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第81話 速度と重量

休憩などを含めると、2日間にもわたった会議がようやく終わった。

会議の長さの割に、それによって出た結論としての作戦は簡単な物だ。


『俺に可能な限りの装備を持たせた上での単独討伐』


これがその結論である。

他に戦闘員を用意しないのは、別に死者を減らすためでもコストを削減するためでもない。

理由はこうだ。


ドラゴンに有効なレベルの武器は数など当然用意出来ない。

そしてそれらを使用するためにはある程度近付く必要がある。

特攻前提にしても、貴重な兵器を使い捨てにすることになってしまう。

一方俺なら、貴重品など持たせなくてもやられたときには敗北が確定しているため、やられた場合の被害が拡大することはない。

おまけにアイテムボックスがあるため積載量も実質無制限、攻撃によって使っていない兵器が破壊される事もない。

機動力もあり、艦載兵器を空中で使用することさえ場合によっては可能だ。

そして唯一ついてきて役に立つ可能性があると思われたドラゴンキラー号は現在修理中で、とても戦闘に出せるような状態ではないのだ。


もちろん、見慣れない武器を扱うのは簡単なことではない。

そのために俺は、いくつかの兵器を受け取り、さらにはその扱い方を聞くためにあちこち動き回ったりしていた。

具体的には、使い捨てでごく短期間ながら常人であれば死亡するほどの加速力を持つ加速魔道具(制作にはカトリーヌを含む、優秀な魔道具職人たちが総力を結集したが、残念ながら材料の関係で23個しか作ることが出来なかった)や、現時点で可能な限りの性能を持った爆発魔道具などだ(ドラゴンが出てきた際に作ろうとしていた物は、ドラゴンの影響により効果を失っていたようだ)。

最も驚くような物では、ドラゴンキラー号の主砲があった。

流石に細かい原理までは教えてもらえなかったが扱いは教えてもらい、何とか射撃は出来るようになった。

なんと、まわりの部品というか、もはや船の一部といった状態での貸し出しだ。

船の構造の都合らしいが、こんな物を貸し出してしまって大丈夫なのだろうか。

できれば壊さず、勝ったら弾を持ち帰ってきてほしいと言われたが。


そしてついさっきまでやっていたのが、各地を回っての魔剣集めだ。

魔剣は昔は普通の武器だったらしく、現在もあちこちの施設にあるが、一般人にとっては危険な代物であるので、大体は厳重に包装された上で倉庫などに死蔵されている。

運搬にも時間がかかるので、自ら取りに行くことになったのだ。

話は行っていたようで、空から魔剣を取りにきた俺を見ても驚く人はあまりいなかった。

中には近隣住民が離れた場所に避難している町もいくつかあって、一体どんな話が行っていたのか気になるところではあるが。

もちろん俺は衝撃波が出ないように速度を落としているし、実際に被害も出ていない。

そんなこんなで、準備は着実に進んでいった。


そうして出発の時が来た。

これから俺はフォトレンを発ち、前回ドラゴンと戦ったあたりを目指すことになる。

見送りにはギルド関係者や、関わった職人たちや商会の人たちなど合計200人ほどが港に集まったのだが、これでも考えていたよりは少ないらしい。

決行が一日でも遅れれば作戦の成功率が落ちる事になるので、盛大な出発式を行わないばかりでなく、フォトレンまで距離があり、移動に時間がかかる者の参加も見送ることになったのだ。

正直これでも十分多い、出発式などが行われなくてよかったと思う。


「それでは、行ってきます」


「「ご武運を!」」

ギルド関係者の言葉はおそらく全員同じものだ。

一部タイミングがばらばらになっていたりするのはご愛嬌だろう。


「無事に帰ってきてくださいねー!」

「生きて、良質な素材を持ち帰ってください!」

「我々の魔道具の力で、敵をたたきつぶしてきてください!」


職人や、商会の人たちの見送りの言葉は様々だ。

パニックを避けるためにドラゴンのことは作戦関係者にしか知らされていないので、商会の人たちには今回の作戦がドラゴン討伐だと知らない人たちも多い。

だが何か強い敵と戦いに行くのだと言うことには気付いているようで、心配そうな顔をしている人も多かった。

逆に事情を知っているギルド関係者や職人たちのほうが落ち着いている。

これで無理ならどうやっても無理だと言えるだけのことをやったからだろう。


町の方にも、遠くからこちらを見ている人がたくさんいるが、ドラゴンキラー号が損傷したことや、腕のいい職人が一斉に普段の仕事を辞めて何かを始めたことは噂になっていたので、これがその関連だと気付いたのかもしれない。

応援しているようだが、何を応援しているのかは分かってないのではないだろうか。


そんな応援を受けながら、俺は港から飛び立つ。

そのまま周囲に影響を及ぼさない程度に加速する。

船に積んであった、ドラゴン出現場所付近の海底に置かれたものと対になるアンカーの一つを持っているので、方角を間違えることはない。

攻撃を受けながらの船旅では随分と長く感じたが、空からだと随分短く感じる。

景色も悪くない。

陸地の上を通ることが多いのだが、ある程度の距離を飛んで以降はその陸地には木が一切無く、一面の草原になっているのだ。

魔物の領域となっていた森の景観はあまりいいとはいえなかったのだが、それはみんなドラゴンが焼き払ってしまった。


ただし、天気だけはあまりいいとはいえなかった。

黒く分厚い雲が空をところどころ隠しており、朝だというのに暗い場所も少なくない。

雨は降らないが、ドラゴン戦以降には常にこのような状況であるらしい。

これも魔素の影響だという。


魔物のいなくなった魔物の領域を見ながら飛ぶうち、海に面した場所の一つが半径30メートルほどにわたって草さえも生えなくなっている場所を発見した。

そしてそこを通り過ぎると、進行方向を向いていたアンカーが後方に向かって反転した。

どうやらここが前回の場所のようだ。

あまりに地形というか、景色が変わりすぎていて気付かなかったが、確かに陸地の形は似ている。


ここで、あのときと同じように、ウィスプコアを使用した爆発を起こすわけだが、前回とは違い今回はソロだ。

今までの強敵との戦いも基本的にソロだったし、やはり俺はソロ向きなのだろうか。


そんなことを考えながら、草がなくなっている場所の中心付近にウィスプコアと、時限起爆用の魔道具をセットする。

最初に使う装備はオーソドックスなタイプの魔剣と、加速の魔道具だ。

魔剣の用途は言うまでもないが、魔道具のほうは緊急時の離脱や、攻撃に特にパワーを出したいときに使用予定だ。

両手に魔剣を持たないのは、加速力によって稼げるパワーをできる限り一カ所に集中させるためだ。

はじめは武器を2本持つつもりだったのだが、実験したところ抵抗で速度が殺されるのが早くなってしまうだけだとわかったので変更した。

武器は両手で持ったほうが威力が出るのだ。


両方に不備がないことを確認し、魔道具を起動する。

それと同時に、俺は上に向かってMPが減らないギリギリの加速を行う。

今回は(できればドラゴンが戦闘モードに入る前に)前回と同じく首を落とし、それから魔道具で魔素を吸収するのが理想的なシナリオだ。

魔剣や魔道具の本数には限りがあり、さらにその魔剣には形が特殊で扱いにくい物も少なくないため、重力に頼ってでも一撃の威力がほしいのだ。


俺が雲のすぐそばまで上がったころ、爆弾が炸裂した。

爆炎とほぼ同時に周囲で黒いもやのようなものが発生し、それが爆破地点に集まっていくのがみえる。

そして6秒ほど遅れて爆発の音が俺の耳に入る頃には、ドラゴンはほぼ完成していた。

……でかい。

古文書には50mほどと書いてあったが、ここから見る限りおそらくその1.5倍はある。

首の太さも1m半から2mといったところで、あれを斬るのは骨が折れそうだ。

完全に切断しなくても倒せるだろうが、人間のように少し斬っただけで致命傷になるわけではない。

亜龍相手の経験から言うと、ほぼ完全に切断する必要があるだろう。


予想以上の大きさに、現在持っている剣では刃渡りや強度が足りないと判断。

魔剣約200本のうち10ほどを占める、刃渡り約一メートル半もある肉厚の、明らかに人間が持つ物ではないような剣を選択する。

とはいっても、今の俺にとっては普通の剣を支えるのも、この大きさの剣を支えるのも、大して変わりはしないが。

そして不測の事態が起きないようドラゴンが完全に完成したのを確認し、魔法で加速しながらの降下を始める。

いくら完全なドラゴンとはいっても上方への警戒は強くないのか、高度がおよそ500mを切ってもまだ敵はこちらに気付かない。

有利なスタートを切るべく、さらに加速の魔道具を使用。

それと同時に常人であれば死にそうなほどの強烈な圧力がかかり、俺はそれまでをはるかに超える勢いで加速する。


そして俺は剣と共に、無防備なドラゴンの首に、これまで経験したことが無いほどの速度で激突した。

ドラゴンが叫びを上げる。

手や肩に途方もない力がかかり、刀身が削り取られる感覚と共に、俺の腕のどこかが折れたのを感じる。

麻痺したのかもしれないが、なぜか痛みは感じなかった。

首や脚などにも急減速の反動が来るのを感じるが、少しでも威力を稼ぐために俺はなお下に向かって加速魔法を発動し続ける。


随分と長い時間に感じたが、実際には一瞬で俺の落下の威力は殺され、静止した状態になる。

それと同時に俺は飛行できる体制に移りつつ、魔力掌握に対抗するため、今までは攻撃に集中するためあえて使っていなかった魔力吸収を開始する。

予想通り生きていたドラゴンにとっては格好の的だ。

剣を持って離脱しようとした俺に尻尾を使った攻撃が迫る。

これまでの経験から、かわせると判断し、水平に加速魔法を発動させる。

だが、その予想に反して尻尾は俺の足をかすめる。

折れこそしなかったものの巨体からくり出される攻撃の威力はかなり大きく、魔法装甲に大きく魔力を持って行かれる感じがする。

補充が足りなくなって破られるよりはましだが、やはり被弾は可能な限り避けたい。

今までで合計一割ほどの魔力を食われた。


そして魔法で回復しながら、次の攻撃にうつるべく体制を整えにかかったとき、半分ほどの太さになった剣が目に入る。

そして回避が遅れた理由に気がついた。

剣が重かったのだ。

空中で静止したり、落下したりするときには気がつかなかったが、重さとは支えにくさであるばかりでなく、動かしにくさでもある。

重い武器を持っている限り、俺の移動は普段より遅くなる。

かといって、加速したまま武器を取り出して攻撃しようとすると、武器を取り出した瞬間に急減速することになってしまう。

攻撃前は仕方が無いが、せめて攻撃後は武器をしまうことにしよう。


大きい剣の本数や魔道具の個数、それから自分の魔力にも限界があるし、さっきの攻撃でも首の3割ほどが切れただけであることから、小さい剣では火力が不足すると推測される。

集中が切れてわずかに魔力が吸い上げられてきたのを、魔力吸収の再発動で遮断する。

俺のこれはスキルでなく技術であるようなので、一度発動して放置とはいかないのだ。

まだドラゴンは戦闘モードに移行してはいない。

今のうちに大剣を使い短期決戦に持ち込むくらいしか、方法はないようだ。

俺は前に使っていた大剣をアイテムボックスにしまい、上方にフル加速で距離を稼いでから反転、新しい大剣を正面に構えた。

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