-始まり-
薄暗く、ぼんやりとした黒で覆われた空間に俺は立っていた。周りからは、ガシャンガシャンやゴウンゴウンと、大きな機械が動いているような音が絶えず聞こえてくる。けれど周りを見渡しても音の正体は分からない。
「『運命の赤い糸』というモノを、アナタはどう思いますか?」
唐突に聞こえてきた言葉に振り向くと、ぼんやりとしたなかでも人型であると分かる、はっきりとした輪郭を持った、それ以外は分からない《なにか》が居た。《なにか》は俺の反応を待たずに続ける。
「赤い糸をロマンチックなモノだと肯定的にとるか、それとも存在しないモノだと否定的にとるか。そこは個人の価値観によって違うでしょう。けれど、ワタシはいつも不思議でならないのです。」
なにが。
「なぜ、ヒトは『赤い糸』だけを信じるのでしょうか?青、緑、黄、白、黒といったように自分たちの周りには無数の色が溢れているというのに。」
なにが言いたい。
「例えば『青い糸』が本当に存在しないと言いきれますか?赤い糸の結ばれた小指の隣の薬指に結ばれているかもしれないのに。同じように『緑の糸』や『黒い糸』も、どこかの指に結ばれているかもしれません。なのにヒトは『赤い糸』のみを信じている。」
そんなの有るわけがない。
「本当に?」
だって、聞いたことがない。
「それはアナタがまだ、知らないだけです。すでにアナタの指にも結ばれているかもしれません。」
そう言うと《なにか》は私の方に一歩踏み出した。俺はよくわからない恐怖を感じ、少し後ずさる。
「こんな風に」
俺が後ずさったのを見た《なにか》がそう言うと、空間を包んでいた黒が消えていき周りの景色が、音の正体が見えてきた。
俺の周りでは、指に様々な糸を結びつけられた腕が、ベルトコンベアによって流されていた。
驚きと恐怖によって動けない私に《なにか》は近づき、俺の手を取ってきて--