28話 騒ぐな、変態
久しぶりの投稿です。
長らくお待たせ致しました。
「どうしたんだ?」
クロムが無い頭で何かを考えているようで、ニコルに呼ばれてようやく我に返る。彼の視線を見る限り同行者の1人の動向について何らかの違和感を感じとったのではないのだろうか。
「いや、なんでも」
「そういうこと言う時点で何かあるんだろ?」
クロムの言葉を遮るようにニコルが苛立ちの表情を見せる。
何故彼女がそこまで怒っているのか分からない。と彼は戸惑いの表情だ。
「なんでそんなにイライラしてるんだ?」
「あんた今言ったこと頭で考えてたよね?」
彼女の問いに何故そんなことを聞くのかと思いつつ頷くソルムに彼女はやっぱりと呆れ顔になった。
「クロムさん、それ嘘ついてたこと肯定してますよ」
来るのが遅れた少女―アリアが苦笑を漏らしそう言った。
いつ肯定したんだ。これまた表情に出す彼を見てドっと笑いが起きた。
「ど、どうして笑うんだよ」
「いやー、ここまで、来て、わかんな、いとかクロムさんちょっと――プッ……鈍感やしませんか?」
笑いが収まらないシーフ職の金髪男―カームがチャラい口調で言っている。
「クロムさん、考えてるとか、怒っているとか表情見れば1発なんすよ。ほら
今イライラしてたのが、納得した顔になってまっすぜ」
「……そんなに俺って顔に出てるか?」
カームに半笑いで言われたクロムは納得したが、納得したくない。とばかりに複雑な表情になってみせ、再び笑いを生んだ。
「……あぁ、そういう事か」
俺はクロムの考えていた事がなんなのか検討がついた。彼の視線にあった辺りにもそれはあった。そして今まで話していた中でチラチラと見ては視線を外して、また見てを繰り返していた。キモイ。
「おい、キモイとはなんだ」
「なに、本当のことじゃないかい」
クロムが俺に不満を口にするが、即座に俺を肯定するニコラは隙がないのか、クロムが好きなのか……多分後者だろうが。俺も口に出して言ってしまったのは無意識とは言え申し訳ないと思っていなくもないが、こいつに言うと調子に乗るのが目に見えているため、言おうとは微塵も思ってない。
「ところでユキさん?」
クロムさんは何を考えていたのですか?耳元でそう囁くアリアにクロムのを考えていたであろう内容を答える。
「右の木の実のなっている木の方を見てみろ。見る時はさりげなく見ろ」
俺の言葉に彼女は右の林檎のような赤い木の実を実らせた広葉樹の方を見る。勿論そこには俺が言っていたものはいるわけで、彼女は驚いた顔をしてこう言った。
「クロムさんって、すごい冒険者だったのですね……」
彼女の言葉に俺は、失礼だろ。
彼女は苦笑いで「そうですね」と答えた。
□□□
「前方200メートル辺りにゴブリンと思わしきモンスターが見えました」
「アリアちゃん、あんがとさん」
「俺は罠でも仕掛けてくっかな」
アリアは嬉しそうに自分の髪を弄ぶ。その顔にはほんの少し紅潮している。照れている彼女が微笑ましいのか、やけにニヤニヤしながら罠をしかけに行こうとしていたカームがニコラさんに脛を蹴られて絶叫していたが仕方ない。
「痛っっっってぇぇぇえ!!!」
「騒ぐな変態」
「お前のせいだろうが!それと、誰が変態だ!」
クロムが2人を見て複雑そうな―嫉妬に近い表情を浮かべているのを見てユリがクスッと笑った。
「お前も笑うんだな」
俺がそういうと彼女はいつもの口調で、ユキ、私をなんだと思ってる?
いつもと変わらずの無表情に戻ったようだが、その中にはジト目のような、呆れているような表情が隠れているような気がした。
そうこうしていると木の影からゴブリンが3体程見えてくる。それを見たアリアは弓を引き、放つ。
「グギャッッ!?」
突然放たれた矢はゴブリンの額へと命中し、絶命させる。同胞を殺されたゴブリンは怒り狂ったかのように、実際のところそうなのだろうが手持ちの棍棒を構え近づいてきた。彼らは俺らを見もせずにアリアの方へと直行している。
「全く……他愛ないな」
そう言ってクロムは剣を振り落とす。ゴブリンは避けることなどせずに受けるため背中から真っ二つに切り裂かれた。
確かに敵を目の前に背を向けて仇を打とうなど無謀で、まとまりのない群れだ。
もう1匹もユキの投げナイフが三本刺さった状態で地に伏せている。
周りを見渡す限り残党はいないと思われる。
「さて、これでゴブリン達は最後……だな」
「ええ、そうですね。ゴブリンは全滅しましたね」
「…………お前に敬語使われると違和感しかないのだが」
クロムの言葉に敬語で返すと、彼は不快そうな顔をして言った。ニコルは敬語が使えたのねと驚いた顔。こいつら俺の事なんだと思っているんだ。
「っと、そんなことよりも、だな」
「ああ」
俺の言葉にクロムが頷く。クロムとニコルがアイコンタクトをとり数秒後、ニコルは腰袋から瞬時に投げナイフを取り出し森の中へと投擲する。それとは少し遅れて男の悲鳴が聞こえた。
「……」
その場にいる全員に緊張が走る。
誰か、いる。
全員がそれを確認する必要もなく分かった。冒険者のみでなく、依頼者のオーディ氏から笑みが消えたのが何よりの証拠だろう。
「「父様、どうしたのですか?」」
オーディの両脇に座っていた少年少女が言う。
オーディを幼くしたような12歳の息子と、彼に全く似ていない9歳の娘らしい。名前は自己紹介で言っていたが、忘れた。
「心配はいらぬ。―クロム。よろしく頼むぞ」
「……すまない。こいつらは俺にはちょっと無理かもしれん」
彼の一言に俺含め全員が驚きを隠せずにいた。
倒せない
彼はそういったのだ。相手の実力を知っていたのか、察知したのか、敵に対するはったりなのか、それは分からないが、彼が出来ないと言った事実に変わりはない。
「まあ、やるしかないのは分かってるがなっ」
クロムが動き出すと同時に戦闘が始まった。
前に突っ込むクロムとニコルだが、2人がそうするのを知っていたかのごとく仕掛けられていた紐に躓く2人。
小刀のようなものを取り出して2人の首を狙うローブの姿が2……いや、3人。
「アリアは弓で木の上にいる奴を頼む。ユリは投げナイフで木の裏に隠れてるやつを」
俺の言葉に頷き動く2人。
アリアの放った矢は木の上にいた者の側を通り過ぎて行き、奥の樹木に刺さった。ローブの男はそれを嗤ったが、ここまでは想定内だ。ことは上手く進んでいる。
「あ゛あ゛あ゛ぁぁぁぁ」
木の裏に隠れていた弓を持ったローブの男が絶叫と共に姿を現す。彼の腕にはナイフが深々と刺さっていた。彼の武器は両手がないと使えない弓のため、彼自身の脅威度は大きく減少しただろう。
「クソガキがぁぁ!」
逆上して正しい判断が出来なくなったのか、男は弓を片手に襲いかかる。腰にぶら下げている小刀はただの飾りなのだろうか。
案の定、弓の男はユリの投げナイフを警戒してか千鳥に進行方向を変えて近寄ってくる。
「うぉあっ!?」
素っ頓狂な声を上げて転ぶ男は何が起こったのか分からないような顔をしている。カームが仕掛けたゴブリン用の罠だ。ゴブリンは俺たち人間と同じ二足歩行のモンスターだ。奴らは酷く短足なため、足をあげる高さが非常に低い……どころか、すり足に近い。そのため足掛けの罠が有効なのだと罠を仕掛けた張本人が説明していた。
男が罠に引っかかってから、状況は一気に進んだ。
「さて、何故この馬車を狙ったのか、教えてもらおうか」
「……っ!と、盗賊が豪華な馬車を狙っちゃ悪いかよ」
男は一瞬躊躇するような顔をしたが、自白を始める。
3人のうち、1人が代表して話す。2人は完全に黙秘を貫いている。
「盗賊、とは言うもののあんたらの服装は盗賊とは言い難いもんじゃないかい?」
ニコルの言葉に全員が彼らの服装に注目する。
ローブで着ていたものがなんなのか見えなかったが、彼らはローブの中に紳士服のようなスーツを着込んでいた。護衛対象のオーディ曰く、この世界での貴族や、その使用人が着る礼服だそうだ。
「話が変わるが、あんたらは何故今日、この街道で馬車を狙った?」
「そんなのマルクト王国でパーティーをするからに決まってんだろ。ここで豪華そうな馬車に乗ってるって言えばまず、貴族だろうしな。狙わない方が有り得ねぇ話しだ」
割って入ってきた俺の言葉に勢いよく答え始める自称盗賊達。彼らもそれ程焦っていたのだろう。
自分がボロを出さないか、を。
「…………」
ニコルが驚いた顔をする。彼女はどうやら気づいたらしい。
クロム、アリアは首を傾げて、口に指を添えている。
アリアは兎も角、オッサンがそれするのは鳥肌が立つ。
「あんたら、貴族が乗ってるのを知ってて襲ったんだね?」
「うっ……ああ、そうだよ!俺らが手に豆ができるまで働いた金で遊んで暮らしてるような野郎を襲って何が悪いんだよ!」
肯定した。
それはつまり――
「あんたら、誰から頼まれた?」
「あ?」
マルクト王国でパーティーが行われる。
この情報は参加する貴族か、俺たちのような『何かのために』今回依頼された冒険者や傭兵しか知りえない話だ。貴族自ら手を汚すなど以ての外だという前提下での話だが実際それは当たっていた。彼らは基本的に物理的に手を汚す行動は行わない。そのために私兵団を所持する貴族も少なくないのがこの世界での常識だ。
「だ、誰に頼まれたってなんだよ……」
「ほう?偉いやつに頼まれてやったんじゃないのか?」
「やってない!頼まれてやったんじゃない!」
カームが知的な表情で男に問うが、彼らは即答した。
カームの容姿は非常に整っているため、彼の言動は様になっていた。勿論、本来の性格を知らなければだが。
「俺たちが依頼を受けたらその報酬は山分けになっちまうだろ?そんな損するようなことするわけないだろ?。それにな、だいたい貴族からの依頼なんか受けるわけないだろうが」
ここにいる全員が疑う視線をかけている中、焦り始めたのかペラペラと話し始める男。額には汗が木々から漏れる光で反射していた。
「よく分かったよ」
俺の言葉に安堵の表情を浮かべる3人組。
まるで無罪判決を受けた罪人のような、汚らしい表情をしている。そう言いたげにニコルの貌は嫌悪感のあまり歪んでいた。




