5話 装備調達
外は陽に照らされ、白い家屋がより白く光る。この国にはなぜか白い建物しか建設していないようだ。白い建物が、地球にいた頃に見たヨーロッパのどこかの国の風景を思い浮かべさせる。
店があちこちで、「安いよ安いよ~」「今日は特売セールだよ!」とか宣伝をしている。俺たちはその道を歩いていた。
ふと隣を見ると、華凛が深沢と何かの話題で盛り上がっている。深沢水緒。華凛の数多い親友の一人で、面倒見のいいお姉さん系の女子である。
聞き上手と穏やかなのような、良い性格に加えて、モデルのようなスタイルと美貌を持っていることもあり、小学時代は年齢が幼いながら大規模なファンクラブができた。との噂がある。
その環境でも堂々としているからこそ、先生からの人望もすごかったらしい。華凛もよく水緒に愚痴やらなんやらを聞いてもらっているとのこと。そんな人がパーティーにいるのだ。これは頼もしい。
「ねえねえ!それでこれから何処に行くのっ!?」
華凛が先頭を歩いていた岡部に話しかける。岡部一佳はこのクラスの学級委員長だった。俺は高校生からの、しかもここに来てからのこいつしか知らない。しかし、コイツは華凛と同じ中学だったらしい。華凛が言うには、彼は休み時間にも勉強をするという『超ガリ勉くん』だ。優等生っぽく丸渕まるぶち眼鏡をかけていていかにも恋色沙汰には興味なしと、目が物語っていた。勿論、成績(五教科)は常に学年トップであったのこと。優等生が仕切るのはまあまあ分からなくもないが、頼ってはいけないと思う。優等生はただ相手の知らないことを教えるだけのロボットになり、教わっている者は自分で調べることをやめて、人に頼りすぎる人間になってしまう。
俺はそんな人間にはなりたくない。
「そうですね…まずは剣などの武器を買ってからテントなどの生活用品を買っていくべきかと……」
優等生が言った言葉に誰も否定的な言葉を発することはなかった。しかし、彼の言う通り先ずは武器を買うべきだろう。
(俺としては嫌なんだが…他の奴が賛成しているからどちらにせよ多数決の原理で決まるからな……)
武器を買ってからなのは賛成できるはずなのに、俺にそれはできなかった。岡部と同じ考えであることが嫌なのかもしれない。
「あの辺の武器屋にしようぜ!」
岡部の取り巻きの一人が言うと、取り巻きたちは一斉にそちらに行ってしまった。ここではぐれてはこれからの予定に支障が出る。そんなことにはなりたくないので、致し方なく俺達は後を追った。
「らっしゃい!」
店に入ると、ハg……スキンヘッドのおっさんが野太い声で俺達を歓迎した。
その店は外見上小さく見えたが、店内に入ると意外と大きく感じた。壁の色が白いため、目の錯覚なのかと思う。
余談だが、壁の色に純粋な白は絶対に使わない。何故かと言うと、実際に塗ってみるとよく分かる。純白よりも少し色が入った白の方が明るく見えるのだ。原理はよく分からないが、恐らくこれもそうであろう。まったく。目の錯覚はおもしろい。
早速、俺達は興味のある武器を手に取り選び始めた。興味があるとは言っても、使えない武器は選ばないようだ。剣士なら剣士らしく剣を取り、魔術師なら杖をとる。自分がどの武器をとれば有利になるのは基本中の基本である。それを見た俺は一瞬ホッとするが、直ぐに気持ち改め気を引きしめて武器選びに専念した。
「へぇ……」
俺は店に並べられている武器を見て、思わず感嘆の声をあげた。武器の見所など分からないし、今回見たのが初めてではない。それなのに、俺にはここにある一つ一つの武器が、素晴らしく良いもののように感じた。
俺は取り敢えず、本に載っていた『初心者おすすめの剣』である鉄の剣を手に取り、スキル『鑑定』を使う。
鉄の剣
ATK+10
重さ軽減Lv1
そんな武器のステータスが出てきた。他の鉄の剣も調べたのだが、『重さ軽減』がついているのは、この剣を含めて二本のみだった。よし。これにするか。
俺が決めると、他のやつらも決まったのか、自分の使う武器を持って近くにいた水緒のところに集まってきた。俺もそこに行くと、岡部の持っていた剣に目がいく。
龍殺しの剣
ATK+50
DFC-50
攻撃力大幅上昇
命中率大幅減少
……ああ、諸刃の剣か。
「で、皆さんはどのような武器を選んだのですか?」
岡部がそういうと、皆が手に持っている武器を見えるように持ち変える。女子側は、華凛に事前に注意しておいたお蔭か、バランスの悪い武器を持つ者は居なかった。全員が初心者用の武器を持っている。
対して男共は、魔剣【レーヴァテイン】だの、戦神斧だの、明らかに上級者が扱う武器を持っている。名前にひかれたのが直ぐに分かる。これには女子からも軽蔑の視線が。
「お前ら馬鹿なのか?何故そんな強い武器を取る」
俺の言葉に男子は「はぁ?」とでも言いたげな顔をして、
「強いから使うんだろ?それにしてもお前、鉄の剣って…まあ、お前みたいな脆弱野郎にはお似合いな武器だな」
岡部の取り巻きがその言葉に反応し、ドッと笑いが起こる。これを言った本人の岡部はその光景を見て、俺を鼻で嗤う。
それにしてもこいつらは本当に馬鹿だ。リドルさんはLv上げとは言っていたが、それはあくまでもリドルさんの、デウサルボルに住む住民たちの一般論であり、俺たちには当てはまらないものだ。
ならば、今回一番重要なのは長時間で敵を倒すことだ。魔物からも当然の如く血が出るわけで、血に慣れていない俺達が見たら、一瞬動きが止まったりする可能性がある。だからこそ、血になれるために血だらけになった魔物を倒す必要がある。
「まあ、武器は勝手にしたらどうだ?俺はこれ以上なにも言わない」
俺が感情を抑え言うと、あいつらは俺を睨んできた。所詮、ゲームを遊び事と考えていた奴等だ。俺の言うことなど理解できるはずがない。スキンヘッドのおっさんはなにか言いたげな顔をしていたが、なにも言わずに会計を始めた。
「おい、お前!」
俺らが店を出ようと歩き出すとおっさんが大声で言った。全員が反射的に振り返るが、おっさんの視線は───
「俺?」
人差し指を自分の貌に向けて俺は聞く。すると彼は頷いて口を開いた。
「ちょっと来てもらおうか」
厄介なことに巻き込まれたかも…