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28、病室リザルト

 目を覚ますと、側にはイチカが座っていた。


 どうやら医務室のベッドらしく、今は昼間だろうか。


 ってことは戦闘の当日?いや、一日寝てたのか?


 ボンヤリした頭でイチカが見ていたテレビを見てみると……。


「……は?なにこれ?」


 テレビの中にはアオイが映っていた。


 数多ある配信でもなく、新人専門番組ルーキーズ!!でもなく、ダンジョン系放送局とはいえ、真っ昼間の番組のゲストとしての出演である。


 イチカは俺が起きたことに気が付くと、一瞬だけ微笑んだように見えたけど、そんなことは無かったみたいにしてテレビに視線を戻す。


「アオイってかわいいよな。テレビの中でも特別なくらいだ」


 嫌味ではないだろう。心底そう思ったらしい。


 俺は頭の中で首をひねった。


 アオイは確かに可愛いし、そこいらのアイドルよりも整った顔立ちをしていると思うけど、それを言い出したら、一般的な美貌としてはイチカの方が上だと思っている。


 キツめの表情を含めて、非の打ち所のない容姿をしているのだから。

 性格を除けばの話だが。


「お前が言うのか?……いや、ちょっと待て、それより何この状況。俺は寝ぼけてんのか?」


「丸三日寝てた。寝ぼけててもしょうがないけど、今見てるテレビは事実だよ」


「……人は三日も寝れるんだな。いや、余計にわからん。一つづつ教えてくれない?」


「まあ、そのためにいるしね」


 イチカは俺が寝ている間のことを淡々と語ってくれた。


 まず、アオイの足のケガは後遺症が残るものではないし、今は痛み止めなしで歩くことも出来る。心配はいらないらしい。


 カイは隣の部屋に入院していて命に別状はない。

 ケガはヒドいがすでに起き上がっていて、意外なことにむしろ俺のほうが重症だったそうだ。


 当の俺は顔面と胸に百針単位のヤバイ怪我を負っていたらしい。

 先生曰く、死んで無いのが不思議な失血量だったそうだ。


 ちなみに傷跡などはほとんど残らない。

 ダンジョン産の素材を使った治療法だそうで、今回の傷は比較的消しやすい部類だったそうだ。


 そして、ヒナさんは現在集中治療室にいる。

 一命は取り留めたが意識はまだ戻らず、何らかの後遺症は覚悟するべきだとのこと。

 少なくとも冒険者としては難しいらしい。


「生きてただけで十分だろ?」


「……おう」


 イチカは真剣な眼差しで諭すようにそう言った。


 俺自身も、あの状況で俺たちのやれることはやったと思っている。

 ヒナさんの状態はとても心配だけど、だからといって俺にできることなんて何もないのだから。

 

 言っておくけど、別に恨んでるわけじゃないんだぜ?

 そりゃ、ヒナさんはカイに逆らえずに俺たちを巻き込んだわけだけど、人には色んな事情や関係性があると思うし、ある意味ではやはり彼女も被害者で。

 俺は彼女を恨む気にはなれなかった。


 早く良くなって、ただ一言謝ってくれりゃ嬉しい。


 カイの野郎はもう一発ぶん殴らないと気が済まないけどな!

 

「……で、次はいい話だ」


「おうよ」


「狸の素材は私が処理した。希少種だから昨晩のオークションに出したよ」


「オークション…………儲かりそうな響きだな」


 そんな仕組みがあるとは知らなかったが、【首切り長兵衛】は変異種で、他では手に入りにくい素材が取れたのなら、今までの討伐とは桁の違う稼ぎになるのかもしれない。


「で、これが売り上げ」


 イチカはそう言ってジーパンのポケットから分厚い封筒を取り出した


「アオイに言われた通りカイ達の分は渡してきたけど、良かったのか?」


 封筒を受け取りながら頷く。


「ああ。帰りにアオイと話したから」


 戦闘が終わった後に少しだけ話をして、二人の意見はすんなりと一致していた。


 いくらハメられたからとはいえ、こちらから不義理をするのも気持ちが悪い。

 あの場では等しく命をかけたわけだしな。

 

 封筒の中を覗くと、見知った顔がズラリと並んでいる。


「うわ、全部万札じゃねぇか」


「そりゃ、希少種だ。もう少し上がっても良かったくらいだよ」


「そうなのか?……十分すぎるけど」


「それとこれも。鑑定も済んでるよ」


 今度は右のポケットからピンポン玉大の宝石のようなものを取り出した。


 こいつ、何でもかんでもポケットに入れやがって。というツッコミはさておき、目の前の石に首を傾げた。


「何?……長兵衛の……狸の金玉?」


「ば、ばかっ!んなわけねぇだろ!……それはそれでちゃんと売れたから!スキルストーンだよ。長兵衛から出たやつ」


 顔を真っ赤にして怒るイチカに笑いつつ、スキルストーンとやらを受け取ってみる。


「そんなことすっかり忘れてたな」


「内容は『細胞を急激に膨張させる』。簡単に言えば、力を加えた対象を破裂させるってことらしいぞ」


「なんだよそれ。クソ恐ろしいじゃねぇか」


 どう扱ってもグロくなりそうだな。


 ていうか、噂通りなら斬撃系のスキルが出てもいいのに、破裂なんて長兵衛の特性と関係ないと思うんだけど。

 冒険者の噂も当てにならんね。


「まぁ、これはかなりの当たりスキルだからな。『爪が伸びやすい』とかの方が良かったか?」


「なわけねぇよ。誰得スキルだ。……で、これについてカイは何か言ってたか?」


 アイツが俺たちを巻き込んでまで欲しかったものの一つがこのスキルストーンだった。


「さっき金を渡したときにな。斬撃じゃないなら要らんだとよ。スキル枠とかデリートストーンの事まで必死で持ち出してきてたが、あれはあれで考えるところがあったんだろうな。ま、謝罪も感謝も口にはしてないけど」


「へぇ、お前にそう見えたならそうなんだろうな。でも、あいつが欲しいっつっても流石にやるつもりもないけどよ」


 当然だろ?ハメられた上に、重症まで負って、そんなお人好しではない。


「ちなみにクルリは報酬は断ったよ。スキルストーンももちろんね。代わりに『結構良かった』って伝えろってさ。あと、『鉄パイプは無いと思う』とも言ってたな」


「なんじゃそりゃ。……あいつやっぱ変わってんな」


 確かあいつはスキルストーン狙いで長兵衛狩りに来てたと思うけど。結果的に斬撃系ではなかったにしろ、欲がないのか何なのか。掴みどころがないのは間違いない。


 まぁ、クルリが報酬を要らないと言ったとはいえ、何かしらお返しはしたいところだ。

 アオイの命は間違いなくクルリに救われたのだから。


「……ところで、肝心のティーヴィーヒロインはどうなってんだ?」


 画面には未だに不器用な笑みを見せるアオイが映っていた。


「認定されて間もないとはいえ、新人期間中に階層主を倒したんだ。それもあんな派手なトドメの刺し方で。おまけに見た目もいいと来てるだろ?これまでは一部マニアしか知らなかったけど、これでアオイも一躍知られた存在ってわけだな」


「あの化け狸、知らない間に階層主に認定されてたのか。……ってか、アオイが人気者なら普通相棒の俺も人気者じゃないの?」


 別に人気者になることを期待して聞いたわけじゃない。

 むしろそういう露出はすこぶる苦手だと思うし。

 

「お前はアオイの仲間程度の認識だろうよ。生配信を見たやつはどうだか知らないけど、放送されたのは危うくやられそうになったお前をアオイの逆転の一撃で助けたって感じに見えてるだろうな。テレビもその方が話題になると踏んだんだろう」


「なるほどね。テレビらしいというか。しかも否定が浮かばないな。その方がドラマティックだし、アオイの方が主人公力が高い」

 

 アオイは元々キレイな顔をしているし、スマッシュの爽快感や、イライザのチューンナップも相まって、一言で言えば絵になるのだ。


 多分俺よりもずっと。


「そういうこった」


 恐らく、アオイと俺をを取り巻く環境は変わっていくのだろう。

 それが良いのか悪いのかはわからないけど、何とかやって行くしかないわけで。


「まあ、何より生きて帰れて良かったよ。……色々ありがとな」


 俺はまだ少し痛む腕を上げてイチカに向けた。

 それを汲み取ったイチカは俺の手を強くパシンと叩いて、


「……し、仕事だからな」


 と、あからさまな照れ隠しをしやがったので、吹き出して笑った。


※※※

 

 アオイが来たのはその日の夜だった。


「……すいません。来るのが遅くなっちゃいました」


 セーラー服の上着の裾を触りながら、申し訳なさそうな寂しそうな表情をする。


 時々顔を出すアレだ。

 口を尖らせて拗ねる子供みたいなやつ。

 その仕草に思わず笑みが漏れた。


「イチカから聞いてるし、別に気にするようなことじゃない」


 初めはテレビなんて出たくないし、そんな状況じゃないと断っていたらしいが、根気強い交渉と高額なギャラを提示されたらしい。

 初心者期間が終われば引っ越しなどの出費も待っていることから出演に踏み切ったみたいだ。


「……でも」


 今アオイが何をそれほど気に病んでいるのかわからなかったけど、アオイの性格からしてテレビ出演なんて無理をしていた事はわかっている。


 だから、冗談めかして言ってやった。


「頑張ってくれたんだろ?あんな引きつった顔してさ」


「あ、ひどいこと言う。だって、全然関係ないこと聞くんですよ?好きな食べ物とか、好きな冒険者とか、それから、……す、すきな、人とか」


 余程苦痛だったんだろうか、うつむいて声まで小さくなっていった。

 

「そっか。そりゃテレビらしいな」


 前の世界でもスポーツ選手にインタビューして好きなタイプとか休日の過ごし方とか聞いてたもんな。


「……そ、そうですね。はは。……あの、具合はどうですか?」

 

「今はまだボーッとするけど多分大丈夫。取り敢えず一週間くらいは安静で様子見るらしいけど。……そうなると規定探索時間がやばいな」


 傷の割に治りが早いのはダンジョン産の薬品があるこの世界ならでは。


 だけど、初心者補助を受け続けるためには一週間の規定探索時間を満たす必要があり、このままでは確実にそれを満たせない。


「怪我や病気の場合は申請が通れば容認されるんですよ。でも、長兵衛の素材と今回のギャラなんかも合わせれば、宿舎を出るのもありかな?とか。……どう思います?」


 それは俺ももちろん考えていた。

 安いゲストハウスなら問題なく暮らせる。


「アオイがそれで良いなら」


 『ギャラの取り分はアオイのもの』なんてことを言えばきっと怒るだろう。

 だから余計な口は挟まず、その提案を受け入れることにした。


「やった!じゃあ明日から家探ししてきますね。どんなのが良いとかあります?」


「特にないから任せるよ」


「むぅ、でも頑張ります。あ、携帯電話も借りないとですね」


「あぁ、この世界にもスマホがあること忘れてた」


「生配信とかも見れるみたいですし、冒険者向けのアプリとかもあるらしいですよ」


「ダンジョンの中では使えないんだろ?どんなアプリ?」


「メルカリとか。ツイッターとか?」


「具体的な名前出すのはいいのかね?」


「ん?なぜです?」


「……なんとなく」


 それから俺たちらしい相変わらず益もない雑談は続いた。

 アオイが嬉しそうに話すから結構粘ってはみたけど、俺は知らない間に眠ってしまったらしい。


 そして、眠っている時に親指に何か感触があったけど、眠りに妨げられてよくわからなかった。


 で、アオイと言えば、あれからも何本かテレビ出演している。


 詳しいことは聞いていないけど、ギャラの方も結構な額になってるみたいだ。


 俺が退院した頃には、俺たちの資金は長兵衛討伐分とアオイのギャラ、これまでにためた分を合わせて100万円ほどになっていた。


 ひとまずの日常を手に入れるには十分な額だ。

ご覧いただきありがとうございますだ!

いよいよ夕方の投稿で一区切りです。

4時頃を予定していますので、そちらも何とか見ていただけると嬉しいのですが……(/ω・\)チラッ

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