4話 ここは俺の家
この世界に召喚されてから早くも2週間が経った。相変わらず俺は資料室の本を読んでいた。この2週間で読んだ冊数、20冊はあるだろう。一日中、読書のみならば、今の倍は読めるかもしれない。しかし、知識あってもそれを活用できないのでは知恵の持ち廃れ。故に、実力も必要とするのだ。人並み以下のATKである俺が敵に攻撃するのだから、それなりの剣術やら槍術やらが必要となる。
俺は専用職を持っていないのだから一つの武器に拘るべきではない。俗に言う器用貧乏でもいい。兎に角、多くの武器が使えるようになれば少しは生存率が上がることだろう。
そんなわけで、幅広い武器の扱い方を習い、練習したりしている。3日前あたりからは、リドルさんをはじめとする多くの騎士が練習に付き合ってくれるようになっていた。熟練者からのアドバイスはやはり素晴らしいもので、俺の実力もぐんぐんと上がっているはず。
一方で俺に関わる勇者の数は相変わらずだ。どうということはないのだが、正直練習くらいには手伝って欲しい。まあ、俺と闘いたい・・・・奴はいても、練習に付き合うような物好きはいないのだから仕方ないと言えば仕方がない。
そんなこんなで俺は対人戦を殆ど経験していない。騎士からは教わっていただけで、実践は滅多にしなかったのだ。そこはこれから俺にとって弱点となり得る所だ。個人的に早く対策を打ちたいのだが…。まあ、自分から言うならばそんなことしなくてもよいが。
そんなこんなで過ぎた2週間であるが、そのぶん収穫も大きい。
先ず、ここについての知識を得た。
前から言っている通り、ここは『デウサルボル』と呼ばれている世界である。大陸は鏡に写したかのような瓜二つの大陸が、北と南に存在している。我々がいる人間が住まう大陸が南側だ。
デウサルボルには全部で10の国があるらしい。ちなみにいま俺達がいるのはケテル王国と呼ばれている国らしい。大陸上では最北に位置している。
ここは、地球に比べて科学技術の遅れがある。魔法があればそれは科学技術の発展に影響すると考える者も少なくないだろうが、ここにあった書物によると、魔法は科学の発展上に出来上がったものと、偉大なる創世神がこの世に生み出した軌跡、の2つの考えがあるらしい。俺としては、前者を信じたいものだ。
とは言っても、俺は無神論者ではない。ただ、神々が戦争の引き金をつくったとして、それを処理しないのが信じられないのだ。
ここで少し戦争について説明したいと思う。そもそも戦争は、資金源や国の力を誇示するために行われるのが大抵なのだろうが、ここでの戦争は、魔術師の使い方についてだ。魔術師は元々人数が少なく希少な者だったのだ。力を持たない非力な者達は戦ってくれるのを望んでいた。対して魔術師は魔術は殺しのためにあるものではない。と主張していた。双方が共に主張を変えないために、最後は戦争になってしまったのだ。
そして長い戦いに終結を迎えさせたのが、平民たちの英雄フレイ・グリムロードだ。彼は一般的に聖剣と呼ばれている武器エクスカリバーを用いて悪を断ち切ったと言われているらしいが、魔術師は本当に悪だったのだろうか?
まあ、それは置いておいてだ。かれこれ2週間ここでの生活をしてきた我々はリドルさんから呼ばれたのだ。
「明日からLv上げのためにパーティーを組んでモンスターと戦ってもらう」
その言葉を聞いた周りの反応は大きく分けて2つだった。
モンスターとの戦いと聞き、興奮の反応を示す者。それを白い目で見ている者の2つだ。因みに、前者は男子、後者は女子である。
「おいおい、友樹、やっと戦えるんだからもっと喜べよ~」
俺の隣に立っていた男子が話しかけてきた。顔はニヤけており、脇腹当たりを肘でつついてくる。ちょっかいを出してきているようにしか感じない。名前は覚えていない。興味がないからな。もっとも、覚えても使うことなど殆んどないのだが。
ちょっかいを出してきてはいるが、明らかに悪気はない。彼の顔を見ればそれは直ぐにわかることだ。彼はニヤニヤしていて、裏なんてまるでないような顔である。悪く言えば、表情を隠さない馬鹿とも言える。
これ以上無視するのは失礼なのかもしれない。そう思った俺は思ったことを口に出す。
「俺はそんなに戦えないし、そんな楽しみじゃないんだよなぁ……」
「あ、すまん。そう言えばそうだったんだよな……」
俺の台詞で自分が禁句を発言していたことに気づいたようで、彼はハッとした顔になり、掌を合わせて『ゴメン』のポーズをする。見ていて思ったのだが、これを使う人って本当にいたんだな。漫画や小説の世界だけだと思ってた。
「気にしなくていいって。それに別の意味で楽しみだからな」
「……?」
俺はそう言うが、相手はまだ納得がいくものではないだろう。相手のコンプレックスをついてしまったのだから、罪悪感は当然持っている。
しかし、俺の中で彼の評価は微々たるものではあるが、確実に上がっていた。自分の中でそんな変動があったことなど知ることなどできないのだが。
「パーティーはこちらで決めさせて頂きました。戦力が偏るのは致命的ですからね」
リドルさんが言い終わると同時に『えー』と批判の声が聞こえてくる。7割くらいがその反応をしている。因みに華凛たちも7割の中に入っている。小学生かお前らは。と言いたいところだが、あいつ等は仲のいい友人がいるからな。そういう反応になるのだろう。俺にも仲がいい人がいればそっちかもしれない。
対して残り3割は自立組とでも言えるような……一部を除けばだが。優柔不断君が沢山いるな。
騎士の人たちもその反応に困っているような表情をしている。騎士長であるリドルさんだけがそうなることを予想しているかのように冷静さを保っている。流石は騎士長だな。勇者共あいつらにも見習って欲しいものだ。
あ、でも冷静沈着なこいつらって……気持ち悪いかもな。やっぱさっきのなしで。見習わなくていいから。
「パーティーについて説明します。今回は勇者様が40人と大人数ですので8人で1パーティーとします。パーティーメンバーの発表時に、パーティーのリーダーも発表させていただきます」
本で読んだのだが、基本、パーティーは5人で1パーティーなのだが、この大人数だと8パーティーになる。それを監視する騎士の人手のことを考えると、なるべく少なく、一人で監視する事が可能な人数と言うことで、8人なのだろう。
それに加えて、今回が俺らのデビュー戦になるわけだ。安全面を第一に考えればこうなるのは当然のことだろう。
「同時にこのパーティーで血に慣れていただきたいのです。モンスターからは当然切れば血が出ます。それで動きが止まるのはとても致命的なので血には必ず慣れるようにしてください」
召喚される前の俺らは平和な日本で、戦争、殺戮とは無縁の日常を過ごしてきていた高校生(と引き籠もり)だ。そんな平和で心が緩んでいる俺らにいきなり戦闘など馬鹿げているとは思ったものの、それほど時間がないのかもしれない。
そして、何よりも恐ろしいのは、殺戮に対する恐怖や畏怖ではなく、殺戮に対する罪悪感だ。
どんなに平然にいようとも罪悪感は確実に持つものだ。それに押し潰されないのか、それが不安でならない。
「まあ、細かい話は後でするとして…パーティーを発表する」
リドルさんがそう言うと、周りがシン……と静かになる。ここを聞き逃すのは回りに聞くことになる。思春期の俺らにとってそれは店に母親と一緒に来ていて、お菓子を買っているのを好きな女子に見られるくらい恥ずかしい。そんな事になるくらいならって感じだ。
「第1パーティーから発表します。───」
パーティーは結果的にこのようになった。
第1パーティー
中井友樹(俺)
舞田華凛
高橋奈津美
岡部│一佳
深沢│水緒
……と、その他
第2パーティー
伊藤竜彦
鈴木美久
川津美華
神埼明菜
斎藤│瑠奈
……その他
第3パーティー
紺野真弓
藤崎彩花
……その他
第4、5パーティー
……その他
その他については突っ込まないで欲しいものだ。俺には他の奴なんて気にする必要がないし覚える意味がないからな。因みに女子が多いのは、華凛との付き合い上に起こったことで、気があるわけではない。決してだ。
「これからの1週間はこのパーティーで行動してもらう。その1週間はここへ帰ることは一部を除いて許さない」
その言葉を聞いた生徒の中から批判の声が聞こえてくる。「俺の家を奪うなぁぁぁ!」とか言ってるが、お前の家はここなのか?
「先ずは武器が必要になるので、それ用の金銭をリーダーに渡しておく。各パーティーリーダーは来るように」
第1パーティーのリーダーは何故か俺だった。もっと適任な人がいるだろうに。
取り敢えず、一人辺りに銀貨100枚、つまり800枚渡された。この銀貨一枚にどれほどの価値があるのか分からないのでどうしようもないのだが…。
タイトルでわかる通り、遊んでます(真顔)