16話 勇者じゃない
あれからというもの、少しずつレベルを上げようと頑張ったが、結局上がったのは1レベルだった。他のメンバーは平均9のレベリングに成功した遠征であったが、俺の上がったレベルはたった2。
倒した数は他のメンバーには劣るのだが、明らかにレベルの上がり方が遅い。何か倒し方の違いとか関係あると思うのだが、もし魔法が関係あるなら華凛のレベルが俺と同じくらいにならないのがおかしい。やはり『勇者』との違いなのか?
ガタガタ、ガタガタ。
馬車の揺れが疲れた体に響く。揺れる度に頭が痛くなる。
「そう言えば、レベルってステータスにしか影響しないのか? 」
岡部の取り巻きの一人がふとそんなことを言う。
「いえ。勇者様の場合は1レベルごとにいくつかのポイントが手に入り、そのポイントでスキルをとることが出来ると伝承に書いてあった気がします」
「なにっ!? 」
俺はその言葉に耳を疑った。もしスキルをとることが出来るのなら、俺は今までのような戦闘スキルのない状態から脱出できる。
「それはどうやるんですか」
俺は少し興奮気味に聞いた。イニヨルさんは少し引き気味になっているが、この際気にしない。これで俺は雑魚からクラスアップできるのだから。
「ス、ステータス画面を開くとそこに振り分けという一覧があるはずです……」
「「「ステータスオープン」」」
ステータスを出したのはいいが、そんなものは見つからない。
「それで、スクロールして……」
「スクロールっと………………うん? 」
スクロールできるとは初耳ですね。と、岡部。
へー、知らない事まだあったんだぁ。と華凛。
「お、本当だ!『ポイント振り分け』って欄があるぞ」
岡部の取り巻きが言った。
早速俺もスクロールしてみる。
「あれ? 」
スクロールしても動かない。何度やっても下には行かない。
「どうしたの? 」
心配そうに話しかけてくる、水緒。
俺が正直に話すと、彼女は困った顔をした。彼女には『ポイント振り分け』という欄があったようだ。
「まあ、初めから勇者の中に俺は含まれていなかったってことだな……」
自嘲気味に乾いた喉から声を漏らした。その声に近くにいた水緒だけが気付き、気まずそうに顔を逸らす。その行為がさらに俺を無気力にさせる。
「は、はは……俺は勇者じゃない……か」
「…………友樹くん……」
彼女は俺の言葉で更に気まずくなった。泣きそうな顔で俺を見ている。泣きたいのは俺の方なのに、なぜ無関係な水緒が泣いているんだ。
「友樹は私たちが守るから大丈夫だもん!」
華凛が俺と水緒の表情から状況を読み取ったのか、そんなことを言い出す。俺にとっては一番傷つく言葉なのかもしれない。だからこそ、これを受け入れるわけにはいかず俺は無言を貫いた。
ガタガタ、ガタガタ。
そんな俺とは対照的に、馬車の揺れは一定のリズムを刻んでいく。
ガタガタ、ガタガタ。
「はぁ……」
行き当たりの無い、怒りとも嫉妬とも取れる複雑な感情に、俺はため息をつくばかりだった。
もう何も考えたくないと、俺は目を瞑る。
□□□
「友樹くん、お久しぶりね」
目の前には羽の生えた憎々しい神がいる。
「お前……言ってたことと違うじゃないかよ」
俺は今まであったクソみたいな体験を女に聞かせると、彼女は不敵に微笑んだ。
「あら、上手くいってるじゃない。何が問題なの? 」
「こんなのが、上手くいってる?巫山戯るな」
俺は怒り気味になっているらしい。
こいつの小馬鹿にしたような笑顔が苛つく。
「ええ。私が思ってた以上に上手くいってるわ。これならあんな事は流石に起こせないでしょうし……」
まるで俺の話を聞いていないようで、俺は目の前の女を殴ろうとした。
「なっ……」
俺は絶句するしかなかった。俺の手は殴打することなく彼女の後ろへと通り過ぎて行った。
「そんなことしても無駄よ。私は記憶体だもの」
「記憶体?」
聞いたことのない単語に、思わず返してしまう。
「『記憶体』も知らないの?……沢山知識系の本を読んでいたからてっきり博学だと思っていたけど、意外と無知なのね」
一応、神のお前の基準がおかしいんじゃないのか?と言いそうになるが、そんなことを言っても動じずにケラケラと嘲笑を返されるのは目に見えている。
無駄になるとわかっていてやるほど俺は馬鹿じゃない。
「さて、貴方……私に何か用なのかしら?」
そうだ。俺は何故ここにいるんだ。デウサルボルに転移する前にきたあの白い世界。
「……」
「どうしたのかしら? 」
俺がなぜここに来たのか思い出せずにいるところを彼女はケラケラと嘲笑う。そんな嘲笑の中でも珍しく十中して考えていた。
(確かにそうだ。なぜ俺はここに来ているのか。それはこいつに何かを聞くため。そうすれば辻褄が合うな……)
「いや、俺も覚えていない」
俺は正直に答えた。すると彼女は笑いを抑えきれずに声を上げて笑い始めた。笑っている女神様(精一杯の嫌味を込めて)にはさぞかし愉快なことではあろうが、笑われている俺からすれば、不快のこと極まりない。
「あらあら、私に聞きたいことがあったんじゃないのかしら? 」
女神の言葉に俺は少し考えてみることにした。
記憶を辿って、疑問を探す。
「……そういえば、なんでお前は俺を召喚させた? 」
「あら、今の貴方は他の『勇者』に巻き込まれただけよ」
この女の返答に俺は何か違和感を感じた。
直感的にだが、そんな感じがしたのだ。他に頼るものがない今は直感に頼るしかない。
「……何か納得のいかない顔ね」
彼女のいう言葉をもう1度思い出す。
『他の『勇者』に巻き込まれただけ』
何度か反復してみると、とある事に気がついた。
「俺が巻き込まれたというのは有り得ない」
「……理由はあるのかしら? 」
彼女は俺の顔をジっと数秒見つめた後、嘲笑に近い表情をして言った。
「俺が巻き込まえたとしたら、絶対に起こらないことがある。まず、俺が召喚される直前に家から学校に転移した。もし、俺が巻き込まれたのしたら俺はどうしてその前に転移した?そんなに自称女神の実力が低いものでないのは分かりきっている」
「自称は余け──」
彼女の言葉を遮るように俺は続ける。
「二つ目に、俺達を召喚させる時に、俺は1度ここに来ている。俺だけがだ。もし勇者があいつらなら俺以外にここに来る奴らが居るはずだ」
「理由はそれだけかしら?貴方は自分が勇者だと思っているの? 」
俺に対して見下した槍の矛先のように鋭い視線が突き刺さる。
そんな事など考えてない。自分でさえ『勇者』が俺であるなんて考えたこともない。しかし、巻き込まれたとも考えにくい。ならば、俺は一体何なのか。
「ふーん……貴方にしては自分のことがよくわかっているみたいね? 」
まるで今までの俺が“自分が分からない馬鹿”だと思っていた口調に、ムッとしたのが分かったのか、「まだまだ子供ね」と笑った。
「もし、勇者でも、巻き込まれた者でもないとしたら、貴方は何者なのかしら? 」
俺がそれが聞きたいのを分かっていて、わざと聞いてきているのは分かっている。
「お前は俺を召喚するのが目的だった。しかし俺は勇者ではない。つまり、勇者にはない『別の力』が必要なんだろ?」
自画自賛であるのはわかっている。こんな事を自分で言うのはもちろん恥ずかしい。だが、これ以外に考えられないのだ。
「非常に面白い……あながち間違っていないわよ」
彼女は否定しなかった。俺は何故か嬉しくなって頬が少し緩んた。
「貴方が必要ということ以外はね」
「…………は? 」
1章はこれにて終了です。
主人公はどうなったのでしょうね……
作者私も気になります!




