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第84話 祝勝会と作戦会議

「まあ、とにかくそういうことだ。足りなければ取りに行けばいいし、ミスリルはいくらでも確保できるといっていい。人集めはいけるか?」


「……ええ、船の建造ペースに合わせて増員していけば、なんとか集まると思います」


「じゃあ、そうしてくれ。他に問題は?」


「いえ、ありません。店が大きくなっていくのは、楽しいですね」


 その後は船の建造に関して細かな計画をたてるべく、造船屋や精錬屋と交渉してまわった。

 決定した建造ペースは、2週間に1隻程度。

 それを2つの造船所に頼んだので、実質一週間に一隻だ。

 元の世界であれば驚くほどのハイペースだが、この世界ではむしろ遅い方に入る。

 それから増産に関連して必要になる蒸留装置や高性能な草刈り鎌、運搬装置などを用意しているうちに祝勝会の日程が決まり、新たな農地にする島の選定と農地化が終わった頃、祝勝会の日がやってきた。


 会場はフォトレン。参加者は主にギルド関係者、研究者、職人、それらを輸送や、資材調達で支援した大きな商会の人などだ。

 うちからの出席者は俺とメルシア、それからメイプル商会の職人代表として出席しているカトリーヌだ。

 職人は職人同士で集まっているらしく、カトリーヌもその集まりにいるが。

 貴族とかそっちの方向で偉い人は、フォトレンの領主くらいしか来ていない。

 会場も普通の広いホールを貸し切っただけだ。

 人数は多いが、あくまで関係者の祝勝会という形である。


 入場や席順に関して面倒な規則などもなく、会場に人が集まったあたりで主催者の挨拶が始まる。

 ちなみに主催者は、ベイシス王国(この国のことだ)冒険者ギルドのギルドマスター、ブレイバさんだ。


「皆の者、よく来てくれた! これよりドラゴン討伐作戦成功の祝賀会を執り行う!」


 あちこちのテーブルから、大きな歓声が上がる。

 ギルドマスターに対する作法としてどうなのかはわからないが、堅苦しいよりははるかにいい。俺もそれに混ざって歓声をあげた。

 それが収まるのを待ち、ブレイバさんが再度口を開く。


「この作戦は情報、装備、輸送などの裏方を含め、どれが欠けても成功しなかっただろう。ゆえに、この勝利はこの場にいる全員の勝利である!」


 再度歓声が上がる。


「……しかし、その中でも一人、飛び抜けた活躍をした者がいることに、異論のあるものはいないだろう」


 その言葉とともに、ギルドマスターが視線をこちらに向けた。

 同時に何人かが、俺の方を見て頷き始める。


 まあ、俺のことだということは、言われた時点で俺も気がついていた。

 そもそも今回、準備はギルド総力を上げてのものとなったが、ドラゴンと直接戦ったのは俺だけなのだ。


「冒険者カエデ、前へ!」


 その言葉が終わるや否や。まるで打ち合わせされていたかのように、ギルドマスターが使っていた小型魔法拡声器(貴重品らしい)と俺までの間にいる人たちが左右に分かれ、道が作られる。

 よく見てみるとテーブルの配置まで、それを想定して作られていたように感じられる。

 狙っていたのか?


 俺が拡声器の前にたどり着くと、ギルドマスターが再度俺に話しかけた。

 もちろん、その声も拡声器を通し、会場中に伝わっている


「ギルドカードは持ってきているか?」


「はい」


「それは更新することになった。古いカードを渡してくれ」


 ……なんだか嫌な予感がする。

 だがもちろん、拒否する選択肢はないだろう。

 俺がギルドカードを渡すと、ギルドマスターはにこにこと笑いながら、一枚のカードを取り出した。


 しかし、それは今まで見たどのギルドカードとも明らかに違う見た目だった。

 そもそも、厚みが違う。

 厚さ3ミリを超えたギルドカードなど、どの世界にあるというのか。

 デザインも明らかに特別感を醸し出している。

 白の輝きを放つ本体に、金色の縁。

 そこに俺の名前が、ミスリルか何かを埋め込んだ形で刻印されている。

 刻印はそれだけではなく、依頼達成履歴や討伐履歴といった頻繁に書き換えのある部分を除き、すべてが輝く金属で刻印されているようだった。

 さらにギルドの紋章の横では、普通のギルドカードには存在しない、国章が輝きを放っている。

 ……あちこちがキラキラしていて、目が痛い。

 一体、ギルドカードの加工にどれだけのコストをかけたというのか。


 最後に、カードの右下に目をやると、『ああ、こういうパターンか……』という感想とともに、ギルドの意図を理解した。

 そこには『ランクS』という大きな文字と、『ベイシス王国冒険者ギルド』という文字が、でかでかと刻印されていた。

 普通のカードに比べて国名がやたらと強調されているのは、囲い込みの意味だろう。

 そして一番の理由とは、もちろんこのランクである。

 それを証明するかのように、ギルドマスターが高らかに宣言する。


「冒険者カエデ、君の冒険者ギルドに対する多大なる貢献、卓越した能力を讃え、ギルド史上初のSランク冒険者に昇格する!」


 ホール中から、今までとは比べ物にならないような歓声が上がった。

 一部ではカエデコールが始まったり、道具のせいじゃないかと疑問を挟んだ職人の群れに突っ込んでいった研究者たちが、ドラゴンの絶望的さや、それを倒した俺の異常さについて解説している。

 どちらも恥ずかしいのでやめてほしい。

 ギルドマスターは少しだけ騒ぎを収めようとしたようだが、早々に無理を悟ったのか、一言『もういい、存分に飲んで騒げ!』とだけ言って席に戻ると、周りの人と酒を飲み始めてしまった。

 元々祝勝会は飲んで騒ぐのがメインで、俺の昇格発表はその前置きだったのかもしれないが。


 それを見て目に痛いほどの輝きを放つギルドカードを片手に取り残されてしまった俺も、席に戻ろうとする。

 しかし、ギルドマスターという障害がなくなった今、俺を祭り上げようという群衆がそれを見逃すはずもなかった。

 俺の魔法や力は、このカオスな状況で友好的な人々に乱発できるほど、精密なコントロールの利くものではない。

 そのため抵抗することもできず、俺はあっという間にもみくちゃにされてしまった。

 それから先のことはあまり覚えていない。俺は酒に酔わないはずなのだが……




 気が付くと、翌夕になっていた。

 翌朝ではなく、翌日の夕方という意味で翌夕だ。

 参加者たちは日が昇るまで騒ぎ続け、それから寝て起きたら夕方になっていた、というだけの話だ。

 そこまで想定済みだったのか、今日の会議は夕方を少し過ぎたあたりに設定されていた。

 こちらは祝勝会とは違って、まじめに今後のことを考える会議である。

 参加人数もかなり絞られ、各役職から数名ずつの代表者を出したような感じになっている。

 開会を宣言するのは昨日と同じくギルドマスターだが、拡声器は使われていない。


「では、これよりドラゴン討伐後の魔物対策に関する会議を始める。テュポーネ、現状の解説を」


 返事とともに立ち上がったのは、研究者らしき初老の男だ。


「先日、我々はドラゴンの討伐に成功したわけですが、現在我々は2つの懸案事項を抱えています。1つはドラゴンです。魔素濃度から、次のドラゴン出現は最短で15年後になると考えられます。それまでに次のドラゴンを処理する準備が必要となるわけです」


 職人や商人の一部から、驚きの声が上がる。

 研究者やギルド関係者はそのことをすでに把握していたのか、落ち着いた様子だ。


 その後は具体的な方法についての議論が交わされたが、決まったのはおおよそこんなところだ。

 まず古文書を分析し、基本的なもの以外のアーティファクトの制作を可能にする。

 そうして培った技術で、なんとか魔凍(設計図は見つかっている)を完成させるというものだ。


 古文書の解読が可能となった現在、アーティファクトに関する研究はかつてないほどの速度で進んでいる。

 多くは加工の問題で制作が難しいうえ、原理に関しては足りない資料が多すぎるそうなのだが、一部の比較的単純なものに関しては、既存のアーティファクトを組み合わせて違う効果を得る実験にも成功したそうだ。

 これは今までには用意された機能を発揮するだけだったアーティファクトにおいて、極めて大きな発見……らしい。


 制作や研究に参加する権利は、この作戦に参加した商会という条件なので、メイプル商会でも参入しようかと思っている。

 日本にいた頃の知識が役に立つかもしれないし、うまくすればアーティファクトで大儲けできるかもしれない。

 別にこれ以上稼ぐ必要もないのだが、何もせずに暮らすというのも退屈だからな。


 それからアーティファクトとは別に、魔凍が成功しなかった場合に備え、俺がもう一度戦うことも想定して準備を進めることになった。

 こっちは主に強力な魔道具の備蓄だな。


 ドラゴンに関する話題が一段落ついたところで、次の問題が提示される。


「問題の2つ目は、つい先日判明したことなのですが、より切迫した、魔物出現の問題です。結論から言うとこれから数年間、散発的に特殊な魔物の大量発生が起きる可能性があります」


 今度は、ギルド関係者の一部からも驚きの声が上がる。


「特殊とはどういうことですか? 大量発生の規模は?」


 質問をしたのは冒険者ギルドの、どこか大きな都市の支部長だ。


「1つずつ説明していきます。まず原因ですが、ドラゴンが現れ、消えたことによる魔素濃度の偏りが別の場所での偏りを生み、それが重なった結果非常に高い魔素密度を持った場所が現れることによるもので、古文書が書かれた時代にはほぼ毎回起こっていたようです。頻度は平均的に、一週間に一度程度。数は数千から一万程度で、その多くが飛行型だと思われます」


「週に一度、飛行型が1万! それではドラゴンなどいずとも、この星は壊滅ではありませんか!」


 支部長が叫び声を上げる。

 一匹でも処理に困る飛行型が1万なら、こんな反応になっても仕方がないだろう。


「幸いなことにと言いますか、そこまではいかないでしょう。魔素の異常により生まれた魔物は、魔素の異常を前提としてあるため、大発生が収まってから一日もすれば消えてしまうそうです。大発生の期間が半日程度だということを考えると、実質一日半だけの発生。それもたまたま人のいるところに現れない限り、気にする必要もありません。都市のいくつかは被害をうけるかもしれませんが人類滅亡ということにはならないでしょう」


「……すみません、取り乱しました。」


 支部長は謝りながら席についた。

 テュポーネさんが再度口を開く。


「問題は、どれだけ被害を軽減するかです。発生地点は、今ある施設でも2週間前で半径百キロ程度に絞り込めるようなので、大規模な商会の皆さんには避難の支援をお願いしたく。もちろん相応の報酬は、国の方から出るはずです。そちらに関しての細かい調整は後ほど」


 商会の人たちが頷く。

 もちろん慈善事業とはいかないだろうが、その話は後で、関係者のみで行うのだろう。

 しかし魔物は、移動するのだ。飛行魔物が数千もいれば、いくらかは他の都市にたどり着いて被害を出すかもしれない。

 その対策も必要となるわけだが……


「しかし、避難にも限界があります。特に危険だとみられる地域から人を移動させるだけで精一杯でしょう。街や畑、周辺都市の人々も守らなければならない……そのためには、何千という飛行魔物を相手にできる誰かの力が必要となり……」


 会議場の人々の目線が、こちらに向くのを感じた。

 こういうのはまず間違いなく、俺の仕事になるんだよね。

 うん、知ってた。

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