30話 短剣の在処
皆様お久しぶりです。
だいぶ期間が空いてしまいました。
今年入ってから改筆を何度か行っていましたが、投稿自体は9ヶ月ぶりとなります。
不定期作品となりますので、今後もこのようなことがあるかと思われますが、本作品をこれからも宜しくお願い致します。
「あ、あれですか?」
襲撃があって数日で目的の地、マルクト王国に到着した。
襲撃者の3人の腕には腕輪のようなものが着いており、それには何かしらの魔法が施されてあったようだ。現在は既にその魔術は消えてなくなっており、どのような魔術が組み込まれていたのかは分からないが、毒針のようなものを飛ばす能力だったのだろう。彼らはその毒によって殺されたと考えられる。
彼らは恐らく冒険者のため、ギルドに死体を持っていくこととなった。原則、冒険者の死体を発見した際はギルドに提出、または本人と判定できるものを持ち帰るという暗黙の了解が存在する。規定にすらないそのルールは冒険者どころか、行商人すら遵守するルールと化しており、いつしか常識の行為となったようだ。
「何だか色々あったが、無事ついてよかったぜ」
カールが馬の上でうつ伏せでぐったりしながら言う。何がしたいか分からないが、こいつはほとんど馬の上に乗っている割合が多かった。
「着いたらそこでかいさ――」
そこで解散して俺が1人で報酬貰うから。と冗談を口にしようとしたクロムの台詞を言おうとした所、アリアが悲しそうな顔をして口を開く。
「せっかく皆さんと仲良くなれたのに悲しいです」
もっと一緒にいたい。
彼女の言葉にクロムも口を閉ざした。彼女の経験はまだ浅い。故に、冒険者とは出会いと別れを繰り返す職業だと理解していないのだろう。
彼らにとってはこの出会いと別れは仕事上、切っても切り離せないものだとすでに割り切っていることだが、日の浅い彼女にそれを言っても通じないと判断したのだろう。
「なあ、別に当分ここで稼いでいくんだしここを出るまでの条件付きならいいんじゃねぇか?」
カームの言葉にパァと顔を輝かせた彼女に、苦笑する二コルが「それならいいんじゃないかい?」とクロムに一応の許可を求める。腐ってもリーダーはクロムだ。彼女一人の判断で決めていい内容ではない。
まだこのメンバーでともに過ごせると分かった彼女の笑顔を壊す真似はできない。俺はここに着き次第イェソド共和国から北東方面にあるネツァクへと向かうつもりでいたのだ。
彼女の無垢に笑う表情を見てそのことが言えようか。
「ユキ、たまにはゆっくりしたほうがいい」
ユリが無表情で呟いたその言葉に同意せざる終えなかった。
□□□
「目的、忘れていないだろうな」
「ええ、もちろんですよ……それより、アレの準備は整っているんでしょうね」
マルクト王国の端にある小さなスラム街。王国では金銭面の補助をはじめとする貧民救済処置を行ってはいるものの、ギャンブル依存症等それらの補助を異なる目的に使ってしまう者が数は少なれいる。彼らは未だにその最小限の生活すらままならない環境から脱さずに過ごしていた。隣の家に押し込んで暴力、金銭を奪い取る行為。迷い込んだ少年少女を攫い、違法に取引を行って金を儲ける者。所構わず好みの女性に襲い掛かる男。これに関していえばスラムでは比較的よく見る光景だ。
だが、いかにも高そうな服を着込んだ肥満体系の男とローブで身を隠した男がこのようなところで話し合うなど、普通のスラム街ならあり得ない光景であった。
「アレなら3本ほど準備できておりますよ。アレを使えばどんなに強いモノだろうが数秒で」
そういって肥満体系の男は合掌しローブの男に視線を向ける。ローブの男はそれを受け取り、対価を支払う。
ローブから一本の瓶が出てくると、餌を前にした動物のようにその瓶を奪うようにして取った。
「これが……」
まるで神薬を手にしたかのような物言いに嗤いをこらえきれずにクククと声が出たローブの男の言動に苛立ったのか男はサイズの合っていないスーツのボタンをはずそうと手を近づけるとパツンッとボタンがはじけ飛んだ。
それを見ていたローブの男はその液体を早く飲んでみたらどうだと催促する。それを別の誰かが見れば早く飲んでくれないことに焦った様子のローブの男を怪しく思ったことだろう。
だがここにはこの男たち2人しかいない。肥満男に少しでも心に余裕があれば彼は飲むのを躊躇ったはずだ。しかし、彼はサイズの合わない服を着てきてしまったことへの羞恥からか、興奮状態にあり正常な判断ができない状態だった。
「?……何も変わらないじゃないか」
彼は自身の手を見て呟いた。男は「変化は自分では分からないですよ」
それもそうだと彼は納得してしまった。彼が依頼したのは異性に対して働くものであり、ここでは効果は発揮されないのだ。
「早く人気の多い所に行ってみたらどうですか?きっと群がってくると思いますよ」
肥満体系だった男は歩き始めた。
数分歩いたところで彼はようやく違和感に気付いた。
女性が自分をじろじろ見ているのだが、一向に近づいてくる気配がない。むしろ遠ざけているようにすら見えた。本来なら今頃自分の周りは女性で埋め尽くされているのに。そう思った彼は近くの女性に早足で近づいてくる。
「おい、そこから動くな!」
急に横から矢が飛んできて彼の腕に刺さる。痛くない。彼は不思議そうにその矢を腕から抜き取った。
「ヒィッッ」
弓を射た男の口から悲鳴が漏れる。さすがに彼もこの異常さには気が付いた。
血が出ない。鮮血が出ないのだ。
これはおかしい。そう思った彼があの音っこももとに戻ろうとした瞬間、彼の意識は途絶えた。
□□□
「依頼達成だな。クロム、また今度機会があればよろしく頼む」
オーディ氏の言葉にクロムは適当に返事をした後、小さい袋を渡された。中からジャラジャラと音がするため、硬貨であると考えられた。
「なっ、報酬はギルドで支払ってください」
中身を確認したクロムがそう言って袋を返そうとするが、彼は受け取ろうとはしなかった。
「いや、これはそれとは別に、だよ。折角楽しい旅ができたのだからそのお礼だ。今日はみんなで騒ぎたまえよ」
そう言うと彼を乗せた馬車は動き出した。走らせる馬車にも速度の規制(基準)があり、それを大きく外れた走行は違反とされている。
速度的には走れば追いつけるスピードだったのだがクロムは追いかけて行くことは無かった。
「まあ、オーディ様もそう仰ったわけだし……今日は楽しむわよ!」
ニコルの張り切った声に通りかかった数人がこちらを見るが、彼女に恥じいた様子はない。
「なあ、どこ行くよ?俺はこっちはあんまり詳しくなくてな」
「なら『漆黒の神帝料理店』にしようぜ」
何だその厨二臭いネームの店は。
「どうも『らーめん』とか『わしょく』って言うのが食えるらしい」
その言葉を聞いて驚愕した。
らーめん。わしょく。言っている本人以外分かっていないことを踏まえると勇者か誰かが地球から来て作っているのだろう。
「あっ、それ聞いたかとあります!すごく珍しい料理を扱うお店で、マルクト王国の勇者様もよく訪れるとかで有名なお店ですよね!」
アリアががっつくようにクロムに近づいて言うもので、クロムも少し引き気味だ。
「そ、そこでいいんじゃね?」
アリアの興奮した様子とは対照的に興味なさげなカームが言う。こいつは食に拘りがないのかもしれない。
カームの言葉に異論がなかったため、パーティーの会場は『漆黒の神帝料理店』に決まった。
次回の投稿予定は未定です…
作り置きは現在10話ストックされています。




