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Persona breaker -仮面を壊す者-  作者: アリシア
2章 マルクト王国
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26話 焔の短剣

どうでもいい話

(ほむら)の短剣

(ほのお)の短剣

「おいおい、そんなもんか?そんなんじゃ嬢ちゃんを守れないぜ?」

「うる、せぇッ!」


刃引きされた剣での鍔迫り合い……俺から見たらだが、を俺は先日の2人組の男――もとい、クロムと模擬試合を半強制的につき合わさせられてる最中だ。

薙いでは受け止められ、振り下ろしては避けられ、振り上げては跳ね返され、クロムの掌で踊らされている様で非常に腹立たしい。


「くそっくそっくそっ」

「おいおい、ヤケクソになって剣を振るな」

「ぐっ」


彼は剣を適当に捌いて、俺の大振りの振り下ろしを躱すと柄頭で鳩尾を軽く突いてくる。俺は避けきれず、自分から当たりに行くかのように柄頭が鳩尾に吸い込まれて行った。

息をするのが苦しい。


「ユキッ!」


その場に突かれた部分を抑えて蹲る俺の元にユリが近寄って回復魔法をかけてくれる。吐き気と呼吸は落ち着きを取り戻したが、痛みまでは拭えない。


「はぁっ、はあっ、」


息苦しい中クロムを見ると彼は俺を見て笑いそうになるのを堪えていた。


「な、なんだよ」

「だってよぉ……ぷっ、お前と戦ってると弟の息子達と戦ってるような感じするだよ……」


必死に笑いを堪えてますよ。と隠すつもりもないような、寧ろわざとらしく説明をしてくる彼の言葉の意味は、『弟の息子達(8歳児)のチャンバラみたいなもんだ』ということである。


「じゃあ、せいぜい頑張りつつ楽しめよ」


ヒラヒラと手を振って去るクロムの後ろ姿をただ呆然と――


「青春をな――へぶっ!?」


キメ顔で振り返ってくるクロムに相棒の女冒険者ニコルの鉄拳が顔面を容赦なく直撃する。壁の方まで吹っ飛んだクロムは猫のように掴まれてニコルに引き摺られて行った。


当然ながら俺が乱入する幕はなくその場は一件落着となった。



□□□



闘技場を出てすぐ隣にある冒険者ギルドの方から切羽詰まった表情で一人の男が出てきた。

男は周囲を何回か見回し、突然走り出した。男の足は早く、突然走り出したことに驚いた歩行者を薙ぎ払っていく。歩行者はニコルの鉄拳をくらったクロムのように吹き飛んだりはしなかったが、見ていていい気はしない。


「あいつ……」


後からでてきたクロムがふとそんな事を言う。俺が「どういう事だ」と問うと彼は「あ……いや、なんでもない」と言って早足で歩き始めた。


「まあ、ギルド入れば事情が少しは分かるかね」


とりあえずギルドに入る。そうすれば少しは理由が分かるかもしれない。そう思った俺は大きなギルドの門を開いた。


「お、ちょうどいい所に!クロムの兄貴、大変でせぇ……兄貴の狙っていた『焔の短剣』が買われちまいましたぁっ!」

「な、……なんだと…………」


クロムは打ちひしがれて、地面にキスしている絵面となった。ニコルに蹴り1つ貰ったかのような衝撃が先程の冒険者の言葉にはあったのだろう。


「……だからあたしはあの時に買っときなって言ったんだよ」

「くそぅ……返す言葉もありませんよぉ」


そういうクロムの泣き目に我関せずを貫くニコル。

そういや、『焔の短剣』とか言ってたな。あのおっさん、短剣なんか使うのか?


「なんでクロムが短剣を欲しがるか不思議な顔してるねぇ、ユリ。あいつはね、――」


そう言ってユリの耳元で話すニコル。何と言っているか分からないが、言っている内容はあらかた予想がつく。証拠に耳元でコソコソ話す彼女は実に嬉しそうにしていた。


「なんで短剣渡すと愛が分かるの?」


耳元で話し終わったニコルにユリは質問を返していた。どうやら内容は俺の予想通りだったようだ。

首を傾げるユリに、「あんたも大きくなれば分かるさ。そのうち、な?」と言って頭を軽く撫でる。


「さっき外に出て行ったローブの男が買ったんで、今から追いかければ間に合うかもしれません」

「……っ!よし、今から追いかけてくるぜ。待っててくれよニコラ」


男冒険者の言ったことを聞いたクロムが、先程のローブ男を追いかけようとしたところ、ユリの側にいたニコルがクロムの肩を掴む。その表情は、複雑そうな顔をしていた。


「…………先に買われちまったんだ。今更売ってくれなんてかっこ悪いだろ?…………それに、誰かから買い直してもらうほどのものだとあたしは思わないが?」

「そ、そうか……」


ニコルに諭されたクロムは冷静さを取り戻し、先程の男を追いかけるような真似はしなかった。そのままなんとも言えない空気が二人の間に流れ始めたが、ギルド内の「ヒューヒュー」といった冷やかしに彼らは急に恥ずかしくなったのか顔を赤らめ始める。


「おっと、忘れるところでしたよ兄貴、兄貴に指名依頼が入ってましたぜ」

「なにっ!?」


指名依頼。ギルドでよく聞く言葉だが、意味は知っての通り王族、貴族、ある程度の勢力がある商人などが行うギルドを通しての“指名契約”の事だ。

依頼者が依頼内容と依頼する相手を指定し、その相手となる冒険者が引き受けるか、断るかで契約が成立されるか、決裂となるか決まる。成立した場合、冒険者側が賞金を指定し、依頼者がその額の支払いを認めれば依頼開始となる。

この手法なら高めに料金を指定して頑なに値下げを断れば儲けられると思うだろうが、高額な金で依頼を引き受けても、その後行われるギルドでの契約内容の査定が行われる。依頼内容に見合わない内容での契約は発覚時点でギルドの介入が発生するため、そのような馬鹿な行為をする輩は現れないのだ。


「クロムに指名依頼?何かの間違いじゃないのかい?」

「ね、姐さん。それが俺も何度も聞き間違いと思って聞き直したのですが兄貴宛になってるんすよ」


そう言って冒険者はカウンターの一番右端にいる若い受付嬢をチラリと見る。その受付嬢は冒険者の視線を追ったニコルに睨まれ、狼に睨まれた兎のように震えてしまっている。


「オーディ=マルクト=イリアーナ公爵様からの指定依頼ですぅ!」

「やっと俺の築き上げた伝説が公爵様の耳に入ったのか」

「「「いや、それは何があろうと絶対ないな」」」


誰かの言ったその言葉にギルド内で爆笑の嵐が舞う。

クロムの言った「ひでぇ!何それひでぇ!」という声は誰の耳にも届かなかった。

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