Program 7
住人が9人となった夢音は、前から騒がしかったが、声が入ったことでさらに騒がしさが増した。
「はぁ…ほんと疲れる…。」
私は一人、家から出てきて森の中を歩いていた。
私が向かったのは、湖の近くにある小さなブランコだ。
一人で居たいときに来る場所だ。
そういえば、あそこには部屋と椅子が10ずつあったな。一人ずつ増えていっているのだから、全部で10人集まるのかな…。
もしそうなら、今9人。あと一人だろう。
そもそも、なぜ私たちはこんなところにいるのだろうか。
来る前までは普通に両親と住んでいて、学校に通っていて友達も…
あれ?私、友達って…
ここは何処なのだろう。時間も流れていないかのように、毎日同じ日を繰り返しているかのように、不思議な感覚だ。
ここは、私がいたところとは全く違う世界なのだろうか。
なら、私がいた世界はいまどうなっているのだろう。
ふつう、誘拐や行方不明など、大きなニュースになる。誰が私を連れてきたのだろう。一体何のために?
だが、そんなことを考えていてもしょうがない。ここから出ることはできないのだから。
なぜ私はここにいるのだろう。
なぜ私はどこにもいけないのだろう。
なぜ私は何も知らないのだろう。
なぜ私は一人なのだろう。
なぜとはなんなのだろう。
怖い。ここにいることがとても怖い。
仲間だってたくさんいるのに、友達もたくさん出来たのに、なぜ私はこんなに怖いのだろう。
もう何もわかんないよ。
何も知りたくない。
自分がこんなことを考えていてしまっているのも、バカみたいに弱くて一人で怯えているのも知りたくない。
夢音ってなんなの。
そんなもの、本当に存在しているのだろうか。
本当は全て嘘なのではないのだろうか。
だって、私がいた世界は嘘だらけだったんだから。
所詮全て嘘なのかもしれない。
それなら、私はここにいて幸せなのではないのだろうか。
向こうの世界では辛いことしかない。きっとそうだった。
私には友達がいるんだっけ。
何も覚えていない。
なら、いなかったのだろう。
なぜ友達がいなかったのだろうか。
嘘を吐かれて、誤解をされて、バカなことをして、恥をかいて
人間とはなにがしたかったのだろう。
私も、そうだったのかな。
いやだなぁ。
何もしたくないな。
自然と涙が零れた。
こんなどうしようもないことに泣いてしまう自分さえ、何より情けなくて、馬鹿らしくて、また涙がこぼれる。
The time is out of joint.
何処かの誰かが言った。
「この世の関節が外れてしまった。」
いつからこんな外れてしまったのだろう。
そんなぼろぼろの世界なんていらない。
涙が溢れて止まらない。
嫌だ。なにが嫌なのかもわからない自分も嫌だ。
嫌いだ。
こんな世界なら…もう…。
「嫌いだよ…ばか…。」
「…桔梗ちゃん?」
ふいに声をかけられて前を向いた。
「どうしたの、こんなところで。」
「…貴春…。」
「そっか。確かにずっとこんなところにいると、そう思っちゃうよね。」
私は隣のブランコに座る貴春に、思っていたことを打ち明けた。
「僕も、何も覚えてないから何も言えないけど…。」
貴春は困ったように頭をかいた。
「でも、よくわからないけど、これだけ覚えてる。」
「僕はここに来る前に、女の子に会った。」
「女の子…?」
「うん、桔梗ちゃんは会ってない?」
私の顔を覗き込んで聞いてきたが、全く覚えていなかった。
「わからない…。」
「そっか…確かその時…何かを話したんだよなー。」
そう言って少しブランコを漕いだ。
女の子になんて会ったかなぁ…
一人で唸りながら考えていると、貴春が「そうだ!」と言って手を叩いた。
「僕の誕生日の日に会ったんだ!」
「誕…生日…?」
貴春は「うんうん」と大きく頷いた。
「桔梗ちゃんは誕生日に何してた?」
「…私は…」
頑張って思い出そうと下を向いた。
何してたっけ…?
その瞬間、強く風が吹いた。
隣の湖が大きく揺れる。
「え…?」
思わず湖を見た私の目に、水面に映っていたのは、一人歩いている少女だ。
「なにこれ…」
それはまるで映像のように、ゆらゆらと動きだした。
雪の降るなか少女は、歩きながらの何かを呟いていた。
『何で……け…。も……だ、…な…い。』
声が小さくてよく聞こえないが、どうやら泣いているようだ。
湖の水面に見いっている私に貴春が問いかける。
「桔梗ちゃん、なに見てるの?湖がどうかした?」
貴春の言葉からするに、私にしか見えていないようだ。
『こ…世界…、私…る…き…じゃ…か……だ…。』
ただ湖を見ていると、少女の前にもう一人の少女が現れた。
少女は何かを語りかけていたが、姿がよく見えず、言葉もよく聞き取れない。
『そう、…は…な……場所…い。』
『大丈夫、私が必ず助けるから。行こう?あなたの本当の居場所に。』
最後だけ不自然にはっきりと聞こえた。
まるで、私に本当に話しかけているかのように。
いや、話しかけられているのだろう。
この少女は私だ。
向こうの世界にいた頃の私だ。
少女は涙を流す私に手を差し出した。
そして、私は…
彼女の手を取った。
少しずつ話が動き出しましたが…
ぜひ、もう1度プロローグを読んでみてください。
きっと少しだけ話がつかめてくると思います。