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第86話 魔石と砂糖

「とりあえず、もっときれいに削ってみるか」


 接続がうまくいかないというのは、恐らく2つの魔石が完全につながっていないせいだろう。

 きっと魔素だか魔力だかが、その隙間から漏れているのだ。

 それを少しでも減らすべく、最初の実験よりも精密に、2つの魔石を磨き上げた。

 両方とも完璧な平面に見える。

 ……しかし、これは本当に平面なのだろうか。

 今気付いたが、魔法でここまで精密な作業をした経験は、ほとんどないのだ。


「完成ですか?」


「……ちょっと確認してみよう」


 確かめる方法を少し考えたところ、昔テレビでやっていた方法を思い出した。

 板のうち片方にだけインクを塗ったうえで2つの板を重ね、塗っていないほうの板全体にインクが行き渡れば成功というものだ。

 一部にだけインクがつくようであれば、その部分を削ればいい。

 平面を確かめる方法ではなく、2つの面がぴったり合っているかどうかを確かめる方法だが、魔石接続にはぴったりだろう。


 インクとして使えそうなものを探すべく、アイテムボックスの中身を見てみる。

 魔石は赤いので、赤の中で目立ちそうな色の物を探していく。

 すると、毒々しいまでに鮮やかな青色をした液体が目に入った。

 ズナナ草抽出液だ。


「……これでいいか」


 インク扱いには少しもったいない代物だが、大量に使うような用途でもない。

 魔石のうち片方にズナナ草抽出液を垂らし、薄くのばす。

 その上にもう片方の魔石を重ね、すぐにはがす。

 抽出液は本物のインクと違って粘度が低く色が薄いせいか、思ったほどきれいなつき方ではなかったが、一応魔石は全体的に青くなっている。

 きれいに削れているようだ。


「よし、これで試してみてくれ。これは魔石接続の実験だから、3構造じゃなくてもいい」


 俺は魔石を再度貼り合わせ、固定して手渡す。


「わかりました。一応アーティファクトの実験も兼ねて、魔灯を作ってみます」


 カトリーヌはそう言いながら魔石を受け取り、30秒ほど作業をして魔石から手を離す。

 恐らく完成したのだろう。

 古文書が読めない時代にも複製できただけはあって、魔灯はアーティファクトの中では破格の簡単さを誇るのだ。


「できました」


 そう言ってカトリーヌが魔灯を起動した。

 スイッチを入れたというわけでもないのに起動したことがわかったのは、魔灯が明るい中でもはっきりわかるほど強い光を放ったからだ。

 これほどの威力を誇る魔灯は見たことがない。


「これは……接続じゃない魔石を超えたか?」


「いえ、通常の魔石の2割といったところです。素材の魔石が魔灯には使わなれないほど強力なものですので。……しかし、実用には十分です!」


 2割程度でしかないというのに、カトリーヌは目を輝かせている。

 2構造の強力さを考えると、3構造の2割でも十分強力な物が作れそうな気もするが、2割ではなんだか物足りない気がしてしまう。


「とりあえず、きれいに磨けば……あっ」


「どうしたんですか?」


 実験してから気が付いたが、インク代わりに使ったズナナ草抽出液を取り除き忘れていた。

 そのせいで2割になってしまったのかもしれない。


 今度は前回の物と同じように魔石を削り、ズナナ草抽出液でぴったり合うことを確かめた後に、ちゃんとそれを拭き取る。

 完成した接続魔石をカトリーヌに渡して実験してもらったのだが……


「これは……最初のものと同じですね」


「拭き取らないほうがいいのか?」


「そのようですね」


 完成した魔灯は、暗い場所でならかろうじて光っていることが確認できる、といった程度のものだった。

 本当に重要なのは面をどれだけきれいに磨くかではなく、その間に何を詰めるかなのかもしれない。


「色々試してみようと思うが……魔灯くらいなら、グリーンウルフの魔石なんかでも作れるか?」


「大丈夫ですよ」


 いくら予算に余裕があるとは言っても、あまり大きな魔石を実験で消費するのは気が引ける。

 はがす際に刻んだ魔法がずれてしまうので、実験用の魔石は使い回しがきかないのだ。

 2つのうち片方なら使い回せるかもしれないが、他の条件の誤差を排除するのは実験の基本だ。


 しかし、グリーンウルフの魔石であれば、100個や200個程度ムダにしたところで痛くもかゆくもない

 まとめて100個ほど削って平面を出し、間に入れる液体を思いつくままに作って、片っ端から試していく。

 数時間も実験するうち、だいたい何が強力な材料なのかがわかってきた。


 液体として手持ちで最強なのは最初に試したズナナ草抽出液だったが、そこに魔石を削った粉が混ざると効率がさらに上がるのだ。

 魔石の質によっても性能が変わるらしく、大きい魔石の中心部分、長さにして5分の1ほどだけを粉末にした粉が最も効果が高かった。

 ズナナ草抽出液のほうも薬用に使われていた物をさらに煮詰めることで効率が上がる。


 そうして最後に作ったのが、毒々しい紫色をした液体……というよりペーストだ。

 3倍濃縮のズナナ草抽出液に、贅沢にワイバーン魔石の中心部を粉末にして投入した。

 これでも出力は原料のおよそ5割といったところだが、ワイバーン以外では4割が限界だったので、これでも破格の性能だ。


「完成したな」


「なんだか、すごい物を作ってしまった気がします」


 やや不満は残るが……すごい物だというのは事実だろう。

 これなら4構造、5構造も射程圏内だ。


「……それじゃあ、4構造いってみようか」


「3構造を飛ばしてですか?」


「そういえば、まだだったな」


 3構造はもう成功した気になっていた。

 カトリーヌに完成したペーストを使用した大きめの魔石を渡し、魔道具が完成するのを待つ。

 俺はその様子を見ながら、ふと気になってカトリーヌの魔力を鑑定する。

 そこで違和感に気付き、魔道具の完成を見計らって聞いてみた。


「……そんな大量に魔道具を作って、魔力は大丈夫なのか?」


 最大値は変わっていないのに、以前聞いた生産能力と計算が合わないのだ。

 魔力の多い職人が高い生産能力を誇るというのは知っているが、同じ魔力で大量の魔道具が作れるというのは、あまり聞いたことがない。

 理由が気になり、大丈夫なことがわかっていながらも聞いてみる。


「……あれ? 聞いてなかったんですか?」


「何がだ?」


「ドラゴンが倒されてから、使える魔力が増えてきたんですよ。最近はほとんど増えた感じがしませんが、ドラゴン討伐前から3割くらいは増えたと思います。それも私だけじゃなくて、魔法使い全員です」


 ……聞いていない。

 祝勝会は真面目な話をする前に酒盛りになってしまったし、その後の会議も問題に関しての話だけで、そのほかの影響に関しては話されなかった。

 俺を含め、参加者は全員どこからか聞いているだろうと予想し、災害対策ともあまり関係がないので、わざわざ話さなかったのではないだろうか。

 いや、そもそも俺自身が魔法使いだと知られているのだから、話しを聞くとしたら俺の側からだと思われていたのかもしれない。


 しかし、幸か不幸か俺はドラゴン相手でもない限り、魔力を気にしない生活をしている。

 そもそも、周囲に被害を及ぼさないレベルで魔法を使用したところで、MPは上限値を維持したままなのだ。そしてMPは平均を基準にした数値なので、平均ごと押し上げられてしまえば魔力の絶対量が増えたところで変化はない。

 1MPが示す魔力量が1.3倍になったところで、気付ける訳もないのだ。


「俺もなのかな?」


 MPの値が減っていないということは、きっとそうだ。


「……自分の魔力の量がわからないんですか?」


「多分増えてはいるが……使い切ることなんてないからな」


 ドラゴン討伐前の魔力でさえ、それこそドラゴン相手でもなければ魔力は枯渇しなかった。

 そこから何桁も魔力を増やしている今の俺が攻撃魔法で魔力を枯渇させようとすれば、それこそこの星を滅ぼすくらいはしなければならないだろう。

 圧力魔法や岩の槍なら『ナントカで地球滅亡』をリアルで再現することになりかねないし、水魔法なら世界を洗い流す大洪水だ。

 比較的平和そうな移動魔法でも、衝撃波でやっぱり滅ぶ。

 ……なんだか人間をやめてしまった気がする。


「……百分の一でもいいから、分けてもらいたいものですね」


 カトリーヌはそう言いながら、完成した『青色集中魔灯』に手を伸ばす。

 魔力のことより、そちらが気になっているようだ。


「よし、好きなタイミングで起動してくれ」


「はい。……いきます」


 少し間を置いて、カトリーヌが『青色集中魔灯』を起動する。

 その瞬間、強烈な青い光が魔石から放たれ、壁を照らし出した。

 カトリーヌはまぶしさに目を細めている。


「成功だな」


「魔石接続が、たったの一日で……」


 カトリーヌはなにやら感動しているようだが、感動している暇があれば研究を進めようか。

 まだまだ試せる魔道具はいくらでもあるし、発見もいくらでもあるはずなのだ。

 いちいち感動していては日が暮れてしまう。


「じゃあ次、4構造だな」


「他の3構造は、作らないでもいいんですか? 攻撃系には強そうなものが増えてきますが……」


「確かに単体用なら強力な魔道具があるが、4構造にはもっと面白そうなものがある。大発生以外は他の冒険者でも対処できるわけだから、多少強い程度の魔道具を急ぐことはないだろう」


 あまり強力な魔道具をバラまいてしまうと、冒険者が失業してしまうしな。

 1カ所や2カ所で魔物を全滅させるのと、再利用可能なアーティファクトでは訳が違う。


「4構造のアーティファクトは覚えていないのですが、面白い魔道具とは?」


「『魔素鎮圧』だ。広範囲にわたって魔素で大発生した魔物を固めて、殺してしまうらしい。『魔凍』はこれの強化版らしいぞ」


「……そんなものが4構造で?」


「普通の魔物や人間にはほとんど効かないらしいからな。今の状況だから使えそうってだけだ。それに広範囲といっても、本を読む限りせいぜい半径数百メートルだから、魔石接続でパワーが落ちれば、せいぜい百メートルも届けばいいほうなんじゃないか? 長い杖を使って頑張れば、俺じゃなくても出せる程度の戦果だ」


「空中の魔物相手じゃ無理ですから……」


 そうだろうか。

 数は多くないが、デシバトレ(今はブロケンにいるか、援軍として余所に出ているだろうが)にいる魔法使いなら、その程度はなんとかなりそうなイメージだが。

 どうも空を飛ぶ魔物というのは、地上に比べて警戒される傾向にあるようだ。


「まあ、便利なことに変わりはない。構造はこれだが……人のいる場所で実験するのは少し気が引けるな。まずはこっちで試してくれ。木材を砂糖に変える魔道具だ」


『魔素鎮圧』も構造を書きはしたが、これは灯りの魔道具ほど手軽に実験ができる物ではない。

 人には影響がないと言っても、それは古文書が書かれた時代の話であり、今の時代にどこまで通じるかはわからないのだから。

 ということで、その下に平和的で素敵な効果を持った4構造アーティファクト『木材砂糖化』の構造図を書く。

 これは文字通りの効果を持った魔道具で、木材を砂糖に変えるという夢のようなアーティファクトだ。

 他に『発毛』なども4構造で非常に需要が高そうではあったが、使い捨てな上、髪のために大きな魔石とペーストを使うのはどうなんだ、との考えから、砂糖のほうを選んだ。

 そもそも、実験台になりそうな人物が見当たらない。


「うれしい魔道具ですが……4構造だと、魔石は3つほしいですね」


「分かった」


 魔石1つで2構造いけると思っていたのだが、そこまで単純な話ではないらしい。

 仕方がないので魔石一つの両面を平行に削り、それに片面だけを削った魔石を組み合わせてペーストを塗り、3つの魔石が直線上に並んだ結合魔石を制作する。

 2回結合しているので、理屈上の出力は4分の1と言ったところだろうか。

 その結合魔石を、カトリーヌが3構造の時と同じように魔道具に変え、机に置く。


「木は……これでいいか」


 俺はアイテムボックスから比較的きれいな木を取り出して表面を魔剣で削り、手頃な大きさに切ってから机の上に置く。

 その下に砂糖を受けるお盆を置いて、準備完了だ。


「じゃあ、いきますね」


「おう」


 カトリーヌも実験にだいぶ慣れてきたのか、確認をとってすぐに魔道具を起動する。


 そして、机の上に置かれた木片が砂糖に変わった。

 木製のお盆と、それが置かれた机の天板ごと。

書籍化が決定しました!

ここまで来れたのは、支えてくださった読者の皆さんのお陰です。

本当にありがとうございます。


書籍化に伴うダイジェスト、更新停止などはありません。

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