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Persona breaker -仮面を壊す者-  作者: アリシア
1章 ケテル王国
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20話 2人の会話

「竹山さんは同じ世界に二人の同一人物がいると言ったら信じますか?」


さほど驚いていない。この話で表情一つ変えない彼に違和感を覚えた。

普通、訝しげな顔や悩むことくらいするはずだ。それなのに彼はその質問が来ることを知っていたように悠然としている。


「それはドッペルゲンガーの事かい?それとも……」

「ええ、定義上でのドッペルゲンガーは当てはまりませんね」


なるほどね。と彼は頷いた。

彼は何かを知っている。――実際にはありえない事なのだが、俺の直感がそう言っている。しかし、彼はあの場には居なかった。いるはずが無かった。


「ケテル王国付近の神殿。……日記はもう呼んだかな?」

「なっ!?」


俺は絶句した。

なぜあの場での出来事を知っているのか。竹山さんどころか、水緒や華凛にすら言っていない事を彼は知っている。


「……なんで知ってるんですか?」


知っているはずのないことを知っている。それは彼が只者ではない事を物語っている。


「さあ、何でだろうね?」


彼はニヤニヤと笑っている。


「……イニヨルさんは危険人物。これはあながち間違ってはいないかもね。ただ、それはこれからの選択次第」


これも知らないはずの内容だ。あの時の“俺”も『間違つた選択』をするなと言っていた。この選択とは何のことを差しているのか。そんなことは理解できないが、竹山さんが言っている内容からして、彼はもう一人の俺と同じような存在なのだろう。


「彼の言う通りなんだよね。もう一つ余計なことを言うとすれば、イニヨルさんも。かな?」

「他にもいるっていう事なんですね」


俺がそう言うと、彼は手を振ってその場をあとにした。




□□□




「よう」


ソートはいつものように武器を作っていた。とは言うものの、作る武器はあっても買い手が少ない。何しろこの辺の武器屋はここを合わせて計6箇所ある。その中でも大きな所に殆どの冒険者などは流れてしまうため、売上は良いとは言えない。

そんな店に入ってきた者は只者ではなかった。


「おう。久しぶりだな」


半袖の白シャツ。肥満体型の腹を強調させるかのようにハートが大きく書かれており、そこには普通の人間なら読むことの出来ない文字が書かれている。


「全く……あの後お前はずっと此処で鍛冶屋経営か?」

「ああ……」


あまり仲がいいとは言えないような雰囲気のなか、彼は喋っていた。全くとはこっちのセリフだ。相変わらずの体型をなんとかしろ。とソートは思う。


「……そう言えば友樹とは会ったか?」

「ああ、俺は勇者としているからな。昨日あったよ」


ああ、そう言えばと呟いて彼は話を続ける。


「もう一人の自分と会ったって言ってたぜ」

「……なるほどな。いかにもあいつがやりそうな事だ」


彼も友樹から言われた時はさほど驚きもしなかった。「あいつなら、まあ、するよな」程度にしか思わない。10数年間友として生活していた彼らにとって、友樹の行動など手に取ってわかるのだ。



「お前、女神と連絡取り合ってるのか?」

「俺は先週したぜ。友樹のこと伝えないとと思ってな」


女神。ここに住むものが聞けばどう反応するか分からない単語を彼らは平然と使った。


「あっちの動きは何かあったか?」

「いや、今のところは……いや、一人“感染者”がいたな」


白シャツの男の言葉にソートは絶句した。

あいつらが動き出した。つまりそれは作戦の失敗を意味する。


「いや、案外失敗とは言いきれない。何たってこっちには友樹がいるしな」

「感染者の名前は?」


興味を持ったソートに白シャツの男は答えた。


「……アイツがか?」


ソートは自分があったことのある人間に感染者がいた事に驚きが隠せずにいた。あいつは友樹たちがここに来た時にも一緒に来ていたはずだ。

まさか自分が会っていた人間が感染者になっていようとは全く考えていなかったソートは非常に驚く。


「感染者を排除すべきか?」

「…………」


白シャツの男が言う「排除」。つまりは殺すということ。今までの経験上、感染者が存在していていい結果などひとつもない。まあ、いい結果が出ているのならこの世界の存在意義が疑われるのだが。

しかし、今回の排除……これはなにかの歯車を壊すような、本来あるべきたった未来を変える出来事になりかねない気がしてならなかった。


「どうかしたか?」


考え込んでいると白シャツの男が不思議そうに聞いてくる。


「いや…………何でもない」


自分の直感を信じるなんて俺らしくないとソートは自分自身の直感によってこの世界を潰すくらいなら此処で排除した方が有能な判断と言える。


「……」


自分自身のした判断。正しいと思う反面、何か、大切なことを忘れているような気がしてならなかったソートであった。



□□□



「────キ、起きて、早く......」


微かに声が聞こえる。その声は今にも消え入りそう。

俺は手を伸ばした。離れる彼女。


「私には......勇気が......」

(何で……なんで体が動かないっ!)


多分、今の俺はかなり焦っている。

彼女が死んでしまう。俺が死んでしまう。

深い溝から見える光は俺達のことろへと微かな光を指す。それはまるで地獄から見える天の光のようで、決して浴びることの出来ない光のようでもあった。


「リ――、は――――ろ!」


言葉が急に出る。

リ――。誰なのかさえ分からない名前を呼ぶ俺は自分の体が誰かに乗っ取られたような錯覚すら覚えた。


「嫌だよ!――キも早く!」


彼女は俺を呼ぶ。しかし、身体は不自由。指一本動かすことさえ出来ない。

ガラガラ、ガタッと何かが崩れる音が次第に大きくなる。彼女は――、せめて助けてやりたい。

俺は心からそう思った。


「―――――」


言葉を連ねる。

一つ一つの単語は連結し、意味をなす。

魔力につられて精霊が集まる。

魔力が分散する。


今まで感じたことのなかった感覚が体を支配する。これが魔法を使うと言うことなのか。と俺は感心していた。


術式が完成すると同時に眩い光が視界を埋める。閃光のように鋭く、日光のように暖かい光。

それに全身が埋まる頃――――





「はっ」

「わわっ!?」


俺の驚きの声に誰かが驚く。

明るい光に目が慣れる頃、ようやく声の主が誰なのか分かった。


「明奈か……」

「いやねー、彼氏くんさ、廊下で倒れててマジでびっくりしたよ?ビックリ仰天、死んでるかと思ったよ」


どうやら廊下で倒れていたらしいが、そんな記憶は全くない。いつもバカ言っている彼女の言葉も真剣な眼差しで言われてしまえば、反論のしようがなかった。


「デウサルボルに来てから色んな事あったよね」


死にそうな体験をした。ほかの人のステータスに嫉妬した。ステータスを知識で補おうとした。もう一人の自分と出会った。悪魔と戦った。

多くの人と出会った。


「この世界に来て、彼氏くんは後悔してる?……ってちがうか、私たちは召喚されたから選べたわけじゃないよね」


そう言って明奈はけらけら笑う。いつも見る彼女の笑顔。しかし、彼女の笑う顔はいつもと違うように感じた。


「俺は後悔してるように見えるか?」


本音を言えば後悔しているかもしれない。しかし、どこかでこうなってよかったと思っている自分もいるわけで、結局のところ全く分からない。だからこそ俺は彼女に聞いた。


「うーん……後悔してるかな?」


俺はちがう。そう言いたかった。しかし口が動かない。それを肯定してしまっている自分がいる。


「あのさ、前に華凛にも……こういうこと聞いてみたんだ。あの子なんて言ったと思う?」

「…………」


華凛にも、という言葉に俺は過剰に反応を示していたようで、明奈は苦笑いをして話を続ける。

華凛はきっと後悔してるのではないか。急に連れてこられて、戦いを強要させられ、死と隣り合わせの生活なのだから。


「華凛はこう言ったよ。――『私は……こんなことみんなに聞かれたら怒られると思うけど、良かったって思ってる。あの時から会えなかった友樹とも再会出来て、あのころみたいに一緒に色々なことして、本当に幸せだなぁって思ってるよ』だって」


そういう彼女はまるで娘に手を焼く母親のように、説明した。


「いい親友を持ったんだな」

「えっ?なんか言った?」


俺の呟きが聞こえていたようで、彼女は聞いてきたが、「何でもない」と答え詮索されぬうちにその場を離れた。

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