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第91話 復活とオリハルコン

「どんな用途でしょう?」


『隣国を滅ぼす』などと言い出さないことを祈りつつ、問う。

しかしインタイゼさんの答えは、全く予想外の物であった。


「オリハルコンという金属を、ご存じでしょうか?」


オリハルコン。ファンタジーにおいては、最も有名な金属の一つだろう。

総じてミスリルよりも上位に位置し、稀少で高価な金属として扱われる。しかしこの世界では見たことどころか、聞いたことすらない。

なぜここで、その名前が出てくるんだろう。


「名前は知っていますが……見たことはないですね」


「見たことがある人は、ほとんどいないでしょうねぇ。国内に現存するオリハルコンは、国宝の短剣に使われているだけですから。名前を知っている人でさえ、そう多くはありません。……それでオリハルコンがそんなに少ない理由なんですが、それがあの魔道具に関わってくるんです」


「ミスリルと同じく、精錬ですか」


あのような炎が金属に要求される理由は、他に思い当たらない。

どういった理屈かは知らないが、魔法金属の類は精錬が大変らしい。


「その通りなんですよ。オリハルコンの精錬には桁外れの火力が必要でして。あの魔道具であれば、それが可能かもしれません」


「あの暴力的な火力を、精錬に使うと? 果てしなく危険に思えますが……」

無理しすぎではなかろうか。


「そこは技術者の力の見せ所です。うちではこのような魔道具を作ることは出来ませんが、それを活用するための装置作りはこちらの専門ですからね。なんとかして見せますよ」

メイプル商会は別に機械作りが専門な訳ではない。

ノウハウも経験も無いが、ただ材料とアイデアがあったから、無理矢理作ってみただけである。

戦闘用の魔道具を扱っている商会なのだから、危ないものを制御する力があってもおかしくはないだろう。


「それならいいですが……こんな代物が必要な金属、今まではどうやって精錬したんですか?」


これに匹敵する火力を出せる魔道具など、今までに見たことがない。

溶岩にでも放り込めばある程度の温度は出るかもしれないが、それで金属を取り出すのは難しいだろう。


「代表的なのは、鉱石を亜龍のブレスに当てる方法ですね。時間が短いので数グラムしか作れませんが、最も効率のいいやり方です」


……予想外に乱暴な方法であった。

亜龍をペットにでも出来れば狙って作れるだろうが、そんな話は聞いたことがない。

つまり戦闘中に、亜龍のブレスが届く位置に向かって、鉱石を投げ込んだのだろう。

オリハルコンが使われていない理由が、分かった気がした。


「もうちょっと穏便な方法も、あるんですか?」


「魔石を積み上げた土台の上に鉱石を乗せて、周囲を数百個の炎魔道具で隙間無く覆い、一斉に加熱する方法があります。火力が今ひとつ足りず、魔道具三百個で0.5グラム程度しか作れなかったはずですが、安全にオリハルコンを生産できます。……実用化された方法は、この二つだけですねぇ」

予想以上に頭がおかしかった。っていうか、よく短剣作ったな。

魔石を積み上げて土台を作るのは、それだけの火力に長時間耐えられる土台が他の方法で作れないからだろう。

魔物が消滅するほどの火力でも、魔石だけは形も変えずに焼け残ったくらいだし。


「それなら、この火力も無駄にならないかもしれませんね」


「ええ、その通りです。もちろん開拓などにも使えると思いますが、重要性としてはオリハルコンのほうが高いかと」

開拓という使い方もあるか。

よく見かける、手つかずの草原を先に使えと思わないでもないが。

まあ、アレもおそらくは理由があって放っておかれているのだろう。


「ところでそのオリハルコンは、どんな金属なんですか?」


「まさしく最強の金属ですよ。国宝の短剣は刃の厚みが0.5ミリほどしかありませんが、亜龍を斬っても刃こぼれ一つしなかったと言われています。……もっとも短剣自体が小さすぎて、有効なダメージは与えられなかったようですが」


「量産できたら、面白いことになりそうですね」


「まったくです、ということで、この魔道具を売ってはいただけませんか? 精錬が行えるようであれば、カエデさんの武器もお作りしますよ」


「もちろんお売りしますよ。国から何か横槍が入ったりしなければですが……」


「コノンサ商会との取引なら、まず大丈夫でしょう。国はメイプル商会に、あまり口を出したくないみたいですし」


「そうなんですか?」


「大昔には功績を挙げた冒険者が政治に関わった時期があるんですが、ロクなことが起こらなくてですね。それ以来、国や貴族は冒険者と直接関わるのを避けていると言われます。心当たりはありませんか?」


……そう言われてみれば、俺は国レベルの騒ぎに巻き込まれても、本当に国の中枢と呼べるような人と会ったことがないな。

ギルドなり他の商会なり、国と俺の間にはいつも何かが挟まっていた気がする。

特に疑問にも思っていなかったが、それは政治が俺に関わることで、逆に俺が政治に手を出すことを防ぎたかったからなのか。


「まあカエデさんの場合は大丈夫なんじゃないかという意見もあるんですが、慣習というものはなかなか変えられないものでして。それでもやむを得ない事態があれば、無いとは言えませんが」

できれば、そんなことは起こらないでほしいな。


国とか貴族とか、色々と面倒くさそうだ。

特に貴族はラドムコスくらいしか記憶に残っていないので、印象が最悪だ。


「私としては、あまり関わりたくないですね。政治とか、色々面倒そうです」


「国の方々がそれを聞いたら、さぞ安心することでしょうねぇ」


「じゃあ機会があったら、それとなく伝えていただけると助かります」


素人が政治に関わってもロクなことはない。国にとっても俺にとっても、関わらないのが一番だろう。


「はい。伝えておきましょう。ところでそろそろ購入について、細かい条件決めに入らせていただいても?」


「もちろん大丈夫です。そっちはメルシアの仕事ですので私は参加しない予定ですが、他に何かありますか?」


「そうですね……特にはありませんが、強いて言えばこのくらい強力な水魔道具があればなと。畑が作れない場所は沢山ありますが、水不足が原因の場所も多いんですよ」


水魔法か……

ちょっと、試してみようかな。




船が港に戻ったのを見送った後、俺は一人でさっきの島へと向かう。

もちろん、炎以外の属性を魔石に乗せられないか実験するためだ。

属性が乗ったどうかの判別は、鑑定によって行う。

普段は魔石など鑑定しないので気付かなかったが、属性付きの魔石は鑑定によって分かるようなのだ。


まずは、強力な水魔法を用意する。

魔石と同じ程度、つまり約30センチの直径を持つ放水の威力を、徐々に強める。

「……こんなもんか」

試しに適当に威力を上げた水を、近くに立っていた木にぶつけてみる。

ドカッ、バキッという音と共に、水が当たった部分がどこかへ消える。

その後だるま落としのように残った部分が落ちてきて、なおも続いている放水によって吹き飛ばされていった。

威力は、恐らく十分だろう。


魔石が吹き飛ばないように結界魔法で固定し、完成した水魔法を命中させる。

30秒ほど放水を続けると、結界からあふれた水が足下まで届いてきた。

見れば焼かれ爆破され吹き飛ばされた哀れな島は、今度は水によって表面を洗い流されることとなっている。

何だか可哀想になってきたので放水をやめ、ぬかるみの上を魔法で飛んで魔石を回収する。

海の上でやればよかったかもしれない。


しかし……ここまでしたにも関わらず、魔石に属性は乗っていなかった。

なんとなく予想はしていた。

今の魔法では、魔力と共に水の量が増えてしまう。

つまり、水の中にある魔力(魔素かもしれないが、俺にその区別はつかない)の濃度が変化しないのである。

水は液体であり、その体積はほとんど変化しない。

これが炎魔法と水魔法の、決定的な違いだ。


魔力と共に水量が増えるから、密度が上がらない。

……魔力を無駄遣いしてみるのはどうだろうか。

あれほどの放水を行うだけの魔力を放出しつつ、水道の蛇口程度の量の水をイメージすれば……魔力濃度の高い水ができるのではないだろうか。

試してみよう。


島でやるのは可哀想なので、海の上空に移動して魔法を発動させる。

本当に蛇口程度の水量なので、結界魔法を使うまでもない。

無駄に魔力を使いながら、魔石に水を浴びせていく。

そして十秒ほどが経過した後。

「……できた」

魔石に水属性が乗った。

これで、炎以外でも属性を乗せられることが分かったわけだ。

次は何を試そうかと思い、自分のスキル一覧を眺めてみる。

……『回復魔法』という文字が、気になって仕方がない。

この魔法を超強化したら、一体どんなことになってしまうのか。


面白そうだと思うが、一つ問題がある。

回復魔法には、魔道具が存在しないのだ。


だがアイテムボックスを漁ると、可能性を感じさせる代物が出てきた。

ズナナ草抽出液から作ったポーションだ。

魔素の多い場所に生える草を原料とした、常識ではあり得ない即効性と効果を持つポーション。

何らかの魔法的な要素を帯びている可能性は、極めて高いと言えるだろう。

試してみる価値はあるはずだ。


蓋を開けたポーションの容器を手に持ち、ポーションに向かってほぼ全力で回復魔法を発動させる。

すると、何やらポーションが輝きを放ち始めた。

俺は光魔法など使った覚えはない。何か妙なことが起きている。

魔法を中断し、魔法をやめてなおほのかに光り続けているポーションを鑑定する。


鑑定結果には『HPを三百五十万回復する』などと、ふざけたことが書いてあった。

おかしい。

何かが間違っている気がする。

たとえば、主に桁とかが。


亜龍のHPなら丸ごと回復してしまうレベルであるし、ガルゴンであれば千匹はいける。

頭がおかしいとしか言いようがない。


ともあれ、どの程度効くのか試してみることは大切だろう。

実験に使ったグリーンウルフは商会に置いてきてしまったので、いったん魔物の領域に飛ぶ。

上陸した直後、ちょうどよくガルデンを発見した。

「こいつでいいかな」

俺は気付かれないように上から接近し、ガルデンを鑑定しながら魔剣を振り下ろす。


サクッ、という軽い音と共に、ガルデンの首が落ちる。

HPは一瞬にして吹き飛び、0となった。

俺はそこにすかさず、さっきの薬を振りかける。


そうして待つこと数秒。

……確かにHPが0になったはずのガルデンに、新たな首が生えてきた。

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