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第82話 ドラゴンと火球

 再度フル加速でドラゴンに突撃する。

 しかし、その速度は当然ながら初撃の物とは比べものにならないほど遅い。

 気付かれずに上空を取れて、好きなだけ加速できたときとは訳が違う。

 それでも距離はドラゴンが豆粒に見えるほどだが、音速での移動を考えると決して長いとは言えないし、その上わずかとはいえ影響のある重力を利用することもできないのだ。

 そのスキをドラゴンが黙って眺めていてくれれば大変ありがたかったのだが、もちろんそうはいかないようだ。

 はじめより遅いとは言っても、俺がドラゴンに到達するまでの時間はせいぜい数秒である。


 ブレスを打っている時間はないと判断したのか、ほぼノーモーションで大量の火の玉を飛ばしてくる。

 散弾の弾というよりは、ニュースで見たことがある超巨大な鳥の群れのような有様だ。

 速度は音速にも満たないはずだが、俺が自分からドラゴンに近付いているため、相対速度はその数倍に上るだろう。

 弾幕系シューティングでもあるまいし、とてもではないがこんなモノの中に突っ込んでいく気にはなれない。

 必然的に、減速しながら大きく迂回して、火の群れをまとめてかわすことになる。

 まわりは海と草一つ無い地面だし、いっそのことブレスでも吐いてくれればスキが出来て楽なことだろう。

 しかしドラゴンのほうも、俺は減速したとは言えまっすぐ加速すればすぐドラゴンに到達できることを分かっているのか、似たような攻撃を連射してくるだけだ。

 幸いなことと言えば、ドラゴンは今のところ偏差射撃(いま見えている敵でなく、敵の未来の位置を予測してそこに攻撃を打ち込む技術)をしてこないので、ドラゴンのまわりを旋回するように近付く程度ことには問題がない点だろうか。

 さらに、近付くほどに弾の散らばる範囲は狭くなるので、被弾した際のダメージ上昇と引き替えに、かわすことは容易になっていく。

 ドラゴンとの距離が最初の5分の1ほどになったころには、ほぼまっすぐ敵に向かって飛べるようにさえなった。


「ギョアアアアアアアアア!」


 ドラゴンが咆吼を上げる。

 小さかった竜とは違い、荒々しく、大地を震わせるような咆吼だ。

 今まで相手したどの魔物とも格が違うということを感じさせる。

 その竜がいっこうに火球を喰らわない俺にいらだちを覚えたのか、さらに攻撃が変化した。

 直径一メートルほどの火球を、今度は全方位にばらまいてきたのだ。

 回り込みようはないし、武器をしまって離脱するのもこの距離と速度では厳しいだろう。

 範囲の代わりに弾幕の密度は大幅に落ちているので、なんとかかわしていくことにする。

 連発されてはどうしようもないので、進路自体はほぼドラゴンに向けてだ。

 それは当然、火球の相対速度を上げることでもある。


 ドラゴンに到達するまでの数秒が、何分間にも感じられる。

 距離も近付き、断続的に打たれる火球はもはや冷静に判断してよけることなど不可能になっていた。

 大回りしたところで無意味なので、主にドラゴン側に加速しつつ、何となく密度が薄そうな方向にに少し加速するだけだ。

 はじめのうちは幸運にも回避できていたが、当然ながらそんなラッキーがいつまでも続くわけもなく、ドラゴンまであと少しというところで立て続けに被弾してしまった。

 火球は俺、正確にはその魔法装甲に激突すると即座に爆発し、魔法装甲を大きく削り取る。

 体感でその威力は、火球二つで亜龍のブレス一発分といったところだ。

 現在の魔力なら破られはしないが、前回のミニドラゴン戦のころであったら削りきられ、そのまま素で被弾していたかもしれない。

 そうして魔力を削られながらもドラゴンに到達し、勢いのままに剣を突き立てる。

 その成果は、期待はずれとしか言いようのない物だった。

 ドラゴンにはほとんど傷がついていないのだ。

 今までは十分な加速が得られたため気にしていなかったが、いくら魔剣と魔力吸収を使えばドラゴンにある程度攻撃が通るとはいっても、それは特別に効果が高いというわけではなく、他の硬い魔物に対して通常の剣が通る程度に効果があるというだけとみるべきだろうか。

 ともかく、ドラゴンに攻撃はほとんど通らなかった。

 普段であればボロボロになっているはずの魔剣も、今回は多少大きめに刃こぼれした程度で、全く攻撃になっていないということを裏付けている。


 そして今、俺がドラゴンの至近距離で速度を失ったこの状況。完全にドラゴンのターンである。

 尻尾を使い振り落とされた俺に、最初に放たれたのは火球。

 それも最初の物と同じ、一方向にむかって高い密度をもつタイプの火球だ。

 武器をしまい、距離を取る方向に加速しつつ回避を試みるが、やはり大量の火球がまとまって当たることになる。

 距離が近すぎるおかげで火球が誘爆し、そのため直撃した数は少なくなったが、それでも削られた魔力は体感で行きに被弾した際の10倍を超えるだろう。

 これだけ耐えられるとは、我ながら頑丈になったものだ。


 さらに加速し、距離を取ろうとしたところで、ドラゴンの動きが変わる。

 見覚えのある――ブレスの予備動作だ。

 俺は即座に離脱を一旦あきらめ、ドラゴンのまわりを旋回する軌道をとりはじめた。

 そして、大体俺の予想通りの方向にブレスが放たれる。

 亜龍や小さいドラゴンで見たとおりだ、もはや慣れてきたといっていいだろう。

 だが、ブレスを回避し、その軌道を見たときに愕然とした。

 小さい竜や亜龍のものとは比べものにならない。

 キロ単位の射程に、その射程でもあっても形の変化を感じさせないほどの太さ。

 その射程を支えるのが根本付近での火力ならば、今の俺でもあっという間に蒸発することになるだろう。

 今のドラゴンはあまり移動せずに攻撃をしてくるだけだが、戦闘モードとやらになった場合のことなど考えたくもない。

 ……が、今はそんなことを考えている時ではない。

 ブレスは流石にドラゴンにとっても大技らしく、動きが固定されている。

 当たらなければどうということはないので、距離を取る格好のチャンスなのだ。

 そうして全速力で離れる俺にドラゴンが追加の火球を放つ頃には、俺は既に火球の速度を超えていた。


 何とか離脱できた。

 仕切り直しだが、状況は良くない。

 なにしろ、そのまま突っ込んだら攻撃を食らってしまうのに、攻撃をよけるために速度を落とせば攻撃が通らないのだ。

 ゲームと違って攻略できるように出来ているボスではないどころか、魔剣を量産していたらしい古代文明でも滅ぼされてしまったくらいなのだから当然かもしれないが、理不尽だ。

 撤退の選択肢もない、小さいドラゴンによるブレス一発の被害を考えれば、こいつを野放しにした結果どうなるかなど火を見るより明らかだ。

 だが攻略のヒントが無い、というわけでもない。

 それはついさっき見つかった。誘爆だ。


 作戦は一つだ。

 俺がドラゴンに追いつけない可能性がある以上、ドラゴンに見失われ、他の場所を襲いに行かれるのは最悪のパターンだ。よって取れる距離は限られる。

 その範囲内で速度を確保するため、直線軌道を取ることになる。

 その上で全弾を受けていてはお話にならないので、出来るだけこちらも自分の正面に魔法を飛ばし、魔法自体を迎撃する形にする。

 当然、放つ魔法は俺より早い必要があるので、杖刃と魔剣を二本まとめて持つ感じだ。

 それでも足りない速度は杖刃に対し常時魔力を込め続けて補う形となるが、今となってはわずかな消費だろう。

 作戦を立てたと言うよりは、消去法でこれだけ残ったと言うべき有様で、正直なところあまりいい作戦だとは思えないが、他にないのだからやるしかない。


 覚悟を決め、再度の突撃に移る。

 俺が準備をする間にもドラゴンは周囲から魔力を集めていたのだろうが、距離を詰めて攻撃してこないのはありがたい。

 そうはいっても俺が射程に入ったと見るやいなや、ドラゴンは前回と同じように火球を放ってくる。

 それを迎え撃つのは、俺が連続して大量に放っている岩の槍だ。

 そして火球の第一陣と岩の槍が衝突し、連続しての爆発を起こした。

 距離がある制で火球が拡散しているのか、大規模な誘爆は起きていない。

 特に火球の群れに穴が開いたようにも見えないが、今更引き返すわけにもいかないのだ。

 俺は出来るだけ当たらないことを祈りつつ、まっすぐ飛び続けた。


 しかし、驚いたことに被弾は一発たりともなかった。

 俺が岩の槍をまっすぐドラゴンの方に向けて放っているためか、俺のまわりだけ弾がよけているかのような状況になっている。

 今や俺に火球は届かない。

 ドラゴンもそのことに気付いたかもしれないが、既にブレスを打つよりも俺がドラゴンに到達するほうが早いような距離になっている。

 そこに俺はさらに加速の魔道具を連続で使用。激突までに三つを発動させた。

 防御用に使っていた刃杖はしまい、狙いも正確に、最初に斬った位置そのままだ。

 流石に加速の魔道具の効果は大きいのか、魔剣が傷つきながらも一気にドラゴンの肉をえぐる感触がある。

 俺はさらに力を入れ、剣を押し込む。

 ガキッ

 これに抵抗しようとすればまた動きが完全に止まり、今度こそ的になってしまうと判断し、魔剣から手を離す。

 魔剣が完全に破壊され、内部が見えるようになった傷口からは、金属のような骨のような物がのぞいていた。

 あれだけ硬い装甲だか骨だかをもたれていては、もうどうしようもない。首を切断するのは不可能だろう。

 半ば絶望しながらも、早い段階で手を離すことが出来たおかげで維持出来ていた速度を無駄にすることもなく、かろうじて離脱する。

 しかし、悪いことは重なる物だ。

「ギャィィィィィイイイイ!!」

 ドラゴンが叫びを上げる。

 そして今までと違い、逃げる俺を自分の翼で追ってきたのだ。しかも尋常ではない速さで。

 これはつまり、固定砲台状態でも十二分に脅威だったドラゴンが、さらに戦闘モードにまでなったことを意味する。

 その速度とパワーに、俺はなすすべもなく、きりもみしながら数キロも吹き飛ばされた。


 すごく痛い。体のあちこちが折れている感じがする。

 怪我は魔法ですぐに治すことが出来たが、その魔力もそろそろ限界に近い。

 そもそも、魔力があったところでこちらにはまともな攻撃手段がもうないのだ。

 あの堅さからして、それこそドラゴンの骨自体を使いでもしない限り切断は物理的に無理だし、魔法はそもそもドラゴンに効果が無い。

 古文書を参考にしようにも物理的に倒した例などないし、今まで攻撃対象にしてきた首が切れないとなると、ムリゲーでしかない。

 何とか他に弱点を……


 今まで攻撃したことはないが、魔石は弱点にならないだろうか。

 漫画などでは、そういう分かりやすい核みたいな物は弱点になると相場が決まっている。

 確か小さいドラゴンの時には、頭からでてきたはずだ。

 ドラゴンのほうに目をやると、ドラゴンはこちらを物理的に追撃するつもりらしく、こちらに向けて旋回したところだった。

 気が合うみたいじゃないか。

 俺はアイテムボックスからドラゴンキラー号の巨大な主砲を取り出し、弾を撃ち出す。願わくば本当にドラゴンをキルしてほしいものだ。

 残った加速魔道具は、10といくつか。これは全て今回の加速につぎ込む。

 これでダメならもう魔力も尽き、本当にゲームオーバーだろう。魔道具の閉店セールだ。

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