15話 分岐点
何でこんな事に......。
岡部一佳は非常に焦っていた。
「クソッ!......あいつめ、話が違うじゃねぇかよ!おいっ!」
「岡部さん......?」
一佳の取り乱し様に戸惑う取り巻きたちであったが、どこか他人事のようだ。現に彼等はこの出来事を大事だとは思っていない。
しかし、これがどれほど恐ろしいことなのか......それを一佳は分かっていたのだ。
勇者。それは英雄。
恐らく多くの人はこう思っているはずだ。
(ケテル国王だって俺達を雑に扱ったりはしていなかった)
これはつまり、『勇者は国を守る兵力』──つまり、国王は俺達の事を“武器”としか思っていない。
一佳はその武器を2つもなくしてしまった。それも魔王と刃を交わすことができるようにさえなってしまう、恐ろしい武器を。こう考えれば事の重大さがわかる。
それによって俺達の生存率が急激に下がってしまう事は語るまでもあるまい。最悪、我々が追放ということだってありえるのだ。
「これは非常に拙いな……」
岡部の額に冷や汗が流れた。
いち早くあの2人を探さなければ……。
「お前達!あの2人組を探すぞ!」
「いや、でもそんなこと後でだって……」
しかし彼等は批判的で、岡部の言う事に不満を漏らしていた。いつもなら黙って頷く忠実な部下達が不満を漏らすといった、滅多に起こりえない現実に驚愕する岡部であったがすぐに気を直し言い返す。
「お前達はあいつらの仲間じゃないのかっ!」
その言葉に彼等は不満な顔をして無言を貫いた。その状態に彼の苛立ちは増していった。近くの木に止まっていた小鳥が数羽どこかへ飛んでいった。
「……もういい。俺一人で探す。お前らはここから全員で帰れ 」
「岡部さん!?」
森をひとりで探索など自殺行為に等しい。森には比較的凶暴なモンスターが多く、木々の生い茂る森の中では微妙な音──小枝を踏んだ音や草の揺れが、標的の原因となる。そしてこれらの音は人間には非常に察知しにくいもので、人は気付きにくい。人間にとって圧倒的に不利な立場での戦闘が多くなるのだ。そのような危険地帯を一人で歩くなど、よっぽどな世間知らずか、自分を過信しすぎた馬鹿くらいだ。
「なんで……あんな奴らのために俺達がわざわざ探さなきゃいけないんすか」
「お前らは、何もわかっていない。勇者が2人も消えたんだぞ!?そいつらのことを国王にはどう話す。それこそ、魔族に彼女達が利用されたらどうする!?……無駄な時間浪費にすらなるんだそ!?」
彼らは岡部の言い分に、なにか違和感を感じたが既に彼の勢いに飲み込まれており、彼に言い訳をする者は現れたなかった。
「岡部さん。なら一度拠点に戻ってイニヨルさんに連絡して捜索部隊を結成してもらうという形の方が効率的ではないで──」
「最初からそんな弱気でとうする。それに、ここから拠点までは一時間近くかかる。そこからケテル王国に戻って片道半日。つまり、捜索が始まるのは明日になるんだぞ!その間彼女達は森の中で過ごすなど無理に等しい」
彼の発言に言い返す者は誰ひとりとしていなかった。
「……分かりましたよ」
その一言で、ようやく捜索が始まった。
□□□
テントに戻ってきた俺は彼等がまだ戻ってきていないことに少し違和感を感じた。しかし、彼等が出かけてからまだ2時間も経っていないようで、日の傾きはほとんど変わっていなかった。
「さて、地道なレベル上げでもしてくるかね」
軽く4、5時間は経っていたかと思って急いで帰ってきたのだが、そうでもないようなのでもう1度探索しようと思う。
黙々と進み続けていると、華凛と、水緒に似た2人が困り顔で歩いていたのが見えた。岡部たちがいないのを見る限り別人だろうか?
「グルルルルル……」
ここから離れて狩りをしようと決めた瞬間、犬の唸り声が聞こえた。いや、この森にいるなら狼だろうか?
そちらに向かって炎魔法を打つと、みるみるうちに背の高い草に燃え移り小規模な火災へと発展していく。
「しまった……ッ!」
──そうだった。延焼のことまで考えていなかった!
俺は水魔法を発動するが、既に俺に消せるスケールのものではなく、水蒸気となるだけ。
「えっ!?なんかあっちの方燃えてない!?」
この炎に気付いた華凛と水緒が小走りで近寄ってきた。
そしての炎の前にいる俺に気付く。
「なんで友樹がここにいるの!?」
「いや……まあ、ね」
俺は何とかして誤魔化そうと思ったが、こういう時に限って言い訳が思いつかない。
「華凛ちゃん!それより早くこの火を消さないとっ」
「あっ、うん!」
華凛は水緒の言葉に先にやるべきことに気付き、詠唱を始める。
詠唱が終わると同時に水の球体が螺旋状になって飛んでいった。
その球体は燃え盛る炎の中に入って弾け、破けた水風船のように辺りに水をまき散らした。俺の足元が水に濡れ、泥と化す。
「さっすが華凛ちゃん!」
彼女達はハイタッチをして笑っていた。まあ、見つかってはしまったが、彼女達がはしゃいでいるのを見ていたらどうでもよくなってしまった。
□□□
「何でこんな事に……」
岡部一佳は誰にも聞こえないくらい小さな声で呟いた。
あの後3時間弱探したが、華凛と水緒の2人は見つからなかった。他の奴らは完全に諦めている状態での捜索になってしまい、進まなくなってしまったので帰ってきたのだが、そこには、はぐれた2人があいつと喋っていたのだ。
その光景を見た他の奴らはため息、若干、安堵の表情を見せた後、空いている丸太の椅子へとヘナヘナと座っていく。
いつもなら見つかって一見落着と、気持ちを切り替えるのだが、今回は何故かそうもいかなかった。
彼らの楽しそうに会話をしている所を見るとイライラするのだ。それこそ、友樹を殺したくなるくらいに──
そこまで考えて彼ははっとした。この感情に流されては駄目だ。心を押さえつけなければ…………。
──またアイツがやってくる。




