うちの夫が…
あれから、あまねえさんの体調が悪い
そう、なんかあの僕の元カノとか嘘ついてきたやつがきた時から
「あのー、だいじょ…」
「なわけないでしょう!?」
体調悪いはずなのにツッコミの速さとキレがいつにも増しているのは気のせいですかね?
「あの、釈放されると言っても、うちに来るとは限らないですよね…?」
「あいつなら絶対にくるわ…」
なんか妙に確信付いた言い方をしてる
「なんでですか?」
「あいつだからよ…」
会話をしていると、どうも弟さんの名前は呼びたくないらしい
そんなに嫌ですか…?
と、その時、ガラガラと店の戸が開く音がした
「あ、お客さんみたいなので、行ってきますね」
「あ…うん、気をつけて…」
こちらのセリフです…
と、店に入ってきたのはいつもの常連、ヘル、と…
「ヘル?そっちの方は…?」
「なんか、私と同じ雰囲気を醸し出して店の前に立っていたので連れてきました」
後ろに立っていたのは、あまねえと同じような和服を着て、後ろにカゴのようなものを背負っている女性だった
「同じ雰囲気って…」
「はい、同じ雰囲気です」
明らかに違うと思う、テンションとか
とりあえず、どなたかは確認しておきたいので、聞いてみる
「あ、あの…どちらさまでしょうか…?」
「あっ、はい!わ、わたし、クシナダヒメっていいます!ダーリンからはクッシーって呼ばれてます!この店にダーリンが来るっておもって!来ました!」
さっきのナシ、ヘルと一緒だ
「やっぱり、私と同じ雰囲気ですね」
「あ、うん、それで、そのダーリンとやらはどちら様なんでしょ…」
と、なにやらあまねえさんが寝ている僕の居住スペースから爆音的な何かが聞こえてきた
「え、ちょ、なになになに!?」
急いで戻る
と、そこにはぐっすり寝ているあまねえと、その横にできた大穴だけがあった
「えーと、すいません」
なんとなーく、あの人のダーリンが誰か気づいてしまった
「だ、大丈夫でしたか?」
ヘルが珍しく気が利いていて怖い
「あ、うん、大丈夫だったよ」
修復費以外はね
「とりあえず二人とも座ってよ」
「あ、はい」
「し、失礼します!」
お店なんだからもっと緩くでいいのに…
「で、注文は?」
「私はいつもので〜」
「わ、私はなんか野菜と!あと焼酎を!」
ブッ
ふ、吹き出してしまった…
えーと、頭を整理しよう
この子は、成人している…
うん、オッケー
「あ、うん、はい」
とりあえず、ヘルのジュース&イカをささっと出す
「ありがと〜ございます〜」
いつものゆる〜い返事が返ってきた
なんとなーく、ほっとする
「で、クシナダさんはサラダと焼酎ね」
こちらも、ささっと作って出した
「あ、ありがとうございましゅ!」
すでに酔ってんのかな?
「で、クシナダさん」
「は、はい、なんでしょう?」
「君って、確かヤマタノオロチに食べられそうになったところを助けられた子だよね?」
「そうですね、一番有名な話です」
ヘルも相槌をうつ
「はい、ダーリンが怪物から助けてくれて…一目惚れしました」
語尾にハートがつくような言い振りだな…
「それで、今そのダーリンはどこにいるのかわからない、と…」
「なんでここに来ると思ったんですか?」
ヘルが、また珍しく冷静な質問をする
「勘…ですかね?」
「勘!?」
とりあえず、そんなテキトーな答えが返ってくることが予想外すぎた
「うん、勘でうちに来て売上伸ばしてくれるのはとってもありがたいことだけどね…」
「女の勘は怖いですよ、大将」
「その勘が当たって欲しくない人が今裏にいるんだけどね…」
「やっぱり、あましゃんは弟さんには来てほしくないんですね」
ヘルが、苦笑しながら言った
「僕の知っている神話の中では、だいぶ野蛮な人でしたからね、あの神様は」
「だいたい間違ってないですよ、その神話」
クシナダさんに聞こえないよう、小声で話す
「どうします?もし本当に来てしまったら」
「その時は、あまねえさんに岩戸に入ってもらうしか」
「そそそ、そうですね、それしか…」
ガラッ
「あ、はい、いらっしゃいま…」
「ダァァァァァリィィィィィン!」
悪夢、到来
女の勘、怖い…