12話 もう1人の……
あれから数時間経って(体感時間のため、実際はわからない)ようやくほかのメンバーが起きたため、この辺りの草原の探索を始めることにした。
ここの事はケテル王国の国有地らしいのだが、特に危険なモンスターは確認されていない。とだけしか記録に残っていないらしい。
ほかの勇者達のパーティーが行ったところもこんな感じの場所だったらしいが、特にここは不思議な現象が多々ある、ケテル王国内では知らない人がいない草原とのことだ。
その不思議な現象というのが、連れていった馬が急に死んだ。とか、草原で訓練をしていた兵が失踪したなど、例を上げればきりがないらしい。
こんな物騒なところに勇者の俺達を向かわせるのは、期待しているのか、捨て駒なのか...
「なあ、あれなんだ?」
岡部の取り巻きの中でもおしゃべりな男が前方の建物を指差して言った。確か名前は隆二だった気がする。
その建物は石造りの古い建築物だ。石の劣化具合から見て、少なくとも百、二百年前のものだろう。
「あれは…【サタン】の神殿、です…」
彼女が言う【サタン】。これは俺にもよくわからない。今まで読んできた書物には出てこなかった神の名前だ。しかし、名前からして、悪魔の可能性が高いと思うのは、地球での「サタン」が悪魔だったからなのだろう。
そして、イニヨルさんの歯切れの悪い台詞を聞けば、だいたいそんな感じだと予想がついた。
その神殿は、壁が完全に破壊されており、柱と梁、桁、屋根の四つでなんとか保っているような状態だ。石柱は風化によってところどころ欠けており、一本は完全に下半分がなくなっていた。
壁がなければ当然室内(と今も呼べるかは謎だが)の様子がはっきりと見える。
神殿内部には長椅子といくつかの石像があり、イニヨルさんはその中の一つの石像に近づいた。
「これは......物騒ですね......壊していった方が良さそうです」
イニヨルさんは石像に近づいて剣を振り下ろした──瞬間。
「キェエエェェェエエェェ!!!」
耳をつんざくような奇声を上げてどこからかモンスターが飛んできた。
否、これはモンスターではない。黒い羽を持った人間だ。
「なっ!?」
イニヨルさんがそのモンスターを見て絶句している。
その状態の彼女を守るべく、俺達はイニヨルさんを囲むようになって、武器を構えた。
「ナゼ、ブキヲカマエル?」
外国人が言うような片言の言葉でそいつは言った。その問に誰ひとりとして答えるものはない。
「......フム......ワレガ"アクマ"ダカラナノカ?」
「あ、悪魔......?」
悪魔だと?こいつがか?人間に羽を生やしただけで、それ以外は何も代わりのない。もっと漆黒の肌で醜いものだと考えていたのだが、そういうものではなかった。
「オマエラガ、タタカウトイウノナラ、シカタナイ」
彼はそう言って戦闘を開始すべく、イニヨルさんに襲いかかる。鋭い爪を俺が剣で受け止めると、今度は俺に標準を変える。
俺は悪魔の攻撃を剣で受け流し、避け、受け止める行為をするのが精一杯だ。
「華凛、水緒!援護頼む!岡部たちはイニヨルさんを守っててくれ!」
「ったく!なんで俺達がお前なんかに指図されなきゃいけないんだよ!」
俺の言ったことに彼等が最初から大人しく従うなんて思ってもいない。
しかし、彼等があの位置から必然的に動けなくなっていることに俺は気付いていた。
岡部含めた男子が全員で動くとイニヨルさんに悪魔は攻撃するのだろう。だとするならば、あいつらが下手に動けばそれが原因でイニヨルさんが死ぬかもしれない。それに気づいているだろう岡部は何も言ってこなかった。
「まあ、ここは彼の言葉に従いましょう」
「岡部さん、でも......」
「何か問題でも?」
「い、いえ......」
岡部がそう言うと取り巻きの連中も、リーダーの意見に反対はせず、不満な顔をしながらも、従い始めた。
「──────」
「華凛ちゃん、援護するよ!」
詠唱中の華凛に、水緒は『詠唱短縮効果』のあるスキルを使う。
「フレア!」
ようやく唱え終えた魔法が悪魔に直撃し、皮膚を焼き焦がす......はずだった。
「なっ!?」
悪魔の皮膚には傷が一つとしてついていなかった。華凛が今現時点で使える最も強力な魔法の『フレア』でさえダメージが通らないとなれば、今の俺達には厳しい相手だ。
「はあっ!」
突如、光り輝くモノが悪魔の腕の皮膚を掠めた。
その皮膚には一線の焼かれたような傷ができ、それを抑えるように悪魔は腕を抱いた。
「......ワレニ、キズヲツケルダトッ?!」
華凛の『フレア』でさえ傷一つ与えることができず、俺が対処策を考えていた最中に起きたのだ。当然ながら驚きのあまり思考が硬直してしまう。
自分では無意識に分かっていても目の前の現実が信じられなくて、そちらに集中せざる負えない。
「あ〜あ、悪魔って言うからどんなもんかと思えばこんなもんかよ......つまらねぇな」
その声の主は、髪の色、容姿から見て、明らかに日本人だった。
「よう、────久しぶりだな、華凛」
「えっ?私?」
彼は優しげな、慈しむような視線を向けて言った。
華凛の表情からして彼女はその男のことを知らない。しかし、所謂『勘違い残念男』にも感じない。
「華凛......生きていてよかっ────っ!」
彼は言っている途中で、華凛の横に立っていたイニヨルさんを見るや否や、一歩後ずさって剣を構える。
「なぜお前がいる!お前はあの時俺がこの手で......っ!」
「な、何を言っているんだ?」
彼は意味不明な事を言っていたため、俺が彼に尋ねることにした。
「な、何を言ってるんだよ!なぜこんなやつと一緒にいるんだ!」
彼がそう言うと同時に、俺は彼に異変が起きていることに気がついた。
下半身が薄く消え始めているのだ。そのスピードは凄まじく、10数秒で膝下までが完全に消滅していた。
「くそっ!時間が無い......お、中井友樹、イニヨル(あいつ)には気を付けろよ!忠告はしたからな!」
そして、最後に彼の言った言葉はここにいる全ての者に衝撃を与えた。
「友樹!絶対に間違った選択はするんじゃないぞ!」




