佐々木君3
迎えに行ったら大沢さんは、フラフラしていた。
田端課長と三上ちゃんに深々と頭を下げて、すばやく彼女を後ろに乗せて車を出した。
彼女は、罰ゲームとつぶやくと車の中で眠ってしまった。
バックミラーで確認して、あまりの無防備ぶりにちょっと腹が立ってきた。
今日はたまたま、田端課長だったからいいものの他の男ならどうなってたか。
途中で起きた、大沢さんに軽く注意をしておいた。
途中から記憶も無いようだ。
がっつり教えるのは、家に帰ってからだ。
「どうぞ。散らかってますけど入ってください。」
「うん。ありがとう。」
大沢さんは小さくお邪魔しますと言って玄関に入ってくれた。
帰ってきたときに、はずしたネクタイや時計、スーツのジャケット等を片付けながら
「ここのソファーにでも座ってください。ちゃんと話をしましょう。」
緊張した顔で玄関先でたたずむ、大沢さんの手をひいてソファーに座らせる。
コップに水を入れて渡した。
大沢さんは両手でそれを受け取ると、
「ごめんね。なんか迷惑掛けたみたいで。」
俯いていて、さっきから俺と視線を合わせようとしない。
ふーん。
俺こんなに心配してるのに、やってくれるよね。
俺は大沢さんに触れるぐらい近くに座った。
居心地が悪そうに、身じろぎしたが気にせずもっと距離を詰めた。
我慢できずに顔を上げて
「佐々木君、近いよ。」
と言ってやっと俺を見た大沢さんに
「罰ゲームって何?」
と聞けば、ハッと目を見開いて俺を見つめて
「どうせ三十路のおばさんだもん。佐々木君ひどいよ。」
とポロポロと涙を流し始めた。
「三十路って大沢さんまだ26歳でしょう?四捨五入すれば30だけど・・・俺も同じ歳だし。」
といった瞬間。
本格的に泣き始めてしまった。
どうやら彼女は短大でなく4年生大学を出ているので、俺より2年先輩の大沢さんは2つ年上だったようだ。
俺が年齢を気にしてなかったので、大沢さんがそんなに年上である事を気にしてたとは。
彼女を抱きしめるようにして背中を撫でながら、落ち着くのを待った。
「ねぇ、そんなに年上なのが気になるんですか?」
「だって男の人は若い方がいいでしょ。」
間髪いれずに返ってきた言葉に
「俺は、大沢さんがいいんですけど。」
とささやけば、
「罰ゲームのくせに。」
と返ってきた。
「大沢さんには、俺がそんな人間に見えてるって事ですか?罰ゲームで女性に近づくような男だと?
大体、直ぐに俺に相談してくれたらそんなことは無いって、」
だって、嫌われたくないもの。
腕の中から聞こえてきた小さい声に
心が震えた。
だって嫌われたくないもの。ってことは
「大沢さん俺の事好きなんですか?」
大沢さんはこくりと頷いて、そのまま顔を上げると
「罰ゲームじゃない?」
と言った後、俺にぎゅっとしがみつくと
私の事好き?
って小声で聞いてきた。
大沢さん、覚悟してください。
今日は、おうちへ帰してあげられそうにありません。




