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「じゃーねー、来夢!また明日!」
夕暮れ道、少女は手を振って、歩いて去っていった。
来夢と呼ばれた9歳の少女もまた、手を振り返した。
〈…この度は…で…誠に申し訳ありませんでした。〉
テレビのなかで深々と頭を下げる、スーツの男性。
夕食を頬張りながらそれを見ていた来夢は、母に向かって言った。
「なんでこの人謝ってるの?」
そんな来夢の唐突な質問に、母は少し困りながら返した。
「この人は悪いことをしたからだよ。」
「なんで悪いことをしたの?」
それでも理解しきれない来夢は、再度質問した。
「うーん…あの人は、それが正しいと思ってやったんだよ。」
「ふーん。」
そんな答えに、来夢は少し不満げに返した。
9歳の来夢にはわからないような難しい事情があって、父はおらず、来夢は母と二人暮らしだった。
来夢は活発でさっぱりした性格で、無邪気で無垢な少女だった。
ある休日、来夢は母と二人でテレビで「ピーターパン」を見ていた。
「ピーターパンって本当にいるの?」
テレビを指差しながら来夢は言った。
「うん、きっといるよ。」
母は笑顔で答えた。
「そっかぁー!」
来夢は足をバタバタさせて、無邪気に喜んだ。
(私のところにも来てくれるのかなぁ。)
ただそんなことを考えていた。
そして、寝る前には度々窓から外を眺めているのだった。
(いつ迎えに来てくれるのかなぁ…。)
時はあっという間に過ぎ、来夢は12歳、そして、中学生になった。
「来夢!どうしたの!?」
ある日の放課後、学校から帰ってきた来夢は、玄関で母に呼び止められた。
来夢は髪をくしゃくしゃにして、制服も泥だらけで、顔にも殴られた痕がたくさんあった。
話を聞くと、同じクラスの男子と殴り合いのケンカになったらしい。
来夢は変わらず無邪気だったが、少し男勝りなところがあった。そのせいで、クラスメイトとのケンカはたまにあったが、ここまでのケンカは初めてだった。
「向こうが先に喧嘩売ってきたんだよ…友達のこと馬鹿にしたから…。」
母は来夢と二人きりで話をしていた。
そんな来夢はぶつぶつ呟きながら、ただ小さく丸まっていた。
「どっちが先とかじゃないの。来夢もいちいちそれに反応してちゃダメ。」
母は困り果てたように言った。
「もう中学生なんだから、そろそろ大人になりなさい。」
母は最近よく「大人になりなさい」と言う。それは、私がもう12歳だからなのだろう。
(ヤだよ大人になんて…ずっと子供のままでいいし…。)
「いい加減、ピーターパンがどうのとか言わないで、ちゃんと前を向きなさい。」
(お母さんがピーターパンはいるって言ったんじゃん。別に後ろ向いてるわけじゃないし。)
「早く一人前の人間になりなさい。」
(一人前の人間ってなんなの。なにが出来たら一人前の人間なの。)
反論することもできず、ただ思いは募っていった。
(ピーターパンはいるよ…私だって連れてってもらうんだから…大人になんてならないんだから…。)
その日の夜、来夢は一人で窓から外を眺めていた。
「ねぇ、いつ来てくれるの?私、ずっと待ってるんだよ?」
ただひたすら夜空に向かって、そんなことを呟いていた。
それでも、来夢のもとにピーターパンが来ることはなかった。
「ねぇお母さん。」
数日後、来夢は朝食を食べながら母と話をしていた。
「なに?」
「ピーターパンって本当にいるの?」
来夢は母の目をじっと見て言った。
「何言ってるの、いるわけないじゃない。」
母は来夢の顔を見ることなく、淡々と言った。
「え…?昔、お母さん、いるって言ったよね…?」
来夢は少し切ない声色で言った。
「いつそんなこと言ったの?12歳のくせに何言ってるの。」
またも母は、来夢の顔を見ることなく言った。
(なんで…?言ってたじゃん、「きっといるよ。」って!!)
来夢はわだかまりをおぼえた。
(お母さん、どっちが嘘なの…?)
それでも来夢には、真実を知ることが出来なかった。
いや、知ろうとしなかった。
――そして、来夢の世界は少しずつ狂っていった。
「…意味わかんない。」
7月10日、とある夏の日。
今日16歳になった来夢は、一人外を歩いていた。
あれから、もちろんピーターパンなど来るはずもない。
母との口喧嘩も増え、こうして一人で出歩くことも増えた。
(なにが「大人」だよ。テレビに出てる人たちだって、ろくな人いないし。)
(みんなみんなバカみたい。)
(別に子供が楽だからとかそんなんじゃないし。私なんか大人になる資格なんてないからって話だよ…。)
来夢はただ一人そんなことを考えながら歩いていた。
すると、次第に涙が零れた。
「ねぇ…いつ迎えに来てくれるの…?」
そのまま、誰もいない並木通りに座り込む。
そして、一人静かに涙を流した。
「こんな世界…嫌いだよ…。」
来夢の泣き声も、響く蝉時雨に虚しくかき消された。
「なんで泣いてるの?」
突如、そんな蝉の声を掻き分けるような少女の声が響いた。
「辛いの?」
声と共に、ゆらゆらと影法師が現れた。
「私が助けてあげようか。」
少女は来夢に近づき、優しく手を差し出して言った。
「私と一緒に、新しい世界を創らない?」
過去編です!
これからじゃんじゃん出していきます!
ぐいぐいきます!
本編過去編あわせて今3分の1くらいです
眠りは無いぞ!
何のセリフだこれ。