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10.小休止的なクネクネ道

 俺たち四人は下へと向かう【門】に入っていたはずである。


 しばらくは、なだらかな下り坂。


 しかし、その洞窟はしばらくすると上り基調になっていき、今では険しい坂を登っていた。


 感覚的には地上に出ていてもおかしくないくらいには登っている。


「……二層って一層の下にあるもんじゃねぇの?」


「ん?……誰かそんなこと言ったの?」


 俺のボヤキにヨーコさんが首をかしげる。


「いや、普通に考えて階層が深くなれば地下に広がってくと思ってたんだけど。……違うのか?」


「見た目の割に真面目ね。ダンジョンに普通なんて求めるもんじゃないでしょう?」


「……なるほろ」


 ヨーコさんはクスッと笑った。


 そう言われれば返す言葉がない。


 そもそも、この世界で当然のダンジョンという存在自体が不可思議極まりないし、スキルや魔力といった要素をようやく受け入れはしたものの、やっぱり不思議に思えてしまう。


 物理法則が少し(?)地上と違うことがこの世界では当然なのだとしたら、俺はそのズレを正しく認識しておかなければならないだろう。


 しょーもない認識不足で命を落としたくはないし。


「すげっ!そろそろ二層だよアオイちゃん!」


「……はぁ。はしゃいでないで警戒もしてください。この通路はモンスターが出ないわけではないでしょう?」


「お〜……!やはり戦闘を終えて、アオイちゃんとの距離がグッと縮まっている……!ワンチャンあるか?あるんじゃないのか!?」


 終始この調子のタダスケ君はまたもやヨーコさんにゲンコツでゴリっとされて。


「黙れ馬鹿スケ。どっちかと言えば適切に距離を開けられただけでしょ?」

「酷っ!そんなことないよね?」

「別の言い方をすると諦めでもありますね」

「酷っ!アオイちゃんも酷っ!……でも、やっぱり距離は縮まってると思うんだけどなぁ」


 首をかしげるタダスケにそれぞれがクスクスと笑う。


 まぁ、アオイがタダスケ君に対してそれなりに好意的なのはみんな気づいてるが、あえて口にしていないだけだろう。


 そもそもアオイはイジってるつもりなんて無かっただろうけど、普通に言ったはずの苦言がタダスケ君にかかれば質の良いイジりに変わるのだから、これも一つの才能と言える。


 先程の戦闘でもチョンボは多かったけど、妙に憎めない。

 羨ましい人間性である。


 そして多分アオイは、ヨーコさんにも少なからず好感を持っている。


 特別親しく話すわけではないけど、普通に話せているのだからきっとそうなのだろう。


 最近気づいたのだけど、アオイは結構顔に出るのだ。

 苦手な人と話すとき、笑い方に出るらしい。


 タダスケ君とのファーストコンタクトとかみたいに。


 そうこうして出口が近づいてきたわけだけれども、グニャグニャと曲がりくねった険しい登り坂の脇には、いくつかのテントとか、花見の席取りみたいにロープで区切られているのが目についてきた。


 宿泊のためでもあるかもしれないけど、すぐに地上に戻れる二層であることから【拠点】として使われている方が多いと見るべきだろう。


 探索で得た素材などを保管して身軽になり、再度トライ。

 効率的に稼ぐためには必須らしい。


 なぜこんな場所に集合しているかというと、この一層と二層とを繋ぐ洞窟は比較的モンスターが現れにくいからだ。


 それに、入口側と出口側を警戒しておけばいいだけなので人員も少なくて済む。


 その警備を専門にしている冒険者もいるので、そいつに金なり探索の分け前を渡せば自分たちで守っておく必要もないのだという。


 何というか、色んな仕事があるよね。


 ほかには、狩りに行く人、拠点の守備、拠点から地上までの運搬係など作業分担で効率化を図る、【業者】と呼ばれる集団も居るらしい。


 こうも商業の匂いがすると、ダンジョンのミステリアスさも形なしで、人間の逞しさというものを感じざるを得ない。


 まあ、そういう【業者】はもちろん視聴者たちからは人気がないらしいけど、俺はなんだか仕事っぽさを感じて好感を持ってたりするわけだけど……。


 閑話休題。


「私達もこのあたりに拠点作ってから、表で適当な野良パーティーに入るつもりだけど。……良かったら一緒に行かない?」


 ヨーコさんに話をふられてアオイをチラリと見ると、また『おまかせします』といった感じだったので俺が口を開いた。


「ありがとうヨーコさん。でも、今日は様子を見に来ただけで、危険の無い程度に回るつもりだから。折角誘ってくれたのに申し訳ない」


 野良パーティーではなくて、ヨーコさんとタダスケ君だけなら考える余地もあるけど、それでもやっぱり今日は様子見のつもりだ。

 稼ぎを念頭においてないので迷惑をかけることになるだろうしな。


「いえ、気にしないで。あなた達と組めて良かったわ」


「そりゃこちらこそだ」


「お世話になりました」


「おっと。……もうお別れなんて寂しいじゃないか」


 それぞれに握手を交わし、名残を惜しみつつもその場を離れた。


 カイたち以外と組んだのは初めてだったけど、案外悪くなかったと思い返していると、後ろから大きく明るい声が聞こえる。


「イナホ君、アオイちゃん!もう俺たちは友達だからなー!」


 振り返ると、手をふるタダスケ君と少し恥ずかしそうにしてその腕を殴りつけるヨーコさんの姿。


「おうよ!」

「はーい!」


俺たちも少し照れながらだけども手を振り返すと、


「友達ならアオイちゃんとのお泊りデートとかありだよねー!?」


 と叫ぶ。


「あるかっ!」「絶対ないでーす!」「調子に乗るな馬鹿スケっ!」


 と、みんなから一斉に罵倒されつつ、ヨーコさんからはケツを蹴り飛ばされ、「あ、酷っ!」と転がった。


 俺たちはまた笑って、改めて別れを告げると、ようやく二層に足を踏み入れた。

ご覧いただきありがとうございます。

寒くなってきましたので体調を崩さないようにご自愛くださいねー。

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