って、何か変だわ」


 そう言ってヨーコが2歩3歩と歩き出し、俺とアオイは慌てて彼女の腕を取り何事かと尋ねると。


「……塔に巻き付いてたツタが枯れてるのよ」


 そう言われて見てみると、確かに塔に巻き付いたツタは冬の枯れ葉のように茶色く乾いていた。


「……元は違うと」

「……ええ。……青々と茂ってた」


 これはどういうことだろう?


 ここの区域主(エリアボス)について知る限りでは、このツタこそがそいつの象徴とされていたはず。


 それが枯れているということは区域主(エリアボス)が倒されたとか、力が弱まったとかそういうことなのだろうか?


 まさかタダスケが?……いやいや、流石にそれはないと思うけど。もしかすると、誰かが来てなんとかしてくれた可能性なら無くもない。


 ただし、それはあくまで希望的観測だ。そんな都合のいい展開なら心底ありがたいけれど、外側のツタが枯れているだけなのだ。


 なにも答えを出す段階ではない。


 そうやって頭を悩ませていると、唇を尖らせて考え込んでいたアオイが口を開いた。


「じゃあ、あのツタが生きてるのか試してみます?」


「でもどうやって?……近づいてみるとか言わないでね?」


 ヨーコの心配気な問いかけに、アオイは「まさか」と首を振り落ちていた石ころを拾う。


「とりあえず投げてみようかな?と。……まずいですかね?」


「いや、やってみようぜ。何なら弓でも射掛けてみたい。もし生きてるとかなら反応もあるかも」




 そして、実際に矢を放ってみることになった。


 念のために先程より距離をおき、アオイは膝立ちになってクロスボウを構える。


 俺とヨーコはいつ何が来ても良いようにと武器を手に、固唾をのんで見守っていた。


「3……2……1……」


 ダシュン!と放たれた矢。


 狙い通り【水面塔】を撫でるように滑り水平に着水したかと思うと、塔に絡まった枯れツタを容易く引きちぎっていき、最終的に塔の壁にぶつかったらしい矢は角度を変えて湖へと沈んでいった。


 結果として、ツタは普通に枯れた植物との違いは感じられなかった。


「……あれじゃ人間なんて持ち上げられないよな?」


「ええ。あの時は確かにあれが伸びて来たんだけど」


「……しかも、矢は塔に弾かれましたね。……つまりそれって、例えば私達が上に乗ることも出来るんでしょうか?」


「それこそ石でも投げてみよ」


 そして手近なものを投げてみると、石はカツンと音を立てて静止したかと思ったら、【水面塔】の一階にあたる部分へと滑るように移動したのだ。


「今の変な動き何?」


「……まるで引力が働いたような動き方でしたね」


「それ、アオイが言ったので正しいんじゃねぇか?」


 そう言ってもう一度石を投げてみると、やはり石は先ほどと同じように【水面塔】から見た場合の地面へと()()()()()のだ。


「結局どういうことなの?」


 ヨーコの疑問にアオイが答える。


「……まず、目に見えるツタは死んでいて、そしてあの塔はあそこに実在している。かつ引力だか重力だかは【水面塔】の見た目どうりに働いてる。って感じでしょうか」


 なにそのふしぎ発見。そんなミステリーいくらトットちゃんでも答えられないだろうよ。

(注、トットちゃんとは黒○徹子女史の愛称です)


「……てことはさ、一階の扉からなら入れたりしないかしら?」


「……どうでしょう。試してみないことにはなんとも……。イナホさんはどう思います?」


 アオイに話をふられて少し考える。


 楽観視はしていないつもりだけど、この状況だけで考えると試して見る価値はあるように思える。


 もちろん危険は百も承知だ。塔に絡まったツタが死んでいようとも、いくつもある窓から新たなツタが伸びて来ないとも限らないのだから。


 これほど理解が追いつかない場所なのだから、他にもそれ以外の未知の危険があったとしても不思議じゃない。


 俺は二人の顔を見渡して決意した。


「じゃあ、……まず俺から行ってみるかな」


ご覧くださりありがとございます!

とてもありがたく思っておりますよ!


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