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18/97

18、探索は続くのです

 咀嚼蜘蛛を倒した俺たちは魔石と素材を剥ぎ取ると探索を再開した。


 昨日のように一匹倒して帰っていたのではいつまで経っても生計なんて立てられない。


 とはいえ。生き延びてこそなのだけれど。


 そう上手く事は運ばないのがダンジョンらしい。


「イナホさんっ!そのまま絶対動かないで!絶対ですよ!」


「無理無理!!あっが!抑えるのも限界っ痛っ!」


 咀嚼蜘蛛の強靭な足で壁に押さえつけられた俺。

 目の前でガチガチと鳴る大顎に頭を砕かれていないのは偶然の賜物だった。


※※※


 探索を再開して間もなく、新たな咀嚼蜘蛛による完全な奇襲でアオイがふっ飛ばされ、すぐに俺は取り押さえられた。


 その膂力は凄まじく、呆気ない幕切れが頭をよぎった。

 大口が機敏に動きながら視界を埋め尽くそうとした。

 しかし、蜘蛛の大顎と俺の頭を遮るように鉄パイプが入り込んでいて、それを無理やり蜘蛛の口に押し込む。


 それは膠着と言えるほど拮抗も出来ない一瞬のデモクラシー。


 鉄パイプが外されれば、あるいは無理やり押し込まれれば呆気なく終わってしまう風前の灯。


 起き上がったアオイは釘バットを振りかぶっているが、不規則に動く咀嚼蜘蛛に狙いをつけるのに戸惑う。


「アオ……イ。俺は悟空で、お前はピッコロだ」


 なかなか覚悟の決まらないアオイに向けた鼓舞。

 ふざけてるつもりは一切ない。回らない頭が捻り出した言葉がこんな馬鹿げたものだっただけだ。


「ラディッツ編!?それだとイナホさんも死んじゃいます!」


「ヤムチャ死にするよりマシだから!……それよりマジで切羽詰まってる。……ホント助けて」


「殴ります!当たったらごめんなさい!!いきます。口から怪光線!!」


 謎の掛け声と共にフルスイング。


 ドチャ!


 蜘蛛を横殴りに吹き飛ばし、釘バットは、俺の腹スレスレを通過していくが。


 ブチブチブチィ!


「がぁっ!」


 体に食い込んでいた蜘蛛の足に俺の肉も引きちぎられた。


「ヤムチャ……イ、イナホさん!!大丈夫ですか!?」


 こいつ今、素でいい間違えたな。

 

「……誰がヤムチャや。俺はいけるし、アイツまだ生きてる」


「ですね。待っててください」


「いや、援護する」


 脇腹や太ももが少し痛むが、有刺鉄線に引っ掛けた時と同じくらいでしかない。


 命がかかってるのに静観してられるほど俺はまだ肝が座っていないのだ。


 アオイが蜘蛛に躍りかかるが、潰れていない左側の足だけで不格好に跳躍して回避された。

 野生の生命力に驚きを隠せない。


 俺はアオイが地面に置いたクロスボウを拾い上げて蜘蛛より左側の何もない空間に狙いを定める。


「今のをもう一発頼む」


「はい!行きますよ!」


 アオイは俺の指示に僅かな疑問も抱かずに行動に移してくれた。


 先ほどと同じように振りかぶり、振り下ろす。


 すると蜘蛛も先ほどと同じように残った左足だけで同じ方向へ跳躍した。


 計算というほどのことではない。


 相手は持てる力すべてを使って回避しているのだから、逃げる場所なんて簡単に予測できる。


 そして、着地の瞬間を狙い。


「ここだ」


 ガチリと引き金を引いた。


 ストン。


 矢は見事に地面に突き刺さった(・・・・・・・・・)


「……あ」


 狙いこそ良かったものの、普通に外してしまったのだ。


 アオイと目があった。


 俺は恥ずかしさを隠すように真顔でやり過ごす。


 アオイは何も言わずに蜘蛛へ向かった。


 俺がやりたかったような蜘蛛の回避を視野に入れた見事な攻撃が決まって、蜘蛛を絶命させた。


※※※


 解体は、経験しておきたいというアオイに任せた。


 俺はクロスボウを持って警戒に当たっているが、先ほど見事に外したところなので、クロスボウを持ってること自体なんだか自分が滑稽だった。


 ロクに練習もしていないのだから仕方ないと思いつつ、同じ状況で見事に命中させたアオイがいるわけで。


 そんなアオイを見ると目があい、彼女は笑った。


「さっきの思い出しちゃった。途中までカッコよかったのに。ふふふ」


「俺も自分のことじゃなけりゃ笑ってるだろうよ」


 だって、「ここだ!」とか、決め顔で言ってたんだぜ。


「あのシーン、ルーキーズ!!でやってくれたら良いのにな。永久保存にするのに」


「やめろやめろ。それに、そんなしょっちゅう俺たちなんか取り上げないだろ?」


「ふふ。ですね。……残念」


 しかし、その晩にしっかりルーキーズ!!で放送されつつ、有志の手によって纏められた悪意ある珍プレー集にも入れられることになるのを今はまだ知らない。

 知ったところで多少のクスクス笑いを感じるようになり頭を抱えるくらいのことだったけど。


※※※


 その後も探索は続き、餓鬼とスライム一体づつと交戦した。


 餓鬼。

 先制攻撃のクロスボウで足を射抜き、石斧と鉄パイプのリーチ差と決定的な機動力の違いによって完勝。


 スライムにはクロスボウどころか打撃も刺突も全くと言っていいほど効かなかった。


 近づくと体を槍のように伸ばして攻撃してくる厄介さだったが、移動速度が圧倒的に遅かったので相談の結果スルーした。


 帰ってから改めて対策を立てることになったわけだ。


 そうして、俺の軽傷を除けば概ね順調に進んだ今日の探索は終了。


 モンスターは三体討伐。

 探索時間は1時間50分。

 第一週目の規定探索時間は二日間で残り3時間となった。

 


 これからの道行きに希望が見え始めたのは素直に喜ばしいことなのだけど、忘れてならないのはダンジョンがこの世の地獄であること。


 帰宅した俺を待っていたのは耳を塞ぎたくなるような凶報だった。

こんな遠いところまでおいでいただきましてありがとうございます。

よろしければブクマや評価などしていただけますと天にも昇る気持ちになってしまいます(/ω・\)チラッ


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