31話 故郷の味
皆様お久しぶりです。
お楽しみにしていた方、お待たせしました。
半年ぶりの投稿となります。
最近は多忙で執筆も余りできない状況。
ですが最後まで書くつもりですので、お付き合いお願いしますm(_ _)m
(書き溜め10話程度あるとか言えない)
「らっしゃい」
件の料理店へと入ると厳つい声が店中から聞こえる。調理は男、受付は女という傾向がある料理店には珍しい従業員全員が男という店であった。
そして厳ついのは声だけではない。
「な、なんか筋肉ですね」
アリアが意味不明なことを言う。
筋肉。料理店に入って第一声がこの言葉というのはどうかと思うが、つい口にしてしまったのは誰もが理解出来るだろう。
どこぞの王城で見た筋肉に酷似したものを持っている……あの時の言葉を借りるのであれば、それは『ニンニクの塊』であった。
「なぜに全員が筋肉マッチョ……」
ニコルが呆然として呟く。
調理師なら辛うじてわからなくもない。だがしかしだ、なんで顔がマッドサイエンティストみたいな奴らがゴリラみないな体躯になっているんだ。非常に理解し難い。
「何というか……清々しい店だな」
オブラートに包んだ表現でクロムが言う。彼の包んだオブラートの中身は『違和感を通り越して気持ち悪いが、それとは真反対の美味そうな匂い。女子力の高いトッピングによって脳が混乱するため清々しく錯覚している』である。
このまま入口を塞いでいたのでは他の客に迷惑がかかると近くの席に座った。
「お冷で御座います。この店に入るのは初めてですかな?注文がお決まりになりましたら隣の席の御三方と同じように呼んでください。メニューはコチラに」
見た目はゴリゴリでも対応は紳士であった。
カームやクロム、ユリが居ずらい雰囲気を醸し出す中、1人だけはしゃいでいる者がいた。
「わぁ〜凄いです!これが『わしょく』なのですね!」
「正確には和食と言うらしく、勇者様曰く『遥か東方の地にある黄金の国の食べ物』との事でごさいます」
あながち間違ってはいない。
だが、この世界ではない所の。という文が入ればだが。
そんなことを考えていると、ユリが服の裾を引っ張った。
「ユキ、何食べる?」
そう言ってメニューを渡してくる。
カツ丼、カレーライス、寿司、すき焼き、焼きそば……
それには懐かしい料理の名前が書かれている。その右側にはイメージ写真が添付されており、これらの料理を知らない者が多いこの世界で人気を博した第2の要因だろう。
勿論1番の要因は噂であろう。
新聞やインターネットといった情報設備が充実していないのだから、人から聞く以外に知る方法はない。
ここで料理を食べた者が他の者にその珍しい料理を教え、美味いと感想を述べれば、それはいつしか事実から噂へと姿を変える。実物を見ていない人がそれを伝えるのだから当たり前だろう。
「取り敢えずカレーかな」
この世界に来てから辛い料理を何一つ食べていない。宮廷内でそのような料理が出るとは思っていなかったが、外に出てもそのような料理がないため、スパイスが恋しくなっていたのだ。そんな状態で機会が訪れたのに頼まない者がいるだろうか。
「なら私も、それ」
ユリはどれを食べていいかわからなくて、俺と同じものを食べようと思っていたようで、俺と同じカレー。
クロムは大ボリュームのすき焼きを選び、ニコルは寿司、カームとアリアは蕎麦にした。
「なんかおまえら見てると妹のこと思い出すな」
「え、お前妹いたのか」
カームの言葉にクロムが驚く。
「あいつ俺にいつもピッタリくっついててな……ほんと可愛やつでさ、いつも『お兄ちゃんお兄ちゃん』って言ってたんだ」
「へー、あんたに妹……しっかり者そうだね」
ニコルの言葉に当たり前だ!と激しく同意するカームに苦笑いするアリア達。
その言葉の裏には「こんな兄を持っているのだからさぞかし大変な思いをしているだろうからしっかり者なのだろう」という意味が孕んでいる。
「あいつと一緒にいるといつ転ぶかわかんなくてさ……あいつ病弱ですぐ病気にかかってたからさ、体力ないもんで」
カームの嬉しそうに話す姿にアリアが妹さん、大好きなんですね。と微笑む。カームの妹自慢によって雰囲気はだいぶ和んでいた。
□□□
「お待たせ致しました」
テーブルに並べられた料理に目を輝かせているアリアはさながら欲しかったおもちゃを買ってもらった子供のようであった。
その表情に嬉しそうに微笑むマッチョが食べ方を説明する。
当たり前といえば当たり前だが、この世界にない料理であり、似た料理がないのだから、当然食べる方法が分からない。
一通り説明を終えると一礼をしてカウンターへと戻っていくマッチョにはやはり違和感しか感じない。
「いただきます」
「いただきます……?」
両手を合わせて俺がそう言うと、ユリも真似をして言った。なんのための言葉なのか理解していないのか語尾が疑問形になっていた。
「なんだそのいただきますって」
クロムの言葉に、俺の故郷の言葉で『この料理を作ってくれた人、食材を育てた人、そしてこの食材の命に感謝を込める……儀式みたいなもの』だ。と伝える、
「んなの初めて聞いたな……どこの田舎だよそこは」
「……クロムにとってここの文明の倍は進んでいる国が田舎なのか」
「な、なら皆さんもやりましょうよ!……いただきます……?」
クロムの言葉に意地悪に返すと、アリアが話題を変えるかのように話に入ってくる。
このまま彼をいじり倒していてはせっかくの食事が冷めてしまう。アリアの言葉に救われたクロムはホッと一息。
「何だこの紐みたいなの……これが蕎麦なのか?」
「確かに細長い紐状の物だとは説明されましたが……」
これがカームとアリアの第一印象のようだ。
掴んだ蕎麦をつゆに付けて恐る恐る口へと運ぶ。
「っ!?」
口に入った瞬間、彼女達の表情が変わった。
口にせずともそれが美味いか不味いか彼女達の表情を見ればわかる。
「美味いのか……」
「ラーメンも興味あるんだけど、とても胃袋に入りそうにないし」
いつの間にか寿司を食べ始めていたニコルが喋る。
クロムが「お前なら入るだろ」と言うと同時にニコルの鉄槌が下された事は言うまでもなかろう。
「助けてくれぇぇ」
突如店のドアが勢いよく開かれ、一人の男が必死の相形でぜぇぜぇ息を切らしていた。1人の店員が男の前に行き説明を求めると、彼は今にも死にそうな顔で叫んだ。
「ベヒーモスがぁ……ベヒーモスが、、、ああぁぁぁあああぁぁぁぁ!!!」
□□□
マルクト王国内の冒険者ギルドは城から南方にあり、多くの冒険者がその中で各々の目的のために働いていた。
ここではいつもよく見る光景だ。
しかしこの日はそれとは異なっていた。
「ベヒーモスだぁ!?」
「災害級の被害が出る事は覚悟しておいた方がいいな……」
ベヒーモス。その名を聞いて知らないという者は情報を制限されている勇者ぐらいであろう。
それは災厄に並ぶとされる災害の一種とされ、奴か暴れれた場所が地図から消えるとまで言われている。その凶悪さから別名『魔王の眷属』と呼ばれているとの事だ。
「ベヒーモス……なんでこの時期に来るんじゃ……」
「おじさん、それどういうことだ」
隣のテーブルの老人の言葉に違和感を感じた俺は彼に問う。
「奴は200年に1度だけ姿を現すと言われておるんじゃ……前回現れたとされておるのは50年前じゃ……いくらなんでも早すぎるんじゃよ」
ベヒーモスは200年に1度だけ姿を現す。これは初耳だ。
つまり、言葉を変えれば200年に1度だけ姿を現さず負えない事が起こっているということだ。それがなんなのか、全くわからない。
「あぁ、いよいよこの都市も終わるのか……」
「この都市も……?」
まるで既にひとつの都市が潰されているかのような言い分にユリが疑問を抱いたようで、首を傾げている。
「なんだ?知らないのか。ネツァクってあるだろ?」
ユリの疑問に答えたのはクロムだった。
ネツァクは俺達が次に行こうと思っていた都市の名前だ。かつては竜王が統治していた最強の帝国都市とまで言われた国家だったのだはずだ。ケテル王国の文献では『竜王を失い、滅んだ国』都市としか書いてなかった。
「あそこはな、竜王って化け物みたいに強い『魔王』みたいな奴がいたらしいんだ。……いつかは分からんが、その国が一日にして滅んだらしいんだよ」
「……は?」
一日で国家を殲滅?ありえない。それが出来るとすれば神か魔王か、災厄くらいだーー
「ベヒーモスが、やったと?」
「ま、ちょうど800年前くらいじゃないかって推測されてるわけだ」
そう言ってクロムは俺に教えてやったぞ?俺ってすごいだろ?とばかりにウィンクしてくる。
「クロム、きもい」
「教えたのにキモイはないだろ……」
「教えたことはきもくない。ウィンク、キモイ」
ユリの容赦ない正論を突き刺されたクロムはガックリとその場に膝をついて落ち込んだのだった。




