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第97話 カードと果物

『異世界転移したのでチートを生かして魔法剣士やることにする 2』が、4/28に発売します! 全編書き下ろしです!

カザニ―クの町はなかなか賑わっていた。

しかし道を走っているのは荷馬車が大体であり、冒険者はあまりいないようだ。

交易は盛んでも、冒険者はあまり移動しないのだろうか。


「まずは……ギルドか」


フォトレンで渡された板の束から、出国について書かれた物を取り出す。

それによると俺が行くべきなのは商人向けの窓口ではなく、冒険者ギルドカザニーク支部らしい。

冒険者の出国手続きは、国に代わってギルドが行っているようだ。それも紹介状が必要だと書いてある。

他国へ行こうという冒険者をあまり見かけないのも、そのせいかもしれないな。

俺はフォトレンで紹介状を受け取っているので、そこは問題ないが。


俺が向かったギルド支部は、小さい建物であった。

依頼板の数は少なく、通常のギルドにあるタイプのカウンターは一つしかない。

その代わり他のギルドにないものとして『国境関係』と書かれたカウンターが存在し、ここで手続きが行われることを示している。

……もっともそのカウンターを使う冒険者も多くはないようで、そこを受け持つ受付嬢は暇そうだったが。


「ノイレルへですか? 残念ながら支部長の紹介状がないと許可が……」


受付嬢はカウンターへと近付く俺に気付くと、俺が何も言わないうちから出国に来たと決めつけ、紹介状が必要だと言うことを教えてくれた。

俺が紹介状を持っていない前提で話しているところを見ると、紹介状を持たずに出国しようとする冒険者が相当に多いのだろう。

というか、紹介状を持った冒険者が少ないのか。


「紹介状は持ってます。これで大丈夫ですか?」


「紹介状! ……すみません、とんだ失礼を。ギルドカードと紹介状をお預かりしてもいいですか?」


俺がそのカードと紹介状を差し出すと、受付嬢は両方を何らかの装置の上に置き、その二つを見比べ始める。


「名前はカエデ、本拠地はフォトレン……合っていますね。ランクは……S!? カエデさんって、あのカエデさんですか!?」


「あの、と聞かれても……」


他のカエデさんなんて、俺は知らない。

この国を探せば、俺以外の『カエデ』が一人や二人はいるかもしれないが。


「えーっと、とりあえず許可はすでに降りているみたいなので、必要な物をお渡ししちゃいますね。まずはこれと……それからこれです」


受付嬢に渡されたのは一通の紹介状らしきもの(フォトレンで渡された物とはデザインが違う)と、ポーション入れを少し大きくしたような形の、装飾が施された容器だ。


「……これは?」


「そっちの紹介状は、ノイレルギルドでギルドカードを作ってもらうための物です。どこでもいいので、ノイレルにあるギルド支部に提出して下さい。流石にSランクとはいきませんが……Aランクの方が出国するとBランクがもらえるので、登録時点でそのくらいは貰えると思います」


なるほど。

これがなくても登録はできるのかもしれないが、最低ランクから始まったりしたら面倒だからな。

そういうことがないように、という配慮なのだろう。


「それからこれは、ベイシス王国が後ろ盾についていることを示すものです。早い話が『この人に妙なことをしたら、ベイシスが黙っていないぞ』という意味ですね」


言われてよく見てみると、側面には装飾の他に、ベイシス王国の国章が大きく彫られていた。

時代劇で『この紋所が目に入らぬかー!』とかいって使うあれの親戚みたいなものだろうか。

……実際に使うと国とかが関わって面倒なことになりそうなので、出来るだけ使いたくないが。


「でも、それの知名度はあまり高くないので、見せてもそれが何なのか分からない人も多いと思います。そういう時には筒についてるふたを外して、中に入っている書類を使ってください」


……知名度、ないのか。

まあ俺も、今までこんな物の存在すら知らなかったからな。

オルセオンでもノイレルでも、そうそう見る物ではないのだろう。

流石に貴族とかになれば、常識なのかもしれないが。


しかし、これから外国へ行こうというときにこんな物を渡されてしまうと、少し心配になるな。

これが必要になる状況が、頻繁に起こるものなのか?

一応、聞いておくか。


「これを使うようなことが、頻繁に起こる場所なんですか?」


「頻繁に、とはいきませんが……ベイシス王国よりは遙かに多いと思います。……ノイレルの身分証システムは、ベイシスの物ほど高性能ではありませんので」


身分証システム……

ああ、バレてない犯罪まで一発で暴いてしまう、最強ギルドカードのことか。


「なので、特に町中では気をつけてください。犯罪者が町に入れないベイシスとは違いますので。安い宿では荷物なども気をつけた方がいいですが……カエデさんにはいらない心配ですね」


宿の主人が犯罪者だったりしても、バレずに営業を続けている可能性があるのか。

まあ他人のアイテムボックスに手を突っ込むスキルでもなければ、盗難の心配はないのだが。


「あとは、偉い人だからといって信用しきるのはおすすめできません。ベイシスと違って中央の権力が弱いんです」


もし酷い政治家がいたとしても、排除することができないのか。


「腐敗してるのか?」


ラドムコスみたいなのがウジャウジャいる土地なんて、俺は嫌だぞ。

そんなところに泊まるくらいなら、野宿してやる。


「ほとんどは大丈夫です。しかし例えば、去年からベイシスへ入国しようとした、ノイレルの偉い人がいたんですが……」


ベイシスで、何かやらかしたのか?


「入国するときに身分証を作ろうとしたら盗賊判定が出ました。カザニークから出ることもなく、そのまま本国送還です」


……それ以前の問題だった。

ギルドカードって、国外での犯罪もカバーしてるんだな。


「それで、そいつはその後?」


まさかノイレルで野放しなんてことはないよな?


「調べたら横領が見つかって、すぐに処刑です。調査の口実さえできれば、動きは早いんですよ」


逆に言うと、口実がなければ調査さえできないということか。

圧倒的な権力者がいない国というのも、それはそれで大変なんだな。

まあ横領とかなら、俺にはあまり関係ないだろう。俺に喧嘩を売ったところで、一テルにもならないんだし。


「まあ、関わらないのが一番か」


【情報操作解析】を使えば犯罪者を片っ端から発見できるかもしれないが、百パーセント面倒なことになるだろうし。

逆に自分から突っ込まなければ、問題に巻き込まれる可能性は低い。まず無いと言っていいだろう。


「そういうことです。……気をつけることはそのくらいですね」


「ご忠告、感謝します」


必要な物を受け取った俺は、国境へと向かった。

国境と言っても、別に物々しい関所があるわけではない。フォトレンの門よりも規模が大きく、荷馬車用と人間用で二つ門があるようだが、一つ一つの構造は町の門と変わらないようだ。

まあ、それも無理はない。町以外の国境は警備すらされていないようだし、わざわざこの町の国境だけをしっかりと警備する意味も無い。

門も物理的に国を区切るというよりは、手続き的、象徴的なものなのだろう。

外から国境を突破した場合、ギルドカードや国がどんな判定を下すのかは知らないが。


「身分証を」


俺がギルドカードを差し出すと、衛兵はすんなりと門を通してくれた。

空港などのような面倒くさい手続きも覚悟していたので、かなり拍子抜けだったが。


さて。こうして俺はノイレルへと入国した訳だが……

ここで一つ、問題が発生した。

行き先が決まっていないのだ。

確かに、最終的な行き先はすでに分かっている。『ソイエル』という名前の町だ。

しかし大発生が起こるのは、およそ一週間後。

移動に時間はそうかからないし、余裕を持って前日に到着するとしても、まだ六日はあるのだ。


人気の観光地くらい、調べておけば良かっただろうか。

まあ、その辺の人に聞いてみるか。

そう考えて歩き出したところで、一枚の看板が目に入る。


『ディルミアまで、およそ十キロ』


書いてある文章自体は、何の変哲も無い道案内だ。

しかし、それと共に書いてある果物のようなものが、妙に気になるのだ。

何故かは分からない。しかし俺の直感が、この果物はいい物だとささやいている。


とりあえず、行き先は決まった。

俺は質問の相手探しをやめ、その看板が指す方向へと走り出す。

十キロ程度の距離、無いのと同じような物だ。

五分とかからず、俺はディルミアの門に到着する。

そしていつも通り、門番にギルドカードを提出したが……門番はそれを受け取らず、苦笑いを浮かべた。


「ベイシスから来た人か。この国では素通りで大丈夫だぞ。怪しい奴は止めて荷物なんかを確認するんだが、そうは見えないからな」


……そうだった。ここはもう、身分証だけで犯罪者が判定されるベイシスではないのだ。

新しいギルドカードも、ディルミアギルドで作って貰うことになる。

だが、その前に……


「これ、一つ下さい」


道の横にあった店でに、例の果物が置いてある。

それを発見した俺は、迷わずに購入へと向かう。


「セウーユだな。三百ライルだ」


……ライル?

俺が手に持っているのは、テルだ。

両替するのを忘れていた。


「あっ」


俺の『しまった』というような表情を見て、露店のおっさんは俺の手の中をのぞき込んだ。

そして、納得したように頷く。


「ああ、ベイシスの人か。安心しな。ディルミアではそれも使えるからな。五十テルでどうだ?」


……テル、使えるのか。

流石は国境の近くにある街だ。


「まいどあり!」


おっさんに金を渡し、果物を受け取る。

果物はりんごの色を濃くしたような外見で、中々美味そうだ。

俺は歩きながら、その果物(セウーユという名前らしい)を、一口かじってみた。


「ぶっ!?」


そして、吹き出した。

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