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1、ダンジョンがある世界は俺に厳しい

はじめまして。ご覧いただきありがとうございます。

筆力難を申し訳なく思いつつ、楽しんでもらえる作品になるように頑張りますので、生暖かく見守っていただけると幸いです。

 いつものように眠ったはずだった。


 寝ている途中、カーテンを締め忘れていたせいでうっかり起きかけたけど、ベッドから降りるのが煩わしくてそのまま寝て、おかげで何度も目が覚めては寝た。


 それくらい普段と同じように寝ていたはずなのに、目を覚ますと世界が知らないものになっていたのだ。


※※※


 窓から差し込む直射日光には流石に逆らえなかった。


「もう寝れんか」


 ベッドから立ち上がり、いっそのこととカーテンを開け放して腹を掻く。アクビもひとつ。


 毎朝の惰性でテレビをつけて洗面所で歯磨きをしながらなんの気なしにテレビを見ていると、普段なら怒りっぽい司会者がゴシップやらの下らない討論をしているはずの時間なのに、聞き馴染みのない声が聞こえてきた。


『…………やっっってくれましたぁ!……只今ライブでご覧いただきましたのは京都・嵐山ダンジョン七層のエリアボス【混信猿鬼こんしんえんき】討伐レイドの絶っ戦!快戦っ!!なんと死亡者は五名!……少ないっ!!……いえ、スタッフ一同心からご冥福をお祈りいたします……が、…………やっぱりすごい。……一言に付きます。付いちゃうんです!人間やれば出来るんです!やれるんです!さぁ!さぁ!驚いてください!なんと!今晩の【クロウラーズ!!】のゲストは討伐レイドの【統率者リーダー】【カミヤ】こと神谷 誠一さんがーーーーー来てくれるんですっ!!それではハイライトの準備が出来ましたので振り返りながら見ていきまっしょう!!』


 映像が切り替わり、メガネをかけたインテリイケメンがアップで映し出される。画面下には【カミヤ】とテロップ。


 ドローンカメラが中空に引いていくと、カミヤを中心に武器を持った三十人ほどの集団が映し出され、カメラが回転して対峙する岩山のようなデカさの猿の化物が咆哮する。


 集団は駆け出して巨猿に向かう。

 残念なことにCGではないご様子だった。


「…………なんじゃこりゃ」

 

 驚きのあまり歯磨き粉をボタボタと垂らしてしまい、慌てて手近なタオルで拭いたことを後悔した。


「やべ、洗濯物増えたじゃん」


 パンパンになった洗濯機に拭き終えたタオルを押し込んだ。


 世界の変容はテレビの向こうだけではなかったこと。俺はまだ知らなかった。……普通知るわけねぇだろ。


※※※

 

 職場へ向かう前、家賃の振込をするためにコンビニへ寄ったのだが預金が一切無かった。全くのゼロ円だ。


「どこ行った俺の38万……。」


 ATMの前で膝をついていた。

 銀行口座を間違えたかとも考えたが、そもそも財布にキャッシュカードは一枚しか入ってない。

 慌ててスマホで取引履歴を確認する。


「ずっとゼロ円てどゆこと?今までの記録も無いの?…………何がどうなってる」


 意味がわからずに頭を抱えるしかなかった。

 そんな俺の肩を誰かがトントン。

 慌てて振り返るとネクタイをした初老のリーマンだった。


「なぁ、後ろがつかえてるんだが」


 何度も口座を確認しているうちに結構な時間が立っていたらしい。コンビニのATMに三人も並ばれたらプレッシャーがハンパなかった。

 俺は何度も「すいません」と頭を下げて店から出た。


 釈然としないまま勤め先に向かう。


 京都下鴨にある昔ながらの本屋。書籍のデータ化が進んで久しい昨今、潰れずにやっていけてるのは地道な努力と変化を嫌う京都という土地柄、そして何より応援してくれるお客さんのおかげだろう。

 ……そのはずなのだが。


「ど、道具屋?道具屋になってるだと!?」


 本屋の建物はそのまま、看板だけがすげ替えられて【アオイ道具店】となっている。

 恐る恐る店内に入ると見慣れた社長が「いらっしゃい」と言ったので少しホッとしたのだが……。


「おはようございます。いつから商売替えなんてしたんですか?」


 目の前のことが嘘くさくて信じられず、あえて半分冗談口調で言った俺に社長は答える。

 京都らしい他人行儀さで。


「ええと、……なんの話や?……一見(いちげん)さんかな?」


 悪い冗談か?


「え?いや、イナホですよ?遠野稲穂」


 社長は(いぶか)しげな目。

 まるで初めて会った人間に「自分のこと知ってますよね?」と言われてるような表情で見ている。……そのままだけど。


 悪い冗談だ。


「……いや、知らんな。うちはダンジョンが出来た時から、そら、おたくが生まれる前から変わらず道具屋や」


「ダンジョン?それって本気で言ってます?」


 ――ダンジョン。


 テレビで見たやつだとすぐにわかったが、理解が追いつくわけもない。だって昨日まではそんな馬鹿げたものはなかったんだから。


「……悪いけど冷やかしなら帰ってくれ。そろそろ忙しなってくるから相手もしてられへん。……ちょっと田中くん!ガーゼも発注しといて。そのままシールになってて貼れる方のヤツ」


 奥から「はいよー」と声が聞こえるが、全く聞き覚えのない声。もちろん田中という人物も知らない。

 悪い冗談どころか、もしかすると酷い現実なのかもしれないと思えてきた。


「じゃ、じゃあ、今までの給料とかどうなるんですかね?」


 すがるように社長に聞くと「ちょ、やめえや」と振りほどかれた。


「君ちょっと危ない子か?さっきの子もそうやけど、おじさんはこういうの流行ったらアカンと思うわ」


「流行り?……いやいや、昨日もここで働いてましたよ。給料が無かったら家賃も払えないし――」


 言い切る前に社長は叫ぶ。


「――ちょっと田中くん!警備兵呼んでくれへん!?なんか変な子来てるねん!」


「ちょ!警備兵ってなんです!?マジですか!?マジで俺のこと分からないんですか?」


「知らんがな!はよ行かな警備兵来るで?すぐ来るで?……ええねんな?」


 毅然とした態度。

 俺の知っている社長だ。

 線は細いのに頼れるおじさん。万引きを見つけた時にはこういうふうに接してたのを思い出して、自分がその立場に近いらしいことが酷く侘しくて悲しい。


 ……しょげちゃった。


「……すんません。出直します」


 店に背を向けて歩き出すと、「出直すな!」とキレのいいマジツッコミが帰ってきた。しかもついでに「田中くん!塩持ってきて!」とまで。


 ちらりと振り返ると田中くんらしきひょろ長い眼鏡の人が社長に何か手渡していた。塩かな?持ってくるの早いな。田中くんのポジション、俺だったはず。ここで就職決まってたのもパァってことかな。

 なんてことを考えながら、トボトボと家に帰るしかなかった。


稚拙な文章を読んで頂いてありがとうございます。

書き溜めた分をいくつか投下しますので、続きも是非目を通してもらえますと幸いです。

もし、楽しめそうだと思われましたらブクマや評価感想などでレスポンスしていただけると嬉しいです。


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