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復讐の白雪姫

1

それは昔のこと。

雪の国、ルミエースで起きた出来事。

その国には、クレメンティーヌという美しい容姿をもっているが、反面、嫉妬深く強欲な、黒く醜い心をもつ妃がいた。

彼女はその日、椅子にもたれかかり鏡に向かっていた。

クレメンティーヌは魔法の鏡に問いかけた。

「鏡よ鏡、この世で一番美しいのは誰?」

いつもであれば、魔法の鏡はクレメンティーヌの名を上げる。そして、彼女もそれを待っていた。

しかし、予想とは違い、魔法の鏡は別の人物の名を出した。

「それは貴女の娘、白雪姫ことアステリア様でございます」

アステリア・リーンベルトは、王族であるリーンベルト家に生まれた姫であり、クレメンティーヌは彼女の二度目の母親だった。

アステリアは雪のように白いきめ細やかな肌、冷たい空気のように透き通った声、そして、人形のように整った顔立ちから『白雪姫』と呼ばれ親しまれていた。

魔法の鏡の答えに激怒したクレメンティーヌは、猟師のリクラインを呼び出した。

「お呼びでございましょうか」

「ええ、ええ。リクライン、貴方に頼みがあるのです」

「何でございましょう?私に出来ることであれば、是非」

「私の娘、アステリアを殺してきてほしい」

「アステリア様を……ですか?」

「アステリアに様を付けるんじゃない!」

クレメンティーヌは激昂する。リクラインは慌てて頭を下げる。

「申し訳ありません。しかし、どうして殺すのでございますか」

「それは簡単な話だ、リクライン。この世に美しい者は二人も必要ない。私のみで十分よ。それに、白雪姫だって……?その呼び名は私にこそ相応しい!」

声を荒らげ興奮を抑えきれない。リクラインは彼女を落ち着かせようと、この依頼を受けることにした。

「分かりました。クレメンティーヌ様、それでは早速、準備に取り掛かります故、下がっても宜しいでしょうか」

「ああ、下がってよいぞ。良い結果を楽しみにしているぞ」

クレメンティーヌは薄く微笑み、リクラインが出ていくのを見届けた。グラスにワインを注ぐと、窓越しに見える満月に掲げると、一人呟いた。

「私が一番なのだ、例外は許さぬ」


部屋を出た後の、廊下にて。

猟師リクラインは悩んでいた。アステリアを殺すことに気が引けるのだ。クレメンティーヌがいる手前、話を断る訳にはいかなかったが、後になって思う。

「もし、あの時上手い返事が出来て、断ることが出来たなら。今日ほど罪に苦しめられる日は無いだろう。罪を背負い罰を受けるその覚悟は果たして私にあるだろうか?」

一人悩むリクライン。彼は長い廊下の中をゆっくりと歩き続ける。それはまるで終わらない苦悩を予知するようで、忌々しく思えた。

「やはり、あの少女は殺せない」

リクラインはたった一人の娘をアステリアに重ね合わせた。彼の娘はアステリアと同じく十四歳だ。

そんな、年端もいかない子供の命を奪うなど、業の深い真似が出来るはずもない。

猟師はもともと、生きる為に動物を殺している。それはつまり、命を譲り受けているのと同じといえる。

しかし。クレメンティーヌの頼み、それはただ邪魔だから殺す。消す為の殺しはリクラインには向いていない。

心優しい、彼は父となった今では余計に命に対して重く捉えるようになった。

だからこそ、リクラインは覚悟を決めた。

「私は殺さない。あの妃を騙すことになってしまうだろうが、私には出来ない。ならば、アステリア様を助ける。これしかない」

リクラインは静かに目を瞑った。そして、深く溜息をつくと、王城から外へと出た。

王城の中庭に、花畑が広がっている。ここはアステリアのお気に入りの場所だった。クレメンティーヌからの依頼を受けた翌日の朝、リクラインはこの場所を訪れた。

アステリアがいると踏んだのだ。そして、予想通り彼女はそこにいた。花の冠を頭に乗せ座っていた。傍には隣国の王子アルフォンスが佇んでいた。

これは想定外の事だった。

アルフォンスは氷の国、レギナの王子である。我が国ルミエースの姫、アステリアとは幼なじみであり乳飲み子の頃から二人は仲が良かった。

その事もあってか、ルミエースとレギナは比較的良好な関係を保っていた。

「アステリア、見ていてごらん」

アルフォンスは腰に刺した剣を両手に持ち、構えた。青白い光が剣を包み、空気が震えた。

その剣は魔剣の類である。その刃で切ったものを凍らせる、レギナ王家に伝わる秘宝だ。

現レギナ国王はこの魔剣を扱いきれず、手に余っていた。しかし、アルフォンスには資格があったらしい。手にした途端、力を発揮したのだ。

それ以来、その氷の剣を帯刀する事をアルフォンスは認められた。

アルフォンスの周りに光の粒子が舞う。魔剣を一振りした。剣先に当たった花弁はたちまち凍りつき、それは美しい氷の花となった。

「凄い……」

アステリアは感嘆の溜息を漏らした。何度も見たことのある技だったが、日に日に技術に磨きがかかっている。

アステリアはその姿に「美しいわ」、と思わず呟いた。アルフォンスはアステリアに対し跪くと、

「アステリア、これを君に」

と氷の花を手渡した。

「頂けるのですか?まあ、ありがとう……大事にするわ」

微笑むアステリアにアルフォンスは満足した。喜んでくれたのならなによりだ。立ち上がり門の方を見ると、リクラインの姿を見てとった。

リクラインは目が合ったのを切っ掛けに、アステリアの元へ近づいた。

「リクラインか……どうした?この場所まで来て……何かあったのか?」

「いえ、何事もありませんよ。ただ、アステリア姫に用がありまして」

首を傾げ横にいるアステリアを見つめるアルフォンス。対してアステリアも同じく首を傾げてみせた。

「クレメンティーヌ様よりの命令です、アステリア姫。姫には城を出て先にある、山の向こう───森の中に住んでいただきます」

「森だと!?」

驚くアルフォンスは続けて質問する。

「それは本当にクレメンティーヌ妃の命令なのか?それに、移住とはどういうことだ、説明せよ!」

「申し訳ありません……私には何も分かりません。しかし、確かに『森の中に住まわせよ』との命を承りました」

リクラインは嘘をついた。

「……そうか。ならば、リクライン。これから貴様はアステリアをどうするのだ」

「はい……。姫を森の中にある、コテージに移住していただこうかと思っています。そこは私も以前住んだ場所、居心地は今ほど宜しくはないと思いますが、決して悪くは無いはずです」

「貴様、本気か?」

アルフォンスの目には怒りが混じっていた。それも仕方の無いことだろう。何より突然の話だったのだ、反感をもたれたとしても何も言えまい。

それに、本当の命令はこれよりも酷いものだ、責めるならクレメンティーヌ妃にして欲しい。そしてどうか、妃を正してほしい。あの人は本当に血も涙もないお方なのだから、とリクラインは心の中で毒づいた。

「アルフォンス王子。私だって好きでやっている訳ではありません……。どうか、お願いです。ご理解頂けないでしょうか」

アルフォンスは歯を食いしばって、リクラインを睨んだ。アルフォンスはアステリアとは付き合いが長いのから、このような反応をして当たり前だろう。

リクラインは静かに頭を下げた。

動揺したアルフォンスは「そうか……」と小さく言うとうなだれた。

「これで、お別れなのか」

姫が城を離れるということは、遠回しに王族から縁を切るということを意味する。2人は二度と会えないかもしれない。

「アステリアとは短くも、長い間共にしてきた。実に楽しい時間だったな……別れはいつだって突然来る。また、いつか、会おうぞ」

握手を求めるその手は少しばかり震えていた。アステリアはその手を掴む。

「私も楽しかったわ。今までありがとう。どうか私のことは忘れないでね」

すると、アルフォンスはその場に跪き手の甲に短くキスをした。

「当たり前だ、忘れはしない」

それが二人の最後の会話だった。


アステリアはリクラインに連れられ、庭から出ていく。

彼らを追うようにして吹く風に、花が揺れていた。

鬱蒼とする森の小道をひとつの馬車が走る。姫が城を出た瞬間を誰の目にも見せない為に、移住は夜に行われた。

揺れる中、アステリアは前で操縦しているリクラインに向けて質問をした。

「それで……クレメンティーヌからはなんて言われていたの?」

アステリアはリクラインの話をあっさりと理解し、彼について行った。しかしそれは、本当の命令は違うのだと気がついていたからだ。

クレメンティーヌと近くにいたアステリアには妃の性格をよく知っていた。中途半端を嫌い、何事にも白黒つけるクレメンティーヌが、言いそうな台詞。それは、

「大方、『アステリアを殺せ』……とでも言っていんじゃないかしら?」

「何故それを……」

「クレメンティーヌはいつも私を毛嫌いしてた。美しさに固執して……。私の事が邪魔だったのね。───こうなるのも頷けるわ」

そう、自嘲気味に呟いたアステリアの心は、冷たくなっていた。捨てられたというのに、何故か悲しくはない。それどころか、いつかはこうなると予測していた。

その様子にリクラインは余計に、心を痛めた。母親を早くに亡くし、二度目の母には愛されない。

リクラインはやるせない気持ちになった。

「それにしてもありがとうね、リクライン。私を助けてくれて」

「とんでもない!こんなの、当たり前のことですよ」

アルフォンスに本当のことを言えなかった事が、心に引っかかっている。リクラインは当然、教えてしまえば反対されクレメンティーヌに抗議しに行っていただろう事を予想した。

もし、そうなればリクラインの首が飛ぶ。しかし、だからといって変な事を言ってしまえば国民に噂が広がってしまう。

更に、アルフォンスにはもうアステリアとは会えないのだと納得してもらわないといけなかった。

アルフォンスにもう二度とアステリアの名を出させないように、彼の中で解決してもらう為に。リクラインは移住という代案を考えた。

正直、この方法が良かったのかどうかは分からない。あまりにも雑だ。アルフォンスが疑惑を抱くかもしれない。

リクラインは我侭な妃に唇を噛み締めた。

「貴方は、優しいのね」

その言葉はリクラインの心に深く突き刺さった。

「いえ……それほどでは……」

項垂れるリクラインにアステリアは黙った。静かな空気の中を、馬車のかける音だけが大きく木霊していた。

それから十数分ほど経ったあと。

馬車は目的の地に止まり、アステリアを下ろした。急ぎの為、少ない荷物のみを運んできたアステリアは、木造のコテージを目の前にする。

それは歴史を感じさせた。ところどころ朽ちていて古びてはいたが、まだ頑丈のようだ。階段を上がっても軋むことは無かった。

それは部屋の中も同じだった。開放的な空間は、これから一人で住むには十分な広さだった。家具も一通り揃っており、暖炉なども備え付けられていたのでアステリアには何も文句はなかった。

「そこそこ悪くないって感じでしょう。ここが気に入って頂けると嬉しいのですが……」

「私には勿体無いくらいだわ。本当に何から何までありがとう、リクライン」

アステリアの感謝にリクラインはまたしても頭を垂れた。

「いえ、私にはこれくらいのことしか出来ない故……歯痒い気持ちでございます」

「リクライン、これで十分よ。貴方は最後まで私を助けてくれた。命の恩人よ」

未だ何かを言いたげなリクラインを制し、アステリアは人差し指を口の前に立たせる。

「これ以上はもういいのよ、私には分かってる。むしろ、だからこそこうして貴方に感謝をしているの。さあ、もう行って。ここまで長く居てしまえばクレメンティーヌも疑ってしまうわ」

アステリアはそう言って促すと、リクラインは頷き「分かりました」と答えた。

それから馬車と共にリクラインは森を離れていった。

そして数日後、国では姫の姿が消えたとの噂が広まった。


2

コテージに着いてからアステリアはひとまず荷物の整理を始めた。袋の中に入っている衣類や数冊の本を取り出し、早速片付ける。

アステリアは本棚を探す。それはベッドルームの中にあり、ベッドの隣に設置されていた。

リクラインは読者家なのだろう、とアステリアは想像した。寝る前に棚から本を一冊取り出し、読み耽っている様子を思い浮かべた。

一通り仕舞ったあと、扉をノックする音が響く。振り向き、時計を確認する。

今は午前三時半だ。こんな時間に客だろうか。

……そんなこと、有り得るだろうか?この移住がバレて、クレメンティーヌから新たな刺客を送り付けて来られたか。

それとも、リクラインが戻ってきたのか?

ノックの主を警戒し緊張するアステリアは、恐る恐る扉へと近づいた。

そして、近くに置いてあった果物ナイフを手に取ると、背中に隠しながらドアノブを捻った。

しかし、そこには誰もいなかった。ただ緑があるばかりで、辺りを見回してみても人のいる気配は無かった。

「誰も……いない……?」

「ここだよ、ここ」

突如、何も無い空間から声がした。思いがけない返事にアステリアはナイフを構える。

「そ、そんなに警戒しないで!」

「大丈夫だって、誰も襲いやしないよ」

声は複数だった。アステリアの行動に驚き焦っているようで、目には見えない何者かがそう言ってアステリアを宥めようとする。

しかし、それはアステリアの不安を余計に増長させるだけだった。

不審な登場の仕方に疑わない者はいないだろう。

アステリアは何処にいるか見当もつかない相手に対し、叫ぶ。

「隠れている人に警戒しない訳がないでしょう!何も企みがないというのは信じられないわ!出てきなさい!話はそれからよ!」

「いや、いや。最初から目の前にいますって。姿を現してますって」

声の発せられた方をよく目を凝らしてみる。そこには確かに、何かがいた。

微かに光る、七色の点がそこにはあった。それは何処かで見たことのある光景だった。

アステリアはありったけの知識を記憶からひねり出し、答えを探した。あれは、いつの事だったか。アルフォンスと共に目の当たりにしたはずだ。

アステリアは答える。

「精霊?」

「そう!当たり!」

精霊と呼ばれた小さな彼らのうち、黄色く光るそれは、声色を高くして嬉しそうに返事した。

コテージに移り住んで初日、初めての客は人間ではなかった。アステリアは彼らをひとまず家の中に招待した。

七つの精霊はそれぞれ、赤・橙・黄・緑・青・藍・紫に光、それは小さな虹のようだった。

アステリアは精霊を見て気づく。

「アルフォンスの……虹の精霊たち?」

アルフォンスが虹の王子と言われる所以。それは彼の精霊が関係していた。彼は王子でありながら、精霊使いでもある。

この精霊たちはアルフォンスの魂と繋がっており、魔力をお互いに供給し合っている。

また、精霊はそれぞれに意思があり、性格にもばらつきがある。

興奮しやすい者、泣き虫で臆病な者、常に元気な者、前向きでどんな時もポジティブな者、優しくおっとりした者、暗く少しひねくれた者、現実的で落ち着いた者。

とても個性的な者達ばかりだった。

「そうさ、アルフォンスに心配だから見てきて欲しいって言われてきたんだ」

「それと、アステリア様に何があってもいいように護衛を任せた……って」

藍色の精霊と紫の精霊が言う。

アステリアは、「アルフォンスは心配性ね」、と嬉しそうに微笑んだ。城にいた頃は使用人もいたが、孤独感に苛まれてきた。

そして、今日この日も一人で暮らすことになると思っていた。だが、それは精霊たちによって救われた。

静かだったこの部屋はいつの間にか賑やかになり、騒がしくなった。

これも、アルフォンスの優しさだろう。アステリアは心の底から、たった一人の信頼できる友人に感謝をした。

「それでですね、今日からここで住みたいと思うんだけど、いいですか?」

緑の精霊が上目遣いに聞いてくる。断られた時の心配をしているのか、少し不安そうだった。

「お願いだよぉ!」

橙色の精霊は手を合わせ、お願いのポーズをする。そのおかしな姿にアステリアは吹き出してしまった。

「ええ、いいわよ。一人では寂しいと思ってたもの。貴方達が来てくれて嬉しいわ。歓迎するわ、ようこそ私の家へ」

アステリアは彼らに手を差し伸べた。精霊たちは手のひらにちょこんと座り、各々が

「宜しく!」

と大きな声で返した。

沈んでいたアステリアの心も、いつの間にか元気になり、それから数日アステリアは楽しい毎日を送った。


夜が明け、時計の短針が丁度、十二時を指し示した頃。

王室にて、クレメンティーヌは椅子に深く腰掛け、リクラインからの報告を待っていた。良い結果を期待し、心待ちにしていた彼女は心が浮ついていた。

グラスを片手に、円を描くように揺らしながら「ふふふ」と笑う。

クレメンティーヌは短気で、待つことが嫌いな性格だったが、今回ばかりは違かった。

「待つのも、なかなか悪くないな……」

クレメンティーヌは独り言を漏らす。窓から差し込む月明かりが顔を照らし、見上げて空を眺めると目を細めた。

白く光る星に惹き付けられ、いつの間にか長い間見とれていた。

「いつか、あの一等星のように私は美しくなりたい。誰もが魅入るあの儚さを、私は手に入れたい」

一拍置いてから、ゆっくりと口を開いた。

「私は星のような永遠の美しさを、手に入れたい」

暗い野望を言葉にしたあと、クレメンティーヌは笑った。なんて馬鹿馬鹿しい話だろうか、と。

しかし、クレメンティーヌは本気だった。輝くのは自分ひとりでいい。後に私を脅かすような芽は早々に摘んでおいた方がいい。

鏡を見やると義理の娘を思い出す。鏡はあの娘が一番美しいと答えた。

娘は今、生きてはいないだろう。リクラインはもう既に行動に移したはずだ。娘は死んだのだ。そのはずなのだが、鏡にはアステリアの姿が映っているように思えた。心のどこかで生きているのでは?という疑念が渦巻く。

「それにしても、リクラインはまだなのか?あの男に指示してから数日が経った……。そろそろ私の元へ報告しに来てもいい頃合ではないか?」

疑問を口にしてから、クレメンティーヌは違和感を感じた。

得体の知れぬもやもやとした不安が、彼女を襲う。そして、それはに怒りへと変化した。

もしかして、裏切られているのではないか───?

義理の娘はまだ、生きている?

そういえば娘の姿を城の中で見たことは無かった。使用人達も必死に探し回っていたような気がする。

ならば、娘は猟師に殺されたと考えるのが妥当だ。では、リクラインは何故未だに報告しにこない?

「胸騒ぎがする……。何か、嫌な……予感がする………。衛兵!衛兵はおらぬか!」

「はっ!何でありましょうか」

「猟師はまだか!どれだけ待っていても一向に来やしない!」

「はっ!その事であれば、彼は丁度こちらに着いたようです。部屋に入れますか?」

「今すぐに連れてこい!」

どん、と肘掛を叩く。

握りしめた拳を開き、こめかみを抑えた。

騙されているのではないか──。まだこれは証拠も何もなく、予想に過ぎないことだ。

しかし一度育った疑いは、刈り取られるまで成長をやめない。

一つ、また一つと不可思議な点が頭に浮かぶ。

気持ちの悪い感覚だ。

今はまだ怒りを堪えていられるが、そろそろ堪忍袋の緒が切れそうだった。

右目の筋肉がひくひくと痙攣し、クレメンティーヌは獣のような、低い息を漏らす。

そんな妃の姿に怯え、扉から勢いよく出ていく衛兵を尻目に、クレメンティーヌはリクラインが訪れるのを待つ。

暫くの間、待っていた。

やがて駆けてくる足音が聞こえ、勢いよくリクラインが姿を見せた。


「お、お呼びでしょうか?クレメンティーヌ様」

怯えた表情に、びくびくと震えた足。リクラインはクレメンティーヌの様子がおかしいと分かり、冷たい汗が流れ顔を濡らした。

リクラインを見るクレメンティーヌの表情は険しい。まるで、誓った約束を破られたことに腹を立てているみたいに。

彼にはそのようにしか見えなかった。何故なら思い当たる節があるからだ。

アステリア姫を殺さなかった。

確かに、命令には背いた。だが、それはまだ数日前のこと。

クレメンティーヌに気づかれるはずはない。

リクラインは妃が何を考えているのか、彼女の言葉次第でどのようにこの場を凌ごうか必死に考えていた。

妃は一体どこまで知っているのかを、この会話から情報を得ていくしかない。

クレメンティーヌの目には僅かな殺意が見え隠れしている。きっと何か、クレメンティーヌの中で疑念が生じたのだろう、とリクラインは予想する。

だからここは、当たり障りのない事を。変に情報を出さないように気をつけながら、探っていく。

まずは、自分を呼んだ理由を聞くのだ。

自然に、ごく自然に。

リクラインは唾を飲み込むと、ごくりと喉が鳴った。冷や汗が額からふきでてくる。

たった一つ、会話の始まりに質問を投げかけるだけだ。

「今回は、どうしてお呼びになったのでしょうか」

話してから気がついた。

しまった、何故知らないふりをしてしまったのだ、と。考えすぎかもしれないが、何か隠し事をしているように思われたのではないか───リクラインは顔が熱くなるのを感じた。

「ふむ────簡単な話よ。貴様はこの数日間のうち、アステリアを殺したか?否か?」

妃の冷たい目が、矢のようにリクラインの体を突き刺した。体中から汗が滝のように流れ落ちる。

丁寧な言葉遣いだった妃の言動が荒い。

心なしか脈拍が早くなる。自分の心臓の鼓動が大きく聞こえてくる。

どくん、どくん、と振動する度に体が波打つような錯覚に囚われ、今にも倒れそうになる。

緊張と、恐怖と、焦りとが混ざり合わさってリクラインに重くのしかかる。

今の質問にはどう答えればいい?

思いつく限りの答えを頭の中に並べてみる。

──まだ準備の途中であり、アステリア姫はまだ殺してはいません──

この答えは却下だった。妃の不満が余計に高まることだろう。それに、この答えでは先延ばしにしかならず、姫も数日間姿を現さないのだから、不自然な点が多くなってしまう。

更に、この答えの後に続く上手い言い訳が出てきそうにない。

この状況では、嘘はつかずに本当のことを言って相手を騙すほどの余裕は既にリクラインには無い。

妃の望む答えはきっと───。

───命令の通りに、アステリア姫の息の根を止めました───

こう答えるべきだろう。

リクラインは口を開く。だが、声が出ない。

口は乾き、喉が閉まり空気を通さない。息ができない。重たい空気に呼吸が出来ず、口をぱくぱくとさせる。

本当にこれでいいのだろうか。嘘を伝えれば、罪が重くなる。リクラインはきっと処刑されるだろう。

私は正しいことをしたはずだ。なのに何故、こんなにも私は怯えてしまっているのか………。

リクラインは唇を噛んだ。それは恐怖に、重圧に、不安に耐えうるため。

納得のために行動した自分を貫くため。

リクラインは答えた。

クレメンティーヌは訝しみ、片方の眉を上げた。

「そうなのか?ならば、何故………貴様はずっと報告しに来なかった。答えてもらおうか」

リクラインはしまった、と心の中で己の軽率な言動に後悔した。

彼女が疑う理由、それは単純に連絡しなかった為だ。

──これならまだ殺していない、と正直に話すべきだった。

リクラインは悟った。もう、逃げられはしない。運命の手に私は捕まったのだ、と。

命令をこなしたと答えた以上、嘘を突き通すしかない。

リクラインは覚悟を決めた。

「人を殺したのは幾分、初めてなもので……。私はずっと恐怖していたのです」

「恐怖?貴様がか?」

「はい、私はこの数日悪夢を見ました。自分の手で殺め、土に埋めて処理をした少女が私に微笑む、恐ろしい夢を………」

どれもこれも嘘だ。偽りだらけの答えだ。

開きなおった訳では無いが、すらすらと言葉が出て来る。

妃には確信的な情報はまだ無いのだ。

だからこそ、私をわざわざ呼びつけ尋問している。

「妃様、私めが報告に遅れたのは以上のことが理由になります」

「そうか、そうか。貴様の言い分はよく分かった」

リクラインはほっと胸をなで下ろす。信じてもらえたかは分からないが、それでもこの疑いは晴れるだろう。

それになんと言ってもクレメンティーヌに、この話を裏付けるための方法がない。

リクラインは油断しきっていた。

「なあ、リクラインよ」

「はい、何でございましょうか」

「私が何故ここまで疑っているか、分かるか?」

リクラインは考える。

「不安だから、でしょうか」

「なる程な、確かにそれは合っている。私はこの件がきちんと果たされるか、露見されないかが心配だ」

ここまで言うと、クレメンティーヌはワインを一口飲んだ。

そして、「しかしな」と言葉を続ける。

「貴様の答えは少し間違っている。不安さ故に疑うかもしれないが、その前にお前に対して思うところがあったのだ」

リクラインに緊張が走った。背筋を伸ばし、次の言葉を待つ。

「それは……一体何でしょうか……」

「最初、命令を下したあの晩……貴様はどこか躊躇していたように見えた。私への反応も悪かった」

クレメンティーヌはリクラインを見つめる。

頭を下げたまま、押し黙っている。彼の表情は見えないが、どうやら心当たりはあるらしい。

予感は的中した、とクレメンティーヌは苦虫を噛み潰したような顔へと変化するのを、鏡越しに見た。

この男は、有罪だ。クレメンティーヌは確信した。

隠し事が苦手なようだ、それに、きっとリクラインはこう考えているに違いない。

妃には嘘を見抜く為の情報が無い、と。

クレメンティーヌは獣のような低くしわがれた溜息をつく。

「そして今、確かにアステリアは何処にもいない。行方不明だ」

「そ、それならば……」

「だがな、リクライン。娘の安否を確かめる方法なら、あるのだ」

リクラインは青ざめた。

そんな話は聞いていない。そのような真似は出来るはずが……。

クレメンティーヌは立ち上がると、横に掛けてあった大きな鏡に近づく。

「お前も見ているこの鏡、これは魔法鏡だ。この世で一番に美しい人間が誰なのかを教えてくれる」

クレメンティーヌは鏡の縁を撫でると、リクラインの方へと向き直った。

「もっとも、対象は生きた人間のみだがな」

リクラインの表情が凍りつく。口角は下がりきって、視線が定まらない。

「信じられないか?この話が……。ならば、実際に見せてやろう。その方が話は早いだろう」

クレメンティーヌは柔らかな微笑を浮かべると、鏡に問いかける。

「鏡よ鏡、この世で一番美しいのは誰か?」

「それは山を越えたその向こう、小屋に住むアステリア姫でございます」

リクラインは膝から崩れ落ちた。なんということだろうか。徐々に周りの音が遠くなり、目の前がちかちかと眩しくなる。

感覚が鈍っていく。

意識が離れていく。

地面に手をつきリクラインは体勢を整えようとするが、筋肉が石のように固まり動かない。

「リクライン、リクライン!………この男はもう駄目だ……。衛兵!」

「はっ」

「この男を牢に入れよ。この男は我が娘、アステリアを殺したと発見した。有罪である!即刻処刑せよ!」

「はっ!」

リクラインは衛兵により連れられ、部屋から出ていく。

クレメンティーヌは一人思案する。娘が生きていることも、その場所も分かった。ここはやはり、私が直々にやるしかない。

クレメンティーヌはメイクを施し、老婆のような姿に成りすました。

「今夜、毒をもって毒を制す。あの娘は、私にとっての毒であるからな」

籠からリンゴを手に取ると、毒を注入した。

黒いローブを纏い、クレメンティーヌは颯爽と窓から飛び降りアステリアの元へと向かった。


3

窓の外からは大振りの雪が見える。小屋の中で、アステリアは紅茶を飲みながら天候の様子を眺めていた。

「昨日よりも雪が多く降ってるわ」

「そりゃあ~~なんたって冬だからなァ」

「ただでさえ年中降ってるというのに……冬になると量が段違いだ……」

会話する相手がいるというのはなかなか楽しい。普通のことでさえ、こんなにも話が弾む。

まだ、ここに住み始めてから数日しか経っていないというのに、すっかり精霊たちとは打ち解けた。

それにしても、と思う。

私が突然消えたことに皆は大慌てしてるかしら。誰か私を探しにここまで来たりするかしら……。

アステリアは国の事を心配していた。誰にも言わず、無断で飛び出してきたから今頃は使用人達も焦っているだろう。

彼らの仕事を増やしてしまったことには申し訳ない気持ちがある。しかし、こちらは身の危険が迫っていたのだからおあいこだ。

そう結論づけてこの悩みは無理矢理に終わらせた。

確かに、ここは住み心地は良い。カップだって城のものよりも質が落ちているし、何より初めての一人暮らしだ、出来ないことが多い。

料理だって、初めてだった。自分がどれだけ甘えた生活をしていたかが、身に染みてわかった。最初に作ったのはサラダだった。

リンゴとレタスをひたすらに切っていただけ──ぶつ切りだったり千切りにしたりバラバラだ──だったが、精霊たちからこ評判は悪くなかった。

中には「噛みごたえはあるけど味がない」などの辛辣な感想があったが。

アステリアにとって、この生活は知らないことが多くそれを経験することが出来た。

それは確かに良いことだった。

ここ数日間、私にとってはとても良いものだった。

だが、王や私のいない城では一体誰が一番位が高いだろうか?

───クレメンティーヌ。きっと彼女は今頃大暴れでもしているのだろう。

このままでは国はまともに動きはしない。王は帰ってくることもあるだろうが、ここ最近は外出が多い。だから、やはり力を握るのは義母その人だ。

タイミングを見て戻らなくてはならないだろうか。リクラインが折角助けてくれたというのに、それを無駄にしてしまう。

それに、命令を背いたことがバレてしまえば彼の居場所どころか、今のクレメンティーヌであれば過激なことをしでかす恐れがある。

軽くて懲罰房行き、最悪……死刑だ。

果たして今回逃げてきたことは正しい選択だっただろうか?

もしも、他に良い案があったとしたら……。

アステリアの表情は次第に暗くなっていた。

「どうしたの?」

緑の精霊がアステリアを心配そうに覗き込んでいる。

「なんだから難しい顔をしていたから」と、そう言った。

今はその優しさが有難かった。

アステリアは物事を深く考える癖がある。これは良いのか悪いのか、アステリア自身よく分からない。

まあ、考えずに感情のままに行動するよりは少なくともいいだろう、と折り合いをつけてはいるが。

「大丈夫よ、心配しないで。……ありがとう」

アステリアの言葉に安心したのか、緑の精霊は笑顔に戻った。

その時、こんこんと扉がノックされた。

こんな辺境の地に一体誰が?とも思ったが、アステリアは一応確認しよう、と玄関に向かう。

「どちら様でしょうか」

ドアを開けると黒いローブに見を包む老婆が立っていた。手には籠がぶら下がり、中にいくつかの果実が入っている。彼女の表情をうかがうと、心なしか顔が青くなっているように見えた。

体調でも悪いのか息が荒く、僅かに手が震えている。

「どうしました?大丈夫ですか?」

老婆は声が出ないのか、小さく呻くのみだ。

「はぁ……ぁ……み……水を……水を………………」

その様子にただ事ではないと悟ったアステリアは、急いで水を取りに行く。

きっとあの老婆は寒さのせいで体温が急激に下がったのかもしれない。

それならば、お湯がいいだろう。飲ませたあと、暖かい部屋に入れて休ませた方がいい。

紅茶の時に使ったお湯がまだ残っていたので、急いでカップに注ぐ。熱すぎることもなく冷えすぎてもいない、丁度いい温度だった。

老婆のもとへ駆け寄り、ゆっくりと飲ませた。

「ありがとう……ありがとう」

「いえいえ、お身体はどこか悪くないですか?」

アステリアは何度も手を合わせ感謝する老婆の手を触り、何か変だと感じた。

手は暖かい。

脈拍も安定している。

しかし、それは体が良くなったのだろう、と勝手に自己解釈して納得し、疑問は頭からすぐに消え去ってしまった。

「私ならもう、治りました。お礼にこれを……どうぞ、貰ってください」

そう言って老婆はアステリアにリンゴを一つ手渡した。それはしっかりと紅く染まっており、太陽の光が反射するほどにつるつるとしている。

「あら、ありがとうございます。……なんて、新鮮なリンゴなのでしょう」

アステリアが受け取ると、老婆は満足そうに帰っていった。彼女の姿が見えなくなるまで見送ったアステリアは、貰ったリンゴを精霊たちと皆で食べよう、と小屋の中へと戻った。

実際は料理の練習がしたかったので、皆で分けて食べるために切り分ける、というのが本音だった。

キッチンに立ち、ナイフを手に早速準備に取り掛かる。おぼつかない手がリンゴを前に揺れる、揺れる。

思ってもみない方向にナイフが動いて、切り終えた頃には息があがっていた。

アステリアには集中すると息を止める癖があった。

リンゴはどれも大小様々でまばらな形に、そして数も九つと人数(?)よりも多くなってしまった。

「仕方ない、味見するか」

人数分に合わせる為に、という口実を作って一欠片を口に放り込む。

素晴らしい味だった。蜜も多く、まろやかだ。

城で食べた果実と同じくらい甘い。これは市場には出回らないのでは、とそれくらい美味しいものだった。

もう一個食べてしまおうかしら、と手元を見るとリンゴが二重に重なっているように感じた。

おかしい、と心の中でアステリアは思う。

目眩がする。体の芯から冷えていく。手の震えが止まらない。部屋が回って見える。

そして、アステリアは大きな音を立てて倒れ伏した。驚いた精霊たちが一斉にアステリアに駆け寄った。

「どうしたの!」

「何があったのさ!」

「い、息をしてない……!」

精霊たちは顔を見合わせた。

まずい、これは主人であるアルフォンスに報告にいかなくてはならない。

精霊たちは外へ出るために、玄関に向かう。

「どうしよう、開かない」

しかし、体の小さな精霊達には自分の体よりも数十倍大きな扉を開けることは難しかった。


クレメンティーヌが城に着いたのはリクライン処刑より十分前だった。

今頃あの娘は毒リンゴをかじって死んでいることだろう。順調に物事が進みクレメンティーヌはほくそ笑む。

被害者を作った後、今度は加害者が必要だ。

そして、その役目をリクラインに担ってもらう。

本来ならばリクラインが殺すはずだった。仕事を増やした猟師には怒りを多少感じなくはないが、結果的にアステリアを葬ることは出来た。

最初から自分でやるべきだったかもしれない、とクレメンティーヌは溜息をつく。

「リクライン、貴様には最後の役目を果たしてもらう」

クレメンティーヌは城の前に集まる民衆を眺める。彼らはリクラインが何故処罰を受けるのか知らない。だというのに、国民の大半がひしめき合っている。

正直、暇なのか?と、思わなくもない。

だが、彼らにとって娯楽は人の死しかないのだろう。随分と歪んでいる。

クレメンティーヌは人の黒い部分をこういう所に見つける。

「結局のところ、他人の不幸を喜ぶのが人だ。自分さえ幸福であれば、それでいい………。つくづく、愚かだと思うな」

扉を開け、人々の前に姿を現す。

クレメンティーヌは台の上から人々を見下ろす。これからリクラインの処刑が行われる。アステリア姫の殺害の罪で、だ。

リクラインはギロチンにかけられる。彼は首だけを出して、柱と柱の間に寝かされている。

リクラインは息が荒くなる。体がガタガタと震えて止まらない。

これから、私は死ぬのだ。首が落ちる。そんな事はどうしても想像出来ない。いまだにこれが現実だとは思えなかった。

実感がわかない。しかし、殺されるということは決定されている。まだ、やり残したことが沢山あるというのに。

「妻も娘も置いて、先に行くのか」

そう嘆いてから、リクラインの目には涙が流れ落ちる。

隣にクレメンティーヌが立つ。

「そうさ、貴様は姫を殺した。その罪で死ぬのだ」

「なんですって……?クレメンティーヌ様……何を仰っているのか、私には分からない……。姫を殺した……?」

リクラインはクレメンティーヌの台詞を反芻した。

殺しただって?何を言っているのだ、妃は。

リクラインはもしやと思い、クレメンティーヌの方を見上げた。

妃は不気味な笑顔を見せた。リクラインの背筋が冷たくなった。

「クレメンティーヌ……貴様、貴様は姫を殺したのか……!?」

クレメンティーヌは耳元に口を寄せて、そっと耳打ちをした。たった一言、「そうさ」とだけ。

クレメンティーヌは時計が二時になったのを確認すると、民衆に向けて両手を広げた。

「これから、処刑を始める!」

歓声が沸き上がる。所々から野次があがり、辺りは熱気に包まれた。

「……しかし、君たちには知ってもらいたいことがある!ここにいる罪人は、今までのどんな悪人よりも業の深いことをしでかした。……この男は、白雪姫を殺した!アステリア姫を、殺したのだ!」

悲鳴のような絶叫が、響く。

当然だ、愛された姫が事故でもなんでもなく、殺されたのだ。

その怒りはリクラインに向く。身に覚えのない罪。これは冤罪だ。しかし、本当に殺したのか、そんな事が出来たのかなどという正しさはここにはない。

「早く処刑しろ!」

「殺っちまえ」

無慈悲な声がリクラインに浴びせられる。

クレメンティーヌがリクラインに語りかける。

「愚かなものだろう……。上に立てば立つほど、見えてくるものさ。人は権力の前では盲目的だ。いつだって力が正しく、彼らもそれを信じる」

リクラインは涙を流す。止め処無く流れる雫が彼の悲しさを物語っていた。

四面楚歌な状況。誰もがクレメンティーヌが嘘をついているとは疑わない。

「そんな……」

リクラインはただただ絶望した。

「こんな目にあうのも辛かろう。そろそろ楽にしてやる。おい、やれ!」

リクラインは目を瞑った。

不思議なことに、恐怖はなかった。むしろ、これで解放されるのか、という安堵感に近いものが心にはあった。

「さようなら……」

誰にともなくリクラインは別れを告げる。

そして、刃は落とされリクラインの首が刎ねられた。


4

アルフォンスは広場に人集りを見つけ、何事かと興味を持ちその輪に入った。

どいてもらい、少しずつ奥へと進む。

「一体何が……?」

隣にいた若い男が説明してくれた。

「処刑だよ。……何でも白雪姫を殺したらしい」

アルフォンスは雷に撃たれたような錯覚に見舞われた。

アステリアが、殺された?

ギロチンにかけられている男を遠目からよく見る。それは、知っている男だった。

「リクライン……!あの男、姫を……姫を殺したというのか」

あの日、リクラインは小屋に連れていくなどと言っていたが、あれは嘘だったのか。逃がしたフリをして、誰もいない場所で殺した!

なんて狡猾な男だ。森の中でなら発見も遅れるだろう、そしてクレメンティーヌから逃げていることにすれば、アステリアが隠れているうちは誰も探せなくなる。

「私は、あの男に騙されたというのか」

だが、それにしてはおかしな点がいくつかある。

まずは、護衛につけた虹の精霊たちだ。アステリアと共に居たはずだが、何故彼らからの連絡はないのか。未だにアルフォンスの元へは帰っておらず、きっと居るとしたら森の中だろう。

そして、リクラインがアステリアを殺したとして、精霊たちには守ることが出来なかったというのか。一応あんなでも、それなりの力を持っていると思っていたのだが。

二つ目は、何故今回の殺人が発覚したのか、だ。アステリアのいる小屋は山の向こうにある、森の中だ。距離はそれなりにある上、探すのには苦労するだろう。

例え、殺人がこの数日間のうちに起こったとして、こんなにも早く見つかるものだろうか?

アルフォンスは自分でも信じられない結論に至った。

「クレメンティーヌはアステリアの小屋が何処にあるか知っていた?」

これしか考えられない。

もし、そうだとすると、話は全てが引っ繰り返る。今までのことが偶然では無くなる。

リクラインに殺させたのも、場所を森の中の小屋にしたのも、そして、この処刑さえも全てクレメンティーヌの計画通りだということになる。

突飛な推測かもしれない。だが、繋げてみると、しっくりとくるのだ。

リクラインが殺されるのも、タイミングが良すぎる。

アルフォンスは体中に流れる血液が沸騰するように感じた。怒りに、熱く燃えていた。

しかし、その前に確かめなければならない事がある。

先程説明してくれた男に質問する。

「なあ。リクラインはこの数日間、何処に居たか分かるか」

「ああ、そりゃあ決まってるさ。アイツは街にいたぜ。……にしても、アンタどっかで見たことがあるような、無いような」

「答えてくれてありがとう。それと、私の名前はアルフォンスだ。お礼にこれを」

そう言って金貨を男に手渡す。

あまりに驚いた男は目をひん剥いた。もう、ここには用はない。居ても騒ぎが起こるだけだ、それは良くない。アステリアの元へ急ごう。

氷の剣を抑え、森へと走った。

森の中、アルフォンスは近くから精霊の魔力を感じ取った。目に入るほどの距離にいるはずだが、精霊が小さいせいか見つけにくい。光っている箇所を探し、目を凝らす。

「アルフォンス様!」

呼びかける声にアルフォンスはようやく紫の精霊の姿を見つけた。彼は小屋の隅に小さな隙間を見つけ、外に出られたのだ。それから、アルフォンスの魔力を探知出来たおかげでこうして街の近くまで来られた。

「アステリアは?!」

「それが……。まずは、着いてきてください。話はそこからです!」

紫の精霊は小屋まで案内してくれるようだ。アルフォンスは気が気でなかった。早く彼女の元へ!と、心は焦りに支配されていた。

「彼女が手遅れになる前に……なんとか着かなくては」

血の巡りが悪くなった白い手を握り、アルフォンスはそう独りごちる。

「行こう」

下向きになっていた心を無理矢理に活を入れて、アルフォンスは紫の精霊についていった。

道は険しかった。深く積もった雪に足をとられ、思うように歩けない。もたつく程に急がなくては、という危機感に襲われる。

雨のように雪の結晶が降り続く。

ここが街であればなんとか寒さに耐えることが出来たであろうが、如何せん、森の中は環境が違いすぎた。

吐いた息が乱れる。次第に震えが体へと伝っていき、指先の感覚が無くなっていく。強い風に吹かれながらも、アルフォンス一歩ずつ確実に進んでいく。

そうして、小屋にたどり着く頃には夕日が差し掛かっていた。

荒立っていた心は既に落ち着いていた。それとは反対にアルフォンスは今、死と直面する恐怖と戦っていた。

信じられないという思いが、現実を否定したくなる気持ちが波紋のように脈打ち大きく広がる。扉を目の前にして、アルフォンスはその場にへたり込んでしまった。

「何をしているのですかアルフォンス様!早く、早く中に入ってアステリア様を!」

精霊に発破をかけられたが、アルフォンスの足が、手が、体が、固まったように動かない。

「アステリアは……死んでしまったのか……?」

「僕には分かりません……息はしてなかったけど、アルフォンス様なら助けられるよね?」

「助ける、か……」

彼女は生きているかもしれない。それならば、早く駆け寄って救わなければ──。

アルフォンスには、この考えが現実的ではないと分かっていた。しかし、アステリアと対面するには心に勇気が足りなかった。

ノブに触れる手が痺れる。顔が熱くなり、頭がぼうっとする。

扉を開けて中へと入る。

そこには横たわったアステリアが、仰向けになっていた。アルフォンスは一目見て尋常ではない事を改めて思い知らされた。

「アステリア!」

足が空気のように軽くなった。アルフォンスはアステリアの側まで駆け寄った。体が浮いたように感じ、重力がどこかに消えたような感覚だった。

顔を覗くとアステリアは目を瞑り、まるで眠っているようだった。──口元から流れる血を除いて。

涙がこみ上げそうになるのを必死に我慢して、彼女の口元へと手を近づける。息はしていない。今度は首筋に指を当てる。アルフォンスは「ひっ」と情けない声を出してしまった。

アステリアの体は氷のように冷たかった。血の気が失せたその姿は、雪のように白く透き通り人形のように美しかった。

「脈もない……か」

項垂れて、助かる可能性が無いと知りアルフォンスは己の無力さに打ちひしがれた。私には何も出来ないのか、と絶望した。

床に手をつき、激しい後悔の渦に精神が砕けそうになった。声にならない自身の嗚咽が、遠くから聞こえてきた。

息が出来ないほどに苦しかった。アルフォンスはアステリアの事がずっと好きだった。今となっては、いつからそう思うようになっていたのかは思い出せないが、将来、嫁に来てほしいと心の中で願っていた。

しかし、それはもう、叶わない。

いつも近くにいた彼女は、既にここには居ない。遠くへ、限りなく遠い何処かへと旅立ってしまった。

目から流れ落ちる雫が止まらない。涙を拭き取ると、アステリアのほこらに落ちている切り分けられたリンゴが目に入った。

疑問に思い手に取る。香しい匂いが漂ってくる。

「これは……」

アステリアの口元に鼻を近づけた。それは手に持ったリンゴと同じ匂いだった。アルフォンスは悟った。

彼女は毒殺されたのだと。

そうしてまた、アルフォンスは静かに涙を流した。

「もしも……私の生命を以て彼女を生き返らせることが出来たなら……。もし、彼女がまた変わらないあの、輝かしい笑顔を浮かべてくれたなら……」

片膝を立てて、精霊の方へと向き直る。

「私はアステリアの居ない世界になど、興味はない……。精霊たちよ、どうか、最後に協力してくれないだろうか」

「何を……するんです」

「私の命を捧げて、アステリアを呼び覚ます。……これは等価交換だ。彼女が生き返るというのなら、私の命は惜しまず渡す」

アルフォンスの目には決意の光が宿っていた。

「後悔は、何も無い」

精霊たちは涙を流した。主の覚悟は相当のものだろう。我儘は言えない。

彼の最後の頼みだ、全力で協力しなくては。精霊たちは手の平をアルフォンスに向けて、呪文を唱えた。

「……これで、契約は交わしました……」

「アルフォンス様、どうか、お元気で……」

「ありがとう、皆」

アルフォンスはそっとアステリアに口付けをした。彼の心臓から丸く光るものが喉を、口を、そして唇から唇へと渡っていった。

「どうか、私の事を覚えていてください。私は、いつまでも貴女のことを見守っています……」

やがて、アルフォンスの体中が光の粒となり散っていった。その場には氷の剣を残して、精霊たちが悲しみに暮れていた。

「さようなら、アルフォンス様………」


暗い闇の中にいた。

何処を見渡しても、そこは黒が広がっているばかりで何もかもが無かった。そこは、孤独の意識のみの世界だった。体も無ければ、声も出ない。ただ、思考だけが続いていた。

怖いとは思わなかった。

そこにいるのは自分だけだと分かっていたから、何かに怯える必要は無いのだと直感的に理解していた。

だが、寂しいとは思った。

会話する相手も、何かが起きるわけでもない。平穏と呼ぶには静かすぎるそこは、まるで時間が止まっているようだった。

「アステリア……」

自分を呼ぶ誰かの声に後ろを向いた。

こんな世界に後ろなんて概念はあるのか、とくだらない疑問を抱いた。アステリアは光る玉が宙を浮遊しているのを見つけた。

それは夜に海に浮かぶ蛍のようだった。

アステリアが存在を認識したと同時に、そのまま離れていった。

どうしてだか、アステリアは追いかけなくてはならないと思った。足もないのにどうやってと悩んだが、ここは意識のみの世界、ついて行こうと考えるだけで移動することが出来た。

どれくらいの距離を動いたのかはわからない。数十メートルか、数百メートルか、はたまた数センチメートルか。

長いようで短く感じる道のりを移動した。光る玉を追っているうちに、周りが徐々に明るくなっていく。

「アステリア」

何者かが呼びかけてくる。

「なに?」

「君はこれから、夢から覚めるんだ」

「夢?」アステリアは反芻する。

「そう、ここでの事は全て夢だったんだ。だけど、どうか、私のことを忘れないで欲しい。……私は、君がずっと好きだった」

背景に輝きが増してくる。

「………だからお願いだ。最期まで、生きてくれないか」

アステリアはだんだんと光に吸い込まれていくようだった。しかし、声の主───光る玉は闇の中に取り残されたまま。

「私には何が出来るかはわからない。でも……そうね。貴方の分まで頑張ってみるわ」

そう言うと、光る玉は安心したようだった。

「ありがとう、そして、さようなら」

声はやがて掠れて消え、静かになった。


5

穏やかな冷たい風が髪を揺らす。暗かった世界から、徐々に明るい光が瞼の裏に差し込んでくる。耳から音が流れ込んでくる。これは……涙声、だろうか。か細い、すすり泣く声がどこからが聞こえてくる。一人のものではなく、複数人のものだ。

手足に感覚が戻ってくる。痺れとともに、血管の中に血が通うのを感じる。指先に力を入れると、ぴくりと微かに動いた。

アステリアは目を開けた。

空から降り注ぐ白い雪が、額に落ちて溶けた。雫が涙のように頬を伝い、撫でた。

「アステリア……?」

「目が、覚めたの……?」

不意に泣き声は止まり、アステリアに彼らは話しかけてくる。腕に力を込めて、ゆっくりと起き上がった。アステリアを囲うように、半円状に七つの精霊たちがそこには佇んでいた。

心配そうな面持ちでアステリアをしげしげと見つめる彼らに、アステリアは柔らかく微笑んだ。

「私は、夢を見たの。暗くて、独りで、何も無いところにいたわ」

アステリアは傍らに倒れていた氷の剣の上に、手をそっと置いた。

「暫くすると、声が聞こえてきた。その方へと進むと世界は明るくなっていった。───私はそこでアルフォンスと再会したの。彼は私にこう言った。『生きろ』って」

アステリアは心の芯が熱くなるのを感じた。唇が震え、目には雫が溜まっていた。

「私は、彼に助けられた……。私はアルフォンスの魂のお陰で……生きている。私は、生きている……!」

アステリアは静かに涙した。

感情は既に決壊していた。しかし、声は出なかった。自分の為に大切な人を死なせた事への悲しみが強かった。

只、心の痛みが止まることなく目から流れ落ちた。

「何故、私を助けたの?アルフォンス……」

貴方以外に頼れる人はいない、とアステリアは心の支えを失ったことへの悲哀と、

「……許せない、許されないことを貴女はしたわ、クレメンティーヌ……!貴女は私から大切な人を奪った……!」

唯一の友を失わせた元凶、義母への恨みに憤怒した。そして、固く誓った。

殺された自分の為に。

奪われた唯一の友の為に。

これからの、国の為にも彼女は妃として居てはいけない。

「もう、誰も失いたくない……」

呟きに精霊たちは俯いた。

アステリアは氷の剣を両手で掴むと、空へ祈りを捧げた。

「どうか、復讐を果たす私をお許しください」

アステリアは決意した。もう、泣かないと。自分ですべき事は自分で行う。立ち上がり、目線を空から前へと見やった。

これ以上誰も犠牲にしない為に、アステリアは戦う。

「待って!待ってよアステリア!」

「駄目だ!そんな事しても意味がない!」

「もう一度考え直して!」

精霊たちの必死の説得に、アステリアは無言で首を横に振った。

「それは出来ないわ……。私にはもう、怒りしかない」

「落ち着くんだ!……殺しちゃあ、アステリアもクレメンティーヌと同じさ!」

「……そうね。私はあくまで正義に徹するわ。でもね……善にはなりきれない」

アステリアは悲しげな微笑を彼らに向けた。それは痛いほどに優しく、哀しい表情をしていた。

「………ごめんね………」

精霊たちは何も言えなくなった。彼女にかける言葉が見つからなかったのだ。

アステリアは雪の降る道を、おぼつかない足取りで歩いていった。踵を返すこともせず、ひたすらに前だけを向いて山を下りていった。

七つの精霊は、誰も声を出すことをしないまま、ぽっかりと続く雪に描かれた足跡を暫く眺めていた。


街につく頃には雪の勢いは増していた。深く積もる雪に足首が埋まり、足を取られそうになる。気をつけながら一つ一つ丁寧に足を運ばせて、アステリアはようやく街の入口にまでやって来た。

感慨深い面持ちでアステリアは門を見つめた。この門を、死と関係する時に出入りした。アステリアが殺されそうになった時に出ていき、そして、今はアルフォンスの死がこうして再び戻らせた。

大きく深呼吸して心を落ち着かせる。──大丈夫。私なら上手くいく。胸に手を当てる。

どくん、どくん、と鼓動が手に伝わる。

「大丈夫だって」

「ここまで来たらやるしかないよ」

「今更不安なのかい?白雪姫アステリア……」

七つの精霊が背後から姿を現した。彼らもまた、アステリアが心配で付いてきしまったのだ。そして何より、アルフォンスが命を捧げて生き返らせた子だ。精霊たちとしてもアステリアを見殺しには出来なかった。

「何か手伝えることがあったら遠慮なく言ってくれよ」

「そうね……。じゃあ、その時にお願いするわ」

アステリアは彼らの想いに心が熱くなった。精霊からの言葉に頷くと、アステリアは呼吸を整えてから一度離れた故郷へと再び帰国した。

街の中は閑静としていて、人影は少なかった。家にも誰か住んでいる気配はない。城の中にまで聞こえてくる賑やかだった、街の住民達の声が、やけに静かなのが不気味だった。アステリアが森の中に住んでから経った数日だが、この国はまるで変わってしまったように思えた。

「何かあったのかしら」

住民という集団がいっせいに姿を消す、というのは奇妙な事だ。アステリアはこのタイミングで大きなイベントが起きたのでは、と考えた。

祭りだろうか?いやしかし、それは今日ではない。全員が同時に移動させられた?……だとしても何のために。

考え込んでいると、どこからか雪を掘っているような音が聞こえた。アステリアはその音の主を探すと、門の裏手に隠れるようにして、老人はひたすらに作業していたのを見つけた。スコップで除雪しているのだろう、雪を掘ってはわきに捨てて集め、埋もれていた道に隙間を作っていた。

彼なら何か知っているだろうか。

彼の元へと近づくとアステリアの足音に顔を上げて、振り返りながらスコップを地面に刺した。

男は白髪混じりで顔の皺は濃く、疲れが溜まっているような暗い表情をしていた。アステリアを見つめているのに、どこか上の空で見えていないように思えた。

「……姿が見当たりませんが、街の人は何処へ行かれたのですか?」

「少し前に処刑があってな、その後からずっと墓の元へ行ったままさ。それから帰ってきてない」

「処刑?……お墓?」

「何も知らないのか。………リクラインという男が少し前に処刑されたんだ」

アステリアは息を飲んだ。

「それは……どうして?」

アステリア様を殺した罪だ……と妃様は言っていたな」

「……それで、リクラインは処刑………されたのですか」

「ああ、そうさ。……馬鹿な男だよ」

老人は心無しか寂しそうな顔をしていた。

アステリアはリクラインが死んだことにショックを隠しきれなかった。

彼は命の恩人だった。アルフォンスに次いで、アステリアを助けようとしてくれた人物だ。それなのに、あまりに報われない。アステリアは歯を噛み締め、泣きそうになる心を無理矢理に耐えさせた。

処刑があったという事は、住民達は皆中央の広場に集まっていたのだろう。しかし、話を聞く限りだと処刑は既に終わっているようだ。つまり、姿を見せない彼らは老人がもう一つ言っていた墓の所へ行っているのだろうか?

「墓……というのは」

重たくなる口をこじ開けて、どうにか質問をした。

「姫様の墓さ。きっと今頃もそこで祈ってるんだろうな。……もう、十分は経っているだろうに」

「貴方は参加しなかったのですか?」


「……参加しようと思ったさ。だがなぁ……。どうにも信じられないんだよ。姫様が死んじまっただぁ?そんな訳あるってもんかよ、生きているに決まってる」

老人はスコップを持ち上げると、

「姫様は帰ってくると思うんだ。だから儂はこうして彼女が通れる道を作っていたんだよ」

と、肩を震わせてアステリアに語った。

アステリアは驚き、そして、老人に対して頭を垂れた。

「ありがとう……お爺さん」

「何でお前さんが……?もしかして、お前さんは……顔を、よく見せておくれ!」

老人はアステリアの顔をまじまじと見続け、脱力したように膝から雪へと落ちた。

「生きていたのか…良かった……!本当に良かった……!儂は、信じていたよ……あの馬鹿息子は無罪だったんだ……」

ありがとう、生きていてくれてありがとう、と老人は涙を流して感謝した。そして、急に思い出したように真面目な顔つきになった。

「ならば、どうして処刑がなされたんだ」

アステリアにはそれが何故か分かっている。答える代わりに質問を投げかけた。

「おじいさん。クレメンティーヌが今、何処にいるか分かるかしら」

「妃様……?それなら、多分城の中にいるかと。……もしかして、姫様。貴女は妃様が──」

「おじいさん。後は私がやるわ。後のことは……私に任せて」

老人は悟ったように頷くと、アステリアに「気をつけて」と見送ってくれた。

そこから城まで歩き、城門を前にしてからアステリアは精霊たちに向き直った。

「一つ、お願いがあるの」

「お願い?」

「そう。これは貴方たちにしか出来ないことなの」


「アステリア様が生きていたぞぉお!」

「姫様は広場にいるぞおお!」

「急げー!早く向かわないとどこかへ行ってしまわれるぞ!」

城の外、精霊たちは必死に叫んでいた。アステリアからの頼みの内容は簡単なものだった。──外から私を見たと、大声で中にいる人に聞こえるくらい叫んで、と。

疲れてバテてしまった精霊たちは「ふぃーっ」と、その場に倒れ込むように落ちていった。

「全く、人使いが荒いんだから」

そう言ったものの、精霊たちの表情は役立てたことに嬉しさに笑みを零していた。

一方、窓の外から聞こえるアステリア生存の声に城の中は大騒ぎした。

「姫様が生きているだって?!」

「本当なの?!」

大臣や使用人たちはすぐさま城から抜けて、広場へと急ぎ足で向かっていった。

そして、入れ替わるようにアステリアは堂々と正面から中へと入った。

これで、城の中にはアステリアとクレメンティーヌの二人だけ。

舞台は整った。

後は行動やるだけだ。

アステリアは氷の剣を掴むと、その輝きの奥にアルフォンスを見えたような気がした。

決着をつける時が来た。

アステリアは静かに燃える青い炎を目に宿した。


6

クレメンティーヌは部屋に一人、外から響く白雪姫アステリア存命を告げる声に驚き焦っていた。

頭を突き刺すような鋭い痛みを覚え、クレメンティーヌは左手でこめかみを押さえた。頭はくらくらと揺れて目眩がする。

確かにアステリアが死んだ姿を確認してはいない。しかし、クレメンティーヌが老婆に化けていた事に気が付いた様子は無かった。


ここで問題なのは、アステリアはリンゴを食べていたかどうか、だ。もし食べていたのだとしたら、生きている訳が無い。今頃あの世へと旅立っているはずだ。

それなのに、

「アステリアが生きているだと?まさかあの娘、リンゴを疑い口にしなかったのか!」

クレメンティーヌは動揺を隠しきれなかった。考えられる可能性としては、リンゴを食べる前にリクラインを処刑したことがアステリアに知られた、という話だ。

だが、あの遠い森にまで情報が渡るだろうか?誰かが伝えたとしても、アステリアの周りにそんな事が出来る人物がいるとすれば、

「アルフォンス……王子」

彼だ。彼ならばアステリアと仲が良かったのだから、リクラインの処刑を知り、アステリアが死んだということを──知ったのだ。

クレメンティーヌは処刑を行ったことを、浅はかだったと悔いた。早くに事件を終わらせてしまおうとしたのが裏目に出た。これでは、一番知られてはならない人物に教えてしまったようなものだ。

だとすれば、森の中でひっそり暮らしていた姫様がわざわざこの国にまで戻って来た理由は……。

「復讐……か。はたまた、脅しでもかけるつもりか」

彼女が何の理由もなく戻ってくるというのは今更ありえない。自分の命を狙われたことを知り、リクラインによって匿われたのだ。自ら敵陣に入ってくるには、より明確な理由があるといえよう。

そして、その対象がクレメンティーヌだ。

なんて事だ。何一つ、計画は上手くいってはいなかった。振り返ってみれば、確かめることもせずに城に戻ってきたり、処刑するタイミングが早すぎたりと何から何まで浅かった。

考えが甘かったのだ。

これからアステリアはアルフォンスと共に私の元へと来るだろう。リクラインの死を武器に、脅してくるのだ。

「終わったな……」

溜息とともに呟いたその一言が重く感じられた。胸が締め付けられるような苦しみに、クレメンティーヌは息を忘れたようにうずくまった。

それから、何気なく窓の外を見ると、そこにはアステリアが階下に見えた。

目が合った。

彼女アステリアは妃を鋭い、恨むように睨んでいた。

その手には半透明な結晶のように美しい、娘には合わない剣が持たれていた。

クレメンティーヌは身震いした。これは、この状況は、自分が思っていた以上に酷いようだ、とこの時になって初めて理解した。

「あの娘、仮に母である私を殺しに来たというのか……!」

自分の口から出た言葉だというのに、まるで現実感を帯びない台詞だとクレメンティーヌは思った。

先ほど見えた剣が頭の中で、フラッシュバックされる。

それは氷を思わせるような見た目で、この世のものとは思えない程に眩く輝いていた。

これからあの刃が首筋に当てられるのだと思うと、背筋が冷たくなった。

窓から見えたアステリアの出で立ちは、姫の姿では無く、魂をとりにきた死神のようにクレメンティーヌには見えた。

アステリアはこれからこの部屋を目指しに来るだろう。目を合わせた時の彼女のそれは、母を見るものではなく標的ターゲットを見つけた冷酷な殺人者のそれだった。

取り敢えず、ここにいてはいけない。身の危険が迫っている今、逃げられるような場所はあるだろうか。

──中庭だ。彼処なら隠れる場所は無いが、森まで繋がっている。非常用の脱出口でもあるのだ、まさに今のこの状況にうってつけだといえる。

中庭から森までは、途中に湖があるがそこさえ抜ければ後は問題ない。馬に跨り駆けてゆけばいい。

そう考えて、クレメンティーヌは庭へと向かっていった。

うまく息が出来ない。走りながらクレメンティーヌは必死に息を整えていた。

庭に辿りつく頃には夕焼けに差し掛かっていた。オレンジ色に染められた花たちが、まるで血に濡れているように見えた。

「私は……アステリアに追い詰められているのか?」

馬鹿にしていた娘にクレメンティーヌは今、恐怖している。その事に憤りを感じる。何より、クレメンティーヌは絶対的で何者よりも上に立っていたいと思っていた。

それが今では何だ。まるで逃亡者のような真似事をしている。

「何故私が逃げ回らなければならぬのだ。……何故、私がアステリアに打ちのめされなければならぬのだ!」

クレメンティーヌは叫んだ。

開けた場所であるこの庭では分が悪い。それに武器になり得る物だってない。

一旦、湖のほとりまで行くのだ。そこでなら……可能性はある。

水で溺れさせるか、彫像で顔を潰すか。

奴から剣を奪い取り、腹を切り裂くか。

クレメンティーヌよりもアステリアは背が低い。つまり、腕の長さにも差がある。リーチが違うのだから、勝つ確率はぐんと上がる。

自然とクレメンティーヌの口角は上がった。

運が無いと思ったが、そうではない。

むしろ、

「運は私に味方してくれている」

進んで自ら餌がやって来る。飛んで火に入る夏の虫とはこの事だ。

アステリアという厄介の種が今日この日、消える。

クレメンティーヌは湖へと先を急いだ。

妃の重かった足取りは徐々に軽くなっていった。


アステリアが辿り着く頃には妃の姿は無かった。一面の花畑は風にあおられて、穏やかに揺れている。心無しか、終わりが近づいているのをアステリアは感じた。

そしてそれは、クレメンティーヌとの別れをも表している。

覚悟は決まったと思っていた。しかし、庭に妃がいなくて良かったと思う自分がいることにアステリアは困惑していた。

仮ではあるが家族だった。そして、母だった。

きっと、アステリアの良心が彼女をそんな気持ちにさせたのだろう。

アステリアは片手を挙げると精霊たちを呼び戻した。続々と集まり、彼らはアステリアの元へと姿を隠す。

「ここにはクレメンティーヌは居なかったわ。そっちはどうだった?」

「作戦は完了したぜっ」

「城の中はもぬけの殻さ」

これでクレメンティーヌとは誰にも邪魔されることなく対面できる。場は整った。機会は今しかない。

彼女はこの先にある湖にいる。そこが決戦の場──決着をつけることになる。

精霊からの報告に頷くとアステリアは前を見据えた。

「さあ、先を急ぎましょう」

庭に設置された鉄の扉を開けると引きずるような仰々しい音が鳴り響く。開ききった扉を抜けた先には広大な湖がアステリアの目の前に現れた。

さんさんと降る雪が、まるで元いた場所に帰っていくように水面に吸い込まれていく。

その光景は幻想的で、アステリアは思わず魅入ってしまった。

だから、アステリアは気がつけなかった。扉の陰に隠れていた、アステリアの背後にいるクレメンティーヌのことに。

クレメンティーヌは大きな壺を持ち上げたまま構えていた。

アステリアが目を奪われていた隙に、クレメンティーヌは後頭部目掛けて振り下ろした。

「アステリア危ない!」

危機に気づいた精霊が咄嗟に眩い光を放った。クレメンティーヌは目がくらみ壺をいい加減な方向に投げやった。

中には液体が入っていたらしく、口から少量溢れ出てアステリアの手元を濡らした。

邪魔をされた苛つきからクレメンティーヌは、地面を蹴り精霊に雪をかけて行動を抑制した。

そして、ポケットからマッチ棒を取り出すと火をつけた。

「一体なにを……」

間髪入れずにクレメンティーヌはマッチ棒をアステリアへと投げつける。手で払おうと片手を前に出したその瞬間、触れた指先から火が燃え移った。余りの熱さから感覚が消え、むしろ冷たく思えた。

「きゃああ!」

思いも寄らない攻撃にアステリアはその場に倒れ込み、手を雪にさした。腕の筋肉が震え、血の巡りが悪くなっているようだった。痺れが徐々に痛みへと変貌する。雪から手を抜くと赤く腫れて、肌は唇のようにぶよぶよとしていた。

腕を抱えるようにお腹の中に抑えると、先程の壺の中身をアステリアは考えた。

──油だ。クレメンティーヌはアステリアに油を浴びせて火だるまにするつもりだったのだ。アステリアは目の前に立つ女を見上げた。

なんて恐ろしいひとだ。こんな事を……思いついたとしても、行動に移すだなんて。剣先を大地に突き刺して杖のようにして体を起こすと、アステリアはクレメンティーヌを睨んだ。なんて姑息で卑怯でずる賢くて腐りきった女だ。

「クレメンティーヌ!私はお前を許さない!」

「一体……何のことやら。私には分からんな。せめて罪状を教えて欲しいよ」

クレメンティーヌはふてぶてしくそう言いきった。

「貴女は私を殺した……!そして、死に瀕している私を助けてアルフォンスは死んでしまった……。それだけじゃない。貴女はリクラインを殺し、暴虐の限りを尽くした!」

アステリアの拳は、怒りに強く握られていた。

「第一にアルフォンスの事は知らない。第二にリクラインの事は仕方が無かった。自分の命よりも大切な愛娘が殺されたと云うのだ、突然のことに混乱していたのだ」

そして、とクレメンティーヌは悪い笑みを浮かべた。

「第三に、可笑しいじゃないか。私は殺していないし、死んでいるのであれば……アステリアはそこに立ってはいられないだろう?……そうか。そこで、アルフォンス王子か」

顎に手を当てクレメンティーヌはアステリアに問いかけた。

「先程アステリアはこう言っていたな。『私を助けて死んだ』、と。そして、手に持っているその剣。どこかで見たことがあると思ったが……まさか王子の物ではあるまいな?それは死んだ王子の形見。白雪姫アステリアの蘇生をした代償に命を捧げ、事切れた王子が残した唯一の置き土産……」

クレメンティーヌはふふふ、と笑った。反対にアステリアは思わず唾を飲み込み、全身に緊張が走った。

「そう考えると王子を殺したのは、少なくとも私ではないな。そうだろう?つまりだな、アステリア」

その声はゾッとするほどに優しかった。

「王子を殺したのはお前だ」

そして、悲しいほどに冷たかった。


クレメンティーヌの言葉に逆上し、アステリアは我を忘れていた。

剣を掴むと大きく振り上げる。その勢いから生じた雪の結晶が、氷のつぶてへと変わりクレメンティーヌの頬を掠めた。

予想外にも傷は大きいらしく、血が流れ出て妃は顔を覆い呻いた。クレメンティーヌの指の隙間から鋭い視線を感じた。

ひりひりする肌に手を当てて、アステリアは警戒する。彼女の様子がおかしかったのだ。

低い獣のような声が彼女の喉から漏れる。大きく吐いた白い息が顔を包む。

クレメンティーヌは顔から手を離した。

鋭い目でアステリアを射抜く。その恐ろしい形相に声を失う。

人の作る表情では無かった。殺意と悪意とが混ざり合い、クレメンティーヌの顔には陰ができていた。

「アステリアァァアア!」

クレメンティーヌは勢いよく湖へと突き落とす。手元からは剣が離れ落ちた。

真冬の湖は全身の穴という穴に突くような痛みをアステリアは覚えた。

焼けた腕からはもう、感覚はなくなっていた。

アステリアの顔は水の中に沈んだ。空気よりも冷たい水が呼吸を無理矢理に止めさせる。酸素を求めて上半身を起こそうとするが、クレメンティーヌに馬乗りになってアステリアの目論見を潰した。

全体重をかけられ身動きが取れなくなる。水の勢いの強い流れがアステリアを水上から離していく。口から空気が僅かに漏れる。このままでは窒息してしまうであろう事にアステリアは焦った。

必死にクレメンティーヌをどかそうと抵抗を試みるも、それをさせるだけの力はアステリアには無かった。

──もしも氷の剣がここにあれば。

アステリアは手を伸ばすも届かない魔剣に焦れったい思いだった。掴もうと固持すればする程に、指先から作られる水流により遠ざかる。

そんな彼女の様子を見て、真意に気づいた精霊たちはいっせいに潜り込んだ。

「アステリアの元へと泳げぇ!」

一人がそう叫ぶと七つの光は列になり泳いだ。剣を超えてアステリアの元へと何度も、何度も往復する。

水流は、アステリアの方へと変化していた。

開かれた手のひらに収まるようにして、剣の柄が流れてきた。

剣を手に入れたアステリアは自由な方の片手でクレメンティーヌの襟を掴むと、自分の方へと引き寄せ水中へと招き入れた。

その中で、クレメンティーヌはアステリアが嫌な笑みを浮かべているのを見た。

追い込まれているはずのアステリアには似つかわしくない表情に恐怖して、反射的に手足をじたばたとさせた。

クレメンティーヌの動揺は波紋のように広がった。優勢だった攻防は一転した。アステリアは剣をクレメンティーヌの腕に当てると、触れた部分から凍っていった。腕は棒のように動かなくなり、地面と同化した為に固定された。

ふっと、アステリアに込めていた力を抜き氷と化した自身の片腕をクレメンティーヌは掴んだ。地面ごと引っこ抜こうと考えたが、それは失敗に終わった。

アステリアはクレメンティーヌ両足からなんとか抜け出すと、膝立ちになった涙目の哀れな妃を見下ろした。それはアステリア自身でも驚くほどに冷ややかな目をしていた。

「もう終わりよクレメンティーヌ」

「まだだ……まだ負けていない!」

「私は貴女が湖の中で止めを刺しにくるのを待っていたのよ。途中、剣を落としたのは予想してなかったけど──結果的に貴女は水の中に入ってきた」

剣を逆さにして頭上まで振り上げるとアステリアは軽く、別れの挨拶をクレメンティーヌに交わした。

短く、「さようなら」と。

勢い良く振り下ろされた剣先が水を突き抜け地面を刺した。すると、たちまちにして氷の結晶がクレメンティーヌの体に寄り添い包んだ。

金魚のように口をぱくぱくと開閉させて、クレメンティーヌは上を見上げながら最期まで呼吸しようとしていた。

氷漬けにされたクレメンティーヌはまるで、クリスタルの結晶のように目を見張るほど美しく見えた。

アステリアは湖からあがるとその場にへたりこんだ。そして、静かに涙を流した。

「さようなら」

誰にもともなくアステリアはもう一度別れの言葉を呟いた。


7

それから数十年が経った。

今ではアステリアも一国の女王となっていたが、未だに誰とも結婚出来ず独り身だった。

アルフォンス亡き今、氷の国レギナと雪の国ルミエースは統合された。

氷の剣も引き継いでおり、アステリアは常に腰に差している。その為、国民からは氷の白雪姫と呼ばれるようになった。

昔と同じ姿の剣を撫でると、王子の顔が浮かんだ。

どれだけ時間が経っても友人達の死は癒されなかった。むしろ、過去となってしまった事に哀しみを感じていた。

アステリアを助けた王子アルフォンス猟師リクラインを思うと心が痛む。

以前、クレメンティーヌが座っていた席にアステリアは腰掛けている。頬杖をついて溜息を吐いた。

「皆、私を置いて行ってしまったのね……私は、ずっと此処にいるというのに」

皺だらけの手を見ながら、皮肉げな笑みでアステリアは俯いた。

時代は流れ、国は変わりつつあるというのに、アステリアのみ彼らの死に囚われ続けていた。

その時、ふと赤いカーテンの裏に仰々しい大きく派手な鏡が掛けられているのを見つけた。これは前に見たことがあるものだった。

確かクレメンティーヌがこの鏡に話しかけていたな、と記憶の中を探った。

カーテンを捲り、端まで追いやると鏡の全身が露になった。アステリアは、今では老いによって歳をとった自分の姿をその中に見た。

アステリアは思いつき、鏡に向かって質問を投げかけた。

「鏡よ鏡、この世で一番美しくのは誰?」

少し間をおいてから魔法の鏡は答えた。

「それはクレメンティーヌ様でございます。白雪姫様」

アステリアは静かに目を瞑ると、再び玉座に座り、俯いた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 白雪姫のアレンジ作品は多いですが、作者様の独自の世界観が強く出てて面白かったです。 ラスト、妃は魔法で氷漬けになっているから生きている扱いなんですか……皮肉がきいていて印象的でした。
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