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主人公のまわりで  作者: 菜々子
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田端課長

可愛い妻が、最近頭を悩ましている。

同じ課の大沢さんの様子がおかしいと。

いつも相談に乗ってもらっているから、大沢さんにも相談してほしいのだろう。

大沢さんはいつも、もくもくと仕事をしている。女子社員はしゃべりながら仕事をする子が多いので、仕事に対する姿勢には好感が持てる。

仕事を頼んでも嫌な顔をしないのもいい。

しかし彼女は、妻にそれとなく佐々木君を薦めていた。

私にとっては少し苦い存在。

だが私に妻への嫌がらせを教えてくれたりした恩もある。

とりあえず、しばらく様子を見るようにしようということで落ち着いた。


次の日、興奮気味みに大沢さんの悩み?であろう出来事を話し出した。

「大沢さん事、俺が勝手に好きなだけだから変なことしないでね。ってみんなの前で谷さんに言ったの。」と最後にはうっとりして言った。

谷さんとは、嫌がらせをしていた一人だ。

ふーん。

谷さんに釘を刺すついでに、周りを牽制したのか。

大沢さんと佐々木ね。

案外いい組み合わせかもしれない。


「おはようございます。田端課長」

「あぁ、おはよう。」

朝出社すると、佐々木と同じエレベーターになった。

今日は朝一に会議があるので、いつもより大分早く出社している。

「今日は何かあったか?ずいぶん早いようだけど。」

「出張の書類の整理や雑用です。朝のうちに終わらせておこうと思いまして。」

朝のうちねぇ。

なるだけ早く帰りたいんだろう。

「大沢さんとは付き合ってるの?」

昨日の奥さんの話では、はっきりしなかったので聞いてみる。

「えっ。あっ!三上ちゃんから聞いたんですね。それがまだ返事もらえてないんです。」

しょんぼりとしてしまった。

「それにしても、次に大沢さんとは。」

佐々木はなかなか見る目があるようだ。

「三上ちゃんのことは好きでしたけど、今は大沢さんのこと本気です。三上ちゃんがダメだったから大沢さんって思ったんじゃありません。」

次から次へと思われたと思ったのか、力説してくる。

「違うよ。疑ってないよ。お前の女の趣味が良いって話だ。」

今度はじっと見てきた。

何なんだ。

「大沢さんは、ダメですよ。田端課長は三上ちゃんがいるんだから。

それに大沢さんは田端課長よりは俺のほうがいいって言ったし。」

課長よりはって。

一体何なんだ。

大体、俺は奥さん一筋だ。


溜まっていた仕事を片付けて、時計を見たら8時近くなっていた。

やれやれ、新婚旅行から帰ってきてから残業が続いている。

今日はこれぐらいで帰るか。

残っている奴らにお先にと声をかけフロアを出て、携帯電話から奥さんに電話をかける。

「もしもし、俺。今から会社出るから。って今どこにいるの?外?」

電話から聞こえる雑音から家ではないことが分かる。

「あっあのね、ちょっと今大沢さんと一緒にいて。」

大沢さん?

「今どこ?そっちに行くよ。」

会社の近くの居酒屋にいるらしい。そこには行ったことがある。

すぐ行くと言って電話を切った。


行ってびっくりした。

大沢さんがいつのも無表情ではなく、ニコニコ笑っていたのだ。

笑い上戸のようだ。

「田端課長。三上ちゃんのお迎えですか?」

「あぁ、大沢さん大丈夫?大分酔ってるみたいだけど。」

心配になっていうと、今度はケラケラと笑いながら

「大丈夫ですよ。どうぞ三上ちゃんと帰ってください。」

と言う。

まだ飲むつもりのようだ。

どうしたものか。

つんつんと横から妻が俺の袖をひっぱると内緒話のように

小声で

「今日、谷さんが大沢さんに「いい年して年下の後輩に振り回されて。大沢さんもうすぐ30ですよね。佐々木君が本気で大沢さんの事好きだって思ってるんですか?罰ゲームか何かに決まってるじゃないですか。馬鹿じゃないですか。」ってロッカーで言われたみたいなの。」

ロッカーに入ったら三十路なんだぁ。罰ゲームだってぇ。

とクスクス笑いの合間に小声で聞こえて、そしたら大沢さんが真っ赤な顔をしてロッカーの前に立っていたので何かあったと思い、ここに連れてきて事情を聞いたらしい。

谷め。

今度、妻の分も合わせてお礼をさせてもらおうと心に誓った。



「罰ゲーム」と大沢さんがつぶやいた。

どうやら小声で話していたが、一部聞こえてしまったようだ。

赤く上気した頬に目はうるうると今にも泣き出しそうだ。

ん?

泣き出しそう。ってことは。

「大沢さん、佐々木のこと好きなの?」

と聞けば、こくんと頷くと

「でも罰ゲームだったの。」

とさみしそうに言うので

朝の佐々木の様子から考えて

「いや、罰ゲームってことは無いと思うよ。」

と言うが

「どうせ、どうせ三十路のおばさんだもん。」

と言うと騙されてたんだと、とうとうポロポロと涙を流し始めてしまった。

いつの間にやら、泣き上戸になっている。

誤解を解けるのは本人だけだな。

妻に大沢さんを見てるように、言うと俺は外に出て佐々木に電話をかけた。


「田端課長、本当にありがとうございます。」

佐々木は1時間もしない内に居酒屋へあらわれ

土下座しそうな勢いで、頭を下げると酔ってフラフラしている大沢さんを支えて

「帰りますよ。」と声をかけ「罰ゲーム」とつぶやく彼女を抱きしめるようにして

自分の車に詰め込んで帰っていった。

あっという間だった。

まぁ、朝の佐々木の様子から罰ゲームはありえないだろうし、大沢さんの気持ちもさっき確認したから大丈夫だろう。

「佐々木君に任して大丈夫だったの?」

不安そうに妻が聞いてきたので、朝の会話を「課長よりは」の部分を省いて話してあげた。

するとほっとしたように笑ってお腹すいちゃったというので

たまには、外で食べて帰ろうか。

と二人で店に戻った。

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