プロローグ ドッペルゲンガーは突然やってくる
ーー今私に見えているものは現実なのだろうか。
ここは私の部屋だ。この部屋に入ってくる人間など、親を除けば誰もいない。
私は今家に帰って来たところで、親はまだ仕事から帰って来てないはず。そんな部屋に誰かがいるだけでも異常なのにーー、
「やぁ、こんばんは。待ってたよ」
ーーベッドの上には、嬉しそうな笑顔を見せているのは私にそっくりな、ーーいや、『私』自身が座っているのだ。
「ふふっ、驚いてるのかな? まぁ、無理もないか」
当たり前だ。目の前に自分と同じ姿をした人間がいれば、誰だって驚くはずだ。
「じゃあとりあえず自己紹介、ーーはいらないかな?」
その言葉と、目の前の『私』が見せた笑みに、背中を冷たい汗がつたうのを感じながら私は口を開いた。
「ーーあなたは、「私」なの?」
すると目の前の『私』は、その言葉を待っていたと言わんばかりの表情でベッドの上に立ち上がり、その右手を胸元に添えながら嬉々として喋りだした。
「そう、まさしくその通り! 僕は『君』だ。それ以上でもそれ以下でもない、『君』自身さ!」
僕、と言う一人称を使う『私』に恐怖を感じている中、興奮気味な『私』はそのままベッドから飛び降り、私の前に歩み寄ってさらに言葉を続けた。
「どうしたの? もっと嬉しそうにしなよ。僕の存在は君が望んだことだろ? ーー違うとは言わせないよ?」
目の前の『私』は、まるで今までの私を全て知っているとでも言いたげな目でこちらを見てくる。その視線に耐えきれなくなり、私は逃げるるように『私』から目を逸らした。
そうだ。この状況は私がたしかに望んだことだ。でも、本当に現れるなんて思ってもいなかった。ーーだって仕方ないでしょ?
もう一人自分がいればなんて、期待することも馬鹿らしい望みだったのだからーー。




