24話 襲撃
ユ……キ、ユ……キ!
誰かが呼んでいる。懐かしい声は、俺を呼んでいる。
視界は黒いままで、今がどんな状況なのか全くわからない。
ガタッ、ガタッ
黒いままの視界が揺れる。頬を冷たい何かが流れる。
「ユキ、起きて」
「…………っ!……ユリか」
意識が覚醒し、目の前に顔があり、身構えるがその顔をがユリのものであると分かり全身力を抜く。
「……この馬車囲まれてる」
「それで起こしたわけか」
コクリと彼女は頷く。
対人戦は苦手だ。出来れば避けて通りたいが、彼女が起こしたというのは、回避不可能な状態になってしまったということだ。
「……奴らは何人だ」
「今回は盗賊だった。7人だと思う」
少人数の盗賊だろうか。それとも彼女の索敵から逃れた熟練者がいるのか。
「気分は乗らないが……さて、戦うとするか」
「……分かった」
俺たちは馬車から出て盗賊たちと対面する。
「へへっ、ようやく諦めたか。……お前ら!」
男の一声でゾロゾロと男達が木の影から現れる。全員で7人。今の所ユリの索敵で引っかかった人数と同じだ。
「ユリ、奥の手は使うなよ」
俺は小さな声でユリに伝える。
先手を打ってきたのは盗賊たちだった。一人の男が真っ直ぐ突っ込んでくる。
ユリはその男の持つ剣の方の手を叩き、落とした剣を奪い取り右側の木の影に隠れている男に向けて投げつけた。
「ウガッ」
男の頭部に剣が刺さり、仰向けに倒れる。
「クソっ」
一人の男が苛立ちを隠せない様子で睨みつけてくる。
おそらく彼が賊の頭なのだろう。
「お前ら!こいつらは死にたいようだ!虐殺してやれ!」
男の指示通り全員が切りつけようとしてくる。
「……ユリ」
「わかってる」
ユリはそう言うと短剣を二本取り出して片方を投げる。
「―――――――ッ!」
声とは呼べない甲高い声をユリは出す。
男達はそちらに視線を向ける。続いて短剣に集中。そして自分に当たらないと判断し、次はユリの持つもう一本の短剣に。その時間が重要だった。
ユリがもう一本の短剣を投げようとすると男達がユリに攻撃してきて短剣でそれを受ける。刀身の短い短剣で攻撃から身を守るのは非常に困難とされている。それをやって見せたユリに驚きの表情を見せた男達。
しかし短剣では受けきれない衝撃だったためユリは短剣を落としてしまう。その場から離れてユリは予備の短剣を抜こうとする。
「えっ!?」
短剣がない。確かに背中にもう2本隠しておいたのに。柄ごと綺麗になくなっているのだ。ユリの戸惑いの声が可笑しかったのか、男達はゲラゲラと笑った。ユリが短剣2本を取り返そうと動こうとするが、それを俺は止める。
「手間を取らせてくれたな……あんたらの荷物を全部ここに置いていきな。それと身ぐるみ全部脱いで手を頭の上に置いて目隠ししろ」
それが何を意味するかは分かっている。荷物だけではなく俺達のことも狙っていたのだ。少女は高く売れるのだ。もう片方の俺は性別がローブを深くかぶっていて性別がわからないのだろう。あわよくばこいつもいい値が付けばとでも思っているのだろう。
「……」
ユリが俺の影に隠れる。これで全ての盗賊の視線は俺に向けられた。
俺は左手の中で隠していたフラッシュを最大出力で発動する。
「うあっ!?」
男達は視線が奪われ目を腕で覆う。
その男達をユリが一人の剣を奪い素早く仕留める。
一瞬の行動で人数は3人まで減らせた。
「……てめえら……殺してやる!」
頭自ら剣を振るってきた。
ユリはその男へと水魔法で攻撃する。
「うぉぉおお!?」
何が起きているのか分からないようで水をもろに食らっている。
「クソがっ!」
「フラッシュ!」
「またかっ」
俺は再びフラッシュを使う。
「なっ!?」
フラッシュを俺は弱めた。
ユリの投げた短剣は土の上に落ちている。男達は短剣を弾いたのだ。
「はっ、攻撃が来るってわかってれば避けたりするのは簡単なんだ、よっ!」
そう言って一人の男が攻撃しようとしてくるので俺は短剣を投げる。それを避けようとした男だったがユリの攻撃を代わりに受けることになる。
「一気に畳み掛けるぞ!」
苛立ちがラインを超えたのか、怒りを表にして総攻撃とばかりに全員一気に攻撃を仕掛けてくる。
「かかった!」
ユリの声に俺は効力を発揮する魔言を使用する。
「爆破!」
「いつの間にっ!?」
直後、ドォン!という爆発音。衝撃波が木の葉を吹き飛ばす。辺りからは完全に動物の気配が消えた。
驚きのあまり避けるという選択肢を選べなかった盗賊たちは爆発が直撃し、完全に生命は絶えていた。
「意外と気づかれないんだよな……」
俺は黒い五角形の小さいチップのようなものを取り出し言った。
これは、特定量の魔力に対し発動する爆破式トラップだ。本来は常時魔力を放出し自分自身の強度を保っているスライムに対して使われる“兵器”なのだが、火力を対人向けに作り直したところ、非常に使い勝手のいいアイテムになった。
本来は麻痺などといった状態異常を使うのだが、今回は単純な爆破にした。本当なら近くの国に罪人として届けるのだが、マルクト王国からでてかなり経っており、戻るのに時間がかかり、その間に彼らに与えられる食料が不足しており、全員を生きた状態で届けるのは非常に困難なためだ。
というのは建前で、たまたま取り出したのが爆破式トラップだっただけである。俺にはどれを使うのか適切なのか考える力が未熟なのだと痛感させられた。
「ユキ、アジトも潰す?」
「……いや。先を急ぐぞ」
正直こいつらのアジトに何人いるのかは全く予想がつかない。もし行ってみて100人弱の大集団だったら俺達2人では足掻き用がないため、予定は変更せず害が少ないであろう選択をした。
「次はどこ行く?」
「1番近いのは……」
どこだっただろうか。最南部のマルクト王国から北へ進めば間違いはないのだが、俺の予定上全ての国に回る必要がある。なるべく無駄の少ない旅にしたいのだ。
「イェソドだよ」
「イェソド……俺たちなら行けるかもな……」
イェソドとは、この世界では珍しく君主制ではなく共和制をとる国である。イェソドは50年ほど前に君主制から共和制に変わったらしく、今はイェソド共和国となっている。
「だいたい2週間くらいか?」
「頑張れば10日で着くかな」
急ぐ必要も無いし、ゆっくり行くことにする。
「……ユキ、本当に行くの?」
首を傾げるユリ。
俺にとってあの場所は行かなければならない場所だ。
「……ああ。あの場所に行けば解決すると思うんだ」
「解決?」
そうか。言っていなかったのかと俺はかつての話を始めた。
□□□
それは俺とユリが出会う一週間ほど前の話だ。
当時の俺はマルクト王国で冒険者をして生計を立てていた。とは言うものの1人では無力の俺は毎日がギリギリの生活だったのだが……。
それは兎も角、国の近くにある古代建築物であるものを発見して以降、俺は各国へ回る必要が出てきてしまったのだ。
だが、それよりも優先すべきこと――神国ティファレトで勇者召喚の阻止。
□□□
「勇者召喚を阻止して大丈夫なの?」
例えユキでもそれはダメだよ。とユリが言う。
もし、勇者が災厄からデウサルボルの民を守る者であるのなら、俺達が動く必要はなかった。
だが、魔王を倒すことが目的であるのなら、阻止する必要がある。
各国の重鎮は災厄は魔族が起こしているものなのだと思っている。実際、災厄が起こるのはケテル王国より北方にある砦からの氾濫がほとんどなのだ。そして砦の先にある大陸は魔族たちの住む大陸。
これらを考えれば重鎮が魔族の仕業だ。と決めつけるのも納得は行く。
しかし、彼らは多くを見落としていた。大陸に伝わる神話を疑いもしなかった。
「今、この世界の真実を知っているのは俺しかいない」
「……『止められるのは俺しかいない』でしょ?」
分かってるじゃないか。そう小さく呟いた。聞こえないようにしたはずが彼女には聞こえてしまったようでユリは嬉しそうに微笑んだ。




