25話 変人
イェソド共和国。
マルクト王国に最も近くある国であり、人間と魔族が共存するという愚かな思考を持つ国。というのが一般的な評価である。ケテル王国の南西に位置するビナー共和国とは『共存主義』の同盟を結んでいる。
『愚かな国家』というコモンセンスに反してこの国への旅行者は多い。この大陸の住民でない者がこの光景を見たなら、人々は皮肉を言っているようにしか見えないことだろう。
このイェソド共和国という国は嫌われつつも、毎年その嫌う者達の旅費で経済が潤っている複雑な状況の国なのである。
「それで……イェソド共和国に来た訳だが……」
「う、動くなよっ!こいつがどうなってもい、いいのかっ!」
男はそう言ってユリの首筋にナイフを当てる。
どうしてこうなった。
□□□
イェソド共和国は上記で述べた通り、経済が潤っているため、治安に関しては他国に比べてトップクラスの良さがある。
そのはずなのだが、現状はそれを裏切っている。
俺達が入国早々昼食を店でとっている時だった。
ドンッ
爆発音とともにエントランスにいた女性の頭が飛ぶ。
一拍遅れて悲鳴をあげて逃げ回る人々。
「動くな!殺すぞ!」
女性を殺した本人であろう男が店内に入ってくる。ローブで容姿を隠しているいかにも怪しい男だが、それはユキとユリも同様で、服装がこんなやつと被ってしまい、思わず舌打ちをしてしまった。
「な、何が目的ですか!」
店員の男性が脂汗を垂らして言う。
「金だ!」
だろうな。言ってたし。
「仕方ない……あんたさん、ありったけの金を出してくれないか」
「店長っ!?この店を潰したいんですか!?」
店の奥から見覚えのある顔が出てくる。男はそう言うと俺に不自然な視線を送ってきた。
「女性店員が殺されているんだ……あいつは人を殺すのも自分が殺されるのもなんとも思わないと思うぞ……」
「そこのお前……あれ〈・・〉、持ってるだろ?」
「あれ……ってなんだよ」
「あれって言ったらチップに決まってるだろうが!こういう時は弾けなきゃダメなんだよ!」
「なるほど」
了解した。そう小さく呟いた俺はポケットから“それ”をアイテムボックスから取り出す。
「派手に吹きとばせよ?」
「いちいち注文が多いな……ッ」
無数のコインが宙を舞う。男はナイフを捨ててコイン目がけて走る……ことは無かった。
ここに居るのは俺とユリ、この店の店長と店員だけではない。数多くの冒険者、警備兵、それこそ大国騎士がいることすら有り得る。そのような場で人質を手放すということが自分自身の命を捨てる行為と同義だと男は分かっていたのだ。
寧ろ金を奪ったら皆殺し。と思っていることだろう。顔を見られているのに口封じをしないのはありえない。
「なっ!?」
一瞬、男の視線がコインの方に向く。そう、一瞬だ。
だが、その1秒あるかないかの時間を無駄にするほどここに居る騎士、冒険者は堕落していない。
瞬時に数人が行動に移す。意外にも一番最初に動いたのは女冒険者だった。
隠し持っていたナイフを男の顔目がけて投げる。そのナイフは男のナイフに弾かれ、金属音を鳴らして地面へ落ちていく。
それを見た女は笑っていた。
「オラッ」
背後から槍の柄が首元に直撃する。同じ席にいた2人の冒険者は見事な連携を行うことから、普段からパーティーを組んでいるのだろう。
倒れた男を慣れた手つきで縛り付ける女冒険者。
実に数秒の出来事だった。
「有難うございます。助かりました」
俺が2人の元に近寄りお礼を言うと、男は鼻をさすって照れ、女はニヤニヤ笑っていた。
「全く……何かと思えばこれは茶番か何かかい?店長もグルなんだろう?」
女は俺と店長がアイサインのみで動いたため、事前に打ち合わせし予定していた“茶番”と勘違いしたようだ。
それでニヤニヤしてたのか。
「そういう事か……全くお嬢ちゃんのために店ぐるみでプロポーズなんて俺以外にする奴がいるとはな……お前ぇぇぇ!!!」
そう言って俺を大声でお前呼ばわりする男。
念の為言っておくが、茶番ではない。想定外の出来事だ。
「な、なんですか」
「…………気に入ったぞぉぉぉ!!!」
この男声がでかい。店の各所でキシキシと建物が軋む音がする。この男本気出したら声だけで建物壊せるんじゃないか?
「…………さいですか」
「緊迫とした演出、本物の武器を使う緊張感、何も知らない一般冒険者を巻き込むスタイル!実にイイ!俺と同じことをそっくりそのままやってくれたぞ!」
「あら、それは良かったわね」
興奮して説明する男とは裏腹に、女の方は次第に表情が般若と化す。てかこのオッサン口臭ぇ。




