11話 何故
早くも今日で2日目。
昨日の興奮が残っているのか、なかなか深い眠りにならなく、つい起きてしまった。このまま寝たふりをするのも退屈なので外に出てみることにする。
なんとか立て上げた、おんぼろテントから出ると、まだ薄暗かった。軽く背筋を伸ばしてリラックスする。昨日キャンプファイヤー(?)に使った場所には当然丸太の椅子かまあるため、それに座った。火は消したわけでもないのにすでに消えていて、微かに炭のようなものが残っているのが薄暗がりの中でも確認できる。
今日も色々と大変な1日になるんだろうな。そう思うと溜め息が自然と出てくる。しかし、それと同時に今日も何かが起こるということが楽しみでもあった。
「そういえば、何であのウルフを倒すことができたんだ?」
ふと思ったことを口にする。一か八かでやってみたことなので、俺が逃げる時間を作ってくれれば上出来だと思っていたのだが、まさか倒してしまうとは……。
しかし、俺のINT20で倒せるほど弱いはずもないのだ。では、なぜ倒すことができたのか…それがどうしても分からなかった。
(なら、何らかのスキル補正があるのか……?)
ここで言うスキル補正とは、スキルに何らかの状態異常がついていて、それによりダメージを与えるものである。しかし、かの有名な英雄フレイ・グリムロードの書いた書物にそのような表記はなかった。
(ならば勇者の特権か……?)
これも証明は難しい。魔法の使えないものにそのような特権があっても意味がない。
(はぁ……実験するしかないのか)
俺は渋々立ち上がって回りを見回す。
すぐそばに崖があったはずなのでそっちへ向かうことにした。その崖へ行くと、草が生い茂っているためなにも見えない。
どうしようかと困っていると、草が動く音がした。
ちょうどいい。ウルフが通りかかったようだ。ガサガサと背が高い草が音をならす。俺は素人ながら弓を構える。
(ここだッ!)
俺はピクピクいいながら必死に体勢を固定していた指を離す。矢は、大きく外れて右手の木に突き刺さった。まあ、これはこれで全然いいのだが。
ウルフは矢が木に刺さった音を聴いて俺の存在に気づき、それと同時に俺に対して細い目で威嚇してくる。
しかし、俺の行動を観察しているのか、攻撃のチャンスを伺っているのか……。いや、それはないか。俺は上から狙い撃ちしたわけだし……。
ウルフはその場から離れようと後ずさっていく。俺はコースからずれないように、稚拙な弓引きで草があまり生えていない所へと誘導する。
(よし!これなら行けそうだな)
俺は弓を地面に置くと魔法を発動させた。勿論、炎魔法だ。
腕の中に収まるような大きさの小さな炎を数メートル下のウルフに直接当てた。
無残にもその炎はウルフの皮膚に弾かれたが、予想通り。
次は炎をウルフの下に生えている雑草に引火させる。草は簡単に燃え上がり、その炎はウルフをも巻き込んだ。ウルフは悲鳴をあげて逃げようとするが、炎の燃え広がるスピードの方が遥かに早い。
ウルフの悲鳴が聞こえなくなったことには、俺の水魔法ではどうすることもできないスケールの火事になってしまった。
これに対しても、きちんと対処法を用意している。土魔法で上から砂を振り掛ける。それもただの砂ではない。水分を含ませた──泥とまではいかないが湿気を含んだ感じの砂だ。
時間はかかるだろうが、酸素の供給が断たれて、やがて消えることだろう。
十数分かかったが、無事消火に成功した。風が無かったのは幸いだった。
湿気を含んだはずの砂も、白く変色していた。
□□□
「結局、どうしてウルフを倒せたんだよッ!」
倒せることは分かったとしても、その原理が分かるとは限らない。
俺は昨日キャンプファイアをしていた場所にある丸太に座って、取ってきた雑草を燃やして明るいようにしている。それも、明るい所なら少しはいい考えが浮かぶかなとか、理屈のなっていない理由だったりする。
魔法を弾かれたということは、ウルフのMNDが俺のINTを越えていたのだろう。
なのに何故、草を燃やした場合にはダメージを与えることができるのか……。
(…どうやって調べればいいんだよッ!)
こんなわけが分からない原理を証明するなど、俺みたいな低脳にはできそうにないなと皮肉を言いたいところだが、なんせ言うべき相手が一人としていない。
「ふぁぁぁ……ん?あれ?友樹?」
可愛らし……呑気に欠伸をして華凛がテントから出てきた。その際にテントの中に目がいってしまうのは少なくとも男の定め…だと思いたい。
「こんな夜遅くになーにしてるのっ?」
「そんなこと知らない方がいいですよ」
華凛の言葉に返したのは岡部だった。テントからもぞもぞと出てきながら言う。正直、キモかった。
「どうせ人には言えないようなことをしてたに違いありません」
「えっ!?……ま、まさかっ!」
「なにと聞かれたらナニと答えるのが友樹でしょう?」
……岡部よ、なに人の事を語っていやがる。
「普段はとても押さえているのでしょうからね…こんな華凛さんといるのだからッ!ムキー!」
「俺、貶されてんの?褒められてんの?」
「もちろん貶してます」
人を貶していることを(キリッ)とかなりそうな感じで白状すんじゃねぇよ……。
因みに言うと、岡部の歯は白かった。優等生なんだから当たり前だが。彼にこんな偏見を持った俺ではいるが、こいつと話してて、悪い気はしなかった。岡部も変わったのかね…とか思いながらも、脱線していたことに気づく。
「俺はただ昨日の事を考えていただけ…」
しまった。と思ったときにはもうすでに遅かった。
「昨日のこと?…やっぱりあの魔法には仕掛けがあるのね!ねーねー、教えてくれるよね?ね?」
「………」
「…中井君は黙秘権を執行できません」
「先にそれを言うのか……」
別に「黙秘権を主張する!」とか言う気はなかったが、話には流れがあると思う。
「……スキルに乗らないスキルだね」
あながち間違っていないのだから、嘘はついてない。
俺が魔法を使えるのは恐らく、この世界の「プログラム」の矛盾をついたものだからだと思う。
それこそ、もしかしたら今ある常識がじつは違かったりすることだってある。スキルにはならないスキルという解釈だってできなくもない。世界に気付かれないスキルなのだから。
「スキル?そういえば中居くんはどのようなスキルを持っているのですか?」
「え、......」
おかしい。
何故、スキルが見えていないんだ?スキルは確か能力透視眼で見ることができたはずだ。しかし、彼らには見えていなかったようだ。つまり、俺が勘違いをしていた可能性が高い。
(神眼の能力なのか?)
俺だけが持っているスキルでそれらしいものといえばこれくらいしかない。根拠はないが、これが原因なのだろう。細かい事はそのうち調べは良い。
「俺はみんなが持ってるスキル以上のものは持ってないと思うよ」
少し嘘をついた。しかし、ここで俺がほかの奴らにないスキルを持っていることがバレるのはまずい。これから強奪系統のスキル持ちが出た時に一番の標的にされかねないからだ。敵を騙すならまずは味方からだ。
「ふむふむ...だとしたら私達にも使えるということですよね?」
「それは、分からない。これがどういう原理なのかはっきりわかってない以上、勇者の全員が使えるとは限らないな」
「それはつまり、センスによる。と?」
だから分からねえって言ってるだろうが。
「とにかく、その辺は試してみないとわからない」
「じゃあ岡部くんやってみてよ!」
華凛の言葉に、岡部はコクコクと頷いてさっきまでの俺と同じように、右腕を前方に伸ばして目を閉じる。ここで魔法を想像して構築する必要があるのだが、そんなことを言っていないのにするはずもなく、ただ、厨二ティックな動作をした、残念な人になっている。
「......なりませんね」
「...だね」
「...だろうな」
これは単にセンスがなかっということで済むことだ。いくらでもごまかせるのだ。しかし、保険として1人くらいの成功者がいるとなおいい。
そのためには、信頼できる人がいればいいのだが...。
「私は魔法スキル持ってるからなぁ......」
華凛がやっても、出来ているのか出来ていないのか判別がつかないため、彼女はやる意味が無い。
「まあ、これは保留ですよね。もう少しで陽も昇ります。皆さんが起きてくるのですから......」
優等生だけあってなのか、単に自分の友人だからこそ、結末がわかっていての発言なのかは知らないが、彼は話のわかる人間だ。
「取り敢えず、この事は当分は誰にも伝えない方がいいと思います。知っている人数が多くなれば、情報が漏れる可能性が高くなりますから」
岡部の言葉に俺達は頷いた。




