19、短章 サノの行方
少し残酷なシーンがありますのでご注意ください。
探索を終え、事務所に用があるからとアイテムの売却をアオイに任せた。
昨夜から帰っていなかったサノの所在を一刻も早く確認したかったからだ。
もちろんこのことはまだアオイには伝えておらず、余計な心配で済むことを願ってまずは部屋に戻ってみたのだが。
「……どういうことだよ」
二人部屋から半分の荷物が持ち出されているところだった。
こちらをチラリと見た作業員らしき男は、興味がなさそうに視線を戻すと荷物を持ち出そうとする。
俺はその男に詰め寄り肩を掴んだ。
「どういうことかって聞いてんだ」
男は煩わしそうに手を振りほどくと言った。
「……わからないんですか?」
「………………」
バカにしたような声。見下すような目。
頭に血が上った。
けど、そんなことに関わっている場合じゃないんだと、大きく息を吐いて心を押さえつける。
「……わからないから教えてくれ。サノはどうなったんだ?」
「残念。個人情報なんで。……ふは、必死」
コイツ。
鼻で笑いやがったのか?
俺たちの生き死にを蔑みやがったのか?
「……オマエッ!!」
握りしめた拳を卑屈なにやけ面に叩き込もうと振り上げた。
……けど、それを振り抜くことはしなかった。
「あれ?……なんだ。殴らないのか」
「………………」
「ちっ。つまらねぇ。労災チャンス消失。……まあ、よく堪えた賞で教えてやるよ。昨日の【ルーキーズ!!】で面白いもんが見れるぜ」
「……どけクソ野郎!」
俺は作業員を押しのけて廊下を駆け出した。
※※※
資料室。
あの作業員は気に入らないが、個人情報保護は確かに正しい道徳かもしれない。
だとすると、この映像に道徳なんてものが欠片でもあると言うのか?
映し出されているのは、砕かれた頭蓋骨のてっぺんから脳みそを貪りつかれるサノ。
【首切り長兵衛】と呼称された長身のタヌキらしい化物はサノの頭骨の内側から目玉を吸い出し、プッと吐き出した。
その目玉がアップで映し出され、そのボケた背景の中で【首切り長兵衛】の食事は続き、『サノジロウ死亡』というテロップと共に画面は暗転した。
「…………うそ、だろ?」
ここに来て初めての友達。
つまり、同性ではこの世界で唯一の友達だった。
初めてあったときから何年も知ってるみたいに気安くて。
俺たちの鍛錬に付き合ってくれたのも、自分のためだとか言いつつ、俺達に合わせてくれるような、それでいてそれを悟らせないような。
お前が死んだ?
もうこの世に居ないって?
「…………嘘だろ?」
ダンジョンとは、冒険者とはこういうものだと頭で知っていても、到底受け入れられる話ではなかった。