佐々木さん
桜が咲く晴れた日、好きだった女が結婚した。
なかなか、おしゃれなガーデンウエディング。
きっと田端課長が手配したに違いない、彼女の雰囲気にぴったりの式と披露宴。
それに仕事も容姿も完璧で。
完敗だなぁ。
そう思って端のほうに立って見渡していると気になる人物を発見した。
新婦の三上ちゃんと同じ課の大沢さん。
三上ちゃんが大沢さんのようになりたいと言う2つ上の先輩。
可愛い三上ちゃんと違って、少し地味な感じの女性。
今日は、いつもと違って髪の毛を巻いてハーフアップにしている。
つつっと彼女に近寄り独り言のようにつぶやく
「幸せそうだなぁ。」
「残念だったね。」
声で分かったのか、普通の声で確信をついてくる。
「知ってたんですよね。」
俺が彼女を好きだったこと。
拗ねたような気分になって言うと
ふふっっと笑って
「んー。あれだけ近くにいるとねぇ。目に入っちゃう。」
と言ってまた笑った。
意外と笑うんだなぁ。仕事中の顔を思い出してギャップに驚いた。
「俺、田端課長に大沢さんに賄賂でも渡してるのかって凄まれたことありますよ。
それとなく俺のこと押してるって。」
なんとなく気になってたことを聞いてみた。
「なんで俺を?」
「三上ちゃんの幸せを一番に考えていたからかな?
佐々木君さ、三上ちゃんが一部の女子から嫌がらせされてた時それとなく助けてたよね。
それに二人がギクシャクした時も、それとなく仲直りするように仕向けてたよね。」
チラリと俺を見上げると、してやったりという顔で笑っていた。
「うわぁ。そんなことまで知ってるんですか?恥ずかしすぎてへこみますよ。」
さりげなく三上ちゃんを気遣っているところを見られていたかと思うと
思わずしゃがんで頭を抱えてしまう。
「ふふっ。大丈夫よ。私しか知らないから。」
と言うと優しい手つきで頭を撫でられた。
まるで子供にするような事をされて
「なっ。お子様扱いしないでください。」
と言えば
大沢さんは少し真剣な顔で
「佐々木君はすごくいい男になるよ。私だったら田端課長より佐々木君の方がいいよ。
三上ちゃんに薦めたぐらいなんだから。」
自信をもってと、なにげに爆弾発言をして
ブーケトスに参加しなきゃと走っていってしまった。
俺の顔は真っ赤になっていたに違いない。
完璧な田端課長より俺のほうがいいなんんて、うれしい。
どうしよう口元が緩んで仕方ない。
ブーケトスを見てたら、明らかに三上さんは大沢さんに向かって投げてたが
近くにいた同じ課の谷さんに押されて取り損ねていた。
新婦の三上ちゃんはびっくりした顔をして、新郎の田端課長は苦笑いを浮かべていた。
それでも大沢さんは、ブーケを獲得した女子に笑って拍手していた。
2次会会場に移動する時になって、大沢さんがいないのに気がついた。
参加しないのだろうか?
さっきの佐々木君の方がいいよ発言のせいか、大沢さんが気になる。
ぐるりと見渡すと、大沢さんがロビーを歩いているのが目に入り追いかけて
声をかけた。
2次会を営業部が企画したから、お酒がまり好きではないからと行きたくなさそうな感じで
話す彼女をどうやって参加させようかと考えていたら
佐々木くんぅ。と語尾をどくとくに伸ばす話し方をする谷さんが擦り寄ってきた。
「じゃあ、佐々木君。」
大沢さんは、あっさりと帰ってしまった。
二次会は全然楽しめなかった。
谷さんがべったりくっついてきたせいだ。
立食だったので、振り切ろうしたがしばらくするとまた隣に来ている。
しかも
「今日ブーケトスでブーケが私の所に来たんですぅ。
次はぁ、私かなぁ。」
といいながら上目遣いで見上げてきた。
胸元が大胆に開いたドレスを着ているから、そうすると胸が見えそうになる。
純情な男の子や、やる事しか考えてないような男なら引っかかるかもしれないが
俺はそうじゃない。
どっちかっていうと、
大沢さんの今日の装いが思い出された。
ふんわりした形のシャンパンゴールドの膝丈ワンピース。
確か、パールのネックレスにイヤリングをしてたように思う。
華美ではないが清楚な装い。
ここまで思い出してハッした。
もしかして、これって。
まさか。
「佐々木くんぅ。聞いてますぅ。」
また甘たるい声が聞こえてきて
「うるさい。」
冷たく言い返すと、帰ることにする。
背中に谷さんの怒った声が聞こえた気がしたが、無視して会場を出た。
うちに帰ってよく考えてみよう。
これが恋なのかを




