三上ちゃん
最近、大沢さんの様子がおかしい。
なんだか時々ため息をついたり、聞き取れないがぶつぶつ独り言を言ったり。
退社するときなどビクビクしているのだ。
「うーん。新婚旅行に行っている間に何があったんだろう。」
「どうしたんだ?会社でなにかあったのか?」
優しく頭をなでながら、旦那様がソファーの横に座った。
その手にはカップが二つ。
私の大好きな紅茶が入っていた。
彼のこういう優しさが好きだ。
私は最近の大沢さんについて、話した。
「ほう。大沢さんがねぇ。」
「ねっおかしいでしょ。なんか悩みがあるなら相談してほしいんだけど。」
大沢さんには本当にお世話になった。
今こうして大好きな人と結婚できたのも大沢さんのおかげなのだ。
もし私で出来ることがあるなら力になりたい。
「千鶴が思うほど深刻じゃないかもしれない。もう少し様子を見てから相談に乗ってあげればどうだ。
あんまり干渉されるのが好きじゃなさそうだしなぁ。」
「確かにあんまり根掘り葉掘り聞かれるの好きくなさそう。」
しかし大沢さんの悩みはすぐに分かった。
退社時間が近づいてきた頃
「大沢さん。これ出張のお土産です。俺、今帰ってきたんですよ。」
佐々木君が紙袋をぶら下げて訪れた。
隣の席の大沢さんの肩がビックとして怯えたように震えた。
ん?
この時間なら会社に寄らず直帰でもよかったのでは?
わざわざお土産を渡す為に会社に寄ったのだろうか?
私が疑問を感じていると
「もう仕事終わりますよね。待ってます。」
さわやかな笑顔を浮かべて佐々木君はさらりと言った。
「なっなんで。待つの。」
普段の大沢さんからは想像できないほど動揺している。
「一緒に帰えるから。お腹もへったし晩御飯も食べて帰りましょうか。」
「わっわたし、家で食べるからいい。自炊してるし。」
「えっ。手料理食わせてくれるんですかぁ。うれしいな。楽しみです。」
話がかみ合っていない。
案の定大沢さんは真っ赤になって
「なっなんでそうなるよ。」
と言っているが佐々木君はニコニコ笑っているだけ。
佐々木君ってこんなに押しの強い人だったかなぁ。
もっとこう優しいというか一歩引いた感じだったと思うんだけど。
私が首をひねっていると斜め向かいの席からすごい視線を感じた。
谷さんだ。
最近、意地悪されていないから忘れていた。
すごい目で大沢さんをにらんでいる。
こわい。
マスカラに彩られた目が、真っ赤なネイルがまるで鬼のようです。
今まで私が意地悪されていたのは、田端課長を谷さんも好きだったからで、いわば嫉妬のようなもの。
ん?
ってことは大沢さんも佐々木君にかまわれて嫉妬されてるとか?
私が結論に達したときには
「じゃあ、帰ろうか。」
と言って佐々木君は大沢さんをうながして帰ろうとしていた。
大沢さんもしぶしぶ着いていく。
と思い出したように佐々木君が足を止めると
「大沢さんの事、俺が勝手に好きなだけだから変なことしないでね。」
谷さんを見ながら言った。
佐々木君なんだか素敵になっています。
私は今日見たことを興奮気味み話した。
「大沢さんの事、俺が勝手に好きなだけだから変なことしないでね。って言ったの。
みんながいる前で谷さんに向かって。」
「佐々木が大沢さんをねぇ。それにしても佐々木はどちらかというとやんわり忠告しそうなタイプだと思ってたけど。」
「そうなの。私達が新婚旅行に言ってる間に何かがあったみたい。」
それにしても今日の大沢さんは、いつもの感じと違ってすごく可愛く見えた。
ふふっ。




