Prologue 4
「さて、勇者殿よ、この世界が今、どうなっているか分かっておるな?」
「「「「はい!」」」」
俺達の返事に、王様は満足気に頷く。
「我々のために戦ってはくれぬか?」
「いや、しかしですね……何で僕たちなのでしょう?僕達は戦いとは無縁の世界の住民だったんですよ?」
委員長の一佳が言う。確かに彼の言う通りだ。俺達の住んでいた日本は、戦争を約70年間放棄してきた超平和国家なのだ。戦いと無関係であるなら、当然、戦闘訓練など受けていることなどありはしない。そんな俺達に、いきなり戦えだなんて無茶ぶりもいいところだ。呆れるを通り過ぎて軽く嗤ってしまいそうだ。
「しかしのぅ……」
「あーあ、勇者様はモテるのになぁ(棒読み)」
騎士のうちの誰かが、外道な事を言いやがった。まあ、男でもこんな分かりやすい罠に引っ掛かるやつなんているわけな─────
「分かりました!やりましょう!」
(…………………いた)
騎士の言葉に乗ったのは竜彦である。どうやら頭がいかれてしまったらしいな。こんな罠に引っ掛かるやつなんだからそうなんだろう。
しかし、竜彦は隣から来る冷たい視線に気づいていないのだろうか?それとも、そんなことでは動じない程、神経が図太いのか…。
しかし、こいつも変わったもんだな。半年でここまで変わるなんてな。人間変わるとは言うが、これはいくらなんでも変わりすぎだと思う。
半年前の竜彦は、キョロキョロと回りを見る挙動不審のような行動をするようなやつだった。いじめになると、二重人格者のように180度違う性格になっていたが。あんなやつが今となっては自信満々に、仁王立ちしている。昔の影なんて残っていない。
つうか、隣の女ってあいつの彼女だろ?もう少し気にしてやれよな。
「え?美久ちゃん、竜彦くんと付き合ってなんかないよ?」
「え?」
(あの女、美久、だったか?あれは彼女じゃないのか?あれは明らかに恋人同士の行動だと思う)
俺は竜彦と美久が指と指を絡ませる、所謂いわゆる恋人繋ぎをしていたところを思い出している。ここに来るまでの廊下で、たまたま、さ・り・げ・な・く・繋いでいるところを見たのだ。だとすると、あれはスキンシップということになる。あり得ない!あれがスキンシップだとっ!?
「あれ、美久ちゃんの片思いだから」
(ああ、竜彦が鈍感のパターンか。どこの主人公だよ。しかし、竜彦のどこがいいのやら。あれか?強さに惹かれたとか、そんな感じか?強けりゃいいってもんじゃないと思うんだけどなぁ)
「まあ、そうなんだけどね……」
華凜はなにか、言いづらそうにしている。恐らく、美久が竜彦を好きになった理由が、俺が気に入らないような内容なのだろう。例えば、俺をいじめているのを見て、とか。
「まあ、そんなのはどうでもいいか。─────ところで王様、俺を外に出してくれませんか?」
「何故じゃ」
俺の要望を聞いた瞬間、柔らかかった王様の表情が険しくなる。流石にこれを言うのは早かったかと思ったが、王様の質問に答えないのは失礼に当たるだろう。
「自分は他の勇者とは仲が悪いんですよ。ここまま私がここにいたら、要らない争いを生むだけです。そんなのは王様も嫌でしょう?」
俺の言葉に、竜彦達は俺を忌々しそうに睨み付け、極小数の勇者等は、申し訳なさそうに俯いている。そんなに申し訳ない表情をするなら、なぜあの時助けようとしなかった?、あの時竜彦達と一緒になって俺を虐めていたのはお前らだろう?なのになぜそんな顔をする?
俺には全くもってこいつらの心情が理解できない。まあ、したいとも思わないが。
「残念ながらそれはできません。我々も勇者様のお願いはなるべく叶えて差し上げたいのですが、勇者様は全員いないと魔王は倒せないと言われています」
(…………嘘だな)
王の側近か何かだろうが、高価な服を身に付けている老人がそんなことを言っていたが、俺には嘘にしか聞こえなかった。まず、「全員いないと」という部分が、他のところと比べて、声が小さくなっていた。
それに加えてこの人は、先程から姿勢がよく変わる。これは人が嘘をつく際にする行為の1つでもある。
しかし、王の側近位の地位を持っているのだから、嘘をつくのもお手のものなのだろう。これだけでは確信は持てない。確かめてみようか。
「話は変わりますが、ニヴルヘイムという村があるのは知ってますよね?」
デウサルボルには、一般的に国と呼ばれている場所は非常に少ない。それ以外は、村と呼ばれている。市はないらしい。
ついでに言うと、ニヴルヘイムという村があるというのは勿論ジョークだ。元ネタは皆さんご存じの『北欧神話』。オーディンや、ロキ、スルトが出てくるあの神話だ。
なかなか答えてくれない。少し急かしてみようか。
「もしかして、知らないなんて事はないでしょうね?」
「ええと、『ニヴルヘイムという村があるのは知っているか』だったかな?……あ、ああ!あのニヴルヘイムか!あの寒いところだな!」
この男の偶然は侮れない。
あながち間違っていない答えに、戦慄を覚える。
今の言葉で、これが実験であることが分かるのは、この中にはいないだろう。みんな頭に『?』をつけているのだから。
だが、これが俺が外に出れるきっかけには繋がらないという、肝心なことに気付いた。そう。どうやら俺は無駄な時間を作ってしまったらしい。
□□□
「それでは皆さん『ステータス』を開いてください」
(へえ……ステータスがあるのか)
ゲームのようだなと俺は思っていた。だが、油断はならない。勇者の出てくる話には大抵、こう考える人物は一人以上いるものだ。そして、その人死ぬ確率が高くなる。即ち、死亡フラグ。俺はこれを現実として受け止めることしか選択はなかった。
「「「「ステータス?」」」」
どうやらこの勇者の中で『ステータス』が何なのか分かっているのは俺と、一部の男女のみだった。女子なら兎も角、男子がステータスを知らないとか……どんだけ勉強熱心なんだか。
「『ステータス』とは自分の能力が数値化されて、表示されるもののことです。皆さん、『ステータスオープン』と言ってください。」
「「「「ステータスオープン」」」」
ナカイ トモキ Lv1
sex:男
job:本当に勇者かよ(ーー)
race:人間……だよね?( )
HP:10
MP:100
STR:10
INT:20
DEX:15
MND:10
AGI:25
LUK:
Skill
『能力透視眼』
『磨けば輝く Lv1』
Extra Skill
『鑑定』( )
『自動言語翻訳』
『自動文字翻訳』
『神眼 Lv1』( )
「クソッ!あの女。何が必要ないだよ!これのどこがだよ!」
自分のステータスが理想とはあまりにもかけ離れていて、つい、苛立ちを言葉にして吐き出していたようだ。回りにいる全員が俺の事を驚いた顔をして見てくる。あれだけ大声を出してしまったら、こうなるだろう。数秒前の自分を責めていた。
「「「「「ぷっ、ハハハハハハハハ!!!」」」」」
いきなり、豪快な笑い声が部屋中に声を響かせた。笑っているのは竜彦とその取り巻き達だ。そいつらは俺を指差して大爆笑している。それを見れば、何故笑っているのか、安易に分かることだろう。
「ATK10、MND10ってゴミキャラかよ!ネタキャラですらねぇし」
竜彦が俺に向かって言ってきた。俺はそれに対して、怒りよりも、疑問の方が強く出た。
(何故、俺のステータスが分かるんだ!?)
そこまで考えて、俺は一つの可能性にたどり着いた。それを確認するために、ステータスを再度、確認する。スキル欄を見ていると、やはりその手のスキルが存在した。
『能力透視眼』
レア度☆☆☆☆☆ファイブスター
・対象者のスキルを見ることが可能性になる。
・同位、またはそれ以上の隠蔽スキルを所持している相手には効果がない。
・同系統スキル『物理透視眼』。←このスキルは男の夢が詰まってるよ!
最後のはどうでもいいだろう。戦闘に実用性のないスキルは、今は必要ない。
やはりこれが原因だったようだ。俺は竜彦の事を『能力透視眼』を使用する実験台にすることにした。
イトウ タツヒコ Lv1
sex:男
job:勇者/剣士
race:選ばれし者
HP:100
MP:100
STR:150
INT:100
DEX:150
MND:100
AGI:100
LUK:100
Skill
『能力透視眼』
『火魔法 Lv1』
『選ばれし者』
『全能力上昇 Lv1』
Extra Skill
『鑑定』
『自動言語翻訳』
『自動文字翻訳』
「はあ!?」
俺との能力が違いすぎる。こいつだけが強いのか?と思い、竜彦の隣に座っていた美久の能力を見る。異性のステータスを覗くのは、イケナイ事をしているような気分になるが、これは実験だと自分に言い聞かせる。
スズキ ミク Lv1
sex:女
job:勇者/魔術師
race:選ばれし者
HP:50
MP:200
STR:50
INT:200
DEX:100
MND:200
AGI:100
LUK:100
Skill
『能力透視眼』
『火魔法 Lv1』
『水魔法 Lv1』
『雷魔法 Lv1』
『風魔法 Lv1』
『土魔法 Lv1』
『選ばれし者』
『魔力上昇 Lv1』
Extra Skill
『鑑定』
『自動言語翻訳』
『自動文字翻訳』
「グハッ!?」
それを見た俺は、精神的なダメージの大きさで苦悶の声を出した。俺はその後も襲い来る精神的なダメージに耐えながらも、他の人たちのステータスを見ていった。結果、分かったことがある。
俺のステータスが異常に低い。
(俺だけかよ!?ストレングスが10とか村人かよ!?どこのクソゲーだよ)
『磨けば輝く』……そう言えばこんなスキルあったよな。これと『神眼』は他に誰も持っていなかった。よし。磨けば輝く。さぞ素晴らしいスキルなのであろう。EXP補助とかあってほしいものだ。
『磨けば輝く』 (レベル1)
レア度☆☆☆☆☆☆☆アンノウン
・ステータスを極限まで減少させる。
・スキルレベル成長速度減少。
ただし、─────
(ああ、俺のステータスの低さはこの忌々しいスキルのせいなのか)
後半の方は文字化けしているせいで、読み取ることができなかった。しかし、今までの説明でろくなことが書かれていないことがあるため、興味は湧かなかった。と言うか、見たくない。
(さて、これからが問題かな。面倒すぎる。ステータスがこんなに低いからな。雑魚敵一匹にも全神経を集中させないとやっていけそうにない。生きていくのも一苦労になりそうだな)
これからの事を考えると、気が遠くなりそうだ。
まあ、それは仕方がない。ステータスどうこうで、いつまでも愚痴を言っている場合ではない。一刻も早く強くなる方法を見つけなければ。
村人が魔王を倒せるような戦術、経験値を効率よく獲得する方法。これから調べなければならないことは沢山ある。
少なくとも、回りの勇者どもの力を借りなくてもいいようにしなければ……。
2025/1/4 一部修正・改筆しました。