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4話

 それから俺は、セイラと帰ってきてから今後の話をした。結婚はいつ、とか子供は何人…じゃなくて。一体全体どうやってあの女を欺けばいいのか。

「確かに、あのカナエさん相手じゃお兄ちゃんの考えてることはすぐバレちゃうしなぁ」

「俺ってそんな単純か?」

「そういうところよ、むしろスパイに選ばれた時点で気付くべきね」

「酷いなぁ…」

一体奴は俺に何をさせようとしたのだろうか。甚だ検討もつかない。本当にデータの奪取だったのだろうか?

「まあ、データの奪取ではないことは確かね…」

流石は俺の妹と言うべきか、以心伝心だ。

でもそういえばセイラのことについて知らないことがあったよな…

「ところで、あの軍隊はなんだったんだ?サーバーの主だったのか?」

「…!そ、それは、例えお兄ちゃんでも言えないの。でも、黙っててごめん!」

「そ、そうか。ならいいんだ」

こんなことを言われるのは初めてだ。よっぽどの理由でもあったのだろうか。

「ちょっと調べものするわね」

「ん…」

 …気付けば、俺の知らないところで周りには色んなことが起きていた。今、何が起こっているのかさっぱりだ。カナエのことも、セイラのことも。ずっと置いてけぼりだ。


「…ちゃん。お兄ちゃん!」

うおっ!な、一体何が起きた!?

「もう、しっかりしてよね。今はお兄ちゃんの命も懸かってるんだから!」

「はえ…?命…?」

「そう、カナエさんのところにハッキングしたの。そしたらどうよ、私のサーバーに自爆特攻させようとしてたのよ!」

「し、しはく…!?」

もう訳がわからない。声にならない声を出すことしか俺にはできなかった。

「許せない!よりにもよってお兄ちゃんを!よりにもよって私のところへ!自爆特攻だなんて!信じられない!!!」

「お、落ち着けセイラ!」

「落ち着けるわけないでしょう!?自爆させられるとこだったのよ!?」

確かに、幼馴染に裏切られて殺されるだなんて正気の沙汰じゃあない。でも、そういう時こそ落ち着かなければならない。何せ相手は底の見えない腹黒女なんだ。

…ぎゅっ。俺は、興奮している彼女を、確かに確りと抱きしめた。

「…!」

「どうだ、落ち着いたか?」

「う、うん、ごめん」

「……」

暫しの沈黙の後、話を進める。

「ところで、ハッキングなんかしたのか?普通バレるんじゃ…」

「そうよ、前時代の技術も役に立つものね」

「え?」

「さあ、行くよ、お兄ちゃん。ちゃんとこの報いを受けて貰わなくちゃ」

セイラに引っ張られて、また電脳の海へと飛び込んだ。


 さっき俺が忍び込んだ西洋風の城。その電脳世界と現実世界を繋ぐ出入り口に立っていた。

「何をするんだ?」

「もちろん、殴り込みよ」

戸惑う俺をよそ目に、セイラは数人の兵士を呼んだ。いつからあるのかそのカリスマ性にさらに俺は困惑した。

「いくよ、お兄ちゃん。」

 道中、セイラは俺に説明してくれた。何も、流石に考えなしで行動するわけではないのだ。

「ハッキングって、一体何をしたんだ?」

「マルウェアよ。」

「マルウェア?」

「お兄ちゃんのメールに偽装して添付ファイルにスパイウェアを仕込んだのよ。所謂トロイの木馬っていう偽装型マルウェアね。」

「そ、それって犯罪なんじゃ…」

言い終わらないうちにセイラは俺の口に指をあてて、シーっと言った。妹のことはなんでも知っていると思っていたが、どうやら傲慢だったようだ。何者なんだ、俺の妹は。

「たまにメールはもちろん、何の変哲もないファイルやアプリがトロイの木馬マルウェアだったりするから気を付けるように!」

「誰に言ってるんだよ…」

それはさておき、とセイラは続ける。

「そして、スパイウェアと共にもう一つ、別のウィルスを仕掛けたのよ」

「それが、このウィルスって訳ね。流石はシン君の妹さん、やるじゃない」

そこには、カナエの姿があった。顔は青ざめ、息は絶え絶えであったが、不気味な笑顔は崩していないようであった。

「シン君、まさか幼馴染のワタシを裏切るだなんて思わなかったよ…」

「それはこっちのセリフだ。」

どの口が言っているんだ。幼馴染の俺を捨て駒扱いした人間が言っていいセリフではない。彼女の考えていることがさっぱり分からなかったが、知らないほうがいいのかもしれない。

「自爆させようとしたのはすまなかった。でもね、その子の経営するサーバーは…」

「そいつの言うことを信じちゃダメだよ、お兄ちゃん!」

「おっと、聞かれたら不味いことでもあるのかい?」

「あなたは黙ってて!それよりもお兄ちゃんを使って私を、私のサーバーを壊そうとしたのが間違いだったのよ!」

「そうかなぁ。ワタシには、のこのことワタシの前に来たこと自体が間違いだと思うんだけど?」

「!?」

俺は後ろを振り返った。数人付き添っていた兵士などいなかった。代わりに、黒い恰好をした二人組が、武器を持って立っていた。

「クロハと、ソウマ…!?」

「あたいは悲しいよー、ね、シン」

「ボ、ボクもこんな形で再会なんてしたくはありませんでした…」

「ワタシも、《《犯罪組織》》と手を組んだシン君の姿なんて見たくはなかったね」

「!?」

は、犯罪組織!?戯言にもほどがあるだろ…!?

「犯罪組織なんて人聞きの悪いこと言わないで!お兄ちゃんは信じてくれるはずよ!ね!?」

な、なんだよこれ…!?は、話が飛躍しすぎだ!!俺は混乱した。混乱して、頭の中がぐわんぐわんする。視界は歪み、吐き気を催し、体中に痛みが走った。気持ち悪い。嫌だ、嫌だ。嫌悪感が、体に疲れとして出てきたようだった。

「お兄ちゃん!!!」

妹の叫びではっと我に返った。とにかく、今は妹を、セイラを守らなければ。

「兄妹愛かぁ。美しいね。美しすぎて、見苦しいねぇ…!」

カナエは、その言葉に続き、やれ!と叫ぶ。と、同時にクロハがこちらに突進してきた。

「黒猫の狂爪曲(カプリチオ)!」

既のところで爪攻撃をかわし、クロハをセイラから遠くへ投げ飛ばす。しかし、彼女は奇麗な受け身を取った後、体を翻し、またこちらに向かった。

多頭獣ケルベロス咬響曲シンフォニー!」

彼女はそう宣言すると、背中から数多の猫が飛び出した。それは、俺の腕に、脚に、食らいついた。

「ぐぅっ…!」

「お兄ちゃん!!」

大丈夫だ、と心配をかけまいと虚勢を張るが、激痛は非情に俺を襲った。

「大丈夫。例え死んでも鎮魂歌レクイエムを歌ってあげる。それとも挽歌エレジーがいい?」

「お、俺は…!」

そうだ。俺はセイラを置いては死ねない。何者であろうとも、愛する妹を置いて死ぬことはできない。

「俺は死なねえぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!」

「…しぶとい。黒猫の円舞曲ワルツ!」

クロハが俺に殴りかかる。だがこれを待っていた!クロハの腕をつかみ、一気に組み伏せた。

「ぐっ…!はーなーせーぇー!」

クロハはじたばたするが、がっちりと、しっかりと固定した。そして、

「がっ!…きゅー…」

手刀で彼女を気絶させた。

「ク、クロハさん…!そんな…」

「大丈夫だ。殺しはしない。」

「うぅ…こうなったら…!」

ガガガガガガガガガガガガガガガ!ソウマが持っていたサブマシンガンの煩い銃撃音に反応して、俺は退いた。が、

「テレポート!」

「なっ!?」

「お、お兄ちゃん!」

「う、動かないでください!!大切な妹さんがどうなってもいいんですか…!!」

クソッ!人質だなんて卑怯な!

「ふふふ、よくやったよソウマ君!」

「セイラを開放しろ!」

「なら言うことを聞いてください!膝をついて手を後ろに組んでください!」

「お兄ちゃん、私はどうなってもいいからやっつけて!」

…いや、これでは分が悪い。彼の指示通りの姿勢になった。

「…それで解放されると思ったかぁ!!!!」

彼の怒号と共に激しい銃声が響いた。銃弾がスローモーションでこちらに向かってくるのが見えた。そんな、馬鹿な…!!俺は、このまま死んでしまうのか…!?


「お兄ちゃぁぁぁぁぁん!!!いやああぁぁぁぁ!!!」

最後に聞いたのはセイラの悲鳴だった。それから、銃弾がソウマの銃へ戻って行くのが見えた。そして、周りの景色が加速した。

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