Program 5
本日1月10日はきぃちゃんこと桔梗ちゃんの誕生日です。
おめでとう!!
夢音に初めて雨が降った。
そんな日、私は茉莉音と来夢と3人でおしゃべりをしながら過ごしていた。
その時
「来夢ちゃん!お客さんだよ!」
玄関のドアを開けて叫んだのは貴春だ。お客さんとは、おそらくここでいう新入りだろう。
「おっ!来ましたかー!」
椅子から立ち上がり、慣れたように外へ出ていく。
「来夢、ずいぶんと慣れてるのね。」
「うん。基本、ここの事や新入りの事は全部来夢に任せてるから。」
何でもこなすというわけではないが、何故か全てを任せられるほど、彼女は信頼感が強い。
「やーやー、みんなー!集まれー!!」
来夢が戻ってきたかとおもうと、全員を収集し始めた。
今から、恒例の自己紹介だろう。
来夢の後に入ってきた貴春の後ろにぴったりとくっついて貴春の服を掴む、背の低い人がいた。
見た目だけでは男か女がわからなかった。頭に真っ赤なリボンを巻いていて、れみと変わらないほどの身長なので、おそらく少女だろう。
「よぉーし、じゃあ自己紹介してくれる?」 少女は貴春の後ろから出てくると、おどおどした表情で言った。
「あ…ボク、伊南ミナトです…。」
「うん、ミナトくんね!」
ん?ちょっと待って。チラッと茉莉音の方を見ると、茉莉音は特に問題なさそうだ。
「あのー来夢?」
「んん?なんだい、きぃちゃん?」
私は思いきって小さく手を挙げた。
「えっと…男の子?」
「うん、そだよ。」
「えっっっ!!?」
思わず叫んでしまった。私のも声にびっくりしたのか、ミナトくん?はまた貴春の後ろに隠れてしまった。
「あっごめん!いや、何て言うか、あまりにもかわい…可憐?じゃなくて…とにかくごめん!!」
何て言ったらいいかわからず、とりあえず謝った。ミナトくんは後ろからチラッと覗くと、優しく笑ってくれた。
「まったくきぃちゃんったら!こんなイケメンを女の子だなんて!とゆーわけで、私からはこれだけ!」
解散!と言うように来夢は去った。イケメンは言い過ぎ…どう見ても少女だ。そんなミナトくんは、貴春にギュッとしがみついて小さくなっていた。そうとう不安なんだろうな…。
そこに、茉莉音がスッと歩いていった。
「ミナトくん、初めまして。私、片桐茉莉音。よろしくね。」
まさにお母さんのように優しく声をかけた。私もあんなお母さん欲しいよ…。
そんな私に気づいたのか、貴春と目が合い、手招きをされてしまった。
「ぅ…あの、ミナトくん、私、和束桔梗。よろしく…。」
「わー、桔梗ちゃんったらぶっきらぼう!」
「うるさいわね!」
貴春とのそんなやり取りを見ていたミナトくんは、後ろから出てきて「ふふっ」と笑った。やっぱり笑顔がどう見ても乙女だもんなぁ…。
ふいに、ミナトくんが小さな声で喋りだした。
「あの…ボク、気がついたらここにいて、よくわからないままこんなことになってて、それで…」
少し涙目になりながらも、頑張って話してくれた。茉莉音は、そんなミナトくんの頭を優しく撫でた。
「大丈夫だよ。みんな同じだから。」
そう言って、ニコッと笑った。ホントにこんなお母さん欲しいよ…!
「…はい!」
茉莉音の安心するような笑顔に、ミナトくんの表情も少しずつほぐれてきた。
「あとね、もうみんな友達だから、敬語じゃなくていいんだよ。」
「はい!あっ…うん!」
間違えた!という時の表情が実に子供っぽくて、本当に二人は親子に見えた。
「桔梗ちゃんも初めはずっと敬語だったよね!」
「うるさいわよ!もう忘れて!!」
貴春が余計なこと言うから!あの時のことはもうこの世から抹殺されたのよ!!
「あの時の慣れない感じか可愛かったのになー、あの桔梗ちゃんはどこにいったんだろう…」
「もう!貴春どっか行って!!」
「あははー」
ホントにコイツは!!空気読んで!?
「あっもうこんな時間!私、夕食作らないと。」
そう言って茉莉音はパタパタと駆けていった。
「ホント、もうこんな時間だね。」
貴春がそう言って時計を見る。すると、時刻はもう6時過ぎだった。仕事スキルが激高な茉莉音のおかげで、いつも7時ぴったりに夕食が食べられるのだ。
だから、6時過ぎには夕食を作り始めるというのが、彼女のなかではもう習慣なのだろう。
「ミナトくんはなに食べたい?」
貴春が問いかける。
「ボク…シチューがいい…。」
「そっか!じゃあ茉莉音ちゃんに言ってみようか!」
貴春はミナトくんと手を繋いでキッチンへ向かった。茉莉音とは親子にしか見えなかったが、貴春がミナトくんと歩いている姿はまるで、兄弟のようだった。
「貴春はお兄ちゃんスキル高すぎね…。」
無意識に呟いてしまい、貴春がそれに気づいた。
「え?貴春はお兄ちゃんに欲しいタイプね…って?」
「言ってないわよ!!」
ちゃんと聞こえてないのかよ!?
ミナトくんは、私たちのやり取りに度々「ふふっ」と笑う。
この笑顔がやっぱり可愛い。あぁ…夢音にもついに癒し系キャラが…!!
一人感動していると、来夢がどこからかひょっこりやって来た。
「やっほーきぃちゃん!ミナトくんとはみんな仲良くやってるかい?」
「うわっ!来夢いつの間に!?まさか忍び志望!?」
「きぃちゃんどーしたの?」
「…ナンデモナイデス。」
ついに頭がおかしくなったのか…と思うと、キッチンの方から早くもシチューの香りが漂ってきた。そして、カウンターではミナトくんが目を輝かせて見ていた。
「うん!ミナトくんも少しずつ馴染んできたね!」
来夢は「よしっ!」と言ってまたどこかへ走って去っていった。
まさか、来夢がミナトくんに着いていなかったのは、他の人と馴染んでもらうため…?いや、でも来夢がそんなとこまで考えているはずが…
だが、彼女は案外私たちが思っているよりすごい人なのだ。
しかし、ドアの前にいたむっつーを「どけぇー!」と蹴り飛ばしていたことは気のせいであって欲しい。
「シチューだぁぁぁっ!!」
テーブルから身を乗り出して、真っ白に輝くシチューを眺め、来夢は叫んだ。
無事7時ぴったりに夕食が迎えられた私たちは、テーブルに並んだシチューを口にした。
「…おいしい…。」
パクッと口に入れて呟いたのは、意外にもミナトくんだった。
「よかったぁ。8人分つくるの大変だったからあまり煮込めてないんだけど…」
確かに8人分は大変だ。気がつけばここにはもう8人もの住人がいた。
私がここに来てからだいぶ時が流れたであろうこの森は、どれだけ住人が増えようと、この空間が保たれていることが何よりこの森のいいところであって、心から安心できるのだった。